昨夜夢見た望みは無残にも絶たれてしまった。
朝起きるとやはりその胸元には昨日のように慣れない柔らかさのものがついていて、触ってみればやはりふにゅりとつぶれる。なんかもう二日目にして泣きたくなってくる。
しかしそう泣いてばかりいられなかった。今日はお得意様との直接取引があるのだ。よりによって、池袋で。
昨日の夜遅くに新羅宅から届いた洋服類の袋を寝室に引っ張り込む。中を漁っていると包帯のようなものがあった。恐らくさらしとして使えということなのだろう。さすがの新羅もブラジャーを送ってくるような無神経さはなかった、というよりは胸の大きさを測っていなかったためサイズがわからなかった、という方が近い気がする。
時間をかけつつも何とかさらしを巻ききり、少々の圧迫感と息苦しさを感じながらも今度は服を探り出した。
全体的にいつもの服装のようなシンプルで黒い服が多い。これでは分かる人にはバレてしまうかもしれないので、今度また新羅に白っぽい服を頼んでみようと思った。
ひとまず黒のインナーと膝少し上までのスカートを履き、コートを羽織って鏡の前でくるりと回転。少し面影は残ってしまうものの、これなら気づくものはいないだろう。
軽く食事をして調べた書類を鞄につめて、使うことを極力想定したくはないが一応隠しナイフもチェック。なんてったって池袋。あの男に遭うかもしれない、まあばれないだろうけど。
数個の携帯電話も入っているのを確認して、これまた送られてきたブーツを履いて外へ出た。

うざい。
「ねえ君、今一人?遊ばない?」
「そこの可愛い子っ暇してるよね?」
「ちょっとそこでお茶でもさぁ」
うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいっ
急いでますんで失礼します、となるべく相手を逆なでしないようにしっかりと告げ、小走りに逃げる。のも数度目であった。
池袋についたはいいものの、その取引相手が30分ほど遅刻するらしい。ある喫茶店の近くで待っていてくれと言われたので、ベンチに座って待っていたのだが、先ほどから男が寄ってくる寄ってくる。
確かに男であったときから逆ナンパなどはよくされていたがそれの比ではなく、さすがのおれも若干疲れてきた。
はぁ、と息を吐きつつうつむいていると、ふと上に影がかかった。
ようやく来たかと思い顔を上げる。そこにいたのは予想を大きく裏切って、ドタチン。
「…あ、すまない、人違いだった」
ドタチン、といつものように呼ぼうとしたが、慌てたように弁解するドタチンを見てそうだ今俺女だったと思い出した。
「…そうですか」
「あぁ、それに似たコートの奴がいて…」
そういえばコートは男の時から変わっていなかったような。これからは注意して他のコートに変えようと思った。
暇を持て余していた俺の頭の中で、ぽつりと悪い考えがひらめく。からかってみようと。
「臨也兄さんの知り合いですか?」
できるだけ女らしく、かつ「臨也の妹」という架空の存在らしく振る舞うと、ドタチンは目を見開いていた。
「兄さんって…臨也の、妹か?」
「はい」
「え、でもあいつに妹なんて、双子の他に…」
「少し家庭の事情がありまして…別々に住んでいたんで」
「…そうなのか」
ここから先はほとんどアドリブの設定である。不名誉なことに職業柄嘘をついたりするのは十八番であるので、すらすらとつっかえることなく言葉を紡ぐことができたせいか、あっさりと信じ込んでくれたドタチンに若干の罪悪感と高揚感を感じた。


100315
切るところがわからなくて無理やり切りましたすみません…
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