「風邪を引いてしまいますよ」

「ノボリだって」

「そうですね…お風呂にでも入らないと風邪を引いてしまいます」

「ノボリ先に入っていいよ。私、洗濯物取り込んでこなきゃ」

「…いえ、一緒に入りましょう」

たまにはいいではありませんかと、彼はびしょ濡れになったシャツを脱ぎ捨てながら私に言った。

今日の夕方、ノボリの仕事が比較的早く終わって二人で久しぶりに食事に行った帰りだった。お腹も程よく満足して、二人で静かに会話しながら帰路についていた時、急に雨が降ってきたのだ。思えばギアステーションにノボリを迎えに行こうとした時には雲が重く、空が一面灰色だった。最初はぽつりぽつりと振っていて、この調子なら家に着くまでに間に合うだろうと思っていた矢先に、打ち付けるようにして雨がどっと降ってきた。流石にそれには私達も対応できなくて、否応なしに全身は一瞬にして濡れてしまった。今日は久しぶりのノボリとのデートだからと着て行ったお気に入りの服だったのに、雨に濡れて鮮やかな色が鈍い色になってしまっていた。
しかし、それから二人で家まで走って一息ついて、顔を見合わせるとお互いびしょびしょで、せっかくのデートで酷い目にあったっていうのになんだかおかしくなって笑ってしまった。ノボリのオールバックだった髪がすっかり濡れて顔にかかり、それに加えて仏頂面だったんだもの。笑えてしまう。

それから逃げ込むようにして家に入って、私はとりあえず服も着替えたいし、洗濯物は外に干しっぱなしだったので、先にノボリに風呂を勧めたところのこれだ。
たまに彼は突拍子もなく、ふざけたことを言う。しかし私は真面目な彼がこんなことを言うのがすごく可愛く思えてしまって、いつもそれに顔をほころばせてしまうのだ。

「だからね、洗濯物」

「もうびしょ濡れなことは確実ですし、後でも構わないでしょう」

「でも、」

くしゅん

「早く入ってしまいましょう」

タイミングよく私がくしゃみをしてしまうと、首を横に振れなくなってしまった。でも、たまに甘えてしまうのもいいかもしれないと、軽い気持ちで思い諦めて彼に誘われるままに風呂場へと向かった。濡れた服から早く着替えたかった気持ちが大きかったのもあった。
そうして、早々と着替えて二人そろって肩まで一気にお湯につかり、やっと体が温まってノボリも私も落ち着いた。

「あったかー」

「だいぶ体が冷えてたのですね」

「だって、あれだけびしょ濡れになれば」

「それなのに私にだけ先に風呂を勧めるとは…関心しません。もっとご自分の心配をなさってください」

「体だけは丈夫ですから」

「貴方はまた、そんなことを言って」

ノボリは私の後ろでため息をついた。割と広い我が家のお風呂でも、ノボリが普通の人よりも背が高いためか肌と肌が密着している状態で、こんなことを平然と言ってのけるほど私の心臓は丈夫ではなかった。久しぶりにノボリと一緒にお風呂に入ったものだから、脱衣所で服を脱いでいる時からもう軽くパニック状態で。どうやったって目の中に入ってしまうノボリの引き締まった体が風呂に入る前から私をのぼさせてしまっていた。まったく、仕事は事務やただのポケモンバトルなのに、どうしてこんなプロポーションが維持できるのであろうか。それでいて彼は身長に見合ってかなりの大食らいなのだから女の私も羨ましいほどだ。

「ところで、」

「はい」

「どうしてノボリさんは、こんなになっているのでしょうかね」

「…おや、すみません」

「雨に打たれてひじょーに疲労困憊なのですが」

「つい貴方に反応してしまったようです」

まるでわざとのようだ。彼は私の体をくるりと回して向かい合う形にした。
ノボリの顔も体もよく見える体制になって目のやりどころもなくノボリの顔を見ると、彼がどんなに顔を緩ませているが分かる。その緩ませている理由を考えると、周りの暖かい湯気も手伝って何時にも増して私まで顔が緩んでしまうような気がした。
そして、私の顔に手が伸びてきて頬を親指で撫でる。それに反射的に反応してしまい目を閉じると、すぐにおでこに柔らかい感触がした。

「ダメですか」

「ん、…嫌って言わせてくれないくせに」

「ふふ、よくお分かりで」

腰に手を回されて、頭もしっかり手で固定されていたら逃げ場なんてないじゃないか。もし逃げようと思っても後々彼の手に捕まるのは分かりきったことだけど、これから起こることを想像するとどうにも恥ずかしくて逃げたくなってしまうんだ。こう私が思っていることはノボリは分かっているのだろうけど。
腰を引き寄せられ目の前にはノボリの胸があって、上を向くとノボリが唇を合わせてきた。私もノボリの背中に手を回してもっとしてほしいとねだると、はむはむとむさぼるようにキスをしてくる。私はこれだけで十分だ。これでもかと言うほどいっぱいくっついて、お互いに甘えに甘えて幸せを胸いっぱい感じる。
なのに、いつものように口の中に舌が割り込んできて酸素を簡単に奪われた。なかなか口を離してくれないから上手く息を吸えなくて、どんどん苦しくなる。もうやめてと目を開けて、ノボリの顔をもう1センチもないような距離で見ると、私が苦しがっているのを喜んでいるようだった。余裕なんてなくなってしまった私を見て。最初から余裕なんてないというのに。

「んっ、はぁ…愛しています、なまえ」

「んっ、ぅ」

「言葉では、足りないのです」

それから骨ばった長い指が腰のラインを反って撫でていくものだから、くすぐったい。身を捩って逃げようとしてももう片方の手が無理矢理それをさせてくれなかった。その間も耳をぱくりと食べたり、また唇に噛みついたりノボリの好き放題にされて、目がとろんとしてきた。ノボリの顔がもう少しでぼやけて見えなくなる。自分の力で体を支えるのはもう無理で、彼の首筋に頭を預けると休みなく彼の手が私の下へ下へと下がっていき、とびきり敏感な部分に遠慮なく指を這わせた。

「あっ、はぁ…ノボ、リ」

「は、…感じてますか」

「んっ、ぁっ、のぼせる、から…!」

「申し訳ありません。もう少し、我慢して下さいまし」

すぐに指を入れて調べるように中で動かされると、そこにお湯も入ってきて中があったかくなってまともに言葉がしゃべれなくなった。はしたなく口が開いてしまっているのを見られたくないから、ノボリの首筋に噛みついてついでに声も抑える。それでもその感覚に勝てなくて小さく声をもらしてしまっていた。小さな声でも風呂場では反響して自分の耳に入ってしまう。それがものすごく恥ずかしい。
さっきから十分にノボリが私の中を擦っていたおかげで、そこはお湯か体液か分からなくなってしまうと、勢いよく指を引き抜いてノボリのそれを入り口に当てる。私はすでにのぼせてしまっているのか上手くものを考えられなくて、ただ彼に寄りかかって抵抗する力もなく、くったりしているだけだった。だけど、流石にそれが入ってきたときには体が飛び跳ねて、一気に奥まで入れられるとのぼせている場合ではなくなった。

「ああっ、ぅっあっ、あっ、ん」

「、っ、…っく、なまえ、」

「んっあ、あっ、も、やめ」

「無理、です、っ」

ノボリも余裕がないのか、耳に入ってくる低い声にも余裕がないように思えた。とはいっても、私ほどではないけど。私の体を上下に揺さぶって深いところまでがつがつと突いてくる。下に体が降ろされるたびに視界がちかちかして気を抜いたら意識が飛びそうになる。飛びそうになる意識を必死につなぎ合わせてノボリにしがみついていた。

「っく、あ…、っなまえ」

「あっ、ああっ、ノボリ、!」

「出し、ます、っ」

「ぁあああっ!あ、あっ」

とうとう限界が近くなると腰の動きも激しくなって、一番深いところで急に止まったと思ったらどくどくと中にノボリの精子が流れ込んだ。はあはあと肩で息をして、もう満足してくれただろうか。私はもういろいろと限界なんだから、そろそろお風呂から出してくれないか。

そしてノボリが最後まで出し切ると、私の口に一度キスをしてぎゅっと抱きしめてくれた。

「んー…ノボリ、」

「大好きですよ」

「あ、あの」

「はい」

「も、むり」



夕冷め
(なまえ!大丈夫ですか!しっかりしてください!)
(あったまりすぎた)



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