翼哀歌


 両手を後ろで一つに縛られた主君が、大粒の涙をこぼして許しを請う。首を左右に振る度、長い黒髪が敷妙を打ち、ぱさりぱさりと乾いた音がする。

「タケミ……、ズ、チ。もう、止め……て」

 くびれた腰と二人分の愛液や破瓜の血で滑る花弁は、俺の両手と脈打つ幹で固定されてるから、か弱い女性の力で抵抗しても外れる事はない。目の前で寂しげにふるりと揺れた、盛り上がる乳房に誘われ、紅く熟れた先端を噛むと、きゅっと収縮した肉壁が柔らかに絡み付く。

「ずっと傍に置いて欲しい、ただそれだけを願った。なのにどうして離れようとする?」

「私とっ、あなた、は……で。傍には、もっと……相応し、んっ、方を」

 解ってと、紡ぐ唇が今は憎い。俺は十分理解している、欲しいのは唯一人。主君、君だけと。替わりなんて誰もいないし、必要ない。俺という見えない檻に閉じ込める、その為なら方法は選ばないつもりだ。主君に溺れ、狂った振りをしたら、優しい君は離れる事なんてできないだろう? その迷いさえも利用する。

「あくまで主と臣下でしか傍にいられないなら、主として命じてくれ……今から毎夜、伽を申し付けると。忠実な臣下の俺なら、命令に従うしかないだろう?」

 その言葉に目を大きく見開き、強ばった顔を見せる。濡れた瞳から様々な感情の揺らぎが浮かぶ、純粋に綺麗だと思う。今の俺とは違いすぎて……儚い。

「さて、と。そろそろ一回いこうか?」

 酷薄で有ろう薄い笑みを貼りつけた後、主君の腰を引き寄せて奥深く抉る。ギリギリの所まで抜き、また穿つ。

「っ……出る!」

「! ……やぁ、それだ……けは、許して! タケミ……チ!」

 俺の際限無き欲が白く爆ぜ、ドロリとした熱と神気で主君の内側を侵食していく。

「毎日毎日、妊娠するまで中で出して、主君は俺だけの物だと刻み込もう。……だから早く俺の子を孕め、その証として」

 無理だと小さく戦慄いた主君の唇を吐息ごと奪う様に塞ぎ、再び膨らみ始めた意志に従い、俺は目の前の細腰を鷲掴み、律動を再開する。


 行為の合間から零れる声は、檻に閉じ込められた小鳥が哀しみを謳う様を連想したが、もう、俺には遠く……何も響かない。

2017/07/15
----------------------------
▲text page