「なまえ!コーヒー飲む?」
「あっ、えっと…はい、お願いします」
別にきっかけとかは全然なかったんだけど、なまえが執務室まで書類を抱えて入ってきたものだから、お疲れ様という意味でコーヒーを入れてあげたのがはじまりで。その時にすっごくかわいい顔で喜ぶから、このくらいのことで喜んでくれるんだったら何度でもしてあげたいと僕は思った。その度にありがとうって言ってくれるのがこの上なく嬉しいし、それがなまえだから僕には二倍になって心を満たしていた。普段はなまえと関わる機会もあまりないし、こうすれば一緒にいる時間も増える。ノボリが見たら「仕事をしなさい」と言われるのが落ちだけど、幸いにしてノボリが執務室にいる時になまえは来ることはなかった。
しかし普段あんまりにもなまえと話すことがなかったから、なんて話しかけていいかも分からずにとりあえずの場しのぎで、という意味があったりもした。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして!ね、おいしかった?」
「ええ、とっても」
コーヒーメーカーで入れただけだから、味なんてそんなに大したこともないんだろうけど、毎回お世辞で美味しいと言ってくれるなまえはすっごく優しい子。僕だけじゃなくて人のことを気遣ってくれる良い子なんだ。そう言ってもらって今の僕の顔は緩んでると思う。もう笑顔とかじゃなくてもっと気持ち悪いやつ!にやにやみたいな。なまえを見つめているとそんなことしか考えられなくて僕は困った。
コーヒーを飲んでいる間なにか話していないと気まずいっていうのに(特になまえがそうなんだと思うけど)、僕はそんなことばっかり考えて結局なまえを困らせているだけなんじゃないかって思うとまた臆病になっている自分がいた。
「そろそろ行かないと先輩にも怒られそうなので失礼しますね?」
「あっ、ご、ごめんね…毎回引き留めちゃって」
「いえ、いいんです。本当にごちそうさまでした」
もうちょっと話そうよ、なんて気軽に言えたらいいのに!
執務室には僕一人になって、ドアの閉まる音がむなしく響いて、はあ、と深々とため息をついてその場にしゃがみこんでしまった。
どうして!別に女の子と話すのにこんなに緊張することも言葉が出なくなるなんてこともなかったのに、なまえの前じゃこんな風になるんだろう。本当にこれじゃあなまえにとって気まずい上司以外の何者でもない!
でも後悔したってもうなまえは行ってしまったし、毎回こんな風に一人になってから落ち込んで。もうちょっと容量よくやれたらいいのに。だけど、いざ目の前になまえが来たら頭の中が真っ白になっちゃうんだ。
「はあ……ほんと、僕のへたれ…ばか」
いつまでもうずくまっていてもしょうがないし、僕は肩を落としながら立ち上がってなまえと僕が飲んだコーヒーのマグカップを持って簡易キッチンに入った。
「なまえ……」
シンクに、僕のマグカップを置いたところまではいいんだけど、もう一つが僕にはどうしても手放せない。それを見ていると、どうにもいろいろ考えてしまう。僕の臆病さにはもちろん、なまえのことでまた頭がいっぱいになる。
このマグカップになまえが、なまえの口。
僕がそうしたいなんて頭では考えていなかった。だけど、自然と僕の手がマグカップを僕の口元に運んでいた。なまえの唇は柔らかいんだろうなあとか、そこに僕がキスしたらどうなるんだろうとか。今の僕では到底できないことだからこそ、そんなことを考えていたのかもしれない。でも、こんな変態みたいなこと絶対に可笑しいと頭の中では思っていたんだ。
そのマグカップに口つけてみれば特に味がするわけでもない。しいて言うならコーヒーの味だ。なまえの味なんて分からないし。でも、僕の心臓はさっきよりも激しく脈打っていた。
「あのクダリさん!すみません、追加の書類で…」
それが一回大きく飛び跳ねた。なまえが執務室に戻ってきた。
僕の背中のすぐそこから、僕へと声をかけた。思わずマグカップを落としそうになったけど、なんとか耐えてその声に応えようとする。
手が震えていた。もし、なまえに今のがバレていたらどうしよう。もう終わりだ。僕は結局何も出来ないままなまえのことを遠くから見ていただけで終わってしまう。いやでも、なまえには思いっきり背中を見せていたし僕の背中でなまえからは見えなかったかもしれない。だけど、なまえは本当にすぐ傍で話しかけたから気づいているかもしれない。明らかに僕が何かをしていたというのは分かってしまうと思う。でも「もしかしてさっきの見た?」なんて口が裂けても言えないしバレてない可能性もある。でも、どうしよう。もう終わりだ。どうしよう。
「クダリ、さん?」
「…………」
「どうかしたんですか?」
ついに、なまえの手が僕の肩に触れて、僕の顔を覗き込んだ。
僕が返事をしなかったことをおかしいと思ったんだろう。
「っマグカップ、持ってどうしたんですか?」
「なまえ」
一瞬だけなまえの声が震えた。
それが僕の耳に届いた時には衝動的に体が動いていた。さっきのマグカップみたいに。
簡易キッチンの奥の方になまえを押さえつけてまず最初に思ったことは、なまえはどんな味がするんだろうということだった。あのマグカップには残っていなかったなまえの味。ごくりと音を立てて喉が鳴った。そう考えたら僕はそれが気になってしょうがなくなって、まったく何が起きているか分からないといったなまえの唇にやさしく噛みついた。
思った以上に柔らかい。想像して以上にずっとずっと。はむはむと僕の唇ではさんだり舌で舐めたりしながら、目をうっすら開けてなまえの顔を見てみた。泣いてる、といった感じではなかったけど顔を真っ赤にしてふるふると震えている。嫌がっているわけではないのかな。じゃあ、と思って今度は口の中に舌を入れて、なまえの小さい舌を絡め取った。くちゅくちゅっていやらしい音が耳に響く。ぬるぬるしててあったかい。それだけで満足で味なんてあんまり分からなかった。
そこまですると、なまえがくたっとなってきて力があまり入らないみたいでずるずると壁を伝いながら体が下がっていく。それを抑えようと、なまえの足の間に足を割り込ませて、腰を支えてあげた。
「はぁ…、なまえ」
「クダリさ、…ん、ちょ、とまって」
「ん……ちゅ、むり」
「やっ、あの」
「あのね僕、なまえのこと大好きなの」
もう成り行きで言ってしまおうと思って言ってしまった。いつもはへたれた自分が今までで一番はっきりと言えたと思う。本当にここまで来るとどうでもいいと思っちゃった。今更これをなかったことにもできない。もう嫌われたっていい。今こうしてなまえの唇を堪能しているだけで満足だと、心の底から思う。
なまえは目を見開いたまま何も言わなかった。びっくりして何も言えなかったんだと思う。でも僕はなまえの耳元で何回も好きって言った。
「すき…なまえ、すき」
「っ……みみっ」
「ね、やめてって言ってくれれば僕やめるよ」
「ん、…ぇっ?」
「言わないの?」
なまえの瞳が揺れて中の僕も歪んで見えた。なまえは何も言わない。僕となまえの立場のことを考えたのか、それとも別の意味か。分からなかったけど、今の僕はどうかしていて後者の方しか考えられない。実はなまえも僕のことが好きだったんじゃないかって。一旦考えてしまったら、もう止まれなかった。少し待っても最後の僕の理性になまえは答えてくれなかった。
「だいすき、ずっとすきって思ってた」
「あっ、ぁ、クダリさ、ん…!そこ、やっ」
これはなまえが悪い。僕はちゃんとやめるなら今だと言った。それなのに、嫌だと断らなかったなまえが悪い。
理性も切れて性急になまえのワイシャツのボタンを外して、下着をずり上げればぶるんとなまえのおっぱいが揺れた。僕の手にちょうど収まるくらいのサイズの、決して大きいとは言えないけど可愛いなまえのおっぱい。おそるおそる触ったらすっごいやわらかくて、さっそくしゃぶりつきたくなってしまう。もう片方の手は太ももから指を添わせながらなまえのスカートの中に手を入れてパンツ越しにすりすりと触ってみた。あらかじめ足の間に僕の足を割り込ませていたからそんなに苦労はしなかった。
「もうぐしょぐしょだよ?」
「そっ、な…やめ、て、ぁっん」
「でも全然嫌そうな顔してないよね」
その拍子に指を2本中に入れて、おもむろにかき混ぜてみたらなまえの体がびくんと跳ねあがって、僕にもたれかかった。もう立っているのも限界なんだと思う。でも僕は自分の胸になまえが飛び込んできたという現状にもうくらくらしてる!ぎゅって抱きしめてから、僕の体を柔らかい体に密着させて壁に押し付けた。すると、僕の背中に腕を回してシャツを掴んでくるなまえ。そんなことしたら、ますます僕が調子に乗るってこと分からないの?僕は入れたままの指をすばやく動かした。
「あっああっ、はぁっ、ひ、ゃぁっ!」
「もう何言ってるか分かんないね、なまえ」
「ひっあああっ、はあっ」
「ふふっ、きもちい?かわいい…」
「んっ、もっあっん、やめっ」
目にいっぱいためた涙をかわいいなと思って見て、もっと早くしようかと思ったところでぴたりと動きを止めた。
「すみませーん、ボスいますかー?」
「ひゃっ」
「しっ、ばれちゃうよ?」
「あれ?いないのかな」
「…………」「…………」
「また後で来るか…」
急にドアが開いてあの声は、たぶんカズマサあたりかな。ノックもしないで入ってきたから僕もびっくりしてしまった。なまえはもうとっくに泣いてしまっていて、このことがバレたら相当恥ずかしいだろうしよしよしと頭を撫でてあげた。
でも、もしカズマサがなまえみたいに戻ってきたら。
ズボンから僕のものを取り出してなまえの中に入れてしまった。
二律背反の銀河
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