俺は折原臨也が嫌いである。
具体的にどこがと問われればすべて、と答えるしかない程大嫌いで、皆が口を揃えて絶賛するその整いすぎた容貌やこれまた回転の速すぎる頭脳さえも、俺には心中を更に苛立たせる要素としかなり得ないのだ。
今こうして説明している間にも苛立ちは募っているのだが、その折原臨也は今屋上にいた。正確に言えばそこは最早屋上という安定感のある平面ではなく、屋上を囲うフェンスの上。
雲ひとつない腹がたつ程の快晴の下、不安定すぎるそこに平然と立てる奴のバランス感覚は異常だなという思想を余所へ追いやった。数歩歩けば触れられる所にあるそれの表情は逆光でよく見えず笑っているようにも泣いているようにも見えるのだ。
ここは屋上、つまり4階。非道であり歪で非人間な精神をもつ折原臨也も、体だけはどうやら俺が知る限りでは人間なようなので(これで実は地球侵略しに来た宇宙人でした、なんて言われたら俺は信じてしまうかもしれない)、さすがにこんなところから落ちれば良くて(悪して)骨折・入院、最悪(最高)死に至るのではないだろうか。つまり今俺が間を詰めてこいつの体を押すだけで、こいつは俺の視界から完全に消え去ってくれるのだ。が何故か俺は動くことができなかった。
僅か前に死ねよ、と囁くように言葉を紡いだ無駄に形のいい唇は、次に時間切れだと残酷かつ哀れな宣告を下す。
ゆっくりと後ろに、ありもしない壁にもたれ掛かるように、体が浮くのをスローモーションのようにぼんやりとただ見つめる。
黒い裾から微かに白い肌が覗いた瞬間、ぱぁん、と何かが弾ける音がした。
それからはもう一瞬の出来事で、たん、跳ねるような足音をばねにして浮いたその体を追いかける。気がつけばまだ熱の残る安っぽい金属に手をかけて、白い腕が見え隠れする細い黒を掴んでいた。
力など考えずにただ無我夢中で掴んだので骨が軋んだのがわかった。痛いなぁと嫌味たらしく笑う奴は既にフェンスをつかんでいてもう落ちないであろうことは理解できたのだが、決して離そうとは思えなかった。
ぐいと引っ張りあげ信じられないくらい軽い体を囲まれた中に落とす。急に手を離したにも関わらずよろけずに着地したところがまた憎いと思った。
自分より幾分か低いところにある紅と目が合い、全身の血から絞りとったような純すぎる赤色に、実はこいつの血は色素がないのではないかと馬鹿な考えが頭をよぎった。
ね。
言ったでしょう。
君は俺を殺せない。
にへらと笑ったその顔にどす黒いものが沸き上がってきたのを感じ、ろくなことを言わない災いの元である唇に噛みついてそれを隠した。


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