バレンタイン/オスリモ/チョコ

世界中が彩づいて見える、フィルターがかかったような気分だった。

「オスカー様、甘いものは嫌いかなぁ・・・」

アンジェリークはオスカーの執務室の前で足を止め、もう一度手鏡を開いてリップを塗り直した。
髪がはねているのを押さえようと、手で押さえつけたが、やはり治らない。
むぅ、とした顔をしつつ、ぷるぷると首をふって笑顔を作り直す。
よし、と扉に向き直る。

「・・・なんて言うかしら。」

これを渡した時、オスカー様はなんて言うかしら。
他の守護聖に渡した時は、みなさんニコニコ受け取ってくれたり、顔は真顔でもちょっと微笑んでくれたり。

「こ、これは義理、だし」

そうよ、これは義理。
アンジェはすぅっと鼻から空気を吸い込むと、
バクバクと揺れる心臓に勢いをつけるように、大きめに音を立てドアをノックした。


ガチャ

すぐに、オスカー様の補助の方が扉をあけて、微笑んで一礼すると、入れ替わるように部屋を出た。

「あ・・・」

出て、いくの。
アンジェは包装されたそれをギュウウウッと掴んでしまい、慌てて力を緩めた。

心臓がうるさい。
耳たぶまで熱くて、いま、きっと顔が真っ赤なんだろうと思う。


「お嬢ちゃん、待ってたぜ」

くすくす、と部屋の奥でやりかけの書類を脇に寄せ、オスカーがこちらに微笑んでいた。
アンジェはおずおずと足を進め、机の前まできて机に、大事に胸に抱きしめていた、それを置いた。

「あの、オスカー様・・・いつも、ありがとうございます」

ロザリアと、ディア様と作ったので、皆様にお配りしてるんです。
と一呼吸で言い切ると、アンジェはやっとオスカーの目を見た。

「なんだ、他のやつにもあげていたのか・・・なんて、俺が思うはずないだろう?ありがとう、お嬢ちゃん」

しゅるっとリボンをといて、箱を開ける。
リボンはサテンの細い白いもので、ワインレッドの箱を十字に彩っている。
その箱の中には、チョコレートが二つ。

「あの、甘いものがお好きか知らなくて・・・ちょっとだけなんですけど、美味しい、はずですよ・・・?」

最後の方は自信なさげに声が小さくなったが、アンジェは目線をやや下げつつも、チョコレートを口に含んだオスカーの事が気になるようで、目線は、はずさなかった。

心臓が鳴る。
アンジェは指先で遊んでみたり、靴のつま先を見たり、オスカーが言葉を発するのをドキドキしながら待った。

「・・・オレンジの香りがするな」

オスカーから発せられた言葉に、アンジェはにこっと微笑んだ。

「はい、オレンジピュールをいれたらいい香りがするって、本に書いてたのでいれてみました!あと、お酒も、ちょっと」

オスカーはぺろりと舌先でチョコレートをつまんだ指の先を舐めた。
その動作に、ただでさえうるさい、心臓はキツツキにでも突かれているように揺れる。

「・・・とても美味いチョコレートだ。ありがとう、お嬢ちゃん」

「・・・!は、はい!」

パァッと、花が咲くように笑う。
アンジェはペコリと頭を下げて、執務室の扉をあけた。

「オスカー様、もう一個のほうは、バラの香りなんですよ」

失礼します、と浮き足で出て行くアンジェを見送り、オスカーはふわりと微笑むと、アンジェと入れ替わりに入ってきた助手にカプチーノを頼んだ。

「・・・本命ではない、か」

肩をすくめ、聖殿から寮に向かうアンジェの姿を窓越しに見る。

スキップをするように、ニコニコとして、上機嫌だ。

「オスカー様、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

カプチーノを口に運ぶ。
もう一つのチョコレートを手に取ったオスカーは、バラの香りをふわりと鼻腔に感じて、やがてハッとした表情をみせて、こう言った。

「・・・やるな、アンジェリーク」




チョコレートを持ち上げた底に、









彼女の、スキップの答えが隠されていた。


終わり


バレンタイン!本命には、底に告白ってかっこよくないですか?(笑)
うちのアンジェはツンはあまりないけど、中々デレない。
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