色の情感


 しんと静まり返る薄暗い部屋の中で、仄かに
浮かび上がるのは行灯の光と二人の戦神の姿。布団に胡座をかいたタケミカヅチは意味有りげに微笑むと目の前のフツヌシに率直に告げる。

「舐めてくれ、フツヌシ」

 今更、何を? と聞き返す程言われた相手も幼くはない。返事の代わりに内心の動揺を顔には出さないまま、タケミカヅチの一物を取り出しフツヌシは自らの口にそれを含む。

 時折、淡墨の瞳を上目遣いにし様子を伺いながら舐め啜り、伝い落ちる唾液を拭いもせず口一杯に頬張る様は、勇ましく戦う軍神の姿とは程遠い。日常との差異にタケミカヅチはくらりと酔い痴れる。

 手慣れている訳では無いが、生来物事をそつなくこなせる事が多いフツヌシとしては、タケミカヅチが気持ち良さそうにしている姿に安堵し、更に大胆に進めていく。
 
 自分の為に奉仕する姿を健気で愛おしく感じたが、それ以上に抵抗無さげに男の陽物を咥えるフツヌシに怒りを覚えるタケミカヅチ。紅の眼から発する剣呑な眼差しを隠しもせず、柔らかな白群の髪を掴んで顔を上向かせ、いきなり何をすると痛みに呻く盟友を無視し、再び口内へと己の腰を深く突き入れた。

 苦しさから押し出そうとしているのだろうがそれが逆にねっとりと絡みつく様に蠢く舌や、体温が上昇しさらに熱く包み込む口腔の心地良さに夢中になり、タケミカヅチは固くそそり立つ自身の陰茎でフツヌシの喉の奥まで穿ち擦った。


 退廃的な色香は、媚びや付け入る隙を映し出しているように思うが、それはあくまでも見せかけだけ。本当は何者にも靡かぬ美しく孤高な軍神だと思っていたフツヌシが、知らぬ間に膝を折って頭を垂れ、足を開き身体を好きにさせた相手が居たのかと。それを考えるだけで苛立ちを抑えきれない。

 
 息苦しさから目に涙の膜を張り、眉を寄せ苦しげな表情をしたフツヌシにふと罪の意識を感じたが、荒ぶり高ぶる感情とぞくりと背筋からせり上がってくる感覚に逆らいもせず、タケミカヅチは直前で彼の口から自身の一物をずるりと抜き、思うがままフツヌシの顔目掛けて吐き出した。

「ぁ、はぁ……熱、」

 咎めるように呟いた言葉を他所に、余す事無く降り注ぐそれはフツヌシの髪や顔、眼鏡に指先の黒い爪紅を濁った白に染め上げる。己の白濁を被ったまま惑いを隠しきれない瞳を前にして頭に浮かんだのは後悔では無く、歓喜と愉悦。

『己が心をかき乱し、惹き付けてやまない、盟友だった唯一の神よ』

 塗り替えて、消えない証を刻み込む。征服感にも似たこの行為にタケミカヅチは薄く微笑むと、喪心したまま動けぬフツヌシの体を布団に押し倒し、両の手首を縫い付けた。


「夜明けまでまだ時間はある。君なら遊女の様に男をこう誘うのか? ……今宵はゆるりと楽しもうじゃないか、我が君よ。とか」


 酷い誤解だ。他人との色事に慣れている訳ではないのだと。貴殿だから、タケミカヅチが望むならと、内心の葛藤を隠して臨んだ、ただそれだけなのに。

 驚愕に心を揺さぶられながらも、真実を伝えようと薄く開いたフツヌシの口をタケミカヅチは噛み付く様な口吸いで封じた。吐息も言い訳も懺悔すら吐き出させぬと言わんばかりに、何度も口内を蹂躙する。見開いた目から溢れ落ちた涙を儚く思う事無く、踏みにじるだけの行為は一欠片の抵抗をも残さず、全て剥ぎ取るまで続けられた。

 悲しみかそれとも諦めからか、動きを止め表情の抜け落ちたフツヌシを余所に、タケミカヅチは白濁を拭わないままの眼鏡を外し、薄く袖の無い彼の上衣に手を掛ける。


 灯りが消え、陽光
ひかり
が辺りを照らし始めるまで幾刻か。夜はまだ始まったばかりであるーー。

2017/10/09
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