普段ぶっきらぼうな彼には到底考えられないような萌えが頭とお尻から生えていて、だけどその色は彼らしい真っ黒。呼吸するたびに動いて、また感情に合わせて自由に動くらしい。
「ノボリさん、あの…」
「それ以上は言わないでくださいまし…」
いや、それにつっこむなと言う方が無理な話だ。
獣のおのれ
「とりあえず、今日の仕事は…」
「本日は私、遅番ですのでまだ猶予はあるのですが…」
「でも、今日中に治るんですか…?」
「…………」
ノボリさんはかわいらしい猫耳としっぽをだらんと下げて俯いた。どうしてこうなったのかも分からないんだから、そんなことは当の本人も分かるわけないか。
でも今のしょんぼりの仕方といい、いちいちかわいすぎて、私はもうこのまま一生ノボリさんに猫耳としっぽがついたままでもいいと思うんだ。見てるだけでも十分にやけてしまうくらいにかわいい。こんなことを言ったらむっとされるんだろう。猫耳にそんなに破壊力があるなんて思った以上で、目の前にきて改めて思い知らされた。できることなら今すぐもふもふさせていただきたい。
ノボリさん自身はこのまま仕事に行くなんて考えられないみたいだけど、猫耳サブウェイマスターとかすっごくいいと思うし、女の子になんか馬鹿ウケするに違いない。たしかにノボリさんの沽券には関わるけれども。
「とりあえず、私は病院にでも行こうと思います」
「えっ、病院ってもしかして動物病院…」
「なまえさま!からかわないでくださいまし!」
「ふふっ、うそですよ。でも人間の方の病院に行ったところで薬も何もないと思いますけどね…」
「では私、この先どうすればいいのですか…」
相変わらず垂れっぱなしの耳と尻尾。ノボリさんの感情を素直に表しているみたいだ。
そういう面でもノボリさんの思ってることがわかりやすくなるし(怒ってるとか、喜んでるとか)、すごくいいと私は思うんだけどなあ。今はまだ朝なので出勤にはどうにかしなければいけないと必死に考えている彼の頭を私はずっと見つめていた。
「…ところで、ノボリさん」
「はい、なんでございましょう…」
「ねっ、猫耳触らさせてもらってもいいですか!」
「はい?」
「尻尾でもいいので少しだけ…」
「私真剣に悩んでいるのですよ!?ですのに、」
「触るくらいいいじゃないですか…!期間限定だったらどうするんです?私がまばたきしてる間にもになってなくなってたら、私きっとショックで寝込みます!」
「しかし、今はそのような場合では…」
「問答無用です!」
たしかに本当に本当に困ってるノボリさんには悪いとはちょっと思ってる。だけど、私ももふもふを目の前でちらつかされて落ち着いて座ってられるはずないんだ!私は床に垂れている尻尾に狙いを定めてぎゅっと掴んだ。そうしたら、やっぱり想像通りのもふもふした感触。私の手持ちのポケモンはどちらかというとつるつる系の子たちばかりで、別に肌触りがよくないということではないけど、やっぱり毛の生えた特に猫なんかは一段と心が安らぐというかなんというか。なかなかそういう機会も少ないので私にとっては極上の物だ。それにノボリさんの尻尾は特段ふわふわしてて毛並みもつややかだった。
「すごく!もふもふしてる!」
「っ……!」
「ノボリさん!もふもふですよ!自分の尻尾やばいですよ!」
「っ、なまえさま、ぁ」
「……ノボリさん?」
私が興奮してしばらく触っていると、ノボリさんの声色がおかしくなった。ノボリさんは結構嫌がってたのに尻尾をもふもふして、何も言われなかったからつい調子に乗っていたけど。どうしたんだろう。ひょっとしていきなり猫耳やら生えたから具合でも悪くなったのかと心配になる。顔を覗いてみるともう耳まで真っ赤で、私がちらっと見ただけで顔を逸らされてしまった。もしかして私がはしゃぎすぎたのがいけなかったのか…。本当に悩んでるのにろくに聞きもしないでこんなことをしてたから勘に触って顔も見たくない!みたいな。
ちょっとやりすぎたかなと思いつつも、まだ手の中に尻尾があるものだから軽くにぎったりしていた。すると、ノボリさんの体がびくっと跳ねあがって猫耳までもがピンと伸びた。
(あっ、尻尾は敏感な部分だっけ)
はっとして気が付いた。猫にとって尻尾はとても敏感な部分だったんだ。だから、ノボリさんもやめてって言っていたんだ。私も猫の尻尾とかを不意に踏んでしまってひっかかれたし。そう思えばすごく申し訳なく思う。
すぐに尻尾を離し、今度は真剣に考えなくては!ともう一度ノボリさんの前に戻ろうとした。
でも、私が手を離して立ち上がった瞬間違和感が残った。もう一度目を腕を見てみるとしっかりとさっきのもふもふした尻尾が巻き付いていた。
「(もふもふが腕に!)の、ノボリさん」
「なまえさま」
今度はノボリさんの手が私の腕に巻きついて言う。
「責任とってもらえますよね?」
彼が覆いかぶさってきたと思ったら、ゆっくりと体重をかけられて私は耐えきれず床に倒れ、のしかかられた。ノボリさんが言ったこともよく分からないで、苦しいなと思いつつ抱きしめられていると足に妙に堅い感触。ああ、そういうことかと思った。
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