兄が天然すぎて困ります | ナノ


!注意!
手話を真面目に勉強あるいは使用されている方をけなす意図は全くございません。
しかし題材とすること自体が不快だという方には気分を悪くさせてしまう可能性があります。
申し訳ありませんが、該当しそうという方は閲覧をご遠慮下さい…!

※後半にエロあり



 宮田が往診を終えて病院へと戻る途中、駐在所の石田とすれ違った。
 自家用車の宮田に対して、石田は自転車である。
 雪が積もれば村はどこもかしこも悪路となり、おそらくあと数週間の後には移動手段としてお役御免になるであろうエンジン無しの軽車両を、石田は後生大事にまだ使っていた。
 いい加減もう寒いだろうに、という思いがふとよぎる。
 そういえば彼は上司と二人で一台のパトカーを共有していたのであったか。
 使えないときもあるのは仕方ないか、とすぐに前言を打ち消して、寒い中ご苦労なことだ、と思う。
 とは言っても、彼も俺もそれが仕事の一部だから、苦労も何も当然のことではある。
 ミラー越しに小さくなる姿を確かめようとして、宮田は目を見張った。
 そこには自転車をこぐ姿ではなく、Uターンして両手放しでこちらに合図を送る姿が映し出されていたからだ。
 慌ててブレーキを踏んで窓から顔を出す。
 遠くからでも聞こえる、自分を呼ぶ声。
 間違いなく彼は自分に用事がある。
 田んぼのど真ん中で速度違反はないだろうが、ライトでも点けっぱなしだったんだろうか。
 石田が来るまでの間に、宮田は一応手元のスイッチを確認したが、それらしき原因は見当たらなかった。
 息せききって石田はようやくたどり着き、ジャガーに自転車を横づけして停車した。
「宮田先生!はぁ、やっと追いついた…」
「どうしました、後ろ開いてましたか?」
「いえ、そういうんじゃないんです、ちょっと先生に伝えたいことがあって……、あの、求導師さまのことなんですけど」
「はあ…」
 唐突になぜ牧野の話を、しかもわざわざ人を呼び止めてまで。
 怪訝に眉が寄せられる。
 そうまでしてする話なのかと言わんばかりに。
「いや、さっき役場で行われた手話講習のことなんですけどね。そこに求導師さまも来られていて、一緒に話を聞いていたんですが…」
 確かに、今日の午前中はそんなようなことをやると誰かから聞いた覚えがある。
 だから今朝は患者が少なかったのか、と週明けにも関わらず往診に割く時間ができた理由を思い出す。
「講習ったってあれですよ。たまに外の人を呼んで話聞くだけのパッとしない、よくあるやつですよ。それに俺も上司が言うから仕方なく参加したんですけどね。あれはきっと求導師さまも同じ理由で―――」
「いいから早く本題に入ってください、飯の時間が減ります」
「あっすみません、それで、その講習の中で、身近な出来事を手話で表現してみましょうってなったんです」


 あらかた簡単な日常会話の方法を学んだ参加者たちに、「昨日あったこと」というお題を、前へ出てきて発表してもらおうというコーナーだった。
 石田も含め、何人かの村人が講師に当てられて発表をし、「それは分からん」とか「喋れない人は伝えるのにこんな苦労してるのか」とか言いながら、肩肘張らずに手話に親しんで、おおよその目的と必要性を理解するという趣旨通りに講習は進行していた。
 最後に「求導師さまにもご参加頂きましょう」と講師の女性が言ったのは、社交辞令だったのかどうか分からない。
 皆も始めは真面目に参加していたのだが、終わりの時間が近づくにつれ途中から隣同士で内輪の話をし始めて、ただの座談会と化してこのまま終わるだろう、と誰もが思っていた時であった。
 突如名を呼ばれた本人は、すっかり油断していたのか目をぱちくりさせて、私ですか?と自分を指しながら立ち上がった。
 ホワイトボードの前までやって来た牧野は、そこから何のことにしようかと悩み始めた。
「求導師さましっかりー」「求導師さまはお祈りのポーズでいいから楽ちんだな」などと言葉が飛び交う。
 牧野はこういったことに深く考え込んでしまう性格であり、それが災いして一向に動作に移れなかった。
 昨日の出来事を思いだせないのか、習った手話で表現できないことなのか、思いの外悩んでしまった求導師に「昨日のことなら何でもいいんですよ」と女性講師が助け船を出したところで、牧野はようやく思いついたという顔で両手を上げた。

 まず人差し指を後方へ指し「昨日」
 自分を指差し「私は」
 そこからが各人の出来事となる部分だ。
 牧野は左手の親指と人差し指で輪を作ると、右手は人差し指を立てて、次の瞬間人差し指を輪の中に入れた。
 辺りは一瞬にして静まり返り、参加者全員の動きが止まる。
 突然静かになった室内の雰囲気に、自分のことで手一杯の牧野が気づけるはずもない。
 すると細い指は華奢な輪の中を出入りし始めた。
 ガタガタッと、何人かの男性が体を机にぶつけた音がした。
 他にも顔を赤くする者、下を向く者が現れ始める。しかしほぼ全員が牧野の手元から視線を逸らせないままだ。
「あれっ外せないってどうやるのかな…」
 無言で、というルールを忘れて牧野はつぶやき、首をかしげ、
「あのっ、これが外せなくって…」
 終いには答えを口にしながら、右手を何度も動かした。
 輪に入れられた人差し指は根本まで奥深く突き立てられ、内部をえぐるように掻き回された。
 人差し指の先が鉤型になって何かを引っ掻くような動作までしたとき、石田は立ち上がってついに叫んだ。
「もう十分ですから!!」

 その後、牧野は何事もなかったかのように「難しかったです〜」と言いながら席へ戻り、女性講師が「鍵が開かないという表現は……」と模範回答を表現しているのを見て、「なるほど、本当はああするんですね」と至極真面目に内容をメモしていた。
 牧野は「昨日家に入ろうと思ったら鍵がなかなか開かなくて大変でした」と伝えたかったらしい。
 しかし実際は全く別の、大変なメッセージを発信していたのだが、最後まで牧野は自分が何をしでかしたか理解できず、また誰一人それを指摘できずに、一日限り約二時間の手話講習は終了した。
 それがつい数十分前の出来事だという。


「……何をしてるんだあの人は…」
 額に手を当てて宮田はうなだれた。
 求導師さまがそんなことを知るはずもない、考えればあり得る話だ。
 だがよりによって大勢の目の前で発表する時にそれをやらかすなんて。
 ある種、神がかり的な運に恵まれていると思わずにいられない。
「でしょう!?もう本当、大変だったんですから…」
 求導師さまがあんなことをし始めて股間が敬礼するところだった、とはさすがに言えないが、その前に退散できたのは不幸中の幸いだったと石田は密かに安堵していた。
 だがいかんせん、「求導師さまはやはり身も心もお綺麗なお方なのですね」で笑って済ませるには刺激が強すぎたのだ。
 できれば二度と村の男たちを煽るような行為は慎んでいただきたい。
「それを俺に言えって言うんですか。当事者でもない俺に」
「だって、宮田先生なら保健体育的なことも説明することがあるでしょうし、冷静に言えそうだなって思ったんですよ」
 まぁ先生の車見て思いついたんですけどね、と石田は屈託ない笑顔で宮田とすれ違った付近を指差した。
 宮田は内心身構えていた肩の力を抜いて息を吐いた。
 呼び止められ牧野の話を出された時は、自分たちの関係に気づかれたのではないかと思った。
 だが聞く限りその心配はなさそうだ。
「保健体育でもそんな下ネタわざわざ教えませんけどね」
 片手をある形にして見せれば、「もう、止めてくださいよ!思い出しちゃいますから!」と石田は赤くした顔を覆い、逃げるようにして自転車で走り去っていった。
 宮田は暖気を逃がしていた窓を閉めて車のエアコンを強める。
 あとはどう牧野に灸を据えてやるべきか、か。
 今晩さっそく会わねばならない。
 病院に戻ったら真っ先に教会に連絡を入れることを決め、ジャガーは再び動き出した。



 その日の晩、宮田に呼び出された牧野は、「今日の講習のことで訊きたいことがあるんです」という言葉を、何の疑いもなしに信じて宮田家にやって来た。
 開口一番「宮田さんが手話に興味がおありだなんて知りませんでした」と言って。
これは重症である。
 宮田の綿密な脳内検査の結果、求導師さまには早急な処置が必要だと診断された。


 宮田の寝室から廊下へ、乾いた音が聞こえてくる。
 よく聞けば、その中には湿った音と人の声も混ざっていた。
 牧野はカーペットの敷かれた床に四つん這いになり、後ろから突かれている。
 細長い姿見を前に、すがりつくようにして激しいピストンに堪えていた。
「あっ…なんっで、こんな…っこと、にぃ…」
 宮田の腰が尻に勢いよく打ち付けられる度、パン、パン、と乾いた音が響く。
 風呂に入る前に組み伏せられたせいでいつもより汗の匂いが強い。
 それにあっという間に奥まで入られてしまった。
 自問自答を口にせずにいられないように、気持ちがついていかない牧野のアナルは、何度突かれても慣れる気配を見せずに中を締めつける。
 それを強引にピストンするのだからアナルは無理やり押し広げられ、いつまでも入れる瞬間の感覚を味わわせていた。
 太い竿が満たす圧倒的な質量と、栓のような亀頭がいつもよりリアルに感じられて、抜くも入れるも敏感な部分には酷な刺激だった。

 宮田は食事もそこそこに「勉強するなら辞書や文献のあるちゃんとしたところで」ともっともらしいことを言って居室に案内した。
 だが結局はいつものセックスがしたいだけだったのだ。
 いつも以上に真面目な顔で言ってくるものだから、牧野は全く見抜けなかった。
 手を変え品を変え、事に及ぼうとする弟の謀略にまたもしてやられたのだと、己の浅はかさが悔しい。
 今度こそまともな理由だと思ったのに―――!
「牧野さん、今いつもと同じ流れだと思ったでしょう」
「…っ、違うんっ、ですか?」
「手話講習ですよ」
 疑問を口にするより先に、宮田は背にのし掛かって来た。
 ずしりと倍の重力が両の膝に、押し潰されまいと牧野はカーペットに手を着かざるを得ない。
 普段から何のトレーニングもしていない貧弱な体には男一人の体重も気を抜けば支えられなくなってしまいそうな重さだ。全神経が手足に集中する。
 一方宮田は楽に胸を預けたまま、両手を牧野の前に差し出した。
 片方は輪を作り、もう片方は指を一本立てている。
「…何なん、です…っ?」
 余裕の無さから牧野の返答は少々棘を持っていた。
 宮田はさらに続ける。
「牧野さんはこういう下品なことはご存知ないみたいですけどこれ―――」
 輪の中に人差し指が入る。
 それは紛れもなく牧野が講習で披露した仕草であった。
「実はセックスのサインなんですよ」
「え……えぇっ!?」
 牧野の顔が信じられない、という表情になる。苛立ちや体勢を支えるための集中など、驚愕以外の一切の感情が奪われていく。
「こっちが女性器、こっちが男性器。だからこの指を輪の中に入れるっていうのは―――チ●コをマ●コに入れてるって意味なんですよ」
「うそっ!」
「嘘じゃないですって。あなたは公衆の面前で、『昨日私はセックスしました』って言ったんですよ」
「うわあぁ!言わないでください!!」
 耳朶の先まで真っ赤にした牧野は、聞いていられないというように頭を振ってわめいた。
 耳を塞ごうにも手が塞がっていては、少しでも思考を止めるためにはそうする他ない。
 宮田の説明でつまびらかになった真実は、穴があったら入りたいと願うほどの羞恥を引き起こすものだった。
「言わないでって、あなたが自分でやったことでしょう?」
 宮田は言い聞かせるように耳元でささやいた。
 顔を背けている往生際の悪い患者に、指をことさら素早く出し入れして見せて。
「わああっ!その動き止めてください!」
 もう牧野にはそれが卑猥な動きにしか見えなくなった。
 顔の持って行き場を無くした牧野は、強く目を閉じ、消え入りそうな声で知らなかったんだ、本当なんだと釈明を始めた。
 これこそ、今日の午前中に求められた反応である。
 さぞかし講習参加者は悶々としていただろう。
 部外者の目が光る真面目な場で、無知の求導師さまを相手に、その最悪な条件下で指摘すれば、何事もなかったかのように講習を続けようとする空気がぶち壊しになる。
 言いたいが言えない、誰もが自分が加害者になることは避けたい。
 その結果、各々が内に秘めるしかなかったと石田は言っていた。
 真の加害者は牧野だというのに―――聞いただけでどっと疲れが押し寄せた。
 もしその場にいたらと思うと、叫んでいたのは石田ではなく自分だったかもしれない。
 ああ、二度とそんなことは繰り返させないとも―――
 第三者のためにも、自分とそして牧野のためにも。
 だから今日は、徹底的に恥ずかしくなって、思い知ってもらわねば困る。
 宮田の決意は固かった。


 再び室内には肌のぶつかる音が響き始めていた。
「別に、本当にヤってたら嘘じゃないからいいんじゃないですか?…ああでも、後からじゃ意味ないですね。今度は講習の前日にヤっときますか?」
「や、ぁあっ」
 姿見には仰向けにひっくり返された牧野が、自ら足を抱えて宮田に貫かれている様子が写っている。
「背けてないでちゃんと入ってるとこ見てください。健全な講習をぶち壊しにした罰ですよ」
「っ、すみ…ませ、…ごめ、なさぃ…っ」
 罰として牧野のやったことを実感してもらう、と宮田は自分から足を抱えて、犯される陰部を直視することを強要した。
 激しい抽挿に紡がれる言葉が途切れても、牧野は謝罪を繰り返す。
「謝ってどうにかなることじゃないでしょう?知らなかったせいで他人様に迷惑をかけたんですから、今晩はたっぷりこのサインについて覚えてもらいます」
「そんなぁっ」
「ほら、今まさに指と同じ動きですよ」
 思わず目を閉じた牧野の脳裏に、あの輪に入れられる指が浮かんだ。
 指は乱暴に突き立てられ、侵入を拒む輪の中を思うさま蹂躙する。
 筒状にした手の指の一つ一つが襞のような段差となって、突く方の指を楽しませ、先端の爪先はそのとっかかりに引っかかって内側を強く擦り上げる。
「いやぁっ、あ、そんな、」
 本当に同じなんだ、牧野が内でうごめくペニスの動きに指と同じものを自覚した瞬間、アナルはぎゅうぎゅうに締まった。
「っ、想像したんですか?」
「ちが…っ!」
 目を開いて牧野は後悔した。
 色の濃いペニスを深々と咥え込む自らのアナルは、皺が伸びきって限界まで開かれていながら、しかして嬉しそうに受け入れていた。
 腹の内側の出来事が、あの指のせいでつぶさに理解できてしまう。
 あんな卑猥な、恥ずかしい動きを私は―――
「あ、駄目―――!」
 触れられていない牧野のペニスから白濁が飛び出した。
 いつもより早い限界の訪れは、間違いなく自業自得の原因による。
 対していつも通りの宮田はペニスを大きくしただけで抽挿を止める気配はない。
 それどころかいつにも増して真剣だった。
 自分が楽しむことよりも優先すべきことがあるとでも言うように、射精を促すアナルの動きにも揺らがなかった。
「次はこれですよ。手をグーにして、親指を人差し指と中指の根本に入れます」
 まだ快感が後を引いていることは、呆けた顔と弛緩した体から十分に理解できることであった。
 しかし宮田はここに来て医者らしさを発揮し、患者の症状に惑わされず淡々と説明を続ける。
 牧野も、宮田がいつ誰から講習の詳細を知らされ、そんなことに真剣なるに至ったかは不明であったが、ただ自分が他にも“やらかして”いる可能性があるかと思うと、宮田の言う話を聞く必要はあると思っていた。
 気だるい腕を宮田と同じ形にしてみて、牧野の懸念はすぐに的中することになる。
「あれ……わたし、これもやったことあります…」
 ぼんやりとした様子でふっとつぶやかれた台詞に、宮田の目の色が変わった。
「え…いつ、どこでですか?」
「さあ…もう大分前なので…「これ良いですよね」って話をしたような気がするんですけど…」
「これのどこが良いとか、どんな話してるんですか!」
「ええ…?だって、指の座り的に落ち着きません…?ここ痒くなる時とかこうやって掻きますし…」
「その動き止めてください!」

 牧野の言動は常に予想を上回る。
 双子で恋人で医師の宮田が冷静さを欠いてしまうほど、突拍子もない発想と行動を素でやってのける。
 ある意味では傍にいても飽きないと言えるのかもしれないが、それは限りなく良い捉え方をした表現であり、牧野の場合はただひたすらに「ハラハラ」させ、何をしでか分からないゆえに「傍から離れられない」というものである。
 宮田医師の処置がどれだけ掛かったのか、はたまたそれは上手くいったのかは、この時点ではまだ分からない。


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