※後天性女体化、エロあり
何かに促されるようにして宮田の瞼が開いた。 視界に広がるのは木目の濃い天井、クリーム色の壁紙。 カーテンから透ける陽光が壁紙の色に反射して、部屋の中は馬鹿みたいに明るい。 宮田は目を擦り、ゆっくりと体を起こす。 何だか夢を見ていたような気がする――― つい先ほどまで限りなくリアルに感じられていたものが、今はその欠片さえ思い出せない。 思考を夢の内容に向けようとしたところでこめかみがズキリと痛み、頭全体を締め付けるような頭痛になる。 宮田は早々に思い出すことを諦めた。 今日は一月一日―――。 壁に掛けられたカレンダーは、昨晩就寝前に掛け替えたおかげで正しい日付を示していた。 頭痛は思考の放棄と共に少し痛みを和らげていた。しかしベッドから立ち上がる際にも頭痛は瞬間的に増強し、思わずこめかみに手が伸びる。 元旦から頭痛による目覚めなんて縁起が良くない。 宮田は縁起というものを重視する人間ではなかったが、年明けがすっきりとした目覚めでなかったのは残念だった。 しかも今はおそらく昼、太陽が昇り切るまで惰眠をむさぼっていたということになる。 だが特にやることがあるわけでもない。 明日は神代家に年始のあいさつに行かねばならないが、あまり早すぎても迷惑がられるので昼過ぎに出向く予定である。それも玄関先で済ますだけであるから、おそらく一瞬で終わるだろう。 病院の診療は四日からなので、それまでは久々の連休だ。ならばその中の一日がこのような過ごし方でもいいのかもしれない、と思う。 ただ、この頭痛はいただけない。 頭痛は体動や精神の集中、つまり体の各部を使うことによって一時的に悪化したが、痛みの幅は少しずつ小さく、介抱の方向へと向かっていた。 宮田は年賀状や新聞を取りに玄関へ向かうことにした。 玄関は遮光の利いていないカーテンの掛かった寝室よりさらに明るい光が射し込んでいる。そこで一時停止し、宮田は目をしばたかせた。 玄関扉の隣にある新聞受けの面には明かり取りのすりガラスが設けられているのだが、そこに人影があった。 中背の黒いシルエット、何をしているのか小刻みに体を動かしている。というよりただの挙動不審か。 黒くて挙動不審な人物など、宮田が思いつくのは一人しかいない。 扉を開けるとその人物はやはり…である。 「……なにしてるんですか、牧野さん」 分厚いコートとマフラー、手袋と完全防備の牧野は、突然開いた扉に驚いて、赤い鼻と下げた眉尻でもって宮田を見上げた。 「宮田さん……」 「何の用ですか、新年早々」 先ほどの頭痛とアポなしの訪問者のために宮田の声は一トーン低い。牧野は不機嫌な家主に表情をこわばらせた。 「あの、あ……あ……、あけましておめでとうございますっ…」 「……おめでとうございます」 ちっともそれらしい目出度さを伴わないあいさつに宮田はやや拍子抜けする。小さくお辞儀した牧野にならってとりあえず扉から出した頭を軽く下げるが、まさかそれを言うためにここへ来たわけでもないだろう。 宮田がそれを尋ねると、牧野は妙にあわてた素振りをして、もごもごと口を動かした。 「それが……あの…ちょっと……いや、やっぱり駄目だ、こんなこと……っ」 何だ、早く言え。 薄着に吹き込む寒風が宮田の苛立ちを増長させ、先ほどせっかく治まりかけた頭痛が、牧野のおかげで再燃しそうだった。この男が目上の人間でなければ、直ちに急かしていただろう。 宮田の心境を知ってか知らずか、言い淀んでいた牧野はコートの後ろでまごつかせていた手を前に持ってきて、白い息を数回にかけて吐いた後、ようやく本題を述べた。 「実は宮田先生に診ていただきたいものがあって……」 だったら初めからそれを言えってんだ、という言葉が喉元まで出かかったが、宮田は何度か能面の下に不満を押し込んで、 「でしたら中へどうぞ。…お寒いでしょうから」とだけ言った。 扉を牧野に任せ、自分はさっさと部屋の奥へと引っ込む。とにかく寒くて一秒でも早くその場から去りたかったのだ。 宮田の家は何気ない一般家庭のそれのようで、生活感があまりなかった。 必要以外の物も置かないし滞在もしないという家主の意思がそのまま反映されているようだ。湯を沸かしに台所へ消えた宮田を見送った牧野は、居間を眺めて自宅との違いに思いをはせていた。 この時期は必須のこたつですら置かれていない。代わりに壁際に一台のストーブが置かれている。 たしかに室内は十分暖かいのだが、こたつはあるだけで何となく雰囲気まで和らげてくれる存在だ。それがないと視覚的な意味で、牧野は何となく物寂しい気持ちになった。 彼と一緒で、ここはどこか寒々としているのだ。 「それで、何の用なんですか」 座卓に出した煎茶を先に啜って、宮田は正面で正座をしている牧野を見た。 牧野はまだコートを身に着けていた。きっちりと一番上のボタンまで留めた状態で暑苦しく着込んでいる。 「…コート、脱がないんですか?」 何気なく尋ねると、室内を泳いでいた視線がぴたりと止まった。さっきまで興味深そうに居間をきょろきょろしていたかと思ったのに、牧野は一転して気まずそうに下を向いた。 宮田は眉をひそめた。 普段の牧野は確かに挙動不審な男であるが、ここまであからさまにうろたえる人間ではない。 牧野は相手がいかなる人物であっても、たとえそれが他人同然に育った実の弟であっても、立場というものを意識してそれなりに、堂々と振舞おうとしていたように思う。 世間の目にどう映るかが牧野にとっての万事で、他者評価や風評というものを気にする傾向はこの村全体に感じられる。 だが、今はその虚勢も張れない何かが起こっているということらしい。それは牧野が診てもらいたいと言ったものに関係していると判断するのが妥当だった。 そうでなければ暖房の効いた室内でコートを着込む理由がない。 「どうしたんですか、牧野さん。体がどこかおかしいんですか?」 牧野は非常に分かりやすく、弾かれたように顔を上げた。来た時と同じ不安と戸惑いを感じさせる目だ。 宮田は胸中に沸いた疑問の真偽を確かめるため、口調を変えた。診察室で患者に語りかけるようなやわらかいニュアンスである。 「どうしたんですか、いったい何が、どうおかしいんですか。仰っていただかないと私も分かりません。 私もいつ、何の用事で呼び出されるかわからない身ですから、できれば早めにお願いします」 とは言ったものの、彼をせかすための予定などありはしない。ただあまり長々と牧野をここに置いておきたくはないから言っただけであった。 せっかくの休みを、何が悲しくて牧野と過ごさなければならないのか。できるなら一刻も早く用件を済ませてお帰り願いたい。せめてこのお茶がなくなる頃までに、要件を終わらせてはもらえないだろうか。 両膝の上に置かれた牧野の手に目をやると、指は力いっぱいに手のひらの中に丸められ、手甲に浮き出た血管が当人にとっての深刻さを表しているようだった。 これは時間がかかりそうだ――手にした湯呑にもう一度口をつけ、話すのを諦めると、ふいに牧野の口が動いた。 何かを言おうとした唇は、声帯が上手く震わずに掠れた音がした。それでも彼は十分に衝撃的な台詞が宮田に向けて発せられた。 「体がっ……女性になってしまったんです…!」 宮田は熱い煎茶をうっかり飲み干してしまい、ひどく咳き込んだ。 現代医学において人体が突然変異することはあり得ない。 ホルモンバランスが極度に偏った場合に起こることはあるが、それは必ず緩やかな変遷をたどる。 ドーピングに引っかかったオリンピックの女性選手が男性の見紛うような風貌だったり、治療の副作用で男性の乳房が膨らんできたりするのがそれだ。 だが牧野は寝て起きたらこうなっていたと言った。そんなことはあり得ない。 宮田の脳内をその一語が駆け巡る。牧野が嘘を言っていると思いたかった。 しかし残念ながら牧野は冗談の通じない男である。わざわざ自分を嫌っている人間の元へ、しかもこのようなめでたい日に来るだろうか。 そうなると当然のように、牧野の「女性になっていた」という言葉がどの程度の症状を言っているのか調べる必要が出てくるのであった。 問診、触診、もしかすると内診―――まで。 突如自分と全く同じ顔の男に冗談のような難題を突き付けられ、その男の裸を見る必要性に迫られる、未だ現実感の伴わない事態に宮田は少なからず困惑していた。 かたや牧野は、診断方法を告げられても顔色に目立った変化は見られない。 どうやらここに来るまでに自分でもずっと考えていたらしい。医学の知識のない自分が心の内に秘め続けるよりも、専門家に徹底的に調べてもらった方が気が楽だと、牧野はその理由を明かした。 もちろん一番大変なのは当人のはずだが、もっとも厄介な部分の責任は全て自分に押し付けられた感覚が否めない。 宮田の精神は事を起こす前から疲弊していた。 牧野の裸を見る正月、どんな一年のスタートなんだと。 診察は絨毯の上に向かい合って座った状態から始められた。 だが診察を主導する医師の声音はどこか力ない。 「聞きますけど…チンコはついてるんですか?」 「い、いえ…ない…です」 「ないというのは自分で確かめて?」 「はい、あの…トイレで……」 「見て付いてないのを確認した、それであとは胸が膨らんでいる、と」 「は…はい……」 電話用のメモ紙に牧野の言ったことをボールペンで殴り書きする。丁寧に書き記すなんて馬鹿馬鹿しくてやっていられるかというように。 「分かりました、では服を脱いでください」 ペンをテーブルに放って宮田は立ち上がった。懐中電灯を取りに行くためだ。 電話台の下の引き出しに車の整備などで使うハンディライトを見つけ、取り出して点灯の有無を確認する。 ―――これでエイプリルフールよろしく神代の次期当主の悪質なドッキリなどであった日には暴動を起こしてやる、宮田はひそかに決意していた。 不本意だの不可抗力だの言ったとしても構うものか、牧野も同罪だ。 再び元の位置に戻ると、牧野が分厚いコートとうっとおしい構造の長い法衣を脱ぎ終えて、シャツに手をかけているところであった。 少しずつ開かれていく合わせ目の内側を注視する。下着の上からも特に胸が膨らんでいる様子は分からないが、本当に女性化しているというのだろうか。 宮田の懐疑心はシャツがめくられ、裸の上半身がさらけ出されても、全て解消には至らなかった。 牧野の裸を見たのは中学の水泳の授業が最後だ。だから現在の牧野と過去の牧野を比べることはできない。 確かに膨らんでいると言われればそう見えなくもないが、真っ白な肌にほんのり丸みを帯びた胸部は、ややふくよかな男性なら普通に見られる形状のようにも思えた。 「分かりましたか…っ?」 「いや……分かりましたかと言われても……特に顕著というようにも見えないんですけどね」 ひょいと宮田の手が二つの膨らみにあてがわれる。 「ひっ!」 乳房を軽く押すように手に力が込められると、指は羽毛の枕のように柔らかな肉に埋まっていった。 「うーん……そうですねぇ…」 「っ、く、ぅっ、ひ!」 手の中に納まる程度の膨らみを、宮田は下から持ち上げたり横から寄せるなどして肉の内部の変調を探る。 さらに胸の触診だけでは元々の体型がそのような感触をもたらしているだけかもしれないと、腹やズボンの中の尻までも揉んで確かめる。 背後に伸びた手が突然下着の中に侵入して、牧野は思わず悲鳴を上げて腰を浮かせてしまった。 宮田の耳には女々しく喘ぐ牧野の声は届かなかった。医師としてのスイッチが入ったようで、熱心に手のひらから伝わる感触を頭の中でデータとして蓄積させていく。 牧野の体は理由あって鍛えられている宮田ほどではなかったが、それでもまあまあの筋肉があり、腹も尻もたるんではいなかった。 「たしかに、胸だけが異常に柔らかいのはおかしいですね」 窓からさんさんと降り注ぐ日光が、白い牧野の肌をいっそう白く見せていた。レースカーテンで外からの視線はカモフラージュされているとはいっても、居間で他人に裸をさらすのは少々恥ずかしく、羞恥と触診による動揺で牧野の頬はやや赤らんで、息も乱れていた。 「では次に下を見せてください」 体から離した手でペンをメモに走らせながら宮田が言う。 「えっ、ここでですか…?」 「……別に、誰も来ませんよ。宮田の家なんかよっぽどの物好きでも避けて通るでしょう」 自嘲めいた皮肉に牧野の視線が外を向く。 「いえ…そのような意味では…」 「ああ、カーテンが開いてるから恥ずかしいんですか?…じゃあ閉めますよ」 牧野の視線を追った宮田は再び立ち上がって一気にカーテンを閉め、代わりに室内灯を点ける。 「これでいいですか?求導師さま」 わざとらしく両手を開いて首をかしげてみせたのは嫌味であった。 しかし牧野にとっては何から何まで宮田にさせていることを指摘されたように申し訳ない気持ちになる動作であった。 「はい、それなら……すみません…」 「では横になってください。下着を下ろして、膝を立てて―――」 本当の自分の体ではないといっても、性器を覗き込まれるというのは人間にとって最大の羞恥に値する。宮田によって上肢にかけられた法衣も、胸部を隠さなければならない女性となった自分を余計に思い知らせるようであった。 牧野は宮田の指示に従い、自ら膝を割り、足を大きく開いて陰部がよく見える体勢をとっていた。 「馬鹿な……なぜこんな……」 宮田は暫し絶句していた。そして気づいた時には無意識に心の声が漏れていた。牧野の言うことが真実なのだと自分の目でも理解できたからだ。 蛍光灯の下であらわになった陰部は、中央のアイデンティティを失い、陰毛の茂みの中に桃色の割れ目を残し、すっきりとした外見になっていた。 「分かりました…っ?宮田さん、どうなっているんですか、私の体…っ」 そんなことを言われても宮田にもさっぱり分からない。 現代医学しか学んでいない人間に現代医学で説明不可能なことを訊かれても、「分かりません」としか言いようがないのである。 牧野が身じろぐ度に震える陰裂。血の通った色といい、かすかに漂う匂いといい、間違いなく本物のヴァギナだった。 楚々とした風情のそこは、女性の中でも使い込まれたものやあるいは熟しきったものとは異なり、未成熟のまま大人になったような清純さがある。誰の手も入れられていない、未開の地という表現の印象そのままであった。 知的好奇心というのか、それとも単なる怖いもの見たさか、宮田は静かに閉じられた肉のひだへ、おそるおそる手を触れさせてみた。 「うっ……」 牧野の顔が横に逸らされる。 こうなることは分かっていたのに―――やはり恥ずかしい。 男では絶対に感じることができないはずの、あり得ない部分から宮田の手の感覚があるのだ。それを何と評することもできない。 そこは本来なら陰茎と、陰嚢に包まれた睾丸が存在している場所であった。だが今は慣れた場所からもっと奥の部分で感じている。 ぐい、と二本の指がひだを割り開き、湿り気を帯びた内側を露出させる。牧野の口から噛みしめようとも堪え切れない吐息が漏れた。 ライトを当てて、宮田は念入りにそこを観察した。尿道口、膣口ともにしっかり存在している。ライトの光でてらてらと光る粘膜は薄桃色で、牧野が息をつくのに合わせてひくひくと震える。 宮田は一旦手を離し、今度は外周から形を一つ一つ確かめるように動かした。手のひらが白くふっくらとした恥丘の弾力を確かめるようにあてがわれ、薄い陰唇を指がそっとなぞる。牧野の腹筋に力が込められた。 合わせ目をたどる指はひだの内側をめくるようにして上から下へ、またその逆へと行き来する。繊細な感覚器が正確にその動きを牧野に伝え、まるで剥かれたばかりの亀頭に触れられるような刺激が走る。 はっ、はっ、と牧野は懸命に息を吐いていた。口から息を逃がさなければ変な声が出てしまいそうだったのだ。 気持ちいいわけではない、だが気持ち悪いとも言い切れない……奇妙な感覚が下腹部から少しずつ広がっていく。いや、それはもっと奥から来ているような。 「…おおげさですね、まだ触っているだけですよ」 頭上から呆れたような声が降り注いだ。 たかが診察で触れているだけなのに、勝手に喘がれても困るという宮田の意図を察して、牧野の頬が紅潮する。 確かに宮田は触れているだけだ、無感情に、機械的に。だが反応を返そうと思っているわけではないのに、体が自然にそう動くのである。過敏なそこに困っているのは自分の方であった。 しかし宮田の言い分も真実であった。“まだ”―――それは次に入ってきた一本の指が、牧野にそのことをよくよく知らしめることになる。 「ひぅっ!」 単調に上下していた指がおもむろに内部に入り込んだ。 ビクッと腰が一度だけ跳ね、はっきりとした声が漏れた。だが宮田は気にする風もなく指をさらに侵入させる。そこ自体に収縮する力のない陰唇をするりと抜けて、手探りで膣口を見つけ、もっと奥へ。 曖昧だった感覚は突然強烈なものとなり、強引にねじ込まれようとしている指が痛みを生じさせた。全身の緊張がその一点に向かい、牧野は毛足の長い絨毯を掴んで必死に耐えようとする。しかし震える膝と苦痛の喘ぎは止められるものではなかった。 「……痛いですか」 訊くまでもなく、宮田の指は第一関節が入ったところで前にも後にも進めなくなっていた。くびり殺そうとする括約筋の力と顔がゆがむほどの苦悶の表情が、快感で現れているはずがない。 それでもこのままというわけにもいかないだろうと宮田は思案した。深呼吸を促し、様子を見ていても牧野に落ち着く気配はない。であるならば医師として次の手を講じるべきである。 宮田は一度指を抜くという方法をとらなかった。 それどころか、持っていたハンディライトを横に置き、自由になった左手も差し込まれている指と同じ場所へ向かった。 締め付けられている指は動かさないままに、左手は先ほどまでの右手の動きを反芻してした。 陰部の周囲から侵入口の間際に至るまで、ゆっくりと柔らかく触れる。それは先よりもさらにくすぐるような動きを伴って、牧野の意識を自分の方へと向かわせた。 頃合を見計らって、内部の指も少しずつ動きを見せた。表面の性器を撫でる感覚に括約筋がわずかに緩んだのを見て、指の全体が細かく震え始めたのだ。 「あっ!んはぁ…っ…」 読み通り、牧野の下半身はどこに緊張の矛先を向けるべきか迷い始めていた。 表在意識も潜在意識も、宮田の手に翻弄されている。振動する指に力を込めようとすれば別の指が陰唇をなぞり、表面に意識を向けると体の力が抜けてしまう、混乱は下半身だけでなく思考を司る部分まで狂わせていた。 そこを触られるとどうしてこんなに訳が分からなくなる―――!? 上肢に向ける意識が奪われたため、呼吸はとうに苦痛ではない喘ぎと共に臆面なく吐き出され続けていた。 「ひぁ、あ、あはっ、あぁっ」 そうして徐々に指が深度を下げていると牧野が気づいた時には、長い中指が第二関節を過ぎたところであった。 だが指はさらなる奥を目指している。牧野が一度も経験したことのない内側を侵そうと突き進む。 そこに何があるのか、考える余裕がない。けれど恐怖心はどんどん膨らんでくる。 牧野は何度も懇願の言葉をかみ殺し、自分から頼んだ以上途中で止めさせるのはお門違いだと自らに言い聞かせた。 ついに根元まで埋められた時、牧野の目じりは涙によって濡れていた。 「……やはり中も女性化しているようですね…表面だけではなく、臓器までとは……」 指の感覚で内部の構造を丹念に把握しようとする宮田の言葉は、勝手に昂ぶっている牧野に対してどこまでも冷静であった。 うぅん、と唸って宮田は指を別の場所へ移動させる。 もはや動きに大きな支障はみられなかった。外陰を刺激することで牧野の緊張が解かれたからだけではない。 指の根元まで濡れる感触。内部は沁みだした分泌液によって指がよりスムーズに動くための手助けになっていた。 女性の性器は開発しなければ反応しない肛門と違って、元々その可能性を抱いている。それがどれほど作業的な動きであっても、刺激を受ければ反応する。擦れば勃起する陰茎と似ている。 だから濡れたからといって感じていると解釈するのは間違いなのだ。だがそれを牧野は知っているのだろうか。 宮田の顔が陰部から上げられ、わずかに様子を垣間見る。しかし牧野の目は固く閉じられたままで、苦痛にゆがんだ瞬間と同じく、我慢の表情しか浮かんでいなかった。何を考えているかまでは分からない。 牧野が口を開いたのは、宮田の視線を察したからではなく指の動きが止まったからであった。 「も…っ、いい、でしょう…っ?十分、分かった、のでは…っ?」 確かに、これ以上いたずらに内部をかき回してもメリットはない。 複数本の指を突っ込んで中を開かせ観察することも考えたが、中指一本でこの締め付けでは無理だろう、クスコもないのだし、自宅での診療の限界に宮田は詳細な診察をもとより諦めていた。 ほぼ最奥に到達していた指の先に触れるものがある。今回はこれが確認できただけで今回は十分であった。診察のおおよその目的は達成され、ふやけた指がゆっくりと抜かれる。 しかし最後の最後に、宮田は気になっていたもう一つの部分を確認しようと再び牧野の陰部に手を伸ばした。 「―――すみません、最後にもう一か所だけ」 「えっ」 そこが最後に回されていたのは、それだけの理由が存在していたからである。 → back |