異界帰還後 須田恭也の誘いで神代美耶子が街へ出かけると聞いたのは二週間前だった。 徐々に年の瀬も近づいてきて、世間で言うならクリスマスが近いこの時期に、仲の良い男女が二人で会う理由など、誰が言わなくとも想像はたやすい。 現在午後六時をすぎたばかり―――神代の若人三名は、羽生蛇村からバスと電車を二時間以上乗り継いだ先の、須田の住まう街からもさらに少し離れた都会の一角にたたずんでいた。 雑居ビルの冷たい壁に寄りかかる淳と、その隣でしゃがんでいる亜矢子の前を美耶子が何度も行ったり来たりする。そろそろ曲がり角から須田の姿が見えてもいい時間なのだ。 「恭也、遅いなー…」 「本当にここで合ってるの?何もないところじゃない」 「この地図に間違いがなければ合っているはずだ、僕の道案内は完璧だった」 彼らは三人が三人とも全身が真っ黒なので、お揃いではないのだが傍からは完全に同じ服装に見えた。硬い歩道を鳴らす美耶子のブーツの音がコツコツ響く。 最寄りの駅からここまで、寒空の下にさらされた時間を換算するとまだ十数分程度なのだろうが、村を出てから三時間もの移動をこなしてきた後だと、いささか疲労を覚える。 都会に出るとは一苦労も二苦労もすることを身に染み込ませながら三人はここまで来た。 それでも美耶子は大好きな須田と会える喜びからか、疲れよりも期待が上回っているようだ。 だが目的が付添いだけの二人はそうはいかない。特に淳は村に残してきていた気がかりなことが頭を何度も駆け巡っていた。 それを置いてまで付き添ったのは、言い出したのが美耶子であり、相手が須田恭也だったからということが大きな理由だ。しかしもう一つ、誰も知らない自分だけの理由のためにも淳はやって来ていた。 亜矢子は美耶子の心情も淳の本心も何も知らない、けれど美耶子の付添いで淳が都会へ赴くという話を聞いてすぐに自分も共に行くと申し出た。 許嫁が執着を見せている妹と二人で出かけると聞けば当然のことである。妹の気持ちが須田恭也に向いていても、許嫁の淳の気持ちが美耶子に向いている限り自分の不安は解消されないのだ。亜矢子はそれを確かめるという目的でこの場にいた。 儀式が大失敗した夏以降、神代家は急に家の人間や関係者への締め付けを緩くした。 存在自体がタブー視されていた神代美耶子、次期の花嫁を生む定めにあった神代亜矢子、跡取りの神代淳。 儀式の進行とその根底にある眞魚教を守る求導師、それらの秘匿を取り締まる宮田家等々―――。 単にどう扱うべきか分からなくなってしまった結果にも見える。 不死の呪いも災厄の宿命からも解き放たれて、いまさら一般のごく平凡な村として再スタートを切ることになろうとは、いったい誰が想像できただろうか。 見た目に大きな変化はないが、内情を知る者には内部が如何に混乱しているかがよく分かった。 美耶子が外へ出るという今回のことに関してもそうだ。 無辜の娘をいつまでも軟禁していることが分かれば、そちらの方が問題になる。 しかし突然存在を公表する訳にもいかない。 とりあえず今後の方針が定まるまで、村に影響のない範囲で泳がせておいた方が無害だろう、との魂胆が見え見えだった。 淳は、そのような神代家の混乱ぶりに失望していた。 儀式や呪いに関係なく、職業人として需要がある牧野や宮田はまだいい。 これからの未来を好きに創れる須田や美耶子も。 だが自分は。 もう神代の跡取りとしての未来に舵を切ってしまった。後戻りはできないのだ。 しかし神代家の当主に与えられていた命題の根底が覆された今、できることは何だろうか。 それが大人たちも分からないのだ。ゆえの動揺であり混乱。 だが少なくとも取り乱すべきではないことは自分にも分かる。 今こそではないのか。 神代という家が、ただの地域の名主として過去の威光に追いすがっているだけの存在で終わらないことを見せつけるその時なのでは。 ただいにしえのしきたりを守ってさえいれば良い時期は終わった、これからは真に村のために神代ができること、神代でなくてはできないことを探すべきなのだ。 ……言うは易いが行うはなんとやらだ。自身でもその答えまではまだ分かっていない。 何せここまでの心境に至るまでにも、見たくもない狭量な己を自認することが本当に大変だった。 威光を笠に着て力を見せつけようとしていたのは己自身であったのだ、それが己を証すことだと信じていた。 今の神代は自分と同じくこれからどこに向かえばいいか考えあぐねている。 いい大人が揃いも揃って成人前の子供と同レベルとは。 自分が目指したかったのはこのような人間ではない、もっと大局を見据えた決断力と実行力を備えた大人の男で明主たるに相応しい存在である。 美耶子についてきたのは、監視者として誰かが必要だという思いもあった。 しかし一番は、混迷極める事態に率先して動くことが、大人たちの信用を得る早道ではないかと思ったからだった。 今の自分にはまだ何の発言権もないが、時期にその時は訪れる。その日までに自分の地位を盤石にしておきたい――― それが淳の理由であった。 須田の用事の詳細は淳と亜矢子の二人には詳細は聞かされていない。 二人は美耶子は知っていると思っていたが、実のところ美耶子も二人と同じ程度のことしか知らなかった。 ただ美耶子は須田の言うことなら心配ない、だから知る必要がない、と思っていたのでそれが何であろうと関係なかっただけである。 だがあまりかしこまった服装ではない方がいい、とだけは聞かされていた。 二人の用事が何であれ、終わればあとはホテルに戻るだけだ、できるならそれが早く終わってくれることを淳と亜矢子は願っていた。 「美耶子ー!」 「恭也!」 まばらな通行人の隙間を縫うように現れた須田は、手を振ってやって来た。 茶髪の髪に無防備な笑顔。ファーのついたカーキ色のダウンジャケットを着込んでいる姿は、夏に見た時と変わらない印象だった。 「遅いぞ須田恭也」 「そのフルネームで呼ぶの止めてくんない?須田でも恭也でもいいからさ」 恥ずかしくって仕方ないよ、淳の遅いという言葉には何も言わず、須田は近寄ってきた美耶子に笑いかけながら、ポケットの中を探っている。 これから何があるのか、発起人が来たら真っ先に尋ねようと思っていた淳と亜矢子が待ち構えていたら、少々しわになった紙切れを差し出された。 「何だこれは」 「チケット。ライブの」 「ライブ?ライブって何だ?」 「俺の好きなバンドのライブがあるんだ、美耶子には前に曲聴かせたろ?」 三人が受け取ったチケットを見ると、よくわからないカタカナの名前がいくつか並び、整理番号や開演時間などが印刷されている。 その会場が今まで淳たちが背にしていた雑居ビルというわけだった。 須田はそれ以上の説明は特にせず、地下に繋がる階段へとさっさと歩いていく。三人もそれに続くしかないので、いまさら疑問を口にすることもなく黙って後に続いた。 ポスターやら張り紙やらがごちゃごちゃと貼られた、お世辞にも綺麗とは言えない狭い階段を下りて扉を開けると、地上とは全く別の世界が現れた。 少ない照明のなかで、いつの間にこれだけの人が集まったのだろうという数が狭い空間にひしめき合っている。 だいたいは須田たちと同じくらいの若者、いっても三十代前半くらいまでの男女がさらに奥の扉の前を中心に人だかりを作っている。異様な熱気のような雰囲気が伝わってきて、思わず淳は狼狽した。 「うわっ、なんだここは」 「だからライブハウス。上着と荷物はあっちだよ、チケット以外はロッカーに入れておかないと盗られるかもしれないから入れといた方がいいんだ」 「と、盗られる!?」 淳と亜矢子は目を白黒させた。こんな俗っぽいところに来たのは初めてで、ライブ=音楽を演奏する、ということは知っていたが、これから起こることは何一つ具体的に想像できない。それが何だか恐ろしいもののように感じられたのだ。 一方こちらも初めてのはずの美耶子は二人のようにうろたえることもなく、むしろ目をきらきらさせながらコインロッカーを開けて「これか?」と言っている。 「もう美耶子!そんな一人でうろちょろしたらダメよ!何が起こるか分からないんだから!」 いつの間にか離れたところに移動していた美耶子を見て血相を変えて飛んでいった亜矢子は、わざわざ鍵を掛けてやった上にバンド型の鍵を手首に着けてやっている。 「亜矢子さんて妹思いだよね」 「…そうだな」 おそらく妹を、というより田舎者の自分たちをそれ以外の全ての脅威から守るという意味合いが強いのではないかと淳は思ったが黙っていた。 亜矢子のように表だってはいなかったが、うるさい小言やツッコミもできないほど淳も場の空気にのまれていたのである。 須田には彼らの反応の全てが新鮮で、良い意味で面白かった。 ロッカーの鍵を掛けた後にチケットに「ドリンク代」と書いてあることに気付いた淳が財布が無いことに慌てふためいたり、入場する際に「目当てのバンドは?」と聞かれて何と答えていいのか尋ねる亜矢子だったり。 亜矢子などはそのまま「特にありません」と言って大丈夫だったのに、間違ったことをしてはならないと思っていたのだろうか、自分が羽生蛇村に遊びに行ったときはそっけなくて、彼らと話をする機会など全くと言っていいほど与えられなかったのに、今は事細かにいちいち自分に確認に来るのがシュールで可笑しかった。 美耶子を誘った時に付添いとして二人が来るとも思っていなかったから、まさかこんな形で二人と言葉を交わすことになるとは想像もしていなかったけれど。 しかし彼らだって本当は悪い人たちではないのだから、接する機会が持てたことは嬉しいことだ、そんな風に思っていた。 ライブは対バン、いわゆる複数のバンドが順に登場して演奏をしていく形式のものだった。 オープニングアクトなる前座が終わって、いよいよ初めのバンドの演奏が開始される。照明が落とされて、ステージの数種類のライトが演者を照らし出す。 ファンは目当てのバンドの出番が来たら前へ行って、音楽に合わせて体を動かす。手を上げたり体を揺らすだけだったり盛り上がり方は人それぞれだが、前列は特に動きが激しい。今日のバンドリストがロック中心ということもあって、最初から演者も客もヒートアップしている。 須田の目当てのバンドはトリなので一番最後だ。だがそれまでじっとしているのは性分ではないので、いつもは前方の客と一緒に盛り上がるのだが、今日はどうしようか。さすがに美耶子を連れてあの中に入るのは――― 「恭也、私も前で聴きたい」 スペースの開いた後方で立ち尽くしていた須田に美耶子が思いもよらぬことを言った。 「えっ、美耶子大丈夫?…結構もみくちゃになるよ?」 変なところ触られたりするかもしれないと言うと淳が絶対に過剰反応しそうだと思ったので、一応別の言葉を使ってはみたが、さとい淳には無駄な努力だった。案の定、父親のような反応を見せる。 「なんだと、そんなことが許されるわけがないだろう」 「淳は黙ってて、せっかく来たから前で聴きたいんだ」 うーん、と須田はうなった。 須田としても、アイボリーのふんわりしたワンピースにカーディガン姿の小さな美耶子を、あの人ごみの中に連れて行くのはあまりいいことではないと思う。だが美耶子の意見も尊重してやりたい。 「そうだなぁ、端の方なら…いやでも押されると逆にあれかな…」 すっかり誰も聴いていないライブで、亜矢子だけがステージに見入っていた。 ―――あれはダメね、盛り上げかたというものをちっとも分かっていないわ。 初めてのくせにいっぱしの評論家気取りである。 「恭也、私のことなら大丈夫だよ。だって……恭也が守ってくれるんでしょ?」 「な…!?」 淳は仰天し、須田は呆気にとられた。美耶子は時折このようなことを素で言ってくるから気が置けない。 そんな殺し文句を聞いて黙っていたら男がすたるというものだろう、須田は一も二もなく美耶子を引き連れて前のグループへと身を乗り出していった。 「あっ、おい!」 その場には淳だけが残された。隣の亜矢子はなんだかんだ批評しながらライブの世界に入り込んでいるので、取り残されたのは正しく淳だけ、である。 演者、俗にいうアーティストは、男四人組のバンドもいればデュオ、女一人のギターの弾き語りなど本当に多彩なメンバーであった。 だがそれがどう違うのか、どこがいいのかはさっぱり淳には分からなかった。 ロックなどうるさいだけじゃないか、音楽にはさほど詳しくないが音が大きければいいというものではないだろう。 亜矢子にも見放され―――本人はそのつもりではないが、話しかけようと思ったらことのほか集中していたので何も言えなかった―――後列とステージとの中間の辺りを陣取った淳は、腕を組んで壁際に寄りかかっていた。そしてぼんやりとステージを眺める。 「お前らー!待たせたな!!」 初対面に向かってお前とはなんだ、僕は別に待ってなどいない。 「期待に応えて初めっから飛ばすぜ!」 誰が期待しているというんだ、十人いたら十人全員が期待していると思うのは思い上がりだろう。 だいたい何で毎回僕の方を見て言うんだ、貴様を欲している人間は足元にいるだろうが、そちらを向いて言うのが筋ではないのか。 淳の表情が険しさを増した。 眉間に大きなしわを寄せて、初めは普通だった姿勢が反感を頭の中で繰り返す内に、いつの間にやらふんぞり返って聴く体勢になっていた。 それは神代の次期当主として高圧的な態度を常としていた淳の癖だった。そして――― ロッカーで各々が上着を脱いだ際、須田は指摘しなかったが淳はかなり目立っていた。 それは客席からでもそうだが、ステージから見ると一段と淳の存在が浮いて見えた。 淳が「毎回自分の方を見て」というのはその通りだった。 何せ彼は、神代で須田がよく見る服装そのままだったのだ。 美耶子と亜矢子は出掛ける、ということで真っ黒なワンピースを避けたのにも関わらず、淳は真っ白なスタンドカラーシャツに黒のスラックスという、およそ流行とはかけ離れた格好でライブハウスを訪れていた。 それが時折ライトに照らされて浮かび上がるように見えるのだ。 腕を組んで、王様か女王様のように見下した視線でステージを凝視しているセンター分けの若者の姿が。 出番を終えたアーティストたちの間では「あの後ろの客見た?」という話になっていたのかもしれない。 後半に差し掛かるとライブの盛り上がりはピークに達し、ステージと客席は一体となった。 評論家気取りであった亜矢子も、今では手拍子をするほどライブを楽しんでいて、演者が手を振ると振り返したりしていた。 だが、ここに来ても淳だけは同じ体勢を保っていた。 盛り上がっていないわけではない。亜矢子同様、リズムに乗りたい気持ちがもうそこまで来ている。つま先がドラムと同じタイミングで床を叩く。 しかし、真っ暗な中にステージだけが照らされていた照明が、今やホール全体を明るく照らし出していている。ここで途中からいきなり「イエーイ!」と乗る姿をさらしては、「アイツいきなりノリノリになってマジ笑ったわ」などと揶揄されるに違いない、だから絶対にできないと思っていたのだ。 ホールを照らした張本人は、須田が目当てだと言っていたそのバンドであった。 確かに覚えやすいメロディーと乗りやすいリズムはただうるさいだけの音の羅列とは違うのだろう。 歌詞もきちんと考えられていると思う、印象的な言葉が使われている。 だが、手を振るのだけはできない。飛び上がることもできない。 淳は懸命に耐えていた。 気がつけばバンドのボーカルは淳にめがけて指を差し、拳を突き上げて歌っていた。 それもそのはず、客席で乗っていないのは淳ただ一人であったのだ。 須田も美耶子もすっかり汗だくになって音楽を楽しんでいる。亜矢子も若干流行遅れの乗り方ではあるが、手拍子で参加している。 ボーカルは金髪を振り乱して、スピーカーの上に足を掛けた。距離が縮まった客が悲鳴を上げる。 淳とボーカルの間は二メートルもないくらいに近づいていた。 ボーカルは淳を何とか奮起させようと躍起になって何度も指を差す。 あとはお前だけだぞ、何でここまで来てその体勢でいられるんだ、そうできなくさせてやる、そう言わんばかりに。 アーティストを目指す上でその気概は厳しい芸能界を生き抜くために必要だろう。褒められてもいいことかもしれない。 事実ボーカルの男は淳以外の全員を盛り上げるだけの力を持っていた。 しかし、今回は相手が悪かった。 エベレスト級の標高を維持する淳のプライドが、最後の最後まで体勢を崩すことを許さなかった。 そしてライブは約一名の傍観者を残して終了した。 「いやー楽しかったな!な、美耶子!」 「うん!私、あの最後の曲好きだな、あとその前の曲の手を振るところも楽しかった!」 「俺も!」 ライブハウスを出て寒空の下に身を置いても、二人の興奮は冷めることなく体を温めていた。 亜矢子のハンカチを借りて汗をぬぐいながら、前を歩く美耶子は隣の須田と一番盛り上がった部分について話している。 後に感想を尋ねられた亜矢子も、「まあまあ楽しかったわね」と言いつつ、最後は両手を上げて何度もジャンプしていたのだ。誰にも知られたくないので黙ってはいるが。 そして淳もボーカルの熱視線に耐え抜いたはいいが、組んでいた腕の部分、ちょうど手の下になっていた部分は、汗まみれの手のひらで痛いほど握りしめたシャツがしわくちゃになっている。現在はコートの下に隠れて見えていないが。 「まああれだな、最後は僕の方が精神力が上だということがよく分かる出来事だったな」 やはりふんぞり返って本日の感想と、自分の功績となる経緯を三人に話した淳は言った。 「ライブに来ていったい何と戦ってたんだよ…」 「淳、本当にわかってない」 須田と美耶子はそれぞれ淳を酷評したが、亜矢子はその気持ちを何となく察していた。 素直じゃない許嫁のことだから、きっと自分と同じように知られたくないけれど本当は楽しかったのだろう、と。 その証拠に、来たときには疲れていた表情が明るくなっている。頬も少し紅潮して舌もよく回っている。 淳をよく見てきた自分だから分かる、彼は今宵ライブを十分に満喫した。 美耶子のお守りか付添いかと辟易し、淳の気持ちを疑ってまでついてきたけれど、須田は予想外の方法で良い気分転換をさせてくれたのではないだろうか。 おそらく淳もなにがしか考えている風だったから、一時でも悩んでいることを忘れられたに違いない。 考えることなど家のことしかないだろう、今は大混乱だから――― けれど家にも子供に聞かれず心置きなく話せる時間が、そして自分たちにも心の休息というものが必要だったのではなかろうか。 須田は本当に不思議な人間だ、本人すら気づかない出会いを呼び込んでくる。 美耶子を通して自分たちも、いや既に村全体が彼のエネルギーの恩恵にあやかっているのかもしれない――― いいや、と亜矢子は顔を振って思考を否定した。 かもしれない、などと不確定なものであるはずがない。 彼はもう二度も奇跡を起こしたではないか。今日の三人と、あの夏の日の村に。 心地よい疲労感のおかげで、今晩は久々に熟睡できるだろう。 四人は冬空のように爽やかな気持ちで駅前のホテルを目指した。 back 6000HITお礼に六にかけてロックの話。 |