少女の話によるとこうだ。
一か月前あたりから、臨也は滅多に新宿でさえ外へ出なくなったらしい。
不思議に思った奴の取り巻きが聞いてみたところ、答えてはくれずにただ自分がいなくなったら俺を殺すよう頼まれたのだそうだ。
そして今現在、臨也の携帯に連絡しても何の音沙汰なし、その上マンションまでもぬけの殻となっていたため言葉通り殺しに来た、というわけだ。
「俺がけしかけたって言っちゃだめたよって、言われてたの」
その少女は涙目になりながら嗚咽を響かせている。どうやらこの少女はノミ蟲のことを酷く慕っていたようであった。
「静ちゃんには言うなって、臨也さんが」
しかし、ひとつ不思議なことがある。そんなにあいつを慕っていたなら、何故言いつけを守って聞いてもいないのに勝手に話だしたのか。
それを聞くと、彼女はまたぶわり涙をあふれさせてしまって慌てる。
「あ、あなたなら、いざやさんを見つけられる、って」
「はぁ!?」
そんな話誰が流したんだ、間違いなく俺でもないしノミ蟲でもない。それを話したってあいつには何の得もないのだから。
っていうかちげえよ、俺があいつを見つけてるんじゃなくてあいつが俺の前に出てくんだ。
「誰が言ってたんだ、んなこと」
「臨也さんのお友達の、白衣のひと」
新羅か。思わず握りしめた手のひらに爪が食いこんで血が少し流れる。
あいつならいいかねないな、学生ん時だって俺と臨也を見て笑っていたような奴だし。
「お願い、臨也さんを見つけて」
しっかりと目を合わせて懇願された、普段目を合わせられることなどない俺は少しうろたえてしまった。
俺にノミ蟲を探せ、だと?俺と奴の仲の悪さを知っている奴なら随分命知らずな頼みだが、この少女はきっと殺されてもいいと思っているのだろう、目が本気だ。
ため息をひとつついて、煙草を踏みつぶした。とりあえず今の俺には、新羅に怒るより先にしなければいけないことがある。
「おい」
「え、」
「あいつのマンションの鍵持ってんだろ」
奴のマンションは面倒で、一人で入るには鍵が要らなければならない。この少女が勝手に入れたということは、きっと鍵を持っている。俺があいつに会いに行くためには、それが必要だ。
「探してやっからさっさとよこせ」
あ、トムさんに連絡いれねえと。

唖然。それ以外に反応ができなかった。
「んだよ、これ…」
少女から借りた鍵で奴の自室に入る。入口すぐ前の仕事部屋らしき無駄にでかい部屋には、一度昔入った時には机やらソファやらがたくさんあって、何より壁一面に張られた情報の紙や棚いっぱいに詰められたファイルが印象的だったのに。にも関わらず、
「…何もねえ…」
本当に文字通り、何もなかった。あるのは目の前の大きな窓ガラスだけ。
紙もファイルもソファも、ましてや机でさえ、本当に何ひとつ残っていない。
何だ、ここ。
試しにまわりの部屋も一通り開けて眺めてみるがこちらも同じく何もない。がらんとした室内が広がっているだけだった。
その時、俺の携帯のバイブがなる。突然のことに驚いて慌てて発信者を見ると、あ、門田。
「お「静雄か!?」…門田?」
門田は無口で落ち着いたやつだった。そんなあいつがこんな慌てた声を出すなんて、珍しい。どうしたのだろう。
「おい、どうした」
「お前、ここ最近臨也見たか!?」
門田、お前までそんな命知らずな奴だったのか。普段ならもう携帯が壊れている筈だがなぜか今回は無事だった。日常ではない事態に俺自身多少なりとも混乱しているらしい。
「いや、見てねえけど」
「…くそっ、わかった、サンキュ」
そういわれ口が離れていく感覚が電話越しにして、ちょっ待てよお前ここで切るなよ。
「おい待てよ、何があったんだ」
俺自身臨也を探しているのだから、なんて言えるわけがない。
門田も何かを知っているような様子だし、何か手掛かりになるような気がする。いや別にノミ虫を本気で探してるとかじゃなくて、ただちょっと好奇心で。
「……んだんだと」
「は?」
声が小さくて聴き取れない。電話を耳に押しつけた。
「…ここ最近あいつ見てなくて、気になって電話でもしてみようかと思ったら、話し声が聞こえたんだ」
何だ、なぜかものすごく嫌な予感がぞくぞくと這い上がってくる。
「今池袋中で噂らしいんだが」

「あいつが死んだって」


100412
あれ、5巻で静ちゃんふつうに臨也んち入ってたような…
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