目の前に仰向けに倒れている新羅を見て若干の罪悪感に襲われる、が俺がノミ蟲を好きみたいとかほざいた新羅の自業自得だ。
家主の意識がない今ここにいてもなんの意味もない。俺は高級感溢れるソファーから立ち上がり新羅宅を去った。

つかつかと池袋を歩けば自然と人は道をあける。きっと今の俺は殺気で満ち溢れているのだろう、その殺気が新羅に向けてかノミ蟲に向けてかはわからないが。
ひそひそと聞こえる声やおぞましいものを見るような視線がうざったくて、路地裏へと入った。
胸元のポケットから煙草を取りだし火をつける。ふぅ、と息を吐きだすと汚れた壁に煙が融けて行った。
俺は折原臨也が嫌いだ。大嫌いだ。どれ程嫌いかは俺が一番よくわかっていて、同時にそれは奴も理解している。
なのに俺は女になったあいつにキスをしてしまったのだ。
「……わけわかんねえ」
ぐしゃりと頭をかき混ぜた時煙草から灰がこぼれた。

数日が過ぎて、女になった臨也にキスをしてからそろそろ一週間が経ったことになる。俺のイらつきは臨也が男であって池袋に顔を出していた頃よりも格段に増えていた。
この際臨也のことを考えてもイらつくだけだ、やってしまったことを今更後悔してもどうにもならないと思い必死で脳内からあいつを締め出していたのに。
町であいつに似たコートを見かけるたびに、黒髪のあいつに似た髪形を見つけるたびに、脳に鮮明に刻まれてしまった奴の泣きそうな顔を思い出してしまうのだ。
女になると涙腺も緩むのだろうか、あいつが泣いたところなんて初めて見た。
俺の中の折原臨也は、例え女になった姿だったとしても、絶対に泣かない殺されない弱さを見せないような唯一の「壊されないもの」だったのだと初め思い知らされる。
仕事帰りの夜の池袋で、自嘲じみた笑みを浮かべてしまった。
何だ俺、四六時中臨也のことばっか考えやがって、
これじゃ本当にあいつが好きみたいじゃねえか。
ありえねえ気色悪い、そう思ったのは決して嘘ではなく事実で、しかしあいつの泣き顔を不覚にも綺麗だと思ってしまったりキスしたいと思ってしまったのも紛れもない事実なのだ。
改めて新羅の家に行った際教えてもらったのだが、あの薬の効果は一か月くらいで消えてしまうかもしれないらしい。
ほんの少しだけ、あの姿の臨也を戻してしまうのは勿体ないなと思った。



100321
次回はまた臨也視点に戻ります
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