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そうして火蓋は切られた


※学パロ

※私の可愛い後輩に彼氏の蘭を取られそうになる話




桜咲く4月の春。私の通っている高校に中学時代慕ってくれていた後輩が入学してきた。「先輩に憧れてこの高校受けたんです!」と至極満面の笑みでそう言った彼女の周りには桜の花びらが良く似合う。

口調ももの柔らかで人懐っこい自慢の後輩。中学時代私の周りの男子の殆どが口を開けば「あの子の連絡先を教えて欲しい」とその子に夢中であった。しかしそれについて後輩は毎回申し訳無さそうに断るのだ。

「…そういうのどうすればいいか分かんなくなっちゃって」

なんて健気なの。なんて少女なの。今どきいるかそんな純粋女子。どうやら男子とは普通に話せるが恋愛となると別物らしい。彼氏が欲しかった私とは大違いだった。当時私が好きな男の子もその後輩に恋をしていたのだが、結果は見事に玉砕。同時に私も失恋した。誰が悪い訳でもない。ただ世の中可愛い者が勝者であり、正義なのだから仕方がない。家に帰ってから大号泣したけれど、それも今となっては淡い思い出だ。



そして本日5月の晴天。大変なことが起きてしまった。



私の彼氏が後輩に取られそうなんだけど、どうしよう。





「あは、蘭さんておもしろーい」
「そ?よく言われるー

なんだアレ。いや確かに私が後輩に「先輩の彼氏さんに会ってみたいです!」と言われ2人を会わせたのだけれど。

私の左手側に彼氏の灰谷蘭、そして蘭くんの左手側に私の後輩。まぁつまり。わたし、蘭くん、後輩の順で横に並んで歩いている訳でして。

キャッキャと笑う後輩は、蘭くんにさり気なくボディタッチをしながらそれはそれはとても可愛らしく笑い、蘭くんも蘭くんで微笑みかけている。アレ?待って。普通この場合私が真ん中の立ち位置ではなくて?

「それであの親友らしき人が呆気なく自白しちゃって銃持って!」
「あー、そおそお。結末分かったら途中から飽きて寝ちゃったワ」
「あっ奇遇!私もそこで死ぬの!?って、気付いたらいつの間にか寝ちゃってました」

いぇーいと蘭くんに手を翳した後輩に、拒否する訳でもなく蘭くんもいぇーいと同じく手を合わす。はて?はてはて?おかしくない?
ってかオイ、この2人この間私が勧めた映画なの分かって話してるのかな。勧めた本人の横でディスるか普通。傷付くじゃん。蘭くんに至っては一緒に映画見たのに。「昨日寝てなくてェ」とか言ってたけどさ、実の真相はそうだったのか。…知りたくなかった。

「私映画見る時のポップコーンは塩って決めてるんですけど、キャラメルも偶に食べたくなるんですよねぇ」
「俺も。甘いの食ったら塩気あるもん食いたくなるよなァ」
「ですよね!?わぁ、蘭さん分かってる!」

いやそれ世界中の人大体がそう思うだろうよ。甘いの食べたらしょっぱいの食べたくなるって相場が決まってるんだよ。アンタらだけじゃないって。私もそうだわ。

ツッコむ言葉は喉奥で止まり、二人の会話に入れない私は有無も言わさず蚊帳の外である。

「……」

気を抜いたら眉間にギュッと皺を寄せて明らかに不機嫌です!というような顔に早変わりしてしまう為、気にしていない素振りをすることが精一杯。なんたる変なプライドだ。というかこの二人まだ出会って1時間も経ってないんですけど。私が蘭くんとこうやって話せるようになったのは竜胆を通しても1ヶ月以上掛かったというのに。

私抜きで話している2人にモヤりつつも、いても立ってもいられなくなった私は携帯を取り出しメールを打つ。3分もしない内にメールの受信音が鳴り秒速で反応すると、私のこめかみは更にピクついた。

『知らねぇよ。お前が誘ったんだろ』

その通り!その通りなんだけどさぁ!
もうちょっと気遣って"気にすんなって。兄貴はお前にベタ惚れ"とか送ってくれてもいいじゃん。人の心はないのか。ないわ。蘭くんの弟、竜胆は面倒事を嫌うタチだから。

『優しくして!心折れそう』
『バカだろ。一々んなことで連絡してくんな』

泣いた。もう絶対竜胆が学校に来たとき教科書忘れても見せてやんない。そう心に決めてもクゥッ、とした声が我慢が出来ずに漏れそうで。それを必死で抑えていると、蘭くんの横からひょこっと後輩が顔を出した。

「先輩、黙りこんじゃってどうしたんですか?」
「えっ!?いやっ?別に、」
「コイツたまにボーッとしてるとこあんだよ。いつもの事だから気にすんな?な、ナマエ?」
「え?あ…ウン」

ポンと私の頭に手を乗せて目尻を細める蘭くんは私を見下ろし微笑みかける。その笑顔にうっかりしてたらつい見惚れてしまいそうだ。いけない、危ない、それ所じゃない。

「ごっごめんね!ちょっと友達とメールしてて」
「えっ?大丈夫ですか?先輩顔色悪いですけど、何かあったんじゃ」
「だっ大丈夫大丈夫!なんにもないよ」

心配そうに見つめる後輩に、"2人が私を置いて仲良くしてるから"なんて言える筈もなく、またや彼氏の弟に助け舟を出してそれも振られたところですとも当然口に出すことも出来ずに笑顔を取り繕う。

今日会ったらきっとこれで2人が会うのは最後、と胸に言い聞かせるも嫌な予感しかしない。花が咲くように可愛い後輩と、顔立ちがモデルのように整っている私の彼氏。隣で仲睦まじく話す2人は受け入れたくないが傍からどう見てもお似合いのカップルで、余計と負の感情が私を取り巻いていく。それが余計と心を抉って始終ご機嫌だった蘭くんは気付いてなかったかもしれないけれど、後輩と別れた後も素直にこの事を打ち明けられなかった私は蘭くんに少し嫌な態度を取ってしまったかもしれない。こんな自分が嫌になり、モヤモヤの傘が増して自分かなり面倒臭い奴だと帰宅してから暫し病んだ。

そして嫌な予感は予感止まりであってほしいのに、そういう時に限ってよく当たってしまうものだ。



後輩は可愛い。顔だけじゃなくて性格も。憎めない子ってこういう子のことをいうのだろうと思う。移動教室なんかで私を見つければにっこり笑みを見せて必ず話しかけてくれるし、私に食べて貰いたいと可愛くラッピングしてお菓子をわざわざ作ってきてくれたこともあった。出会った頃からこんな感じだったので、これが彼女の素なんだろう。私が男であれば今頃メロメロだったに違いない。「先輩と一緒にいると楽しいです!」なんて素直に気持ちを表に出せる子、早々いないだろうし。

その日を境に私と蘭くんが一緒にいる時を狙ってか偶然なのか後輩と顔を合わせることが多くなった。その度にどんどん話が弾んで2人が仲良くなっているのを目の当たりにしてしまうと、笑顔でいるのにも限界が来る。わたしの為にと言って作ったとくれたお菓子も、先輩と食べたくて!とお昼を誘いに来るのも、全部が全部蘭くん目当てで言っていることなんじゃないかと疑ってしまう。

「絶対あの子蘭くんのこと好きだよね」
「あー…」

紙パックのミルクティーを飲んでいる竜胆は興味無さげに携帯を弄っている。そんな竜胆に頬を膨らませると、ストローを齧ったままげんなりとした顔を向けられた。

「っなにその顔!真剣に聞いてくれてもいいじゃん」
「だってお前この話何回目だよ。っつか可愛がってる後輩なんだろ?兄貴と話すくれェ別に良くね?それが嫌なら本人に直接言えよ。"蘭は私の彼氏だからくっつかないで"ってさァ」
っ……」

竜胆の言うことは正しく正論だ。正論過ぎてぐうの音も出ない。私が勝手に2人の距離が近いと感じ、ヤキモチを妬いているだけである。だけどそれを伝えられないのは私が蘭くんと付き合って月日がまだ浅いのと、何より蘭くん本人が楽しそうなのだ。後輩と話しているときの蘭くんはよく笑う。そのなかで"仲良くするな"だなんて口にしたら私凄い空気読めない人じゃんか。

「…今日蘭くんは?」
「朝帰りだったから休むって。まだ寝てんじゃね?」
「だからメールしても返って来なかったのか…ってかよく竜胆は来たね?」
「あ?オレは寝れなかったから暇つぶし。昼飯持って来てねェからもうちょいしたら帰るけど?」

自由過ぎない?この兄弟。暇潰しに学校って普通思い付かないんだけど。蘭くんは竜胆よりもずっとサボり魔だ。よく留年にならないなってぐらい自由登校。だからいつも蘭くんが学校に訪れると会えるのが嬉しくて堪らないんだけど、今日の私はホッとしてしまっている。だって後輩と蘭くんが一緒にいる所見なくて済むんだもん。

最近私と蘭くんが一緒にいる度に2回に1回は私たちの元へ来る後輩。蘭くんも後輩が来ても嫌な顔1つせず寧ろ優しくもの柔らかに「一緒に帰る?」とか言っちゃうものだから、余り2人の時間が取れない。蘭くんのお許しに後輩は喜び、私は落ち込む。蘭くんは学校にも余り来ないから毎日会えないし、休日もチームにも属している為に呼び出しが掛かればデートが無くなる日だってある。やっと会える日を私は大事にしたいのに、蘭くんは私と2人になりたいとか思わないのかな。それともお付き合いってこういうものなのだろうか。

蘭くんが初めての彼氏だから分からないし、後輩にもヤキモチ妬きたくなんかないのに、心情は曇っていくばかりだ。私は嫌な女になってしまったのだろうか。きっと悪気がなく根が素直な子なのだろうが、もう正直可愛い後輩だと思えなくなってしまっている。

蘭くんが後輩のことを好きになってしまうじゃないかって、不安で仕方がない。




学校終了間際に来たメールの受信音に気付き、携帯を覗けば蘭くんからだった。

"今起きた。家来て"

加速しだした心臓に手を当てて、簡潔に返事を送り自分の家とは逆方向へ歩いて行く。普段だったら足取り軽く浮かれ気分なのに、今日の私はちょっと足が重い。



「おはよ」
「…もう夕方だよ蘭くん」
「さっき起きたから俺ンなかじゃ朝なの」

いつも綺麗に結われている三つ編みが下ろされていると雰囲気が変わって色っぽい。私の頭をポンポンと撫でた蘭くんを見上げたらちょっと悲しくなって抱き着いてしまった。

「今日のお前大胆じゃね?どしたの。ここ玄関なんだけど」
「…別に、何にもないです」
「ふはっ、ンで敬語なんだよ。ウケる」

蘭くんは私をそのまま抱き締める。蘭くんの匂いは落ち着くから大好きだ。蘭くんの部屋に入ると、おいでと手招きされたから横に座る。すると「そっちじゃねぇよ」と蘭くんの足の間に座るように移動させられた。

「あっ、えっと」
「ん?お前が抱き着いて来たのが珍しいから嬉しくってさァ」
「らっ蘭くっ」

後ろから抱きしめられて、私の首元に蘭くんが顔を擦り寄せる。いつまで経っても慣れないその距離に心臓は爆発ものだ。でもそんなのは束の間で、蘭くんの一言により熱が上がった気分は下降する。

「アレ?お前後輩チャンといた?」
「え?」
「その子の匂いするワ。香水の」

すりすりと変わらず甘く低い声で放った蘭くんに時が止まるわたし。甘くなっていたモードは一気に現実へと私を引き戻す。一瞬忘れてたのに鼻の奥からツンとした痛みが襲って来た。

「ぅ……、ぃで」
「は?」
「あっあの子と仲良くしないで」
「……あ?」

蘭くんのマヌケな声が耳へと届いた。ハッとした時には時既に遅し。

「あっやっ!今のはちがっ」
「……へぇ。何オマエ。俺が後輩チャンと話してんの嫌なワケ?」
「それ、は」

冷たいようにも聞こえる声のトーンに体は凍りつく。私はもはや半泣き状態でこの先をどう乗りきったら良いのか分からないのに、蘭くんはとても落ち着いているように思える。一生懸命次に繋ぐ言葉を考えるけれど、言う予定の無かったことを口にした私はパニックに陥っていた。

「なぁ、俺聞いてんじゃん」
「あっ…うぅ」

こうなればヤケである。もし"そんくれぇのことでヤキモチとかガキかよ"とか言われて別れることになったら私はきっと学校に行けなくなるくらいのレベルに達してしまうけど、ここまできてしまったら仕方がない。後ろから私を抱いたままの蘭くんの腕を両手でキュッと掴んだ。

「だって蘭くん、あの子と話すとき凄く楽しそうなんだもん。っ私が横にいてもお構い無しでずっと笑ってるし、ひ、久しぶりに2人でお弁当食べれると思ったら、後輩チャンもどう?とか言っちゃうし…2人の距離が近くて…嫌だった」

最後の言葉は端が小さくなって涙声になってしまい、ズズっと鼻水を啜る。

「そっそりゃあの子の方が可愛いし、女の子らしいの分かってるけど…蘭くん、取られちゃったらどうしよって」

視界は涙で滲み出す。蘭くんが今どんな顔をしているのか怖くて振り向けない。暫しの沈黙を挟み、その数秒がとんでもなく長く感じてその間も心臓はバクバクと音を鳴らし続けていた。


「ぷっ」


返答を待っていると突然笑いだした蘭くんに何事かと「へ?」と変な声が漏れたわたし。ケラケラ笑い続ける蘭くんに、何かおかしなことを言ってしまったのかと半泣き状態から本格的に涙がこぼれ落ちてきた。

「っな、なんで笑うの
「あぁわりーわりー。っふ、いやさァお前俺がいんのにすげぇ竜胆と仲良いじゃん?だからお返し」
「……ハイ?」
「こうも上手くいくとは思ってなかったけど。いっつもお前顔に出てっし怒ってンの丸わかりで可愛すぎ」

どういうこと?というか私必死で隠してたつもりだったのにそんな顔に出てた?え、ウソ。ハテナが頭上にぽんぽんと浮かび上がる私に対し、蘭くんは一頻り笑い終わると口開く。

「お前俺のこと竜胆に色々愚痴ってンだろ」
「ぐっ愚痴ってなんて…相談はしてる、けど…え?なんで知って」
「お前バカァ?んなもん筒抜けだワ。俺のこと相談するにしても身内はねェだろ身内は。それにあの後輩と初めて会った日も竜胆にメールしてたろ」
「そっそれも知ってるの!?」
「逆に俺と竜胆の仲でなんでバレねェと思ったのか疑問なんだけど」

言わないでっていつも口止めしていたのに。つまりこれは竜胆に話していたこと全てが蘭くんの耳に届いていたことを指しているワケで、脳内は咄嗟に理解が出来ない。だって竜胆はいつも私の話をうるさそうに流していたから。

「あっあのらんくっ」
「なぁナマエ。竜胆は信用出来てなんで俺は信用出来ねェの?」
「え……」

こて、と蘭くんの頭が私の肩に当たる。その声音はいつもの蘭くんよりももっと頼りない声で、寂しそうなトーンだった。


「…私は蘭くんが初めての彼氏だし、何もかも初めてだから言っていいのか悪いのか分からなくて。ヤキモチ妬いてること言って嫌われちゃったら嫌だな、って思ったら余計に言えなかったっていうか。それにわたし後輩ちゃんみたく可愛くもないし、蘭くんの彼女が私でいいのか不安にもなっちゃって」

今まで言えなかった思いをぽつりぽつり吐いていくと、止まりかけていた涙がまた出そうになる。すると蘭くんは私をぎゅううっときつく抱き締めた。

「…ナマエ、こっち向け」
「…無理。絶対いや。過去一今ブスだもん」
「はっ、なんだよソレ。ほら、こっち向けって」
「ぅあっ」

体を反転させられると、私の唇に蘭くんの唇が触れた。ちゅ、と唇が離れると蘭くんは柔和に笑って覗き込む。

「俺も今回はちょいやり過ぎちまって悪かったけど、お前が自分に自信ねェのは意味分かんねぇわ。俺が好きなのはお前な?俺が好きになった女なの。自分のことブスとか言ってんじゃねぇよ」
「らんくっ」
「だからこれからは竜胆と仲良くすんのは構わねェけどこうして欲しいとか嫌なこんありゃ全部俺に言うこと。分かった?」
「あ…う」

細いくせに私を軽々持ち上げた蘭くんはそっとベットに私を押し倒し覆い被さる。下ろされた蘭くんの髪が私の頬へと垂れてそれが少し擽ったい。

「返事は"ハイ"だろ?」


「……はい」


にっこり満足気に目元を細めた蘭くんは、私よりも体温が低い大きな手の指で口元をなぞる。色めいた彼に全ての熱を持っていかれる前に私は彼に口開いた。

「らんくん、」
「あ?」

「蘭くんは、ずっと竜胆にヤキモチ妬いてたの?」

制服を器用に脱がしていく蘭くんの手がピタりと止まる。
どきどき、と鳴る心臓の音が蘭くんに聞こえてしまうのではないかと思うくらい、静寂の間だった。

タレ眉の眉毛が眉間に寄り、私から視線を逸らした蘭くん。人には自分の気持ちを言えと言っていたくせに、彼は余り言いたくないのか不貞腐れた子供のように口を尖らせた。




「……わりぃかよ」








「あの時は竜胆裏切り者って思ったんだけど、今となっては1周まわって感謝してる!ありがとっ」
「あっそ。つか1周まわってってなんだよ。どうでもいいけど兄貴待ってるんだろ?早く行けよ。俺が後からボコされる」
「またまたぁ大袈裟だな竜胆は。未来の義姉がそしたら守ってあげるから大丈夫!」
「は?調子乗ってんな。お前が義姉とか認めるワケねェじゃん。俺の義妹の間違いだろ」

なんで私が竜胆の義妹になるんだとツッコミそうになったけど、家族になるのに対して否定をしなかった竜胆に感極まり鞄からおやつのポッキーを出して手渡していると、聞き覚えのある声がした。

「おいナマエ、蘭ちゃんが迎えに来てやったんだけどォ」
「蘭くんっ!」
っ」

教室のドアの端にだるそうに寄りかかって私に声を掛けた蘭くん。パァっと花が咲いたかのように明るくなった私とは正反対に青ざめた竜胆は私があげたばかりのポッキーの箱を手落とした。

「お礼の品を落とさないでよ」
「…いーから行け。早く行け。俺の命が持たねェ」

私に目も合わせず小さな声で放つ竜胆は悪いが怯えた子犬のようだった。どうしてそこまで急にビビり出したのだろうか。それとは逆に蘭くんはいつもよりもご機嫌に見える。


「蘭くんがクラスまで迎えに来てくれるの初めてだから嬉しいな」
「お前が放課後デートしてェって言ったんだろ。この俺が言うこと聞いてやったんだから今日お前ウチ泊まれよなァ」
「とまっ泊まり!?」
「明日学校休みならいーだろ。っつか昨日もっと恥ずかしいことしたんだし一緒に寝るくらい別に良くね?」
「こえっ!声が大きい!!」

あたふたする私に蘭くんはなんて事ないようにへらりと笑って靴箱まで歩いて行くから急いで後を追うと、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「センパーイ!蘭さーん!」


ドキン、と胸が音を鳴らす。いくら蘭くんの気持ちを聞いたって、彼女はきっと蘭くんのことが好きなのだ。何も知らない彼女は、パタパタと走って私たちの元まで歩み寄る。

「今から帰るんですか?」
「あっ、うん。そうだけど」
「あっじゃあ私も良かったらご一緒してもいいですか?」

蘭くんは"俺が言おうか?"と私に視線を向ける。でも私は大丈夫だと後輩に視線を移した。

「あっあのね、悪いんだけど今日は蘭くんとデートの約束してて。っそれに後輩ちゃんには申し訳ないんだけど…蘭くんは私の彼氏だから、その…余りこういうのは、」



後輩の目が見開いた。
そして一拍あけると、私の手をそっと両手で握ってきた後輩。程なくして、私も蘭くんも予想していなかった事を口にしたのだ。











「知ってますよそんなこと。私そこまでバカじゃないです。でも先輩と蘭さんを2人にしたくなかったんですもん。だって私は…私は中学の頃からずっとずっと先輩を好きだったので」






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