慣れていることだった。
職業柄、攫われることなんてあり得なくなかったし、少しでもヘマをすれば当たり前のことだ。
それは静ちゃんもよく理解している筈で、俺がそう簡単にやられたことがないことも知っている筈で、なのに
「……なに、心配だったの?」
「ああ」
からかうように言ってみたその質問に即答されたのは大分予想外だった。
「……よかった」
確かめるように、もう一度ぎゅうと抱きしめられる。ちょっと苦しい、けどそんなことも気にならないくらいそこは暖かかった。思わずおずおずとこちらからも腕を回す。
何なの、これ
静ちゃんは俺が嫌いな筈でだから俺を心配するなんてことありえなくって、ましてや無傷な俺によかったとか言って抱きしめるとかあり得ないあり得ない、そもそも静ちゃんは怪力なんだからもしかして今俺力加減されてんの。
こんな、大事な娘にするみたいな抱き方、慣れてなんかいない。
きっと今俺は女の子だから、それで妙なフェミニスト精神のあるこいつは大事にしょうとか無意識に思ってるんだろうな、
馬鹿みたい。
悲しくなってしまったことに驚かされた、何に悲しくなったのかと聞かれれば、きっと折原臨也ではなく女として見られたことに。
……ほんと、馬鹿みたい。気が付いたら視界が少しぼやけていて、見えてる筈ないけど絶対に見られたくなかったから目の前の黒いバーテン服に顔を押し付ける。目を閉じるとちょっとだけあふれ出た涙でそこは少し濡れてしまった。
やだもう女って不便すぎる、涙腺が緩いことを何度も実感させられて。
これじゃ、俺が静ちゃんのことを好きみたいじゃないか。
「……怪我してねえんだな」
「うん」
一際強く抱きしめられる、あ、待ってこれはちょっとさすがに痛い。
俺が痛がっていることに気がついたのか、慌てて力を緩められた。ことに少し笑ってしまう。
今の俺はおかしい、でも、静ちゃんもきっとおかしいのだ。
「今日の静ちゃん変」
「あ?」
「好きみたいじゃん」
俺が。静ちゃんを。
そう言った途端、静ちゃんの顔が真っ赤に染まった。え、何で。


100328
一旦ここで切ります…中途半端ですみません
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