※微ぐろ注意


食器が擦れる音がして、温かなスープの香りが運ばれてきた。目の前にことりと置かれたそれは、匂いから考えるにホワイトシチュー。
途端に口の付近で何か熱を感じて体が震える。その熱は美味しそうな香りを撒き散らしながら俺の唇へと当てられた。ちょっと熱い。
「おら」
すぐ上から静ちゃんの声が降ってきて、恐らく飲めということだろう。ぐいぐいと閉じた唇の境に押し付けられて痛い。
仕方なしにゆっくりと唇を開くとそっとながしこまれてきた。とろりとした液体が喉の奥にながしこまれて思わず飲み込む。かさついた喉にそれは染み込んだ。
俺が飲み込むのを見届けて、静ちゃんは俺の頭をぽふぽふと撫でた。まるで良くできましたと言わんばかりに。馬鹿にすんな。
「...静ちゃんさぁ」
「なんだ」
「いつまでこんなことすんの」
静ちゃんに所謂監禁状態を強いられるようになったのは最近のことだ。道を歩いていて拉致されて、気がついたらここに閉じ込められていた。
静ちゃんが犯人だと知った時、途端に俺は殺されるのだと青ざめたがなにもしてこない。逃げ出さないように拘束具、つまり首輪と手錠と足枷目隠しはされているものの殴ったり犯したりしようとすることはなかった。いつも俺は彼のいえのベッドに寝かされるままになっていて。
「ずっとに決まってんだろ」
それでも、いくら待遇が悪くはないからっていつまでもここにいるわけにはいかない。俺にも仕事があるし、情報屋という職業は常に営業をしているのだから。にも拘らず静ちゃんはずっと俺をここに置いておく気らしい、どうにかしないと。
どうにかして逃げる方法を思案していると、くらく思い呟きが聞こえてきた。
「...何で」
「え?」
「何でお前は、逃げようとすんだ...?」
何でと言われても。そう思ったが言える筈がない。俺は直感的に恐ろしい予予感を受信したのだ。
ごつくて男らしい手が俺のふくらはぎを撫でる。
「...これがあるから、いけないのか...?」
「...え」
「これが、なければ...」
さぁ、と血の気が引いていくのがわかる。つまり、これは、静ちゃんは今から、
「ちょ、まって、静ちゃ、」
「ちょっと我慢しろよな」
「!!! ッあぁあああ゛ぁあぁッッ」
普段から痛々しいものにはなれているものの、さすがにこんな直接的にも程があるような痛みを与えられれば叫んでしまうものだ。
情けなくも流れてきそうな涙をこらえていると、今度は別の箇所からの激しい痛みが。
「ぅうあぁああ゛ッッ」
なんと、やつは反対側の足を折りやがったのだ。いたくて意識が遠くなる。ありえないありえない、死ねばいいのに。
しかもあろうことか次にそいつの手が向かったのは俺の腕。そこも嫌なことだが予想通りに体内から妙な音がして、折れた。
当然こんな状態で意識など保てる筈がない。俺は静かに気を失った。
最後に頬に何か柔らかいものがあたって。
「臨也...」
愛してる。

囁かれた。そのきれいな声で。

ちゅ、と軽いリップ音がして頬に口付けられた。
ああ、歪んでいる。でも、
この状態を少しでも悪くない、なんて思ってしまった俺はもっと歪んでいるのだ。


100519
は、反省してます...土下座


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