目覚めたとき、まず目に入ったのは白い天井。空気をゆっくりとかき回すファン。
ここはどこだろう、なんてことを思う暇もなかった。酷く見慣れたその風景は新羅の家だ。怪我をするたびこうも運ばれていては慣れてしまうものだろう。
痛む体をなんとか腕で支えて、上半身を起こした。下腹部に鋭い痛みが走り気絶前の記憶を鮮明に思い出してしまう。
犯された。強姦された。輪姦された。
並べてみればなんて酷い言葉の羅列。
これ以上思いだしてしまわないように自己本能が働いたのか、頭がずきりと痛んでそれ以上の思考ができなくなる。小さくうめき声をあげながら頭を押さえてうつむいていると、がちゃりと扉の開く音が聞こえた。
目線だけそちらに移すとやはり思った通りの人物。
「新羅…」
「目、覚めたのかい」
「うん」
新羅の持つマグカップから紅茶の香りが流れてきてふんわりと鼻腔をつく。こんなぼろぼろの体に紅茶の程良い甘さはちょうどよく感じられた、さすが気が回る。
新羅はベッドの隣の椅子に腰かけると、私に飲める?と問いかけながら紅茶を渡してきた、両手でそっと受け取ると手のひらに熱が伝わり体が跳ねてしまう。
無言でそれをすすっていると、新羅は無表情のままぽつりと話しだした。
「君、セルティに明日あたり仕事を頼んでいただろう」
「うん」
「それで不明な点があったらしいから、臨美に聞こうとしてセルティの代わりに僕が電話をかけたんだよ」
「うん」
「そしたら全然知らない男の声が聞こえてさ、明らかに尋常じゃない様子だったし女の人の叫び声みたいな声も聞こえたからすぐにセルティが君を探し出して」
「へえ」
「で、君が発見された時にはもうやつらは逃げ出してたわけだけど」
「ふうん」
「……大丈夫、なわけないよね、ごめん」
新羅が私に対して謝るなんて珍しい、いつもあの運び屋のことしか考えていないものだと思っていたから少しばかり驚かされた。
たしかに体の傷も大分酷い。ちらりと見ればおなかにはあざがいくつかできているし切り傷擦り傷打撲も多くある。
でも何よりつらかったのは、自分が汚されてしまったという事実。
こんなときに純情ぶるなんて気持ち悪いしできるはずがない、それでもそれをつらいと思う気持ちだけはごまかせないほどに強かった。
「…ねえ新羅、私の携帯ある?」
「え?…ああ、はい。そこらへんに投げられてたけど壊れてはないようだよ」
「ありがとう」
新羅から受け取った携帯を開く。アドレス帳を開いては行へと進み、見慣れた名前を開いた。
電話番号を選択し、発信する。
数コールで出た相手に私が言った言葉は、「今すぐきて」と場所のことだけだった。

安静にと言われ強制的に横にされて、枕に頭をうずめているとチャイムがなるのが聞こえた。電話をかけてから数分しかたっていないのに、よく来れたものだと内心驚く。
しかしドアをあけ相手を確認した新羅は、もっと驚いたらしい。廊下の奥から「えっ」という声が聞こえてきた。その後、廊下をひたひたと歩く二人分の足音も。
「臨美、来たよ」
部屋の扉が開かれて新羅が入ってくる。その後ろに覗く黒髪が視界に入った瞬間、私は泣きそうになってしまった。
「――幽くん…」
「臨美さん」
新羅は空気を読んで部屋から出て行った、目配せをしてきたので後で詳しく話せということだろう。ベッドの前まで来た幽くんを確認して再び上半身を起こす、幽くんとの目の位置が少しだけ近づいた。
どちらとも話すことなく、というか呼んだにも関わらずどうしていいかわからなくって震えたこぶしを俯いて見つめてみる。
急に会いたくなった、なんて言っても大丈夫だろうか。そんな恋する少女みたいな理由を言ってもいいのだろうか。
考えるとあたまが痛くなって胸も痛い。もう本当にどうしていいかわからない、近くにいると体が熱くなる。
そんな状態に涙が出そうになってきた頃、突然身体を抱きしめられた。
ぎゅう。
正直、痛い。と思えるくらいに強く強く腕をまわされて、頭の位置も違うわけだから私の顔は強制的に彼の胸へと押しつけられる。息ができない、くるしい。でもうれしい。
自然と涙が出た。
「…かすか、くん」
「………」
「かすかくん、かすかくんかすかくん」
「…、大丈夫です」
「か、すか くん…」
くぐもった上に涙のせいでうまく発音できないけれど、むちゃくちゃな声で彼の名前を呼び続けた。何が大丈夫なの、とか聞くまでもなくて。
「もう、大丈夫ですから」
「あ、あたし、おかされちゃった、きたない…!」
「大丈夫、大丈夫だから」
「だいじょうぶ、じゃない、よごれた、かすかくん、ごめんなさい」
ああもう何を言っているのかわからなくなる。彼の服はすでに涙でぐしゃぐしゃになっているけれど気にする暇もない。ただただ、謝って泣き続けた。
「ぅあぁ、ぁああ、っひ、ぅう、あぁあっ」
「臨美さん」
「ああああぁ、あっ、ぁあ、うあぁあぁ…」
背中をさすさすとさすられて、少しだけ落ち着いたのかまともな呼吸ができるようになる。ひっひっとおかしなひゃっくりを上げながら彼の胸元にすがりつくように背中に腕をまわした。
安心する。幽くんの香り。落ち着く
もっと、吸っていたい。
一緒にいてほしい。
近くにいてほしい。

「…か、かすかくん…っひ、幽くうん…」

「…すき…」


100725
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