EAT ME!! | ナノ


※下品ネタ、宮田さんキャラ崩壊注意




 白い息を切らせて帰宅した牧野は、ストーブに火を入れながら壁にあった日めくりカレンダーの違和感に目を留めた。
「めくり忘れてる……」
 ビリッと破って二月四日。
 今日は立春だ。
「……なにが立春だよ。年明け最大の寒波到来って言ってたくせに」
“暦のうえでは”なんて謳い文句はニュースキャスターのためだけにあるのではないだろうか。
 どの局も今日のお天気ニュースはその一点ばりですっかり聞き飽きてしまった。
 どうせ今テレビをつけたら朝と同じことを言うんだろう。牧野はリモコンを無視して風呂場に向かった。こんな寒い日は熱い湯につかるのに限る。

 立春と言われても牧野の家にはまだこたつが居間を占拠している。
 そこに入りながら鍋をつつくのが良い。一人暮らしだから誰に気取ることもなく、直鍋、直箸である。
 こたつと同じくこちらも手放せない愛用のどてら。それを羽織ってこたつの上のみかんを食べるのがまた良いのだ。
 ちなみに、みかんについた白い筋を牧野は綺麗に剥く派で、表面がつるりとするまで気が付くと無心になって剥がしている。
「うん、綺麗になった」
 珠のようにすべすべしたそれを半分に割って、一房口に放り込む。
 思い通りの舌触りに満足して噛みしめると甘い果汁が吹きだした。これはあたりだ。
 人はこんな牧野の姿を見たら「究極の地味生活」と揶揄するかもしれない。
 が、酒もたばこもやらない牧野の小さな贅沢はこんなことなのであり、また牧野自身もそこに収まってしまうような小さな男だった。
 けれど牧野はそんな自分でも悪くないと思っている。小さくたっていい。庶民的で多くを望まない自分だからこそ、この村で求導師なんてたいそうな仕事をさせてもらえているのだ。

 そういえば、その究極の地味生活と揶揄した人間の姿を最近見ていない。
 去年の今頃は行く先々でまとわりついてきて大変だったのに。
 牧野がなぜそのことを覚えているかというと、答えは日付にあった。
 昨日は二月三日。節分だ。
 去年は本当に大変だった。
「牧野さん、そろそろ節分ですね」「牧野さん、恵方巻って知ってます?」
 そんな風に自分の周りをうろついて何か遠回しなことを言い始めた時は、大概ろくなことがない。
 分かっていたのだけれど、「あれは元々関西の習慣なんですよ」「それなのに全国で流行らそうなんて、販売会社の戦略に乗せられているだけなんですよ」「乗せられていると言えば来週末はアレですね。牧野さん覚えてますか、アレですよ、アレ」
 それは壮絶にうざかった。
 それで結局根負けした自分は、恵方巻を作ったという彼の家に招かれることになった(恵方巻なんて売っている店はないから)。そして行った先でさんざんな目にあった。
 いや、ぜったいそうなるとは思っていたのだが、やっぱりそうだったのかと行って押し倒されて確認したのであって、だから次こそはそうならないと固く決意したのであって。
 自分で自分に言い訳をしてみたが、むなしいばかりである。

 そんな宮田だから今年も絶対何かしらの怪しい作戦を練っているかと思ったのに、ここ最近姿そのものを見ていない。
(さすがに仕事はしてると思うけど……何やってるんだろう)
 仕事以外のことをやっていること前提になる辺りが、彼の前科を物語っている。 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
 100%彼だ。
 そう思って迎えに行くと、案の定だった。
 しかし彼はいつになく切羽詰まった表情でガタガタとからだを震わせていた。
「すみません、先入らせてください」
 そう言うと牧野が口を開く前に靴を脱ぎ捨てて奥へ入っていった。
「どうしたんですか?」
 宮田に続いて居間に入った牧野は、至極まっとうな疑問をなげかけた。
 震えているのもそうだし、さっきから宮田の着ているコートが気になっていた。
 白衣と同じくらい丈の長い黒のコートを宮田は手で押さえていて、ボタンは留めていなかった。寒いのならまずそれを何とかすればいいのに。
「はぁ〜もう凍えるかと思いました」
「だから、どうしたんですかって訊いてるんですけど」
「いや実は、牧野さんにお見せしたいものがありまして」
「はあ?」
「というより、お願いしたいことなんですけど」
 そう言うと宮田はコートの前を左右に開いた。

「ギャーーーーッ!!」
 数年ぶりの大声が出た。
 それを見た牧野は、街中で突然見知らぬ男に逸物を見せられた女子高生はこんな気分なのかと思った。
 すなわち宮田の局部はもろだしであった。
 まず色に牧野は度肝を抜かれた。いくら宮田でも、そこにそんなことをするとは考えつかなかった。
 牧野を驚かせたその色とは。
 ペニスの竿の部分が茶色かったのだ。こってりとした何かが、亀頭以外の部分にまんべんなく塗られていた。
「な…な…なんですかそれはっっ!!」
「チョコレートです」
「チョコ!?」
「チョコです」
 宮田が喋るとだらんと垂れたチョコ濡れのペニスがわずかに揺れる。
 牧野はひぃっと声をあげて一歩後ずさりした。本当はもっと離れたいと思っていたのだが、あまりに驚きすぎて意図した行動をとることができなかった。
「これ、苦労しましたよ。チョコを溶かしたはいいですけど、そのまま塗ったら絶対火傷するでしょう? 適当に冷まそうと思ったら変に固まるし、ちょうど好い加減が難しかったんですから」
 誰に対する苦労話か、宮田は自分に頷きながらしみじみと経緯を語った。
「それにいざ塗ってみたら、今度は上手く固まらないし。体温で溶けないチョコレートって何かにありましたよね? ギリギリまで調べたんですけど、それがどうしてもわからなくて困りました」
 牧野の目の前でコートが落とされ、宮田は私服に股間だけを露出している(しかもその中心はとんでもない有様になっている)姿になった。
「でもね、見て下さいほら。ちゃんと固まっているでしょう?」
 よく見えるようにと差し出され、それとの距離が近づく。
 既に頬は完全にひきつっていた牧野だが、鼻先から甘い匂いを感じた瞬間、もう直視できなかった。
「いやっ、いやあのっ、宮田さん、分かりましたんで。 ちゃんと固まったのは分かったので仕舞ってもらえませんか」
「え? いやだなぁ、牧野さんに食べてもらうために準備したのに、仕舞ってどうするんですか」
「えぇっ、嫌です!」
「即答しないで下さいよ。 俺がどんな思いでチンポにチョコ塗って、それを外に出して固めたかと思ってるんですか」
「そ、外に出したんですか!!?」
「そりゃあ、固まらないので」
 知りたくもない事実だった。
 できたら考えたくもなかった。その時の様子など、ほんの少しも思い浮かべたくもない。
 だが牧野の脳裏には宮田の台詞から連想されるもっとも悲惨な様子が描かれていた。頭から追い出そうとしてもこの耳が聞こえる以上、否応なしに浮かんでくるのだからどうしようもない。
「仕舞ったら絶対溶けるだろうと思ったので、ずっとこの恰好で来たんですよ」
「ひいぃいいい!!」
 牧野はおそろしい想像と現実の両方から目を背けようと、壁に向かって振り返り耳を塞いだ。
「駄目ですって。これが出来上がるまで健気に努力した俺の時間と労力を無駄にしないでください。 今日は牧野さんにこれを食べてもらうのが俺の目的なんですから」
 背後から声が近づいてくる。おそらくそれ以外のモノも近づいている。
「知りません、そんな勝手な目的、私は知りません!」
「知らなくても、やるんです」
 牧野のからだが強引に反転し、畳の上に投げ出された。
「やりません!絶対にやりません!」
「やるんです、俺がやるったらやるんです!」
 押し倒された勢いに負けまいと猛然と反論する牧野に、宮田も頑なに譲らぬ姿勢を貫こうとしている。
 果たしてこの戦いの軍配はどちらに上がるのだろうか……

 ところで、宮田がこんな奇行に走った原因だが、
「俺が考えに考え抜いた名案ですよ。”節分・バレンタイン同時イベント”。 チョコを使ってバレンタイン、それを塗って恵方巻。 どうです、名案でしょう?」
だそうである。
 訊いた牧野は今年もたっぷり後悔した。


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このあと滅茶苦茶セックスした。
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