子どもにはまだ早い1 | ナノ


SDK高校生活を語る



 教師の話をするときといえば、大概が生徒指導で頭髪チェック入れられてムカツクとか、アイツの教え方マジ訳分かんねぇとかいうときだと自分は思う。
 それ以外でいうなら、例えば女子はどの教師がカッコイイか、男子はどの教師がエロいかを考えるときだろう。たまに暴力教師みたいのがいて、何人少年院送りにしたらしいとかいう話をするときもあったか。
 つまり、うちの学校にパッとした教師はほとんどいないことを俺は公言したい。よく言う熱血教師というタイプは間違いなくいない。ほとんどが我関せずのタイプで、高校とはいっても構って欲しい感覚が抜けきれていない年代に対してそりゃないよと思いたくなる。
 何でこんな学校入ったんだろう。バリバリの進学校でもなく、近所に煙たがられるような不良校でもない。平々凡々だ。何の話題性もなく何の問題も起きず……このまま俺の青春の一ページはあと二年も経たないうちに終わってしまうのかと、弱冠16歳にして人生達観したかのような諦めが生まれ始めていた。

 そんな中、生徒の間で噂される二人の教師がいることを知った。教科担でもなかったので一年の頃には気付かなかったが、上級生の間では有名だったらしい。
 噂になっている意味を知らずに当人だけを見ると、双子で教師、しかも同じ学校に勤務するのは珍しいからと考えがちだが、二年に上がった際クラスメイトから聞いた情報によると、この二人は壮絶に仲が悪いという。それも片方が一方的に嫌っているとか。

 一人は倫理と現代社会を掛け持ちで教えている牧野先生。地味だけど温厚で誰にでも優しいし、うちの学校には珍しく良い先生として評判だ。自分もテスト前などは特にお世話になっている。欠点をあげるとすれば、怒るのが苦手で授業中寝るやつが多いということだろうか。別段教え方は下手ではないのになぜだろう、現社と倫理って眠たくなりやすいからかな。
 そしてもう一人―――こちらが問題の一方的に嫌っている教師なのだが―――が生物の宮田先生。顔は牧野先生と全く同じなのに、ここまで雰囲気を変えられるのかっていうくらいに正反対だ。常に白衣を着ていて無表情で、怒るとめちゃくちゃ恐い。授業は分かりやすいけど生徒のことを考えてるというより純粋な生物学的興味を追究した結果なのではないかと思うほどに妙にマニアックな内容があったりする。けれど質問にはちゃんと答えてくれるし一部の生徒にも人気だし(主に女子)、我関せずの典型タイプではあってもそこまで悪い先生とは思えなかった―――恐いから俺は苦手だけど。

「ふん、お前は何事も本質というものがあるのを知らないんだな」
 目の前で弁当を食べていた淳が鼻をならして言った。
「本質?」
「あの二人の仲の悪さは折り紙つきってことだよ、前だって職員室で何か話しているのを見たけど机の影で宮田が牧野の足を踏んでたからな」
「小学生かよ」
 今どき足を踏むなんて小学生でもしそうにない気がする。パンを頬張りながら、思わず視界の中の亜矢子先輩の足に目がいってしまった。変な意味ではなくて。
「私たちは生徒会で一年のときから知っていたけど、そのときからやっぱり仲は悪そうだったわ。足を踏むのは見たことないけど、宮田先生が牧野先生と肩を並べて座っているとこなんて三年間で一度も見たことがないし」
 三年間で一度も、とは徹底している。赴任してから一度もないのかもしれない。
 さらに亜矢子先輩はでも、と続けて牧野先生も一切視線を合わせてないのよね。仲良くする気がないのかしら、と言った。女性だからかよく見ていると思う。
  二・三年生の間で“宮田先生の牧野先生嫌い”といえば話題が尽きることはない。牧野先生の話になると宮田先生がえらく不機嫌になって行事が上手く進まないとか、牧野先生の顔を見ただけで舌打ちをしたとか殺す勢いで睨んでいたとか、名字が違うのはそのせいなのだとか、過去に犯罪すれすれの事件にまで発展したことがあるとか……。もう尾ひれがつきまくっていて最近は何がどこまで本当のことなのかさえ分からない。噂だけが独り歩きして警察沙汰だの出身地の呪いだの、非現実的な内容にエスカレートしている感じだ。まぁ話題の少ない学校にはうってつけのネタだったということだろう。
 実際、オカルト興味から訊いて回ったこともあったが自分の目で見たという人はそこまで多くなかったし、見た人の話もこの二人がいま言ったように、呪いだ殺しだという噂とは大分開きがあるので、自分のように妙に冷めてしまった生徒も結構いると思う。
 ただ今になって改めて考えると仲違いの真相を知る者は誰もいないのは不思議だ。いったい本当はどんな理由があるのだろうか。噂とは別に純粋に気になってきた。淳の言う本質とはその話なのだろうか。
 そのことを尋ねようかと思ったら当の本人は二人の仲が悪い証拠を列挙するのに未だ一生懸命になっていて、こうなると取りつく島もないので早々に諦めざるを得なかった。



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