学生時代、女に言い寄られたことなどはなかった。卒業して社会人になった今も、そんな直接的に想いを寄せられたことなどない。この暴力のせいというのもあるが、自身のキレやすい性格も理由の一つとなっていることも十分に自覚している。とにかく俺は女と親密な関係になったことなどなかった。それは同時に俺が性行為を未経験だということで、ついでに言うとキスだってしたことはない。
ということは、だ。
路地裏から出たのち全力疾走で通りを走り抜け、自宅のドアを乱暴にしめる。めきりと変な音がしたので壊れてしまったかもしれないが今はそんなことを考え余裕もなかった。
ずるり、背中の扉に寄りかかりずるずるとしゃがむ。頭を膝に埋め悔しいことに真っ赤な耳を両手で押さえた。どくん、どくんと血液の流れる音が響く。
「…ファーストキスかよ」
ぽつりとつぶやいてみるとあの柔らかい感触をまざまざと思い出してしまい、顔に熱が集まった。自分で言ってみて改めて自覚したあの行為は、俺にとって羞恥心を煽るのに十分すぎる。
あの時なぜあんなことをしてしまったのか、タイムマシンがあればいいのにと本気で願った。そしたら俺はあの時に戻り何の躊躇もなく馬鹿なことをした自分自身をぶん殴ってやる。
っていうか。ふと冷静になり考えてみると、あれは本当に臨也だったのだろうか。
顔は似ていてコートも同じで否定せずにいて、でも追いつめてみたら明らかな反応をしめしたから確信したのだが、もしあれで人違いだったら俺はただの暴漢だ。
いや、でも違うはずがない。頭を揺らして心の隅にできた不安感を拭う。言葉に出しては言えないが、あの感じは確かに奴だった、ノミ蟲だった。性別が違うだけで、雰囲気や匂いや不快感・嫌悪感は間違いなく折原臨也のもので。
まぁ別人だとしたらただでさえ低い俺の評判が下がるだけだ、その時にはその女にも謝罪をしに行こう。断られるだろうが。昔に比べ随分ドライな思考(諦めたともいう)で不安感に蹴りをつけた。
しかし問題なのはあれが臨也だった時だ。何故キスしたとか何故あの時新羅の家にいたとか疑問は多く残るが、まずなぜ女になっているのかというのが気になる、いくら奴がやばい仕事をしているからといって男が女になるような漫画みたいなクスリを扱う筈がない、そもそもそんな危ない橋は渡らない、とは思えないがそんなヘマをするとも思えない。大体そんな変なクスリがあるとは思えないし、あったとしたら作ったのは相当ヤバい奴だと思う。おもてに出れないような裏社会の変な研究所とか、闇医者とか。そうだ、闇医者とか。…闇医者。
その時、あたまの中でちん、という音がした。
新羅の家ですれ違ったこと、臨也が逃げていたこと、知り合いのあの闇医者男、そしてノミ蟲が女になっていたことに全て納得がいく仮説が生まれたのだ。
「………」
びきり。拳の埋められた近くの壁にひびが入る音が聞こえた。
立ちあがり壊れかけたドアを無理矢理開けて同様に無理矢理閉める。目指すは元同級生の、闇医者の元だった。


100319
急展開すぎてすみません…!
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