SLOWDOWN3 | ナノ


※別人牧野さん、不憫宮田さん



 牧野さんは一時的に気を失っていただけで、ベッドに着く頃にはすぐに目を覚ました。
 たった一回であの牧野さんとはもうお別れになってしまうのかとひやひやしていたのだが、目を開けた牧野さんの積極思考は継続していて、無事に続きをすることができたのだった。


 そうして体位を変えたりグッズを使ったり、69に続いて普段してもらえないことをしてもらってじっくり三回ほど楽しんだ頃だろうか。
 身も心も十分に満足した俺は、そろそろ熱いシャワーでも浴びて寝たいと思い始めていた。
 肩に担いでいた片足を下ろし、少し緩くなったアナルから逸物を引き抜こうとしたところで、そっと腰を制止する手が掛けられた。
「牧野さん……?」
「抜かないでください…まだ、もうちょっと楽しみましょう?」
 言うなり、牧野さんは体を起こして俺の肩をやんわり抑えつけ、馬乗りの体勢になった。
「まだ時間はたっぷりありますから……ね?」
 時計を見ると深夜二時を回る所だ。事が始まってから既に二時間以上経っているのに、まだやる気なのか…?
 いつもの笑顔の中にも獰猛に光る目を宿した牧野さんは、中の物をわざと刺激するように腰をグラインドさせた。
 後半、抜かずに続けて二回も出された内部は俺の精液でいっぱいになっているのだろう、ぬるぬるした液体に浸される感覚は女の膣を思わせた。
 そこに意識してアナルを締めつけられると、内壁がペニスにぴったり貼りついて、またざわざわとした快感が腰からせり上がってくる。
「牧野さ……」
「もっと…もっといっぱいにしてください…ここ、まだ入りますから…」
 そう言って牧野さんは自らの腹を愛おしそうに撫でた。妊娠なんてしないはずなのに何故かそのことを連想してしまって、脳と直結したペニスが更に肥大する。
「ぁん……宮田さぁん……」
 そんな声を出さないでくれ……我慢できなくなる…!
 思わず腰を浮かせて突き上げると、歓喜に酔いしれる顔がのけぞって、一声喘いだ。その声につられるように再び抽挿が激しくなっていく。

 下からの角度は牧野さんの一挙一動が一望できる状況で、ぱらぱらと振り乱れる黒髪やだらしなく開かれた口の中、ピンと立った両の乳首が汗で光る様子から張り詰めたペニスが体動で弾む所まで―――
 押し倒して見たい所だけを見るという体位に比べてこれは、今の自分には非常によろしくなかった。
 楚々とした牧野さんと無難なセックスに終始していた自分では、どうあがいても早漏気味になるのを避けられない。加えてこのスピードだ。
 ついていけなくなってきているのは俺の方だった。
 牧野さんは普段どこにそんな体力があったのかと不審に思うほど、衰えないペースで腰を上下させている。膝立ちも辛いはずなのにこちらの倍は動いている。
「あぁいいですっ、そこ……ぁあっ」
 騎乗位は特にいい所が刺激されるらしい。ある一点ばかり目掛けて腰を回している。
 コリコリとした場所に当たる感覚は俺にも絶妙な快感を与えてくれて、知らずに自分も到達点を前立腺へと集中させていた。

 牧野さんとすると自分は余裕を剥ぎ取られる。それは出会った当初からそうだった。何をするにもこの人が自分の全てを支配しているのだ。セックスだって主導権は俺が握っているようで、精神的支柱は常に牧野さんの方にある。この牧野さんとのやり取りは、ある意味で自分たちの精神構造を表面化したものなのかもしれない。
 ――――――駄目だ!
 真面目なことを考えてみても全く耐えられない!
 素数を数えても難解な数式を思い出そうとしても、牧野さんが跳ねる度に股で弾む感触は、あの柔らかい尻が当たっているのだろう、とかトータル五回以上で何でまだこんなに締まるんだ、でも気持ちいいとか―――もう全ての感覚が自分を絶頂に導く要素にしかならない。
 牧野さんを満足させてあげるためにも、男の沽券を保つためにも早くイッてはならないと思うのに、思考まで侵食してきた牧野さんに持っていかれてしまう、根こそぎ搾り取られるという表現がぴったり当てはまる。
「…うぁっ…」
「ああ―――――!」
 勢いは減退したが、それでも精液は残っていたらしい。いくらもない量が弱々しく放出された。

 くったりと前に倒れ込んできた牧野さんは顔を横にして俺の耳元で荒い息をついている。それを聞くこちらも同じくらい息が荒い、というか心臓が張り裂けそうだ。
 このままだと抱き殺されるかもしれない、と一抹の不安がよぎった。
 腹上死が理想の死に方と言ったやつは誰だ、理想なんかじゃない、これは地獄だ。
 こんなことで死んでたまるか、必ず牧野さんと最後まで生きてやる―――!
なけなしの精神力でそう決意した俺に、しかして牧野さんから告げられた次の言葉は死亡告知に等しいものだった。
「宮田さん……もう一回」
 嘘だろ……どこまで底無しなんだこの人は。
 いくらご無沙汰だからってここまで絶倫になるものなのか。
 再三にわたるおねだりにこちらは腰もナニも死ぬほどだるくて疲労困憊だというのに、それでも牧野さんはまだ不服という現実が信じられなかった。
 さすがに今のが最後だと思っていた俺は途方に暮れた。

「いや……すみません、もう勃ちませんので…」
 こう言えば牧野さんも諦めるだろう。自らがこの状況を作り出した張本人であるというのに随分都合がいい話だとは思う、だが男として最後まで認めたくないことを口にしてまでも言わずにおれない状況である以上仕方がなかった。
 実際本当のことだし……情けないが。
 だがそれを聞いた牧野さんは、きょとんとした顔をすぐに爽やかな笑みに変えてこう言ってのけた。
「大丈夫です、私が勃たせてさしあげますから」
「え……?」
 どういうことだ……?
 横になった状態から首だけを上げるというまぬけな体勢に、更にまぬけな顔をして固まった俺は、一瞬言葉の意味が理解できなかった。
 すると下からぬぽっという音がして、大量の精液が零れ出す後ろを気にも留めずに、いそいそと牧野さんは腰から降りた。傍にあったティッシュで逸物についた種々の液体を拭き取り、もう一度ティッシュを数枚併せて取ると水差しに入っていた水をそれに少量垂らして丁寧に拭き取っていく。
 牧野さん、事後処理まともにできたんだ……
 現実逃避をしかけた俺の脳は目の前の関係ないことに思いを馳せようとしていたが、事態は少しの猶予も与えてはくれなかった。
 牧野さんは綺麗になったペニスの方へ顔を持っていき、萎えている頭から口に含んでいった。

 気持ちはいい…だがもう勃たない……何をしてくれてももう無理だ。
 健気に愛撫を施す様子にもそれが反応を返すことはなく、逆に申し訳ない気持ちになってくる。
 それでも牧野さんは諦めなかった。
 ペニスから口を離すと、今度はその下の陰嚢に手をかけ口に入れたり舌で転がしたりし始めたのだ。
 敏感な場所だけに少しでも力加減を間違えれば痛みが伴うそこを、牧野さんは同じ男だからよく理解しているのか、妙技としかいいようのない施しを与えていく。
「……っ」
 ぞわり、と何かが腰に走るのを感じた。
 片方を唾液まみれにするともう片方へ、同じように愛撫が続けられる。
 まさか、まだいけるのか…
 しかし仮にいけたとしても次が快感だけで済むはずがないのは間違いなかった。
額を冷たい汗が流れていき、何とか勃たないでくれとかすかな望みを局部に籠める―――いや籠めてはいけないのか、力は抜くのだ。

「――っうぁ!」
 突然、ペニスの方ではなく後ろから未だかつて経験したことがない感触が襲った。
 あろうことか、牧野さんは俺のアナルに手をかけていた。
 長い指が押し留めようとする己の意思とは反対に中へ中へと突き進み、ある程度の所まで辿り着くと、手前に向けて鉤型に曲げられた指が探りを入れる。
「―――っ」
 何とも言えない感覚だった。
 ビリビリとした痛みとも快感とも取れぬものが腰から電流のように伝わり、連動してゆっくりと頭をもたげ始めたそれの変化に俺はただただ脱帽し、呆然とその様子を眺めるしかない。
 知識として知ってはいたが、前立腺刺激で勃起する日が自分に訪れようとは夢にも思わなかった。
 自分の体であっても、こと入れられるという行為に関しては牧野さんの方が玄人であるのは否定しようがない事実なのだが……
「ほら、まだまだできますよ」
 人の物を持ち主の承諾も得ぬまま、勝手に勃たせて満足げな牧野さんは、股間から起こした顔の笑みを更に深くして、単体でも十分立位を保持しているペニスをようやくといった風で、だらだらと精液を零すアナルに招き入れた。
「うっ…」
「ぁはっ、きもちいい……すごくいいですっ…」
 そして初めから全開で腰を振りだした。
 セックス、というよりもはやレイプに近い。
「牧野さん…っ、もうっ…」
 出るものすらない場所を酷使させられたために、やはり痛みがやってきた。急所を握り潰されるような感覚に脂汗が滲み出てくる。
 せめて、もっとゆっくり……!
 地獄へ責め立てんとする、暴力的ともいえるその腰の動きを少しでも止めたくて、力を振り絞って手を伸ばしたのだが、予見していたように現れた牧野さんの手がその両方共を掬い取って、指を絡めたままベッドに縫い付けられてしまった。

「もう駄目っ…もうっ…死ぬ、ほど…気持ちいぃ…ですっ」
 死にそうなのはこっちだ―――!
 叫ぶ声すら出なかった。まさかこのまま本当にあの世に連れていくつもりなのか。
 あの天使のような振る舞いもまだ見ぬぱらいぞとやらへの土産だったとでもいうのか。
 俺は不用意にとんでもない人格を呼び出してしまったんじゃ―――
生まれてから今日までこれほど後悔した日はないだろう。

 しとどに濡れた全身から雫を散らしながら、照明の逆光を背に、舞うように俺の上で踊っている牧野さんは、昔話に出てくる天に住む衣をまとった神のようにも見えた。
 さながら俺はその奴隷というところか――――――
 ―――といったところで俺の記憶は完全に途絶えた。



 翌朝、晩の無理を非難するようにズキズキと痛む股間と全身の倦怠感が半端なかった。予想はしていたが、予想以上に辛い状態だ。
 平和な起床など許されない、更に俺を苦しめたのはその直後にやって来た牧野さんであった。
 牧野さんは例の如く前日のことをきれいさっぱり忘れていて、全身を汚したまま放置されていた間に何をしたのかと厳しく詰問してきた。
 そのお叱りがこれまでの数倍きつい口調で、しかも長い禁欲令まで出されることになってしまった、ということは大した問題ではない。
 俺の心を最も痛めたこと―――
 それは、牧野さんがあれだけの全身運動の翌日にも関わらず、普段と全く変わりなく過ごしていたということであった。

 今になって思うのは、とりあえず数日前の俺に一言物申したい。
 お前は馬鹿だ。
 そして今回の教訓、双子であっても差異はある。



back

元ネタはマボロシのSLOWDOWNという曲。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -