折原臨也は柄にもなくあせっていた。というより、これからを恐れていた。
朝起きると体の節々が大変痛く、どうやらそれはフローリングの床に長時間転がされていたからのようだ、臨也は理解した途端脳みそをフル回転させる。
入ってきた情報をまとめると、ここは自宅ではないということ、今転がされているのが玄関から入ったすぐのところにある床であるということ、手は後ろ手に拘束され足も同じく縛りあげられているということ、そして濃い煙草の匂いがするだということだった。
最後の項目に臨也はものすごく嫌な予感を感じる、咄嗟に自らの天敵を思い出して胸糞が悪くなってしまったのだが、それどころかまさか、ここはそいつの家なのかもしれない。臨也は顔面蒼白という言葉が似合うような表情をした。
逃げ出そうと体をよじってはみるが効果はなし、きつく縛られた手首に縄が食いこんでひりひりとした痛みを伴うだけである。口には何もされていないので、もし前の方で結ばれていたなら噛み切れたのだが、眉をひそめた臨也の口から小さな舌打ち。
その時、閉じられた扉の向こうから何か物音が聞こえた。ん、という小さな声は間違いなく先ほど思い浮かべた人物のもので、予想が悪い方向にあたってしまった臨也は死の覚悟をした。
目の前の扉が開いて、中から現れたのはやはり脳内で考えていた人物、平和島静雄。スウェットを着て寝癖のついた頭をぼうとした顔でかいていた彼は、縛られた己の天敵が床に転がっているのをみてフリーズする。
完全なる静寂が二人の間を彷徨う。お互いがお互い現状を認めたくない、というように脳が受け入れるのを拒否しているのか、目線はしっかりとあっているのに瞳に何も映っていない。
「・・・・・・臨也」
「・・・・・・」
「・・・お前、何してんの・・・」
普段なら彼を見つけたとたん血管が切れそうになるような静雄でさえ、第一声がこれである、しかしそれは今現在静雄の心の中を全て占めている最も大きな疑問であり、それを的確に簡潔にまとめ上げた言葉であった。
聞かれた方の折原臨也も、全く同じことを思っているのだったが。
「・・・・・・俺が聞きたい」
ぽそりとした言葉を聞いたのか聞こえないのかはたまた聞く気がないのか、静雄は何故かゆっくりと臨也に近づく。勿論臨也はあからさまに息をのんで怯えた風を見せた。普段暴力的で感情的な彼しか見ていない臨也としては、変に冷静な静雄は恐怖の対象でしかなかった。
肩に手がかけられ、ごろんとうつ伏せの態勢にされる。後ろ手に手が向かっているのを感じた時、折られるかと思わず目をつぶった臨也だったが、それは間違いであったようだ。静雄は、臨也の腕と背中の間に挟まれていたかわいらしいピンクの手紙を抜き取っただけである。
「・・・んだこれ」
「さあ・・・」
疑問の声を上げながら静雄がぴりぴりと淵を破る。中から取り出された紙を開き無言で読み始める、臨也はいたたまれない気持ちになった。
ぼんやりとそろそろ腕痛いなぁと思いつつ放心した表情で床を眺めていると、読み終わったらしい静雄が声をあげた。
「・・・ほう」
「え、なに?何てあったの?」
俺にも読ませてほしい、と身をよじり仰向けになろうとするが、それは背中におかれた静雄の手によって拒まれた。
臨也の脳内で警報が鳴り響く。なんか、これヤバい。静雄にはあまり感じたことのない恐怖をしかと味わされた。
「手前の妹らは、わかってんじゃねえか」
「いっ・・・」
前髪を掴み、無理やりに顔を上げさせられた臨也が呻き声をあげるが、気にするそぶりを全く見せずに静雄は見せつけるように、臨也の目の前で手紙をぴらぴらと揺らした。
『静雄さんへ
 プレゼント☆お好きに使ってね!
   舞流・九瑠璃』
「好きにしていいんだよなぁ?妹の許可も得たことだしよ・・・」
認めないとでもいうように目を瞑るが声は耳に入ってしまう。引っ張られる髪の痛さでこれが夢であればいいのにという願いは無情にも消え去り、自分の妹達が兄である自分をこのような絶望的状況に追い込んだという事実を受け止めた彼は死にそうな表情をしていた。


100420
暴力的な意味で好きに使うのか性的な意味で好きに使うのかはご想像にお任せします。
すみませんでした(土下座)
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