多分実際は数秒にも満たなかったんだと思うけれど、その時間はうんと長く感じられた。
ゆっくりと唇が離れて行って、ぼやけた脳内と視界で呆けた顔の静ちゃんの顔を凝視。何で吃驚してるの、驚いたのはむしろこっちの方である。
お互い大嫌いな、しかも中身が男であると気づいている相手に突然キスするとか。意味分かんない意味分かんない。静ちゃんは完全に固まっていて、じゃあ何であんなことしたのと問いたいが生憎俺の体も固まってしまっているのだ。
二人とも停止という傍から見れば相当異様である状態が長く続く。きっとこれも実際は数秒間なのだろう。しばらくして、静ちゃんの顔が面白いくらい一気に紅くなった。耳まで真っ赤な人って久しぶりにみたかも。
「…っ!!」
そのまま口元を押さえてUターン、猛ダッシュで路地裏を出ていく静ちゃんを追いかけたいと思ったのに、やはり体は動かないままでもどかしい。頭は大分冷静になってきたのに体は酷く熱くて、頬との温度差に驚かされる。きっと今私の顔は真っ赤なんだとわかると急に胸がぎゅう、ってなって、何だこれ。
それから俺がようやく動けるようになったのは静ちゃんが出て行ってから一分くらい後の時のこと。その間にもう当に依頼主は到着していたらしく、地面に落ちた鞄からケータイのバイブ音が響いていた。

取引は無事済んだ。
相手はやはりそれなりの人物で俺との信頼関係もそこそこあったので、この顔とコートや合言葉、そして持ってきたもののおかげで割と怪しまれずにすんなりと受け入れてもらえた、ように見える。
人は裏では何を考えているかわからないからな。そこが好きなんだけど。
新宿のマンションに帰り自室へ入ると、まだ昼なので波江が部屋にいた。
あら遅かったわね、と皮肉交じりのあいさつを投げられるが気にせずソファーに体を沈める。疲れたぁ、と気の抜けた声が出た。
しばらく走ったせいで重くなった足を休めていたのだが、その足のせいで思わず昼の出来事を思い出してしまう。
静ちゃんてば筋肉硬くてナイフも刺さらないのに、くちびるはなんでちゃんと柔らかいの、あんなの卑怯だ、しかもあのキスしてる最中に見えた睫毛、思っていたより長くてびっくりしたし。って何を考えている俺は!ぶんぶんと打ち消すように頭をふった。
ふと顔に視線を感じて波江の方を向くと目があう。じっと俺の顔を見つめていて、女になった俺なんて散々昨日見ただろうに。何だろう。
「なに、顔になんかついてる」
「…あなた顔真っ赤よ」
自分の思い通りになってくれない体なんか、静ちゃんの次に大嫌いだ。



100318
次は静雄視点です…
今回短くてすみません;
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