己が進むのに邪魔であると判断した物や人を手あたりしだいになぎ倒して、平和島静雄は廊下を歩いていた。
キレていない普段なら、彼がこうして理不尽な暴力をふるうことはほとんどないことであったのだが、今現在彼は最高潮に不機嫌なのだ。
その理由は、およそ数分前にさかのぼる。

「臨美ぃいぃいい!!」
彼は数分後と酷似した、しかしどこか違った様子で天敵である折原臨美を探していた。どこか違うというのは彼をよく知った人物だからこそわかるものであり、傍から見ればなんら変わりないのだが。
数分後の彼は怒りと不機嫌で満ち溢れているのに対し、その時の彼からは少なからず楽しそうな様子が浮き出ており、彼の腐れ縁である黒髪の少年はよくやるねぇ、と呟いた。
今日も今日とて喧嘩を吹っ掛けられた不幸なる静雄は、その理由が臨美だとわかるとすぐさま喧嘩も放って殴りに走り出す。喧嘩を吹っ掛けられるまで、本日は珍しく静雄にとって幸ある日だった。校内で見知らぬ少女が落とした財布を拾って渡してやると、普段なら自分を恐れて恐怖におののく者がほとんどな中、その少女はしっかりとお礼を述べたのだ。小さなことかもしれないが、それは彼にとって巨大な歓喜である。しかし、その幸せだった気分が一気に台無しになった。
そのため普段より殺気だち、渡り廊下を走って自らのカンを頼って彼女を探しだしているのだ。その嬉しそうな表情は代わりないけれど。
ふと壁を曲がると、その大嫌いな声が耳に届いた。
「のぞ、」
荒げた声を出しかけて、しかし彼女を視界に入れた途端。動きが止まる。
臨美は、他の、静雄の知らない男に抱きしめられていた。

そこから逃げ出すように元きた道を戻ってきて、今やり場のない怒りをどう発散してよいかわからず、処理に困っているのだ。
「・・・あぁ、くそッ」
どごん、と日常ではありえないような音を響かせて真横の壁にひびが入った、壊さなかっただけまだ良しかもしれない。
どうして、今自分はこんなにもイラついているのか。
はぁはぁと肩で息をしている彼は、まだ気が付いていない。


折原臨美は上機嫌であった、大嫌いであると思っている天敵の静雄に、それなりに強い相手をけしかけることができたからである。鼻歌でも歌いだしそうな表情で廊下を歩いていると、中庭で見覚えのある金髪が視界をかすめた。
「・・・ちっ」
こんな良い気分の時にあいつに会うなんて、一気にテンション下がりまくりだよもう。眉をひそめた彼女の表情にはやはり歓喜が見え隠れしていた。
見つかれば厄介なことになるのはわかっているので、そっとその場を去ろうとした時、視界の隅にある光景が映る。
大人しそうな少女がお辞儀をして、それに嬉しそうに照れている彼。
息が、止まった。

その場を逃げ出すように駆けだした彼女に静雄は珍しく気がつくこともなく、ゆくあてもない臨美はどうしようもなくなって壁に寄りかかる。はぁと荒い息をつく彼女の元へ、影が降りかかった。
「折原さん?」
「・・・あ、」
そいつは静雄ではなく彼女のクラスメートの男子であり、長身と整った顔立ちを伴う彼は女子生徒にも人気であった。私に何の用だろうと内心首をかしげる臨美を真面目そうに眺めている彼の眼に濁りはない。
「・・・大丈夫?」
「え?」
「泣いてる」
そっと目じりに指を押し付けられた臨美は、初めて自分が涙を流していることに気がつかされた。
どうしてないているのかと問われたが、それは本人にもわからない。戸惑う臨美を悲しげに見つめた男は、ゆっくりとその小さな体を抱きしめる。
体の力を完全に抜き混乱している彼女にその腕から逃げ出す術はなく、大人しくその暖かさに包まれながら理由のわからない涙をこぼしていた。
どうして、今自分は泣いているのだろう。
ただ静かに涙を流す彼女は、まだ気が付いていない。


「静雄も臨美もさぁ、いい加減素直になればいいのに」
「………岸谷」
「門田君だってそう思うだろう。あの二人、絶対お互いのこと好きだって」

その理由を、人は嫉妬と呼ぶことを。


100422
両方想いな嫉妬話、ということでしたのでモブキャラを出してしまいました。特に何も考えずにいたキャラなので自分でもよくわかっておりません…。あと気が付いたら来神時代でした。
途中で静雄視点から臨美視点に変わります。
読みにくくてすみません;
リクエストありがとうございました!

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