場所は池袋のあるファーストフード店。春の陽気で温められた体からコートを剥いだ臨美は、ぼんやりと何をするでもなくドリンクをすすっていた。
先ほどまで仕事で取引をしていたのだが、それが終わった今、彼女が足早に帰らねばならない理由は静雄の存在を除けばない。大変優秀な助手を持つ彼女が仕事の存在を心配する筈もなく、アイスティーの味を堪能していた。
「臨美さん?」
近くから声をかけられそちらを向くと、空色のブレザーを身に包んだ高校生が立っていた。童顔で黒髪の彼は、たしか名前がエアコンのような。
「帝人くん」
「どうしたんですか、池袋にいるなんて」
「ちょっと仕事でね」
前いいですか、と聞かれた臨美がどうぞと片手で促すと、椅子を引いて深く座った。もったトレーには単品のハンバーガーが乗っている。
「帝人くんこそ、こういうとこ寄るんだ」
「正臣と待ち合わせしていて」
その言葉で彼の幼馴染である紀田正臣の存在を思い出す。恐らく自分のことを嫌っているであろう彼が来るのなら、なるべくここには長居しない方がよいかもしれない、そう思って臨美が声をかけようとすると、その前にこちらが声をかけられた。
「どうしたんですか、その痣」
「え?」
帝人の指差す先にあるのは、むき出しである臨美の首の付け根。限りなく白に近いそこに青黒い痣は酷く目立った。
「あー、静ちゃん」
「静雄さん、ですか」
「この前もの投げられてさ」
本当困っちゃうよね、と言いながら当たった直後に見た彼の驚いたようなショックなような顔を思い出す。
「…あの、」
「そんな人より俺にしたらどーですかぁ?」
あの顔は貴重だったなと臨美が内心笑っていると、突然帝人の声を遮って明るい声が降りかかってきた。驚いて顔を上げれば、茶髪の少年が立っている。
「…正臣」
「抜け駆けはよくないぜー、帝人くん」
茶化すようにあいさつをする正臣とは対照的に、帝人の声音は鋭く表情も多少険しい。そんな二人の様子を意外そうに見つめる臨美に、その理由はわからなかった。
「仕事っすか?」
「ああ、うん」
「大変っすねー」
正臣がそのまま世間話を続けようとした時、突然臨美の携帯が鳴る。慌てて通話ボタンを押すと騒がしい声が聞こえてきた。
「臨美か?」
「あ、ドタチン?」
「ああ、あのな、っちょ、おい!」
「臨美さん気をつけてくださいっす!」
「静ちゃんがその店に向かってるらしいよー!」
「え、まじで?」
それは不味い、危機感をおぼえた臨美は立ちあがった。一刻も早くここからでないと、最悪店内で鉢合わせすれば被害は尋常ではないだろう。臨美は二人にごめん、またねと軽く挨拶をしてトレーを片付け店内からたたたと出て行った。
取り残された二人はしばらく無言だったが、ふとぽつりと帝人がつぶやく。
「…門田さんたち、何で臨美さんのいる店知ってたんだろう」
「……さあ」

「ドタチンもさぁ、娘が可愛いなら静ちゃんとの間を応援してあげればいいのにー」
「過保護な親は嫌われるっすよー」
「誰が親だ!…だいたいお前らだって、俺が静雄のことを伝えるって言った時乗ってきただろ」
「臨美さんに怪我でもさせられちゃコスプレさせられないっすからね」
「あのきめ細かい肌に傷がついたらとでも思うと…!」
「…結局、門田だけでなくお前ら二人も過保護なんじゃねえか」

「そこの綺麗なかーのじょ!お茶でもしない?」
「ごめん、急いでるんで」
「そう言わずにさ、ちょっとでいいから」
店内から出た臨美は、顔面に包帯を巻き帽子をかぶった青年に所謂ナンパをされ困っていた。普通なら力づくで倒してでも逃げるのだが、生憎この男もなかなか強いようで、その上正面に立たれているのもあり逃げられない。そろそろ堪忍袋の緒が切れようかという時、二人の間をものすごい勢いで標識が抜けて行った。
通り過ぎた標識は矢のように、いや矢と全く同様に放たれた標識は向こうの壁に勢いよくささる。臨美の眼前で止まれ、という文字がゆらゆらと上下に揺れる。
いやお前が止まれだよ!心中でそう舌打ちしながら、臨美は体の向きを変え投げてきたであろう男に向き合った。
「静ちゃんさぁ、標識は投げるもんじゃないんだけど」
「うるせえよ…」
「あ、静雄じゃん!」
意外なことにこの青年は静雄の知り合いらしく、それに気がついた静雄は「千景」と一言もらす。臨美は静雄に自分が知らない知り合いがいたことに苛立ちを覚えた。
「何々、その美女と知り合い?まさか彼女?」
「ちげえよ、ただ」
隠しポケットからナイフを取り出し構える臨美に、静雄も煙草を足で潰しサングラスを外す。お互いが戦闘モードとなりぴりりとした空気が漂う中、二人の表情には少しの歓喜が見え隠れしていた。
「こいつは、俺が殺すんだよ」
「静ちゃん、それ私の台詞」


100426
あれ、最終的にシズイザに落ちた…orz
なんかこれ総受けというよりも無自覚両想いなシズイザ+周りの人って感じですね、すみません…
ギャグにならないようにと注意して書いたのですが、結局ギャグのように…
こんなもので申し訳ありません;素敵リクエストありがとうございました!


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