色んなところにキスをする | ナノ




 柔らかい唇が触れ、そっと離れていった。
「……なんですか、それで終わりですか」
 俺がちょっと冷たく言うと、牧野さんはうつむいてしまった。瞳にたっぷり溜めた涙が今の拍子にこぼれ落ちてしまったかもしれない。
 今時キスといって唇に触れるだけで終わると思っているのは幼稚園児くらいじゃないか?小学生だって映画のディープなキスを普通に目にしている。
 せっかく互いがゆっくりできるという時に良い雰囲気に持ち込めたのはいいけれど、牧野さんがこの調子では俺が満足するのは何年先になることやら。
 ―――と、顔に影が被った。
 香る牧野さんの匂い、濡れた感触。
「こ……これでどうですか……?」
「どうですかって……」
 俺は今しがた牧野さんがキスをした頬を押さえた。
「馬鹿にしてるんですか、キスっていうのは少なくともこうすることを言うんですよ」
 赤い顔で目を反らしていた牧野さんの右手を素早く掴んだ。そして唇を当てる。手首に、手のひらに、指の一つ一つに。
「あ、や、待っ……いや、そんなの……ッ」
 俺は牧野さんのような触れるだけのキスはしない。口を大きく開いて、舌を出して、まるで喰らうようにむしゃぶりつく。皮膚の下の血管の脈動が伝わるくらい、味が俺の唾液のそれになってしまうくらいに。
 二本の指を同時に口の中に含んだ。牧野さんはヒッと声を漏らしてもう一方の手で抵抗しようとする。
 だが俺が指の付け根に舌を押し当てそのままグリグリと強く弄ってやると、嫌だの駄目だの言いながら手は明後日の方向に逸れていった。
 透明な唾液が手首を伝って法衣の中に入り込み、牧野さんの肘や二の腕を濡らしていく。もう立っていることすらできなくなった牧野さんは、右手だけを捕らえられたまま床にくずおれている。
「キスするっていうのはこういうことを言うんですよ」
 あなたのするお子様のお遊びのようなものはキスとは言わない、俺の言葉が聞こえているのかいないのか、牧野さんは体の力が抜け、不安定になった首をぐらりと後ろへ倒し、見下ろす俺の方を向いた。
「……かり、ました……から……」
「それなら?」
 俺はあえて「どうするんですか」と言わずに、牧野さんがしやすいようにその場に腰を下ろし、後ろ手をついてわざと無防備な状態を作ってやった。
 遠慮がちに伸びた手が俺のシャツに触れる。平坦な腹を越え、胸をたどり、喉元まできっちり閉じられたボタンに向かう。
 どのタイミングでキスをしてくるかはどうでもよかった。牧野さんが自分からしてくれるのなら。
 そうとも、今日はそうしてもらうために俺はここに来たんだ。されっぱなしのマグロ状態の牧野さんから、進歩してもらうために。
 牧野さんは上から三つ目のボタンを外したところでじっと見つめる俺の視線に耐えられなくなった。
「そんなに……見ないでください……」
 まだ何もしていないのに、されているような気分になる―――から、か?
「俺に見られない良い方法がありますよ」
 そう言って俺は喉仏の形がはっきり分かるくらいに首を差し出してやった。
 牧野さんは俺の言いたいことを察したようで、さっきキスした時のように瞳に涙の膜を張りながら、顔を近づけてきた。
「口は開けるんです、そう……吸って、それから咥えるように……舌で舐めて……時々歯を当てて……」
 言われるまま、牧野さんは首筋や鎖骨、胸元にキスをして回る。出される指示が増えていくと、牧野さんは俺に見られていることより指示に従うことに精一杯になっていた。
 見ないなんて言ったが、そんなことできるはずがない。初めから俺に見ないなんて選択肢はなかった。
 それでも牧野さんはズボンを下ろし、俺の息子が出てきたところで動きを止めた。 まあ、それ以上牧野さんができるとも思っていなかったけども。
「宮田さん……っ、宮田さん……っ!」
 本当に泣いてしまいそうな両目が俺に懇願した。「もう無理です、さすがにもうできません」と。
「何ですか、まさかこれで終わると思ってるんですか?」
 最後にちょっとした悪戯心が働いて、追い詰めるようなことを言った。どうせできないだろうけど、そう言われたらどうするのか見てみたくなったのだ。
 ああ、でも俺は浅はかだった。既に泣きそうな牧野さんがそれ以上我慢できるはずもなかったのだ。
 牧野さんの目から大粒の涙がこぼれた。
「っく、…ひっ、く」
「ま……牧野さん……?」
 やばい、これはこのまま終わってしまいそうな気配だ。俺は慌てて牧野さんをなだめる言葉を考えた。チンポ丸出しで、牧野さんに跨られる格好で。
 次の瞬間、俺は何が起こったか分からなかった。
 内股に温かく、けれど冷たいものが触れていた。
 牧野さんの唇と頬だった。目の前の逸物に触れそうなところに牧野さんの鼻があり、太腿にうずめられた顔から目線だけが俺を見ていた。冷たいと感じたのは牧野さんの涙だった。
「これで……許してください……」
 頭の中で何かが弾けた。毛根が飛ぶ勢いで。
 泣きながら奉仕する、奉仕しながら懇願する。
 これだけで俺はイケると思った。


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ツイッターの診断メーカー「あなたの色んなところにキスして反応を見てみたー」の宮牧verです。
ちなみに結果は、
唇→瞳がウルウル
頬→苦笑い
手→喰われるー!
首筋→相手をガン見
胸元→瞳がウルウル
内股→ハゲる
でした。
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