最強、その一言が似合うほど帝国学園のサッカーは凄まじかった。私には圧勝という言葉も彼等にとっては足りないように見えた、相手のキーパーは戦意喪失してるのに執拗にゴールを決める。けたけたと笑う者もいればニヤリと口角をあげる者もいる、サッカーってこういうものだったけと誰かに問いたいとも思った。
そんな現状に私はそむけたいのに目を逸らす事も瞑る事さえも出来なかった。帝国が点を決めるたびに心臓が跳ねる。恐怖で?歓喜で?私にはそんな風に考える余裕が無くて金縛りにあったようにその場に立ち尽くす。誰かの笑い声(私は叫び声にしか聞こえなかった)で頭がガンガンする。その声を遮断するように耳を塞ぐ、その行為に意味は無かったようでまだ声が聞こえる。
後悔した、帝国の試合に見に来た事を。40年間も無敗してきた帝国の試合を一回見たかった、試合を見に行ったことのある人に尋ねれば強いその一言しか返ってこないのに不思議だったから、だから見に行きたいと思った。練習試合を噂で聞きつけここまで遥々やって来たのに。帝国の彼等は見た目はいかついけど優しいのは知っていた、だからサッカーであんなに性格が豹変するとは思わなかった否思うはずがなかった。
「鬼道、」
来ちゃったと言えば鬼道の眉が下がった。試合も終わって休憩してるときに話しかけてみる。喋りかけるのには少し躊躇ったが意を決した。嫌そうな顔をされたわけじゃないけど嬉しそうな顔もされない。鬼道とはただのクラスメートでこの前の席替えで隣の席になりよく喋るようになった、それだけの関係なのだから仕方がないけど。少し気まずい雰囲気が漂う。
「見たのか。」
濁らすように鬼道は言った。いつもの様にハッキリと堂々と喋らない鬼道は項垂れている。そんな鬼道を見るとさっきまでの最悪の試合がなかったように思えた。そうだ、さっきの鬼道は違う誰かで鬼道の偽物、今私の目の前にいるのは本当の鬼道?いや見間違えるはずもないしそんな非現実な事は起こり得ない、目の前にいる鬼道もさっきの酷い鬼道も同一人物だ。
「うん。」
「…そうか。」
鬼道は私が帝国の試合を見た事がないと知っていた、私に見に来なくていいと言ったのも今なら頷ける。タイムスリップして過去の私に注意してあげたい気持ちになった。そうすれば私自身もこんな気持ちになることもなかったし、鬼道にそんな顔をさせたくなかった。ゴーグルで目は見えないけど、オーラが私に伝えた。
「遅くなったけどお疲れ様。」
鬼道はあぁと歯切れの悪い返事をした。本当は私に聞きたいのだろう、試合の感想を。私が率直に試合の感想を言えば鬼道はどういう反応をするだろうか。辛い顔?、やっぱりお前もそう思ったのか?とも言われるかもしれない。
「いつもああいう試合してるの?」
「あぁ。」
「あれは本心でやってるの?」
鬼道は言葉を詰まらせた。誘導尋問的な行為に腹をたてたのか、それとも。結局鬼道も自分に対して恐れているんだと思う。目を凝らすとレンズの先に鬼道の瞳が見える、その瞳は悲しそうで鬼道らしくない瞳をしていた。鬼道らしいって何?って聞かれると私は分からないと答えるだろうけど。
「…あぁ。」
それは嘘。溜息の様に漏れた鬼道の言葉は嘘で満ち溢れている。本当に鬼道らしくないと思った。そんなに辛いんだったらサッカーなんてやめちゃえば良いのに、私がそんな事を言えるわけもなく鬼道には適当に相槌をうった。
うつろな目をしてわたしを見ないで逃げ出したいの?
企画
こめかみに弾丸さま提出作品