目が覚めるとそこは薄暗く寒いしたところだった。ひんやりとした冷気が頬に触れて嫌でも脳を覚醒させる。
「お目覚めですか」
前方から足音が聞こえてきた、声からしてあの取引先の男。
どうやら今俺は椅子に縛り付けられているらしい、うでは後ろで固定されていてうまく動かずついでに目隠しもされている。
しゅるりと顔を何かがかすったと思えば布が擦れる音がして視界が開けた。
そこはどうやら何処かしらの倉庫の中だったようで、窓から差し込んでくる光で倒れてからまだあまり時間が経っていないのだとわかる。がらんとしたその場所には黒いスーツを着た男がえっと5人いて予想以上に少ない人数に驚かされた。
「すみません乱暴はしたくなかったのですが」
いや最初からする気満々だっただろお前スタンガンとか用意してたしねっていうか穏便じゃない方法でどうやって俺をここまで連れてくる予定だったんだ気になる。いうわけないけど。
「貴方のお兄さんは裏世界では随分有名なようですね」
「・・・ええ」
この時、俺はこの男が俺を折原臨也だと気が付いていないことを知った。
自然と口が緩む。それなら話は簡単だ。
「私の上司のある方が彼を大層気に入られておりまして、その方に命じられたんですよ、折原臨也を連れてこいと」
「・・・・・・では何故私を?」
あくまでも慎重に慎重に、折原臨也の妹らしく静かにゆっくりと語りかける。相手の意識を自らの顔に向けるようにじっとその男を見つめ続けた。
男たちから見れば俺は内心怖がりつつも気丈な振りをしているように見えるだろう、演技力には自信があるのだ、内心俺は笑いだすのをこらえるのに精いっぱいだったわけだが。
こいつ、馬鹿だ。
男たちは、俺を縛った時に隠しナイフに気がつかなかったらしく護身用ナイフは袖にしまわれたまま、しかも俺のいる位置は壁際らしくすぐ後ろが壁というなんとも人攫いの初心者といった感じだったのだ。
そんな奴らが、俺がいま少しずつ着実に手を縛っている縄をナイフで切っているのに気がつくはずもなく、俺は縄を切った後の行動をシュミレーションする。
「そんなの、彼を連れてきてもらうためにきまってるじゃないですか」
「・・・そうですか、」
仮にも折原臨也の妹が簡単に応じるわけがない、場合によっては犯す気もあったのだろう。腹のそこから嫌悪感がわき出た。
ぶちり、と小さな音が聞こえて縄が切れる。落ちた音でようやく気がついたらしい。
「 ! おま、」
両手が自由になった俺はすぐさまコート内部に手をつっこむ。内部に作った隠しポケットに入っているのはナイフではなく、俺の妹が改造した痴漢撃退スプレー。慌てて襲いかかってくる男の目の前につきつけひと吹きすればすぐに動きはなくなる。
そのまま男の腕を切り付け勢いに任せてナイフがその隣にいた男の腕をかすった。その隙に股間に一撃。
伊達に今まで修羅場をくぐってきていない。女になって多少力が弱くなったとはいえ、この程度の人数なら簡単にくぐりぬけられる、というか相手が馬鹿だっただけだと思う。
最後に残った男の口内にスプレーを吹きこみ鳩尾に一発、気がつけば立っているのは自分ひとり。もし俺が臨也だとばれていたら口止めやら何やらで面倒くさかっただろうが、今の俺は架空の存在であるので暴れても今後には無関係なのだ。
このまま帰ってもよいのだが、せっかくだし少し懲らしめてやりたい。意識をうしなった男の背広の中を見るとナイフが隠されていた。
「何で使わなかったんだろ・・・」
恐らくとっさに思い出せなかったのだろうな馬鹿だっていうか経験が浅かったなこの若造め。
とりあえず近くの窓を手近なコンクリート片で思い切り割る。防弾などでないもろく古いガラスはいとも簡単に崩れてしまい逃げ出せるスペースを確保できた。
「っきゃああぁぁああぁぁあぁぁッッ」
息をすって全力で腹の底から叫んだ、恐らくこれで誰か近くの奴らが来るだろう。もしくは通報されるか。そしたらこいつらは、うんご愁傷様、微笑んでしまった。
長居するわけにはいかないので窓枠に足をかけ、そこから逃げ出そうとした時、
「・・・・・・臨也?」
足音がしたと思い慌てて逃げようとするが、聞きなれた声に思わず振り向けば
「え・・・静ちゃん?」


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折原さんはそんな簡単にやられないです
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