ぱしん、といっそ清々しいくらいの音が響く。同時に俺の左頬はひりひりと痛みを訴えていて熱を持ち始めていて。
俺を見事に平手打ちした張本人、つまり折原臨也は現在俺の前で瞳を潤ませて顔を真っ赤にさせて見たこともないような悔しそうな顔をして震えていた。
暫くして奴は、ばか、死ね!なんて子供っぽいにも程がある去り文句を叫んだ後ターンして俺から逃げて行く。
残るは、一人赤くなった頬を持つ俺。

臨也を初めて見た奴の中にはその細い線と整った顔からして女だと思う奴もいるに違いないが、折原臨也というその名前を聞けば誰しもが男だと思うだろう。実際、髪型も女子にしてはあり得ない程の短髪だったし、男だと言われれば納得できてしまう程の見た目だった。
つい数分ほど前まで、俺にとって奴は男だった。
「だった」というそれが過去形になったのは、数分前のこと。

きっかけはなんてことなかった。
普段通りに喧嘩という名の殺し合いをして。俺は標識を振り回し奴はナイフを踊らせる。そんな、普通の高校生からしてみれば異常である筈の日常。
いつもと違ったのは、奴が俺の攻撃を運悪く受けてしまったことと、その当たった場所が、その、胸だったことだ。
分厚い標識だって勢いがつけば何かを切り裂けるほどの威力を持つ。俺の超人的な力で思い切り振りまわされたそれは多大なる遠心力で先端部分はものすごい力がかかっていたことだろう。それが、臨也のその場所を通ってしまったのだ。
幸い切れたのは服の部分だけのようでそいつ自身に怪我はなかったようだ。
それでもしゅぱ、と音をたてて切れた服は風でめくれあがり、同時に切れてしまった中に巻いてある包帯のようなものもはがれおちる。
その結果、俺の視界には暫くは忘れられないような光景が映った。
いくら相手が大嫌いな臨也だからと言って、俺だって男な訳で。その白い肌を俺は忘れることができないと思う、悲しいことに。

そのあとはもうかっと赤くなった臨也に見事な平手打ちをかまされ、ひりひりと頬が痛む俺だけがのこされた。

今更のようにあの光景を思い出し反射的に顔が熱くなる。
え、え、え、おい。待て何だ、今の。
「……あった、よな」
不可抗力とはいえ見えてしまったその部分には、小さくてもわかる、明らかに男にはないものがあって。
つまり、つまりつまりアイツは。
「……女?」

信じられなくはなかった。奴は今まで宿泊行事などでも風呂は別時間にわざと入っていたし、便所に行くのだって見たことはなくて。そして何より、あの男としては異常な細さと身軽さ。
先ほどみた光景と重ね合わせれば信憑性は十分にある。
頬が、熱くなった。
おいおいおいおいおいおいおい待て待て。何で俺今赤くなってんだよ馬鹿じゃねえの、あれは臨也だぞ折原臨也だ、いくら女だからと言って大嫌いで糞ムカつく奴だということに変わりはねえのに。何で。まさか。

「ッ―――…」
長く重い息を吐き出した。
ありえねえ、まじでありえない。

「明日からどうしろっつうんだよ…」

頬が熱いのは殴られたせいだと思いたかった。


100520
男だと思われてる臨也ネタは前から書きたかったのでとても楽しかったです…!こんなのになってしまいましたが…それでも楽しかったです!←
何かちょっといかがわしい部分もあって申し訳ありません…
素敵リクエストありがとうございました!

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