下剋上1 | ナノ





!注意!


某ドラマの第一話で妄想
教師SDK(25歳) VS 魔性牧野(27歳)
SDK=攻めで黒い(始めだけ)
宮牧前提
ベタベタな展開
後半からエロあり

内容・設定等完全に捏造
実際の高●入試とは一切関係ありません






 生徒入室禁止の貼り紙がされた印刷室。牧野は数日後に控えた入試の実施・準備要項を印刷していた。
 ひっきりなしに騒がしい音を立てる機械が次々にプリントを刷り上げていく。印刷といっても担当教員は二十名程度なので大した量ではない。これを綴じて印を押せば本日の業務は終了であった。
 この時間ともなれば、大半の教師が既に帰宅の途についていて、残っているのは自分を含むわずか数名の残業組だけだろう。腕時計を見れば既に八時近く、早く済ませて帰りたい ―――
 先に退勤した恋人を思う牧野の口から疲労からくるため息が吐き出された。

 そこへ思いがけず、印刷室の戸が勢いよく開かれた。
「牧野先生!やっぱりここでしたか」
 やって来たのは数学教師の須田であった。いつものように走ってきたのか、茶に染められた髪のあちこちが乱れて、息も若干切れている。
「須田先生…どうしました?」
「牧野先生、入試のやつ準備してるんですか」
「ええ…何か御用ですか?生徒でないとはいえ、不必要な出入りは避けるべきだと思うのですが」
「じゃあ俺は入試担当だから大丈夫っすよね」
 やんわりとした牧野の牽制は気にする風もなく、須田は歯を見せて笑っている。

 須田は教師になって日が浅く、落ち着きのない言動でいまいち生徒からも教師からも信用を得られていない。
 時折会話の中に鋭さを見せるときもあるが、先走ってドジを踏むことも多々あり、落ち着きがない故に行動も読めず神出鬼没。どこに本音があるか掴めない、気のおけない人物であると牧野は認識していた。
「それで?私に何か御用ですか」
 先ほどより強めに釘を刺してみる。しかしやはり須田に効いている様子はなく、悪びれずあっけらかんと言い放った。
「そんな言い方しないでくださいよー、俺、牧野先生を手伝おうと思って来たのに」
「……いえ、お気持ちは有難いのですが、これは私の仕事ですから。須田先生はご自分のことをなさって結構ですよ」
「俺はもう仕事終わりましたから」
「だったら―――」
「宮田先生」
 突如降って湧いたように出された名前に、牧野の顔には困惑がはっきりと表れた。しかしその内側では全く別の感情が、現実に対処しようと分析を始めている。
 それを知っているかのように須田はにやにやとした笑いを抑えようともしない。
「宮田先生とデキてるんでしょう?」
「は…?意味がよく分かりませんが」
「俺、見ちゃったんですよね。二人が北校舎の空き教室で何やってたか」
「……そうですか」
 そう言うと牧野は踵を返して、印刷機から最後のプリントの束をを取り出し、今度はそれらを紙折機に掛ける。
「そうですかって……驚かないの?」
「さぁ。空き教室で生徒会の書類整理をすることはよくありますので」
「信用してないんだ?」
「私には何のことだか」
「ふぅん、じゃあ言いふらされても大丈夫なんすよね」
「身に覚えのないことでどうこうする理由はありません」
 決して自分の方を振り返らず、牧野は淡々と機械から流れてくるプリントを机に置いては確実に捌いていく。
 宮田の名を出せば少しは動揺するかと思ったのに、想像以上にこの教師の防御は堅いのか―――
 相手の予想外の反応にも動揺することなく、須田は事実を冷静に受けとめていた。普段は温和で消極的という牧野の顔が仮面に覆われた建前であり、実際は誰よりも計算高く行動的な人物ではないかとひそかに予測を立てていたからだ。
 更に手持ちもまだ無くなった訳ではなかった。牧野が強硬姿勢をとることも、むろん織り込み済みであった。
 須田はズボンの後ろポケットに入っていた携帯電話を手にすると、軽い手つきで弄りながら牧野の元へと近寄っていった。
 一向に興味を向けようとしない背の真後ろに立つと、頭上から目の前へと画面を差し出してみせる。
「これも身に覚えのないことってやつですか?」
 携帯に写っていたのは牧野と宮田であった。二人の間には共通した明確な意思があり、ただの教師同士、兄弟のスキンシップでは説明しようのない、睦み合いの場面が映し出されている。
「キス、してますよね?これ」
 牧野は答えない。しかし作業の手は止まっていた。
「もっと凄いのもあるんすよ?でもまぁ、携帯に入れて牧野先生に見せるくらいだったら、この程度でもいいかなぁって」
 カメラの位置からして、盗撮されたのは間違いない。二人が定期的にその場所を使用していることを知ってあらかじめ見えない所に設置してあったのだろう。
 須田は、牧野が作業をしている机にわざと腰を下ろし、横から顔を覗き込んだ。
「これ、どうしましょっか?」
 今後の行動を暗に臭わすと、プリントを黙って見つめていた視線が、ゆっくりとこちらに向けられる。そこにいつもの「牧野先生」の豊かな表情はどこにも見当たらない。感情が抜け落ちたような、「無」の視線だけが存在していた。

「私にどうしてほしいんですか」
「ええ?俺そんなこと言ってないですよ?」
「御託はけっこうです。要件があったからわざわざいらしたのでしょう」
「へへ、バレました?」
 薄笑いを浮かべると、牧野は再びプリントに視線を戻して作業を再開させた。会話は作業をしながらでもできる、とでも言いたげだ。
 日中生徒たちと話す際は必ず手を止め、目を見て共感的理解を深めようと接しているのに、自分にはそんな必要はないということか。
 だが合理的だ、それが逆に好ましい。

 室内の機械は操縦士を失い、動きを止めて沈黙していた。
 プリントの山を勝手に退けて、牧野の正面へ移動する。丁度、牧野の目と鼻の先に須田の下半身がくる体勢だ。
「咥えてくださいよ。好きなんでしょう?咥えるの」
「誰が。お断りです」
「これ、ばらまかれてもいいんですか?」
「手法が古典的ですね。私を辞めさせたいとしても、宮田さんを辞めさせたいのだとしても、そんなものは無駄です」
「へぇどうして?」
「二人とも、辞める覚悟はとうにできているからです」
「え……?」
「あなたがそれを望むなら、明日にでも二人揃って自主退職の届け出を出してきましょう」
 嘘を言っているようには感じられなかった。
 この話を持ちかけることを思いついた段階で、牧野という人物の二面性を考慮しなかった訳ではない。しかしいきなり究極の選択が提示され、平静ではいられなかったということと、牧野の本心を見抜く己の眼力を過信していたことが動揺に繋がった。
「初めからその覚悟でした。社会的に抹殺したいのならそれもいいでしょう、構いませんよ、そうしていただいて」
 今度は須田が答えられなくなる番であった。
 手の内は全て読まれていた。しかもそのいずれも鉄壁の防御を崩すに至らないのだ。牧野の言う、社会的な抹殺が達成されたとしても、牧野の核たる部分は少しも傷つかない、二人にはそれだけの繋がりがあると認めるしかない。
 それに、この件を公にして牧野をおとしめるのは須田の本意ではなかった。ひるんだ牧野に性的ないたずらをして、あわよくば本番まで…程度に考えていた須田の幻想は無惨にも打ち砕かれた。
 数学教師としてはいささか短絡的かつ原始的な考えにも思われるが、案外人間を決定的に動かすのは即物的な本能なのかもしれない。

「元より私たちに失うものなどないのです。初めから全てを失っているのですから……」
 最後の言葉は、須田ではない誰かに向けてつぶやくように吐き出された。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。辞めると言ってもそれをどう信じろって言うんですか。第一、辞めさせたいと思っている相手にそんな言い分が通用すると思ってるんですか?」
「ですから構わないと言ったでしょう。明日になれば全て分かりますよ。いずれにしろ、今の地位も人望も私にとっては固持すべきものでもありません。私は常にこれが最後だと思って全ての方々に接していますので後悔もありません」
 牧野の目は無から通常の色を取り戻しつつあった。それは諦めというより悟りのようにも見え、主導権が完全に牧野に掌握されていることを示していた。

 無理だ―――須田は心の中で白旗を上げざるを得なかった。
 好きな相手に振り向いてもらえる秘密道具を手に入れたと思ったら、相手の存在ごと消滅するスイッチが仕込まれていたとは……
 この感じでは宮田の方を先に仕掛けたとしても結果は同じだっただろうな、須田はこの作戦が失敗に終わったことに一気に消沈した。
 携帯を机の端に滑らせるとがしがしと頭を掻き、大きくため息をつく。黙って見つめてくる牧野を未練がましい目で見返して言った。
「あーあ、俺先生のこと好きだったのに…」
「はい?」
「もうずっと前から見てたんすよ?赴任したときからすっげぇ優しくしてくれたし、何かもう気がついたら超好きになってたし…宮田なんかとデキてるし…」
 年上の宮田を呼び捨てにしていることはこの際聞き流すとして、須田が自分を好いていたとは初耳であった。牧野としては他の教師と等しく接していたつもりだったので、それほど特別に感じたことはなかったのだ。
「それでこんなことを?」
「そうっすよ、あーもう!だけど先生辞めるってんなら、そんなのできる訳ないじゃないですか」
 須田はやけになって隠し持っていた感情の全てを吐露することに決めたようで、当初のずる賢い後輩教師のイメージやいずこへ、というくらい、室内の雰囲気は今やすっかり日常と変わらぬものになっていた。
「……呆れた」
「だって…そんぐらい先生のこと好きだってことですよ!男が好きでも全然気持ち悪いなんて思わなかった。むしろ先生を抱きたいって思ったら毎晩先生でオナっても全然足りなくて、この歳で夢精したりして…」
「どさくさにまぎれて何言ってるんですか」
 軽く握られた手の裏でコン、と額をつつかれる。
「須田くんは早く良い彼女を見つけた方が良さそうですね」
 牧野は椅子から立ち上がると、須田を横に退けさせようと手を伸ばし、ようやく作業を再開できるということに意識を移していた。作業を終わらせてとっとと帰りたい、という本来の目的である。
 しかしここで引き下がらないのが悪ガキ教師・須田だった。須田は自分を追いやろうとする牧野の両手をがっしりと掴んで声を張り上げた。
「先生!俺、本当に好きなんですって!宮田とのこと言いふらしたりするつもりなんかないけど、見なかったふりするんだから、ちょっとはご褒美くれてもいいじゃないすか?」
「ご褒美?」
にへら、と締まりのない顔は握った手を股間に近付けていく。
「何言ってるんですか。駄目です、駄ー目」
「牧野先生が駄目って言うなら作業させませんけど」
須田の手の中には「秘」とついた印鑑が握られている。
「別に印鑑くらい、職員室に戻ればいくらでもあります」
「出ていっている間に籠城しちゃいますよ?」
「じゃあプリントを持って…」
「それまで俺が大人しくしてると思います?」
 図らずも、始めに須田と牧野が対峙したときと同じ状況が成立していた。だが主導権の天秤の傾きは確実に先とは異なる様相を呈していた。



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