飼ひ殺し | ナノ


※大量出血、四肢切断あり




 何人の侵入も許さない、冷たく閉ざされた空間があった。
 壁厚十数センチにも及ぶ分厚いコンクリートがその部屋を囲っている。
 わざわざ本院から離して別棟にしてまで設けられたそこは、一応短い廊下で本院と繋がってはいるのだが、隣に専用の階段があり、また境界の鉄扉には常時厳重な施錠がなされていることもあり、完全な別空間であった。
 日頃施設で働く職員でさえも、それが何の部屋なのかは知らずにいる。いや、部屋であることさえ知らない。
 ドアの先がどうなっているのか誰も見たことがないのに、知りようがない。
 おそらく非常用の通用口か何かだろうと考えて、分かった気になっているのだ。おかしい、と思うこともなく。
 もっとも、それは彼らにとって幸せなことであった。
 院長専用の部屋であった。代々犀賀医院の院長となる人間のためだけに、その部屋は作られている。
 内側は汚れをはじくようにタイルが貼られており、床も同様である。そこにステンレス製で可動式の台と、壁際に備え付けの似た椅子が一脚、隅の棚には鋭利な器材が並んでいた。
 入り口には実験室、と札がついていた。



 調べるほど奇妙な体であった。しかし興味深い。
 構造はほぼ人体と同等であるのに、赤い血には赤血球が含まれていない。
 試しに切開面も調べてみたが、白血球や血小板も存在しない。それなのに傷は即座に修復されていく。傷が浅ければごく短時間で、深ければかなりの時間を要するが、最終的には完治に至る。
 綺麗な体だ。真っ白で滑らかな肌。触れるとさらさらしている。仄温かい体温も感じる。
 手足に筋肉がほとんどついていないのは、それを必要としない環境に育ったからではないか。ほっそりした指からも、周りからとても大事にされてきたことが窺える。
 指先に桜貝のような爪が載っている。犀賀は黒々とした髪に指を差し入れて、顔をわずかに上向かせた。
 長いまつ毛にふっくらした唇。穢れを知らない表情だ。この個体を表現するには相応しくないかもしれないが、生娘のような無垢さがあった。これまで手にかけてきたどの個体より、これは美しい。
 なにせ、初めて見た時は人間だと思ったくらいだ。
 身に付けているものから、何かしらの関係者であると判断して地下室に収容したのだが、あまりに目を覚まさないので、痛覚刺激を与えてみた。その際に、人間でないことが発覚したのだ。
 メスの切っ先で引っ掻くようにして五センチの赤い線がつけてみる。個体が反応しないので、もう少し強い刺激が必要かと思っていると、赤い線がゆっくり消えていくのを、犀賀は見た。腹の中で薄れかけていた研究意欲がぞろりと顔を出した。
 メスを持ち直し、身を乗り出してところ構わずに切開する。
 血に似た赤い体液が吹き出して顔を汚した。だが犀賀は少しも気にならなかった。興味があるのは皮膚の下の様子だからだ。
 人間でいうなら二十七、八くらいだろうか。青年のような外見通り、この個体は臓器もみずみずしかった。
 白い皮膚がめくれあがり、暗赤色の内蔵が晒される。そこに手を突っ込んで小腸をズルズルと引っ張り出した。血と脂肪で滑るのが厄介だ。引いても引いてもきりがないので、手近なところで切断し、後は床に落とした。どうせ再生するのだからいい。消化物はなし、と記録する。
 取り出すのも面倒な臓器はそのまま切り開いた。瓢箪型の内蔵がぱっくり割れてピンク色のひだが現れる。
 人差し指を滑らせると寒がるように全体を細かく震わせる動きと、個体の呼吸に合わせて緩やかに蠕動しているのが感じられた。
 時々ぷしゃっという音と共に胃液が射出され、同時に酸臭が鼻をつく。
 面白い。体内を暴かれていることに気づいていないとでも言いたいのか。
 観察に邪魔なので肋骨は全て切断した。電動の刃を滑らせた後から、血が溢れだしてきた。肝臓を傷つけたらしい、解剖台が血の海になった。
 滝のように滴る血と音が床に跳ねる。赤い筋は犀賀の足元を通り、排水溝へ吸い込まれていく。流れない組織や臓器の一部は散らばったままで、長靴を履いた足が何度かその上を行き来する。通行の邪魔になった物は遠慮なく踏み潰された。
 犀賀は今、丁寧に取り出した心の臓を眺めていた。
 血のしぶきが治まったところでトレーに載せてライトにかざす。それは胃と同じように、本体から切り離されてもいつまでもしぶとく脈打っていた。
 これでも個体はまだ目を覚まさない。感覚がないのだろうか。

 麻酔が要らないというのはとても楽だが、それは痛覚がないからそうしているのではない。貴重な物品をこれらに消費するのが無駄だからだ。
 人間でないものに気遣いは無用であろう。たとえ顔を振り乱して嫌がっても、相手は人間でないのだから関係ないことだ。
 しかしこの個体は他と違って泣き叫ばない。
 他の個体を同様に処した時、喉を切り裂くような金切り声を上げられたものだが―――あれはやかましくて参った―――声帯を抉り取ったら一時的に静かになった。が、すぐに再生するからあまり意味はない。気管を首ごとへし折っても、肺を切り裂いても、しばらく血の噴水が見られた後に復活してまた叫び始める。
 それも今となっては驚かなくなった。この個体群に死が存在しないということは、地下に抱える同様の個体で解明済みだ。
 しかしいつまで経っても分からないことがあった。生についてである。
 個体がいつ生まれ、どのように増えていくのか。未だほとんどが謎のままだった。
 細胞自体が分裂を起こしているのか、菌やウィルスのように宿主に寄生して増殖するのか。それは過去の個体では確かめようがなかった。
 調べるも細胞は死滅していた。作用機序は全くの謎だが、ガソリンもないのに走る車のようなものらしい。魂のない生命活動がダラダラと続けられているのだ。
 原理を尋ねたくとも、個体群は総じて脳機能に問題があり、意思の疎通は不可能。その中で、これほど人間に近い個体を見たのが初めてだった。
 犀賀は長らく冷たくなっていた自分の体に、血液が沁み渡る感覚を覚えた。知的探求心と外法に触れる背徳である。メスを入れる際には酩酊による軽い眩暈を起こしもした。
 現段階でできることはほぼやり尽くした。おとぎ話の眠れる死体もいいが、あとは個体の目が覚めないことには始まらない。切り刻むのには飽きていた。



 犀賀はシャーレに新個体の細胞を置き、そこに別個体の細胞を注入して、顕微鏡越しに遷移を見守っていた。
 不意にうう、と小さな呻き声が聞こえて振り返る。例の新個体が目を覚ましていた。
「ようやく起きたか」
 声をかけると、個体は目を丸くして顔を上げた。拘束帯で首元を固定されて、わずかに顎を下げた程度だが、驚いているのが分かる。辺りを見回そうと首を動かしている。
「どこです…ここは、あなたは……」
 想像通り、育ちのいい人間の喋り方だった。少し違ったのは、男にしてはひ弱で高めの声だということだ。まあ、ひ弱に聞こえるのはこの状況のせいかもしれない。
 犀賀が答える前に、個体は悲鳴を上げて顔を逸らそうとした。視線の向こうにあるものを思い出して、振り返らずに納得する。流しに置かれている切断足が目に入ったのだ。
 大腿の付け根から切り取られた生白い足。赤黒い血があちこちに塗りたくられたようになっている。
 時間が経って乾燥し、固くなった血塊がこびりついた切断面。筋組織はめちゃくちゃに、そこから折れた骨が飛び出ている。
 それが偽物ではないとすぐに分かったのだろう。漂う異臭も慣れない者には強烈に感じられるはずだ。個体はわずかに自由な手首や足首をばたつかせて、拒絶と逃亡の意を同時に示した。
 労力の無駄を示唆することもなく、犀賀は個体の動き、表情等をじっくりと眺めまわした。
 腹圧で内臓の隙間から血が沁み出てくるが、臓器のそれぞれは装置のように震えだし、個体の意思に応じて活動を再開させていた。再生能力の高い胃や心臓はもう半分も回復している。
 その体にゆっくりと手を伸ばすと、赤く染まった手袋を見て個体はおののき、顔を肩の陰に隠そうとした。犀賀は素早く細顎を掴んで強引に正面を向かせる。
「やっ…やめてください……」
 個体は首を振ることもできないので、さも同情を誘うような哀れな声を出した。拒絶から降伏へと趣旨を変えたのか、「お願いですから、殺さないで」と、まるで人間のような反応だ。
 この個体は特別従順なのだろうと犀賀は思った。人間でも最後まで反抗的な目をする奴がいるから、涙を流しての哀願は性格によるものだろう。
 しかしそれを見た犀賀は憐憫とは程遠い表情で低く嗤っていた。
「おかしなことを言う、お前はそれで生きているとでも言うのか?」
 個体は困惑を表した。意味が分からず、視線がさ迷った。ふと、それが自らの体へ下りる。
 顔に触れてしまいそうな距離で、握り拳大の心臓が脈動しているのを個体は目にした。全体をひしゃげながら、赤黒い肉の塊がビクン、ビクンと動いている。
 片足を見た時以上の相当な驚きと恐怖だっただろう。個体は絶叫を上げ、髪を振り乱して暴れ始めた。
「驚くこともあるまい、その治癒力だ」
 どんなに力を込めても拘束帯が外れないことを知っている犀賀は落ち着いていた。一旦個体から離れて流しに向かう。
「どうせすぐに完治する。―――見ろ」
 しかし個体は目を閉じて顔を背けていた。犀賀は元の場所に戻って、それを個体の眼前に突き出してやった。
「お前の足だ」
 見覚えがあるだろう?そう言われて個体は目を向けざるを得なかった。そして裂けてしまいそうなほど瞼を大きく開いて驚愕した。甲の形、指の大きさ、確かにそれは自分のものと理解したらしい。個体はまた泣き喚いた。
 声が変わっただけでこの個体も根底は他と同じだ、叫ばれればやはりやかましい。犀賀は一瞬だけ、個体が目を覚ましたことを面倒に思ったが、それを差し引いても会話が通じることは大きかった。この個体は説明をきちんと理解している。だからこそ実験は可能なのだ。


 曰く、個体は人間のつもりであるらしかった。名前、住所、職業等、尋ねることには何でも答え、ここに来たことも分からない、この体のことも分からないと言った。異界をさまよう内、長い霧の中を抜けたところでここに出たので、生還できたと思った。しかし村に自分の知る面影はなく、困り果てて山中に身を潜めていたのだという。
 あらかたを聞き終えて、犀賀は立ち上がった。拘束帯に手を掛けると、個体はほんの少し嬉しそうな顔をしたが、長さを調節して体が大の字に開かれていくと、すぐさま怯えて身を縮ませた。
「ひっ、やめて、答えたじゃないですか……っ」
「残念だがお前の言うことは確かめようがなく、一切信用できない。異界のことも、非現実がすぎる」
 それを言うなら個体群の存在自体が非現実的で信用できないことになるのだが、結局のところ、個体が言ったことは何ら役に立つ情報でもないというだけのことだった。
「お前の知ることに価値などない」
 犀賀は冷たく言い放った。
「価値があるのは、お前の存在だけだ」
 別の拘束帯を用いて、個体の下肢は腿と足首を繋ぐようにMの形で拘束された。犀賀は新しい手袋に履き替え、個体の足側に立つ。
 邪魔な陰茎と陰嚢を左手で押しのけて、犀賀は肛門に指を突き入れた。異物感に息を詰めて、個体は首を振る。
「やぁっ、やめてくださいっ…!」
 十センチの中指は奥まで一息に入り込んだ。周囲になじませるように内部で円を描き、すぐに人差し指も追加する。
「辛くないはずだが?お前が寝ている間にさんざん慣らしてやったのだからな」
 血液が入り込んでは意味がない。だから犀賀は細いものから順に肛門に含ませていった。わざわざ医療用の潤滑剤まで持ち出して、この個体のために時間と労力をつぎ込んだ。
 性器については、内外から存在を確認していた前立腺を刺激し続けてやれば、ペニスは目に見えない程度の反応から始まって、少しずつ芯を持つようになり、人間同様に扱けば射精することも分かっていた。
 個体の感受性を確かめるのはそのついでであった。陰茎への刺激に応じて個体は徐々に呼吸を早め、全身を薄いピンク色に染め上げて身動いだ。精液を吐き出すまでの過程で嫌悪する様子は見られなかったことを思い出す。
「なんで……私の体、どうして…こんなことに……」
 だがそれを知らぬ個体には、既に三本の指すら物足りないように吸い付いている肛門の変化が受け入れられないようだった。確かにこれが人間の男だと仮定すれば絶望的かもしれないが、実験体としては非常に好ましい反応だと言える。
 拡張する中途の段階で、訓練すれば手首よりも太いものもいけそうな予感もしていたことを言おうかと思ったが、その実験の必要はなかった上に、一個体に説明してどうなるというのか。かえって無用な恐怖心から耳障りな啼き声を上げられても不快なので黙っていた。
 犀賀は膝をついて慎重に台に上がった。血溜まりから真っ赤な血液がズボンに沁み込んでいく。個体が慌てたように尋ねてきた。
「なに……なにするんですか……」
「使えるかどうか確認する」
 ベルトを外し、冷静に短く述べてからズボンを下ろした。
 左手で自身のペニスを握り、手のひらから伝わる温度の高さに犀賀はこれからのことが可能であると再認識した。
 犀賀は失笑を禁じ得なかった。人間さながらのこの体にメスを入れた時から、自分は興奮しきっていたのだ。
 物心つく頃から感情を殺すことを命じられ、粛々と従ってきたつもりであったが、己にも殺しきれないものがあったらしい。
 しかしそれも無理のないことだろう。医者ならば目下の研究体を前に誰だって欲せずにはいられないはずだ。
 永遠の命とその理由―――これには利用価値がある。
 他の個体より遥かに上位に位置するこの個体がいれば、ゆくゆくは不可解な存在の解明に結びつくかもしれない。
 手放すなど、考えられない。


 犀賀がペニスにコンドームを装着している時、個体は健気にも体を揺らし、括約筋を締めて犀賀の侵入を拒もうとしていた。
 だが無駄な努力だ。菊の蕾のような窄まりは今でこそひっそりとその口を閉じているが、一たび指を入れれば如何に嫌がろうとも入り込むものを素直に受け入れるよう慣らされている。
 犀賀は念を入れてコンドームの上からさらに潤滑剤を塗布して個体の肛門に突き入れた。柔らかな粘膜は一息で最奥まで侵入を許した。
 個体は想像していた痛みがないことに困惑していた。
 犀賀が下腹を動かすと、個体は苦しそうな息をつく。悲鳴を口から逃がして内部から犯される感覚に耐えようとする。その様子が犀賀からは丸ごと見渡せた。文字通り丸ごと、である。
 はみ出た腸がぶら下がり、力なく揺れる先端から何かの液体が垂れた。個体の内蔵は犀賀が好き勝手に荒らしたせいで、踏み荒らされたような有り様であった。犀賀はおもむろにその中に手を突っ込んだ。個体が目を剥いて歯を食いしばる。
「ああ、こうするとよく分かる、ここに入っているな」
 ペニスを咥えた直腸を、犀賀は上から指でなぞった。いくつかの硬い筋肉の層の先に頭部が張り出したペニスがあることははっきり分かる。腰を前後させると、出入りで膨らむ様子が手の平から感じられた。
「あ゛、や゛、や゛……」
 痛覚は意識を失わない程度にあるようだ。黒目は完全に瞼の裏にひっくり返っているが、常人なら確実に耐えられない痛みだ。ならばいい、と犀賀は近くに置いていた鋏を取りだして、直腸近くの内臓を全て切り取った。これで本当に全てが見渡せる。
 それでもペニスを食い締めるだけで、力を失わない内部を思い、気絶できないというのは苦しいだろうなと心の中でつぶやいた。
 が、犀賀は大して自分が可哀想とも思っていないことに気づいて不敵に笑った。
 どうせ化け物だ。苦しかろうと構うことではない。死ぬこともないのだから、存分に利用させてもらえばいいだけのこと。
 ピストンを早めても締め付けに変化がないのは、腸を取られた感覚の方が勝っているからか。いずれにしろそれではイケないので、犀賀は直腸を握る力を強めて、自らも締め付けに加担した。
 ほとんど自慰のようなものだった。
 化け物の体を介した自慰か、薄気味悪くてこれが終わったら二度とごめんだと思ったが、実際はそこそこ気持ちもいいものだ。…ただあまり長くは使うことはできないかもしれない。
 ことさらに強く握り、体内から潰れる音が聞こえると同時に再び血が沁みだしてきて、犀賀はコンドームの中に精液を吐き出した。



 負荷が一定の基準を超えると個体はしばらくの間、気絶状態となり、一切反応を返さなくなる。
 個体群に共通することが、この個体にも言えたということだ。犀賀は解剖台から降りて、また顕微鏡に向かっていた。
 数時間から長ければ数日かかると思われた個体の回復時間だが、実際は数十分で目を覚ました。
 切り取ったばかりの下腹の内臓はまだ酷い状態だが、あれから手を加えていない心臓や胃は表面まで綺麗に完治した。筋肉と骨が少しずつ現れ始めている。
 犀賀が近づくと、個体はまた犯されると思ったのだろう、ひきつけでも起こしたかのように激しく全身を震わせて、涙声で叫んだ。
「ひゃっ、来ないで、助けて、助けて!」
 死なない体に助けが必要なのか?相変わらず自分の体に意識を向けようとしない個体に対して皮肉を思いついたが、今後の実験を考えると恐怖を助長する発言は相応しくなかった。
 個体はやがて助けを乞うことの無意味さを感じたようだった。ここに犀賀以外の人物が出入りする気配はない。その犀賀が逃がさないと言っているのだから、万に一つも助かる道はないということだ。しかし個体は諦め悪くいくつかの名前をつぶやいている。
 宮田という名前がよく出てくる。兄弟と言っていたが、ここに来るまで何度も助けられたのかもしれない。だから今も助けに来てほしいと真っ先に願う。
 …好きにすればいい、犀賀は独語して実験室を後にした。
 数分で犀賀は戻り、今度は閉め切っていた戸を開けたままで準備を始めた。
 犀賀がもう相手にしなくなったので、個体は何をするのか、どうしてこんなことするのか、もっと違う方法でお互いは理解できないのか等と尋ねてきた。
 よりにもよって村でもっとも非人情的とうたわれる己に説得まがいの言葉を口にするほど、少しでも実験を引き延ばしたいらしい。犀賀は心中であざけった。
 何を言おうとも個体に決定権はない。

 生殖方法を探る中で男の個体に妊娠させようと思ったかには理由があった。
 個体を回収した日、地下室全体は地響きと轟音に包まれた。収容していた他の個体たちの喚声と暴動であった。
 人間に反応しているかと思ったがそうではない。この個体にのみ明らかに反応を返している。犀賀は現象に基づく一つの仮説を打ち立てた。
 また実験室を出て、今度は隣の部屋に移動した。
 実験室の隣は処置室になっている。簡易的なデスクや書棚もあり、実験室での記録をまとめるのに使用している。
 診察ベッドには地下室から連れてきた一体の個体がベッドに括りつけられている。布を噛ませているから静かであったが、既に興奮状態なのは明らかだ。
 これの前に無抵抗の新個体を差し出してみたらどうなるか?それはこれからこの目でじっくりと拝見することにしよう。


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牧野さんが八尾さんと同様の体を手に入れてしまったらの話。
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