今日もいつもと変わらない。
天気もよくて、外で部活動に勤しむ人たちのざわめきが聞こえてくる、のどかな放課後だ。
そんななか、どうして俺はこんなことになっているのだろう。

「…なぁ、きいてやす？」

今俺の前には沖田さんがいるのだ。
だが、沖田さんが話している言葉はほとんど俺のなかに入ってきていない。
最初の言葉が衝撃過ぎた。

　───すきだ。
　　──…オレは山崎のことが、好きなんでさア。

そう、俺はたった今沖田さんに告白されたのた。
そして不思議なことがもうひとつ。
柱の影から、チャイナさんが覗いているのだ。

「ザキ。」
「…あ、すみません。もう一回お願いします…」
「だから、お前が好きだから、付き合ってくれないかって」
「そう、でしたね。」

俺は知ってる。知っていると言うより偶然知ってしまった。
チャイナさんが覗いてるわけを、沖田さんが俺に告白しているわけを。


…──それは昨日の放課後のことだ。
沖田さんとチャイナさんは教室で話してた。

「…おい、チャイナ娘、呼び出しといて黙りかよ。」
「ちょっとぐらい待つアルヨ。こっちだって必死アル」

この時点で不穏な空気は感じた。
しかし、ここで残ったのは、忘れ物を取りに行かなきゃいけないのを口実にした、ただの好奇心からだ。

「なぁ、サド野郎。」
「…あ？」
「私がお前の事好きだっていったらどうするか」
「…は？ついにおかしくなりやしたか？」
「…私は本気アル。」

この時点で俺は物凄く後悔した。
こんな話他人が聞いていいはず無かった。…いや、これも口実。本当は好きな人が告白されているとこ何てみたくなかった。

「…ごめん。オレは好きな人がいるんでさァ」
「わかってたアルヨ。ずっと見てたから。」
「そうか…。」

俺は、許せなかった。
沖田さんが告白を断ったことでほっとしている自分が。
チャイナさんの不幸を喜んでいる自分が。

「…お願いがあるアル。」
「なんでさァ」
「そのお前の好きなやつに告白して、振られたら私と付き合ってほしいアル。」
「…お前はそれでいいのか、そんないい加減で」
「それでも、それでも、お前がいいアル。それに、付き合ったらお前を私の虜にしてやるよ。」
「…わかった。」

俺はたまらず逃げ出した。
本当に俺は最低だ。


そんなこんなで冒頭に至る。

「沖田さん…、俺は…貴方が好きですよ。でも、付き合うことは。貴方の気持ちに応えることはできません。」
「…なんでですかィ。そんなの納得できねェや。」
「…俺が、男だからです。」
「そんなの知ってるし、俺は気にしないでさァ。」
「違うんです。そうじゃない。俺は貴方に真っ当に生きてほしい。チャイナさんと幸せに…」
「…！おま、きいて…」
「…すみません、そういうことなので失礼します…！」
「おい！ザキ…！」

俺はまた、逃げ出した。
そして本当に最低だ。
彼の幸せを願っているように振る舞いながら、本当は自分の醜い部分から逃げた。好きな人のために自分を犠牲にできると、そう思いたかったから。
本当に最低だ。

こんな俺をみんなはお人好しと言うけれど、これが、そのお人好しの末路。結局自分よがりの、自分勝手な自己犠牲による自己肯定。
こんな自分の事しか考えていない俺が本当にお人好しだと…？


お人好しの末路。


結局みんな、独り善がり…。