「よくもってる方だと思うな」
そう言って笑ったあいつは、どんな気持ちだったのだろうか。

あの日から、俺は臨也の家へと泊っていた。幸い電波はギリギリ通じていて、今まで真面目に出勤していたのもあり有給を使うことを許されたからだ。
食事を運んだり服の世話をされるのを、奴はものすごく嫌がっていたがそれをあっさり無視して俺はその家で過ごすことを決めた。この家はどうしたのかと聞けば、買い取ったらしい。

「ねぇ静ちゃん」
「何だ」
慣れてしまったように臨也の着流しの前を開き、胸元の汗をふくと、臨也が突然話しかけてきた。くすぐったそうに眉をひそめたが関係ない。
「…何で、ここにいてくれんの」
その言葉に俺は少なからず驚いた。「いるの」ではなく「いてくれるの」だったということに。
やっぱりこいつも淋しくないわけではなかったようで、少し安心したように枕に寝かされている黒髪を撫でるとばっと顔をそ向けられる。よく見れば、その耳はほんのりと赤い。
「…おい」
「……うっさい」
「お前、顔赤「いいから質問に答えてってば!」あー…」
どうしてだろうか、きっとこんな状態のこいつを放っておけなかったからだ。しかしそう改まって聞かれると答えに困る。ここでお前の死に際が見たいとか冗談らしく言えたらいいのかもしれないが、衰弱したこいつを目の前にそこまで俺は酷い人間にはなれないのだ。
しばらく返答に答えかねた後、臨也は飽きたらしい。まぁいいやと言って俺と逆向きに顔を寝かせた。
外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。信じられないくらいのどかな風景な筈なのに落ち着けないのはやはりこいつが目の前にいるからだろう。
あいつが黙ってしまえば再び静寂が訪れて、それをまた崩すのも奴だった。
「…質問を変えるよ」
何で、俺を殺さないの?
それを聞いてぱちぱちと瞬きをする。いきなりどうしたのだこいつは。だって、それの言うところは
「…お前は、殺してほしいのか?」
臨也の肩が少し揺れた。
何だこいつは。元気に生きてた頃は笑いながら俺から殺されないよう逃げていたというのに。
「…俺は人を殺さねぇ。だからお前も殺さない」
それに、きっと今の俺はこいつを殺せないだろう。それを言ったらからかわれることが目に見えていたので言わなかったが。
「…俺さぁ」
もぞりと奴の足元が動いた。体を縮めたらしい。
「…病気に殺されるより、まだ静ちゃんに殺される方がよかったかも」
「……そうかよ」
顔が見えなかったからわからないが、もしかしたらその時奴は泣いていたのかもしれなかった。

俺が来てから五日目の朝。いつも通りに俺は奴の部屋に入って行った。引き戸を開けて、中の和室を覗く。
その瞬間、全てが止まった。

部屋の中から、人の気配がしなかった。
いや、人の気配ではない。「生きている」人の気配がしなかった。


100516
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