※珍しく付き合ってる設定です


ぴんぽん。軽いチャイム音が朝の家に響く。
時計を見ればまだ7時で、この時間に波江が来るなんて早すぎる、それに彼女は数字キーを知っているからチャイムなんて鳴らさない筈だった。
誰だろうと首を傾げながら一階のカメラに映った人物を見れば、あぁなんだとすぐに納得。
「静ちゃん…」
彼が大人しくここに来るときは大抵良いことがない。良いことがないというのは俺にとってではなくて、静ちゃんにとって何か良くないことが起きたって意味で。
俺は黙って自動ドアの鍵を開けた。

しばらくして、俺の部屋の前のチャイムが鳴らされる。やっと来たと思い扉を開けてみると、あぁやっぱり相当彼は沈んでいる。
俯いているせいでよく表情は見えないが、聡い俺ならそんなことは簡単にわかった。だってにじみ出る空気が完全にどんよりしてるもん。
何か変なこと言われたのかなぁーと考えながら彼の行動を待つも、静ちゃんは全く動かない。
「どうしたの?」
「……」
おかしい。
いつもなら彼は何も言わずに俺が痛がるにも関わらずぎゅうと抱きしめて、そのまま流れで家の中へと入れる形となっていたのに。
今日は抱きしめないどころか触らない見もしない。というか、動かない。
「ねえ、静ちゃんってば」
どうした、何があったんだろう。そう思って俺はぶらさがっている静ちゃんの腕をぐいとひっぱった、そしたら。
「…!」
今日初めて静ちゃんはようやく顔をあげて、でもその顔にはいつもとは打って変わって目が見開かれた驚きの表情が浮かんでいる。で、そんな様子のまま彼は自分の腕を掴んでいる俺の手を両手で慌てて引き剥がした。
ちょっと痛い。けれどそんなことも気にならないくらい俺が驚いた。
「…え?」
「あ…」
何で、何で離したの。俺に触られるのが嫌だったの。普段の彼とは全く違うような言動に酷く驚かされたが、それは彼も同じようだった。
「ちが、違う、臨也」
そう口では言っててもその体は決して俺に触れてこようとはしない。
今日の彼は本当にどこか様子がおかしい、何かあったのだろうか。
「…何かあった?」
俺がそう言えば、静ちゃんはぴくりと体を震わした。

猫を、殺してしまったらしい。
正確には、彼が投げたガードレールが猫に当たってしまって死んでしまったそうだ。
静ちゃんは動物が大好きだから、相当気に病んだのだろう、彼の背後にはくっきりと罪悪感という文字が見える。
「…こんな俺だから、壊しちまうんじゃないかって」
ソファに座った彼の前に紅茶を運ぶ。かちゃりとソーサ―が音を鳴らした。
ものを運び終わった俺はその場に立って、上から静ちゃんを見て聞いた。
「何を?」
何をなんて、わかっていたけれど敢えて聞く。性格悪いとだって何とでもいえばよい。それでもいいから彼の口から言って欲しかった。
静ちゃんは少し俯いて眉をひそめて、耳がちょっと赤くなっているけどそれにも気づいていないんだろうな。
「…手前を」
ああもう、この人はどうしてこんなに臆病で愛しいんだろうか。
俺が壊れるわけないと知っていて、でもそれでも俺をなくしたくないから触れるのを恐れて。矛盾しているけど、まあ人の心理ってそういうもんだったりする。
俺だって、君のそういう臆病なところが好きではないのに君の全てが大好きだというのだから、矛盾しているし。
でも結論として君も俺もお互いが好きなんだから、それなんて大した問題じゃないのだけれど。
ぎゅ、と立ったまま座った彼を抱きしめれば胸元に金色が埋まった。


100505
甘くしようとして挫折orz
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