きん、と空に響く金属が響いた。
比喩などではなく、事実としてナイフとベンチがぶつかった音。
普通の学園生活を送っていればそのような音を聞く機会はないに等しい筈なのだが、生憎この学校、来神学園はそのような普通の学園生活を送れるような場所ではない。理由は主に、黒髪の美少女折原臨美と、金髪の怪力少年平和島静雄のせいである。
この音も、臨美が静雄の胸元を縦に切ろうとした所をベンチで咄嗟に防いだ際にできた。ちなみにベンチは普段地面にボルトで固定されており、通常の人間なら動かすことは不可能である。
「ってっめぇ、いきなり何しやがる!」
「ちっ、何か静ちゃんだんだん動きよくなってなーい?」
「知るか!」
普通なら相当切れ味のよい方である臨美のナイフも静雄には通用しない。それをお互い分かっているので、お互いが本気を出し合って喧嘩をしあう。最強最凶と名高い二人が最早喧嘩とは呼べない殺し合いをしているのだ、そんな危険な場所に来る生徒などいない。
主に二人が喧嘩をするのは屋上なので、悲しいことに景色のよい来神学園の屋上には限られた者しか入れず、その場にある公共物は破壊されるのみである。
今日も二人は昼時に出会い、いつものように一緒にいた新羅と京平は屋上の隅で食事を始めた。
「それにてめっ、んな危ねぇモン振り回してんじゃねぇ!」
「だったらそっちこそベンチを置きなって、ばぁッ」
「っ、!」
その時、臨美が隙をついて身をかがめ、静雄の胸元を切り裂いた。実際切られたのは服だけで、肌には殆ど傷はついていないのだが。
ひらり舞う制服だったものの一部を横目で促し、正面にいる静雄を見て臨美は舌打ちをする。
「なーんで切れないのかなぁ」
「てめぇが弱いからだよ、臨美よぉお……」
「うっさいなぁ」
弱いと言われたことが癇に触れたのだろうか。臨美は彼女にしては珍しく眉をひそめ苛立ったように髪をなびかせた。

昼休み終了のチャイムが鳴り、それは同時に5時限目の予鈴を示す。普通の生徒なら慌てて教室へと戻るのだが、勿論この場でぴりぴりとした殺気を纏い放つ二人には関係がない。

「静ちゃん予鈴鳴っちゃったよ!そろそろ行ったらどう?」
「そういうてめぇもさっさと行け、よっ!」
「っわ、ちょっといきなりそんなもの投げんな!」
「だったらお前はそのナイフをしまいやがれぇえぇ!」
宙を飛ぶはベンチにレンガにナイフ、そして髪を翻して舞う臨美と静雄。

京平は諦めたように目を閉じて首を振り、対する新羅は愛する同棲者を想ってその様子を流した。
「じゃあ二人とも、僕たちそろそろ行くからー」
「ほどほどにしとけよ…」
京平と新羅はそう言い残して屋上を去って行ったが、おそらくその言葉は今まさに地を蹴った瞬間の二人には聞こえてすらいないのだろう。
二人は今まさに、お互いのことしか考えていないのだ。


100515
砂月さまからのリクエストということで力んだ結果がこれ…orz
来神時代で静臨♀、というと基本的にギャグというか恋愛感情ものになってしまうので、できるだけそれを少なくしたかったのですが…すみません!
何だか変なものになってしまいました…;
こんなもので申し訳ありませんが、素敵なリクエストありがとうございました!

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