あいつがいなくなってから約一カ月が過ぎた。

臨也の家に押しかけたあの日電話で門田から聞いたのだが、今は多少収まったようだがその頃池袋は臨也の噂で持ち切りだったらしい。
奴はここしばらく新宿が拠点で池袋に来ることはあまりなかったため、初めのうちは特に誰も気にしなかったのだが、さすがに一か月も見かけないとなれば(その上それなりに一応面が割れてる奴だし)人々の噂の中心となっていた。ちょうど俺が違和感を感じた頃から。
俺が知ることもなかったのは、きっと俺があいつと犬猿の仲であることからの恐怖心のおかげだろう、俺の前で奴の名前を出さないようにしていたのかもしれない。

「静雄、大丈夫か?」
「え?…ああ、大丈夫っす」
ぼうとしていたらしく、訝しげな顔をしたトムさんに体調悪いのか?と心配そうに聞かれ、いい人だなあノミ蟲と違って。
臨也がいなくなってからというもの、何故か俺はやけに人に心配されるようになっていた。セルティや新羅からも顔色悪いといわれたり、門田や狩沢たちからも早く寝なと家に連れて行かれたり、奴の妹達でさえ大丈夫?と聞いてくる始末だった。
実を言うと、最近あまり寝れていない。寝ようとすると何故かあいつの顔が頭をよぎって、もう殴れないのだと思うとやっぱり殺しておけばよかったとイラついてしまうのだ。でもそれを人に言ったら、俺が奴を探しているみたいに取られる可能性があるので絶対に言えない。
流石にそろそろ体力もきつくなってきたようなので、今日は休むか?というトムさんの言葉に甘えさせてもらうことにした。

若干ふらつきながらも家への道を歩いていると、ポケットからちゃりんという軽やかな音が聞こえる、何だろうと思い取り出してみた。ひんやりしたそれは、臨也のマンションの鍵。
結局、見つけ出せなかったな。
あの少女への罪悪感がよみがえる。泣いていた、あいつを探してと。心が痛い。
それを振り切るようにまた歩き出すが、すぐにあの泣き顔と懇願の声が響いてきて、
「……くそっ」
急遽目的地を新宿へ変更し、道を急いだ。

別に、あいつを探しているわけではない、あの女が可愛そうだったからであって、断じて違う。
しかし無駄に高級感あふれるそのマンションの前に立ってみて、心臓が止まりそうになった。
窓から見えたマンションの奴の部屋に、明りがついている。

いるわけないなんてわかっている、きっと業者か何かだろう、それか新しい入居者だ。だけど。
俺の脚は確実に急いでいて、本能が奴にいてほしいと思っているのも事実だった。

扉の前に立って表札を見るとそこには未だ「折原」という文字。
何故か安心してインターホンを押すと、中から少女の声が聞こえた。
頑丈そうな扉が軽く開かれて、中から小柄なショートヘアの美少女が現れる。見たことのない顔だった。
「…あの、どちら様ですか?」
「…あ、」
平和島です、なんて言ったところでこの見ず知らずの少女に臨也の場所を教えてもらえるだろうか、そもそも恐らく奴の関係者であるこの娘がノミ蟲の居場所を知っているとも限らない、いやでもバーテン服で平和島静雄だとわからないのだから俺とノミ蟲の関係を知らない筈で、つまり言っても平気なのだろうか…
もんもんと考えあぐねていると、部屋の奥からまだ少年ともとれる声が聞こえてきた。
足音も一緒に響いているので、おそらくこちらに向かってきているのだろう。少女の後ろからひょこりと顔を出してきた。

「沙樹、何してんの……え、」
「平和島静雄、さん?」

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