※ころころ視点が変わります。臨美→静雄の順です…


バレンタインのお返しにとマイルとクルリに要求されたのは、苺のホールケーキ。
ケーキなんて作ったことはなかったが、作らないと何をしでかすかわからないので、結局作ったケーキを届けに池袋まで来る羽目となった俺。弟怖い。
わかっていたことだけれど私は結構器用らしく、初めて作ったにも関わらずそれは案外いい出来だった。
池袋までの道のりを歩いている最中、ふと二人のくれたチョコの行方を思い出す、要するに静ちゃん。
先月のバレンタインに、私は静ちゃんにチョコをあげた、というか、投げつけた。あれはあげた内に入るのだろうか。あげたと言えばあげたし、渡したと言えば渡したし、投げたといえば投げた。お返しを貰えるか貰えないかの微妙なラインだった。
そんなことを考えながら歩いていると、無意識の内に私の足は奴の家に向かっていたらしい。気がつくと静ちゃんの家の前で。
やだこの体、何で足が勝手に動く。主人の意思はガン無視ですか。
まぁ押し掛けてみて貰えなかったら貰えなかったで、貰えたら貰えたで別にどちらでもかまわなかったのでせっかくだし、と私はインターホンを押した。


今日はなんだ、厄日か。
朝起きるとほぼ同時にインターホンが鳴り、開けてみればノミ蟲がいたので慌てて閉めるも滑り込まれてしまう。何しにきたと問えば無駄に期待めいた目を向けてきたのだが何のことだかわからず呆けていると、もういいと怒鳴られて顔面にぐしゃぐしゃになった菓子をぶつけられた。ちなみにそれはホールケーキでべっとりとクリームを落とすのに大分苦労させられた。
そんなことがあったせいで朝から煙草を消費しまくる俺。何だあいつクソむかつく。何であの時追いかけてでも殴り殺さなかったと今更ながら後悔。
しかし、それにしても
「今日はやけにカップルが多いっすね...」
「だな」
池袋の街にはいちゃつく男女の姿が溢れていて、少なからずまたイラつきを増長させる。
本当何だって言うんだ、そのイラつきの元凶はどう考えてもやっぱりあのクソ女のせいなので、よし殺すめらっと殺す殴り殺す。
「今日はホワイトデーだからなあ」
「......なんすかホワイトデーって」
突然トムさんの口から聞きなれない言葉がでてきて、思わず聞き返すと目を見開かれた。何か俺変なこといったか。
「知らないのかお前...男がバレンタインのお返しする日だよ」
「は?」
「バレンタインにチョコくれた女に今度は男から何か送るんだと。」
随分うまい営業だよな一度で二回金巻き上げようっていうよぉ
正直その時トムさんの言葉は聞こえてなかった。一ヶ月前のバレンタイン、俺は誰かからチョコをもらったような、そうだ確か投げつけられたんだチョコを。そんなかとをする女を俺は一人しか知らない。
そいつの今朝の行動の理由にホワイトデーということを当てはめれば、すんなりと納得がいくのだった。
...あれでも、もらった、というのだろうか。あいつはきっとそう解釈しているに違いない。
このまま何も渡さずにあれじゃノーカウントなんだよばかと鼻で笑ってやるのもアリなのだが、どうしてか先月のあいつの泣きそうだった顔が頭から離れないので困りものだ。
考えあぐねた末に、俺は仕事の帰りにコンビニでまだ辛うじて残っていた焼き菓子のミニセットを買ってみた。


な ぜ ま た や っ た 。
折原臨美の菓子投げを再び食らわされた静ちゃんの体から滲みでる殺気といったらそりゃあもうすごかった。あの後追いかけられて殺されなかったのが不思議なくらい。
投げつけて我に返ったあと、私は弟たちのことも忘れ、猛ダッシュで家へ帰った。
どうやら化け物をうまく撒いたらしく、滑り込むように入り扉を閉めてしばらくしても、足音は聞こえてこない。ほうと息をついて、背後の扉にもたれかかったままずるずると沈んだ。
息が落ち着いてきたころになっても鏡で見た自分の顔は赤く染まっていて、心臓もばくばくとうるさいままなのに腹が立つ。
部屋のソファーに身を投げ出し、適当なクッションを顔に押し付けた。ビロード地のクッションは水分を吸い取るには適さないらしく、自分の涙で頬が濡れるだけであったが。
どうして投げてしまったんだろう。押しかけるときに貰えなくても別にいいとか、そういうのちゃんと覚悟していったのに、いざ何それ考えてもいませんでした、みたいな顔を見ると泣きたくなってしまったのだ。あ、また思い出すだけで涙でそう。いつから私の涙腺はこんなに弱くなってしまったのだろう。
思えば、一か月前のバレンタインの日から私は色々とおかしい。その日を思い出しただけで急にきゅんとなったり泣きたくなったり、情緒不安定なのかも、今度新羅に診てもらおうと思う。
とりあえず今はこれからのことを考えなければ。
ケーキは投げつけて駄目にしてしまったので、また新たなケーキを再び作らねばならない、そのあとは間に合うかわからないけどマイルたちに届けて、ということはもう一度池袋に行かなきゃならないのか。
「やだな」
今までも池袋はそこまで好んで行く場所ではなかったし、行くのを躊躇う時もよくあった。が、今回のように本心から行きたくないと、静ちゃんに会うのが怖いと思ったことは初めてかもしれない。暴力をふるわれるのが怖いという意味もあるが、何故か今の私は会っただけで精神的にダメージをくらってしまうのだ。
そうは言ってもいかなきゃならないのはわかっている。
私は諦めて台所へと向かった。


今日がホワイトデーだというのもわかった、あいつが先月(どうしてかはわからないが)俺にチョコをあげたつもりだったのも、お返しを求めていたのもわかった、そのため今俺の片手には小さな紙袋がつられている。のだが、
「どうやって渡せばいい…」
あいつの家に押しかけようかと思ったが、そこまで馬鹿ではない奴のことだ、俺のことを避けているだろう、うまく今日中に会えるだろうか。
ふと時計を見ればあと少しで日付を超えるという時間で、ホワイトデーというのは今日の間を言うはずだから、それがもうすぐ終わるということだった。そうなれば俺があいつを探す必要も菓子をやる必要もなくなり、俺としては好都合だったのに、足は急ぐばかりなのが不思議でたまらない。
俺はあいつに会いたいのかもしれない。会いたいというか、一か月前の泣きそうな顔の理由や投げつけた理由、あの真っ赤だった頬のわけを知りたいと思っている自分がいる。そろそろ俺末期かも。
ふと前方に目を移せば、見慣れたファーコートが動いていた。いた。臨美だ。
「、おいっ」


慌てて作ったケーキの味は一回目より大分落ちた気がするが、それでも総合的にはおいしい方だったらしく、わぁわぁ騒ぎながら食べている弟たちを見る。
こうしてみると、少しどころかかなり変わった俺の弟たちも普通に見えるものだ。
「ねえ臨姉クリームプレイしよ!」
「…試(しよう)」
前言撤回。
その後全力で逃走してきた私は、昼間よりは少ないとはいえまだ人通りの多い池袋を歩いていた。時計を見ればもう少しで日付が変わる時間で、そろそろ帰ろうかと思い新宿へと足を進める。
結局貰えなかったな、と少し自重気味に笑えば目じりに何かがせりあがってきた。駄目だ、こんなところで泣いてはいられない、もし静ちゃんに今見つかったら私一貫の終わりじゃん。
足が自然と急ぎ足になった時、急に腕を引かれ驚いて振り向くと、そこには今一番会いたくない人の姿が。
「静ちゃ、」


驚いたように振り向いたノミ蟲の目にはうっすらと膜が張ってあって少なからず驚かされた。えええええ何で泣いてんのこいつ俺なんかしたか!?
ようやく朝のことを思い出し殴られると思ったのか(実際そうするつもりもあったが)、慌てて逃げようとする奴を引きとめて、片手に無理やり紙袋を握らせる。臨美はぱちくりと瞬きをした。
「あー…あれだ、ホワイトデー」
ただでさえ大きな目が見開かれ余計に大きくなる。普段人をからかっている奴が今こうして自分の行動によって驚いているというのはなかなか爽快な気分で、俺のこの行動が奴にとってどれだけ予想外のことであったかを知ったのだ。
「…別によかったのに」
「だったら何で投げた」
「……わかんない」
もう全然わかんない、全部何にも。
そう呟いたかと思えば、奴の頬には一筋の涙が流れていた。これに俺は本当に動揺する。
「え、ちょ、おい!?」
「…っうぇ…、もうやだ…」
こいつの泣き顔なんてものを見るのは初めてで、予想以上に長いまつげとか泣いてる顔を少なからずかわいいなんて、俺は思っていない…多分。
ついにぽろぽろと本格的に泣きだしてしまった臨美に対して、どうしていいかまったくわからずただ慌てるばかりだった。自分でも情けない気がする。
困った挙句、最終的に俺の右手は奴の頭の上に乗せられていた。そのままやわく撫でてみると、ノミ蟲はくすぐったいのかふにゃりと笑って体をよじった。
「…ありがと」
顔を真っ赤にして手を震わしてか細い声でお礼を言う臨美はまぁ可愛いとも言えなくもなかった、とか思っている自分を正直殺したい。
少し自分の顔が熱いような感じがするが、さっきよりうるさい心臓も含め気のせいだと決め付けた。
今はただ、もう少しの間この髪の感触を味わっていたいと思ったので。


100314
読みづらくてすみません…
あと無駄に甘くてすみません…
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