僕よりずっとちっちゃくて、ふわふわしてて、だけど普通の女の子のはずなのになまえを見てると、ついぼーっとしてしまう。なまえとの少ない関わり合いの中でどうやって僕は惚れたかなんて知らない。けど、嫌いなところはひとつだって見つからないし、なまえの全部が好きだなあって思う。
きっかけは忘れちゃったけど、僕にはこれで十分。
いばら 04
(いい匂いだなあ)
本当に眠いんだけど、せっかくなまえと二人っきりだから目を閉じてじっと寝たふりをしていた。もう心臓がばくばくうるさくて死んじゃいそう。なまえのふとももに頭をのせてるんだよ?これ、絶対聞こえてるよ。やわらかくていい匂いがして、寝るなんてもったいなさすぎる。
僕はこんな軽くパニックみたいな状態になっているけど、時折なまえは恐る恐るといったように僕の髪の毛に触れ、僕の髪の毛をなまえは撫でてるだけだった。僕が起きるのを心配しているのか、ひかえめだったけど気持ちいい。でも、決して僕を起こそうとも起ころうともせず、さっきから静かにしている。さっきからそうだ。僕が無理に引き留めたらすんなりいいよって言ってくれるし、僕がこうやってわがままを言っても何にも言わない。なまえはやさしすぎる。
「まつげ長い…」
「んっ、ぅ…?」
僕の馬鹿!不意になまえに頬を触られてついビクッとなってしまった。まさか頬を触られるとは思わなかったっていうのもあるけど、なまえを意識しすぎて僕が過敏に反応しちゃっただけだ。すぐに手はひっこめられたけど、もっと触ってほしかった。僕はまだなまえにどう接していいかもよく分からないから、こうやってなまえから僕にしてくれればいいな。なまえのあくびが聞こえて、その後また僕に伸びる手はなくて、さみしいと思った。
そういえば、さみしいなんて思うのもなまえを好きになってからだ。
「…なまえ―」
「っは、はい!」
「(やっぱりまだなまえと距離はあるよね)…………」
「寝言?」
それはそうだ。なまえとこんなに近くにいるのも今日が初めてなんだから。なまえと僕はまだまだ距離があって当然。だけど、そんな当たり前のことにもいちいち悲しくなっている僕が馬鹿みたいで、これから僕はどうやって距離をつめていけばいいかもよく分からない。この感じじゃあなまえは鈍感さんみたいだし、先はまだまだ長そうだ。
「なまえ」
寝返りをうったようにしてなまえのお腹にしがみついて僕の顔が見えないようにする。今の僕はきっとすっごく情けない顔をしているから。
なまえを独占している今がもっと続けばいいって思う。なまえの考えていることが全部僕になればいい。
なまえが誰かと楽しそうに誰かに話しかけてるときとか、僕以外の人にやさしくしているのを見るとたまらなく不安になるんだ。それで、なまえが誰かのものになってしまう前に僕も動かなきゃいけないと焦ってしまう。その感情が、最近は特にめまぐるしく気持ちが悪くなってしまうくらいに大きくなっていった。
なまえを好きになるのはとても苦しい。
まえ つぎ
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