目があってから数秒間、俺だけでなく臨也もお互い動くことができなかった。
静寂に押し潰されそうになる。蹴り飛ばした扉にはくっきりと足跡が残っていた。
「......」
数メートルごしに見る久しぶりのあいつの顔は前にみた時とほとんど変化がなかったが、纏う空気は確実に臨也らしくなっている。
ど ういうことだ
俺はこいつの悲鳴を聞いて来て、実際こいつはここにいて、なのに状況は明らかに理解し難いもので、
現状をいまいち理解できず混乱する。しばらくの間臨也もぽかんと呆けていたが、俺が考え込んでいる間にやつの方が先に目を覚ましたらしい、慌てたように窓から逃げ出した。
「、おいっ」
「ごめんっ」
何を謝っているんだとか、そんなことを気にする余裕もなく俺はこの時無性に腹をたてていた。
確かにキスしたのは俺の方からだったが、散々人を混乱させやがったのは女だろうが男だろうが折原臨也で、あやっぱり女になったってあのムカつく雰囲気は変わらないらしい畜生イライラする!!
別に今逃してもあとで新宿に押し掛ければいいだけの話なのに、気がつけば俺は窓を飛び出して全速力で追いかけていた。
「待ちやがれっ...!」
誰が逃がすかよ
女になったためか無駄に足の速い臨也とはいつもより距離は開いていない、その上あいつがやっているパルうんたらとかいうものは、このような平坦な道では少々使いづらいのだろうか、派手な動きをすることもなくただただ走るだけの臨也に追い付くのは時間の問題だった。
「......!?」
うしろを振り返った臨也は俺を見てひきつった声をあげていて、俺が追いかけてくるとは思わなかったのだろうあいつにしてはめずらしい。青ざめた顔のまま必死に速度をあげようとしているが、もう黒いコートは俺の目前まできていて。
手を伸ばしフードの部分を思い切り掴んで動きを止める。ぐえ、と変な声をあげて臨也も止まった。
さすがの俺もここまで全速力で走ってきたので多少息が乱れる、臨也なんかはもっと酷くてフードを掴んだ拍子に首がしまったのも影響したらしくぜえぜえと酸素を補充していた。
「......臨也」
今度はもう、確かめるなんてことはしない、こいつは臨也だ。
「......なに」
臨也もとうとう諦めたらしい、俯いて背を向けたまま(俺がフードを掴んでいるため仕方がないのだが)返事をしてきた。
目の前で地面を見つめて震える臨也はいつもより数段階小さく見えて、ちょっとおかしな気分になる。それを振り払うようにフードから手を離した俺は細い肩を掴みぐるんと向かい合わせにした。
「ぇ、ちょ」
見開かれている瞳は酷くて赤く、あぁやっぱりこいつは臨也なのだ。頭ひとつ分程小さな体を全身眺めてみても、目立つ怪我はないように見える。
「…よかった」
「え?」
「あ?」

あれ  
  俺今何言った
「――ッッ!!」
自分の言った言葉を理解すると途端に顔が熱くなるのがわかる、ちょ待て何で俺ありえねえ別にこいつがくたばろうが殺されようが俺には関係ない話だろ!!!
そう叫びだしたい気持ちに駆られた時、誰かのこれが響いた気がした。
「もういいだろ」
何がだよ、
「じゃあ何でお前は仕事を放り出してまで来たんだよ」
だから何の話だ、

「心配だったんだろ」

ああ        そうなのだ

認めてしまえば瞬間先ほどまでのイらつきは消えて、何かが軽くなるのを感じる。
そうだ、俺はこいつが心配だったのだ。
だから叫び声が聞こえただけで、わざわざこんな、追いかけてまで。今逃がせば消えてしまうような気がして。
「…静ちゃん?」
無言だった俺を訝しく思ったらしい、臨也が怪訝そうに赤い瞳を向けてくる。吸い込まれそうだと思った。
掴んだ肩から伝わってくる震えを知った時、急に目の前の、この女となった大嫌いな天敵が堪らなく愛おしく思えてしまって、
「……うわっ!」
思わず、抱きしめた。
おい何やってんだよ俺今すぐこいつを離せ、そう叫ぶ自分とこのまま抱きしめていたいと願う自分が同時に存在してああくそ頭がぐちゃぐちゃだ。
その筈なのに体はこいつを抱きしめたまま動かない、今もうこの体はもはや俺のものではない、自分の意思に従ってくれないのだから、というよりきっと今の俺は本能だけで動いてる状態なのだろう。あ、でもそれだったら今頃こいつはつぶれてるだろうから無意識のうちに抑えてるのだろうか。
背中にゆっくりと回された腕に若干驚いたが、とりあえず今はこの胸の中の熱を感じることに専念した。


100326
もう誰だ こいつら…
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -