クリスマスの贈り物

メリークリスマス師匠、そして暖かな年越しを、師匠!





★メリークリスマス★







その日、花は自室で外に漏れそうなほどに大きなため息をついた。

(こんなに汚れちゃったら、もう無理だよね…リアス式海岸にしか見えない…)

焦げて変色してしまった羽織を手に、火を消し止めた灰が彼女のスカートまでを黒く汚している。
手で炭を払いのけたものの、羽織についた焦げた後は全く取れる様子もない。

羽織を広げて壁にかけて、もう一度大きなため息をついて椅子に座ってうな垂れた。
元の色は綺麗な赤色で、その繊細で上品な色味に惹かれた。
裁縫が元々得意なわけでもないし、こちらの世界に来てからは、触った事もなかったから、自分に出来るかどうか解らないけれど作ってみよう!と一念発起して購入した物だ。

(針は大きいし、糸も切れやすいしーー何度も諦めそうになったけど、でも、…頑張ったのになぁ)

大体の型紙は記憶にある家庭科の授業の応用で、針と糸は事情を説明した芙蓉姫と、たまたま居合わせた雲長が用意してくれた。
それにレ報いるためにも!とコツコツと夜なべをして2月もの時間をかけて作った超大作だった。

花はがっくりと肩を落としたまま、長期間の睡眠不足によりウトウトと船を漕ぎ始めた。
と、その時部屋の扉をノックする音が聞こえる。

「花ー?まだ起きてる?」
「あ、ハイ…」

ふわっと睡魔から飛び起きた花は、慌てて部屋の扉を開けた。
ふんわりと可憐な顔を上気させて、芙蓉姫が立っていた。

「そろそろ出来上がるって昼間に言ってたじゃない? お茶でもどうかしらと思ったのよ」

ほっこりと湯気を立てるお茶と豆菓子をお盆に乗せて、芙蓉は開いた扉から部屋に入った。

「あ、ありがとう芙蓉姫。でも、あのね、その…」

部屋に招き入れながら、青い顔をして言い淀んだ花に、芙蓉は小首を傾げた。

(今日にでも完成できそうなのって、昼間はあんなに嬉しそうに言ってたのに…?)

そしてすぐに部屋にかけられた羽織を見て、なるほど、これが原因かとお盆を机に乗せて納得した。

「あー…なるほどね、コレは落ち込むわね」

よしよし、と花の頭を撫でながらお姉さんの様に優しく微笑む。

(花が寝る間を惜しんでずっと作ってきたんだもの。…何とかならないかしら? でも、こんな時にこんなものを何とか出来そうなのって、雲長殿くらいしか思いつかないのよね。 かと言ってこんな時間に呼ぶのもアレだし…)

本来なら、自分だってこんな時間に邸内を歩き回るのは忍びない時間だ。
今夜は昼間から花の様子を見ようと用意していたから、事前に女官達に伝えていたからここまで来ているのだ。
(さて、どうしたものかしら…)
うーん、と顎に手を当てて芙蓉は考えた。
よしよしと花の頭を撫で続けていると、ふとその着ている着衣に気づく。

「…この羽織、シミの部分だけ切っちゃうってのはどうかしら?」
「えっ」

突拍子ない発言に、思わず花は俯いていた顔を上げて芙蓉を見やる。
目が本気だ。

「ほら、あなたの着ているその…上着。花のいた国では良く着られていた物なんでしょう?」
「…カーディガン…たしかにみんな着てる…!」

この部屋に突っ込みを入れる人が居ない。
きゃっきゃと両手を合わせて、名案とばかりにハサミを入れる二人。

「丈が短くなった分、もう少し防寒性が欲しいわね」
「あ、この焦げた部分を裏地にして、綿をいれたらどうかな!?」
「いいわね、ここは冷えるし首元にも白い当て布をするとかはどうかしら」

モスモスと詰め込まれる綿は、背中全体を暖める役割に変わった。
焦げた布地も裏地として使えば余すことなく使える。
しばらく二人であーだこーだと言いながら、試行錯誤で何とか裁断、綿入れ、縫製をやり終えた。
そうして夜半になり、使いの者が迎えに着た芙蓉が晴れ晴れとした顔で帰っていった。

そして完成した品を前に、花は気づいていた。

(これ…おじいちゃんちで良く見たことある…!)

DOTERA。
暖かな綿を裏地に、ふっかふかの背当てをつけてコタツで読書していた祖父の姿が急に蘇ってくる。
しかも、なまじ赤色の服に白い首当てをしたものだから、雪化粧に映えるサンタクロースの上着にしか見えてこない。

(ーー贈り物は気持ちが大切って、おじいちゃん言ってた…)

ニコッと小さく微笑むと、何とも言えない罪悪感と共にドテラを包み紙にしまった。
可愛らしく絹糸でリボンを結ぶと、ラッピングされたプレゼントの完成だ。


もちろんそれを渡された相手は、クリスマスとかDOTERAとか知らないので、ちょっと変わった服を弟子が一生懸命作ってくれた事に感銘を覚える。
そしてそれを嬉しげに執務室で(さすがに外には着ていかない)で羽織る姿をみた雲長が、ぶるぶると肩を震わせながら早歩きで出て行ったのは、別のお話。





師匠、メリークリスマス
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