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"仕返し"はよくありません


※梵天軸




「何で蘭がアンタみたいな女といるのか分かんないだけど」


ペシンッと鳴った鈍い音。一瞬何が起きたのか分からなかった。乾いた音と共にほんの少し周りが静まり返ったカフェの店内。時期に痛み出す頬に手を添えて、あっわたし今殴られたんだと理解した。手を挙げてきた女性へと目を移せば、私を凄い形相で睨んでいる。

「あ、の…」
「一刻も早く別れてよ。言いたいことはそれだけだから」

カツカツとヒールを鳴らして去っていく女性。放心状態の私に店員は「大丈夫ですか」と声を掛けてきてくれた。だけど突然の出来事に頭は真っ白で、自分がちゃんと大丈夫だと答えられていたかは自信がない。ただその場に居続けるのは流石に無理だから、頼んだばかりのカフェラテはそのままにして私はカフェを後にした。



私の彼氏の灰谷蘭は十代の終わりからお付き合いを初めてもう時期十年の仲になる。今も若いけど、当時の蘭は遊びたい放題やりたい放題の自由気ままな男だった。顔も良ければ身長も高く、蘭がいるだけで場の空気が変わる。それでいて女には優しいから、私がいようがいまいが関係無しに本気になってしまう子が多く苦労した。何度彼の女関係に泣かされたか分からない。

…最近はやっと落ち着いて来たと思ってたのに。

あの女は誰なのか知らないが、蘭を好きな女に間違い無いだろう。でも私が蘭の女だと顔が割れているのが怖い。最近は余り二人でも出掛けられていなかったのに。

「……」

考えても拉致があかない。家に着きバッグからスマホを取り出す。自室の小さなソファに力無く座ると、今になって胸は激しく動悸が襲ってきた。"灰谷 蘭"と表示されたディスプレイ。通話ボタンを押す1歩手前で私の指は止まる。

「…ムカつく」

女にも勿論はらわた煮えくり返っているが、それよりも蘭に対してのイライラがその度を超えた。最近会えていなかった蘭の顔が浮かんでくると頭にきてベッドにスマホを投げつける。ボスっと虚しく布団に投げられたスマホ。ロック画面もホーム画面も言うまでもない、先程まで大好きだった彼氏の蘭だ。

蘭に言って問い詰めて、その女と縁を切らせることは可能だろう。蘭は面倒事を嫌うから、きっと私がやめてと言えば速攻でその女を切るに違いない。でも違う、そうじゃない。



「え?誰と誰が?」
「だからぁ、お前と俺の話」
「いや、うん?えぇと…」
「なにその返事。俺と結婚して欲しいって言ってんだけど?」

蘭が私の家に泊まりに来ていたときの、ご飯の支度をしている最中の発言だった。会って早々いつもよりひっつき虫だった蘭に少々の疑問を感じたけれど、暫く会えていなかったから私も嬉しくて胸は未だに高鳴る。蘭が結婚だなんて口にする事は想像していなかったし、そういう素振りも見せなかった。後ろから抱き着かれ、蘭の甘くて低い声に顔はどんどん熱くなっていって、自分でも気付かない内に潤んでしまった目を隠そうとするも、蘭にはすぐにバレてしまう。

「泣くほど嬉しい?」
「そりゃ、うっ嬉しいに決まってるじゃん」
「ふは、まぁ…今の案件終わったらやっと時間取れるからさ、そしたら二人で住む家探しに行こうぜ。お前アイランドキッチンとかってのに憧れてたんだろ」

縛りに括られるのが苦手な蘭が、結婚しようとプロポーズしてくれて、尚且つ私が言った些細な事まで覚えていてくれていた。嬉しいのと驚きと信じられなさで涙は溢れてご飯を作る所じゃない。そんな私をよしよし、と大きな手で頭を撫でながら気が早い蘭は「宜しくねェ、奥さん」ともうその気になっていたのだけれど。


思い返すとまたふつふつと私の中でイラつきと悲しみが交互に襲ってくる。女と浮気しておいてよく結婚しようなどと言えたものだ。頭の中どうなってやがる。
ハッ、と乾いた笑いが室内に響くと、スマホからメッセージの知らせがタイミング良く届いた。蘭である。

"お前が作った飯食いてぇわ。ココちゃん帰してくんなくて俺家にも帰れてねぇの"

今となってはこのココちゃんってのも怪しい。女のとこにいるんじゃないの?と疑う事しか出来ない。返信する気も起きずにメッセージを閉じれば、またディスプレイの画面に蘭が映る。呑気に笑っている蘭の顔を見たくもなかった私はそそくさとメディア欄から実家の愛犬を出し秒の速さで設定し直す。こんな事に使ってゴメンねチャーリー。でもそんな愛犬チャーリーのホーム画面を見たって、笑顔になれることはなかった。





昔の夢を見た。蘭に毎度泣かされているときの夢だ。多分、フラッシュバックというやつ。

「なんで蘭はいつも浮気するの?」
「してねェよ。アレは向こうから勝手に、」
「蘭が誰ふり構わずニコニコ笑顔振りまくから悪いんじゃないの?」

面倒臭い女だったと思う。いっそ蘭から私に"別れて"と言ってくれたら楽なのにな、と思ったことも何度かあった。だけれど蘭は私を振るどころかその度に私を抱き締めて繋ぎ止めようとするのだ。

「いやっ離してっ!もういや!」
「頼むから拒絶すんなって。…俺にはお前しかいねェの分かんだろ」

分かんない。だったら何で他の女の子と遊びに行ったりしちゃうの。そう思うのに、切なげな表情をされると私はまた蘭の手を取ってしまう。そして思うことはいつも同じで"次はきっと私だけ、もう一度だけ信じてみよう"と許してしまう女だった。私の数少ない友人は「1回浮気してる奴はまたやるよ?」だとか「そんな男早く別れた方が良いって」と蘭の話をする度に口を揃えて言った。分かっているのに結局嫌いよりも好きが勝ってしまって、今日こそ別れると蘭に会いに行くも、彼の笑顔を見るとどうしても別れを切り出せず踏ん切りがつかなかった。



「……嫌な夢」

寝起きは最低最悪。それでも私は顔を洗って歯を磨いて化粧をする。いつもより特段ブサイクに見える私の顔は目が腫れてお岩さんのようだった。

今の私ならきっと蘭がいなくても一人で生きていける。
そこまでか弱い女じゃない。ご飯を食べて、お風呂に入って、寝ることだって当たり前だけど一人で出来る。いつもと変わらない日常に、蘭がいないだけ。

でもこの十年で作った二人の思い出を捨てるには時間がかかる。昔のことを色々と思い出していると、私の不安や不満は今になってピークを迎え今度は般若みたいな顔に変貌していた。プロポーズをしてきたくらいなら、蘭はそれなりに私のことを好きでいるんだろう。別れることは簡単でも、簡単には別れてやりたくない。

蘭と付き合う前に使っていた携帯を取り出す。単なる思い出の為に取っておいたものだけど、こういう時に役立つとは思わなかった。私は蘭と付き合い始めてからというもの、相手を悲しませるような事をしたくはなかったから言われずとも連絡を取っていた男友達とは距離を取っていた。

されたからし返すというのは良くないことだと分かっているけれど、ただ泣きながら別れるだなんて悔しい。私だってその気になれば遊んでくれる人くらいいるんだよ、と分からせてやりたかったのだ。





蘭と会うのは2週間後、この間わたしは遊びまくった。
それはもう次の日仕事だろうがなんだろうがお構い無しに街に出掛けて飲みまくった。結婚をしていない男友達は未だにノリがよく、久しぶりいぇいいぇい的な高校時代の時のように遊んでくれたし、事情を知っていた女友達は人数合わせに合コンにも誘ってくれた。

「ねぇ君めっちゃ可愛いね。この後2人で抜け出さない?」
「え嬉しい!…でも今日はまだ会ったばかりだし…次にしよ?」
「え、シャイなの?やべ俺、本気になっちゃいそ。連絡先教えてよ
「あはは、今スマホのバッテリー5パーセントしかないからごめんなさい」

結論、意外と私はモテた。オシャレで顔が良い蘭の横にいる為にそれなりに勉強してきたメイクや振る舞いがこういう場で発揮出来るとは思わなかった。仕事から帰って、朝まで飲んで騒ぐなんてずっとしていなかったこともあり、それはもう楽しい時間を過ごした。楽しい、楽しいんだけどやっぱり蘭の顔は浮かんできて気分は沈む。

「結局わたしは蘭のこと好きなのかぁ…」

言ってしまえばただその場だけを楽しんで、帰って来たあとはどれだけ酔っていても必ず蘭を思い出す期間になってしまっただけだった。蘭だって隠れて沢山遊んでたんだし!と思うけど、罪悪感で逆に心に疲労が積み重なる。

明日は蘭に会う日。今日は流石に遊びに行く気が起きずに夕食を買う為にコンビニへ入った。蘭の事で頭がいっぱいだった私はお腹が空かずに弁当の棚で立ち止まる。

「…ねぇ」
「……ハァ」
「おい、聞いてる?」
「ぅえっ!?」

まさか私に声を掛けていたとは思っておらず、驚いて変な声が漏れた。私の目の前には一人の青年が立っていて、私の顔を覗き込むと薄い唇を開く。

「わりぃんだけどさ、金かしてくんね?」
「…はい?」







「だから遊びまくっちゃったんだけど…」
「ふぅん。でもまぁその男が元はわりぃんだから仕方ないんじゃねぇの?」
「そうなんだけど…そうなんだけどさぁ」

私はつい今しがた「金かして」と衝撃発言をされた見ず知らずのこの男とコンビニ前で話し込んでいる。こんな公共の場でカツアゲ!?と顔を引き攣った私に彼は

「財布忘れて出てきたから手持ちがねぇ」

と呆気からんと言った。かなり不健康そうでお菓子を手に持っている青年を見ていると、家出少年か?と思いお金を出してしまった。けれど青年はコンビニを出てすぐに「金返すから。すぐ迎え来るから待ってて」と言い、お菓子の袋を開けだしたのだ。どうやら家出のような事情ではなかったらしい。

「なんでそんな奴と早く別れなかったわけ?」
「んー…嫌な思いもしたことあったけど全部が悪い思い出じゃないから」
「ふぅん」

青年は興味があるのかないのか曖昧な返しをする。まぁ行きずり女の恋愛事情なんて興味があるわけないか。

「あっじゃあ君だったらどう?そういう子が彼女だったらどうする?」

ただの興味本位での質問で、在り来りな返答が返ってくると思った。青年は私の質問にお菓子を食べる手を止めると、真っ黒な瞳を私に向けるから、つい息を飲んでしまった。

「俺?俺だったら…その男殺して女には一生俺しか見れねェように部屋に閉じ込める」
「え"っ!!」

思っていた返事よりも飛び抜けた返事が返ってきて喉から変な声が漏れた。「あ?どっか変?」と眉間に皺を寄せた彼におかしいだろ!と言える訳もなく、「いっいえ?何にも変じゃないですよ!?」と返すのが精一杯。冗談にしろヤンデレちっくなこの青年に恐怖を覚えた瞬間だった。

「あー…そろそろ私行かなきゃ!」
「いや、金」
「いいよいいよそれくらい!私も話聞いて貰ったからそのお礼ってことで!」

余り深入りしてはいけないような気がした私はその場を後にしようと青年に向けて手を振る。すると彼は私の手を掴んできた。

「ひぃっ!」
「お前名前は?」
「いやぁ、名前はちょっと」
「なんで?教えてくれねぇなら調べるけど?」

脅しか?脅しなのか!?たらっと冷たい汗が背中に流れるも私は引き攣る頬を無理矢理上げて笑顔を作る。

「次!次どこかで会えたら名前教えてあげる!っていうか君隈酷いし体調悪そうだから早く寝なきゃダメだよ!倒れそうだもん!」
「は?」
「話聞いてくれてありがとうね!お金のことは本当にマジで気にしなくていいから!」

引き止めるような声が聞こえたけれど聞こえないフリをして、私の手を掴んだ彼の手が緩んだ隙に早足で私は歩く。ちょっと怖すぎて自分が何を言ったのか覚えていないけれど、掴まれたあの手の力は強かった。






アパートの階段を登る。何だか今日はどっと疲れてしまった。はぁ、とため息を吐きながら部屋の鍵を開けようとすると、鍵は開いている。え?と思うとその扉はグイッと開かれた。


「おかえりぃ


私の部屋から顔を覗かせたのは紛れもなく彼氏の蘭だった。




「あっアレ?明日、じゃなかったっけ?会うのって」
「んまぁそうなんだけどさァ、愛しい彼女に会いたくて無理矢理仕事終わらせてきた」
「そ、そうなんだ。ありがと…」

チャリンと私が前に渡した合鍵を見せながら私を見下ろす蘭。何処かひんやりとした空気に胸はドッと騒ぎ立てる。ゆっくり蘭の顔が近付いて来たかと思うと耳元で囁くように低い声が通過する。



「随分楽しんでたみたいじゃねぇの」



バレてる…!私が言う前にバレている…!
「取り敢えず上がれよ」と自分の家かのように蘭は私を引き連れて部屋に入れる。蘭の顔をそろっと見上げれば笑っているけれど、怒っているのが見て取れて足がすくみそうだった。

「この家にも男連れ込んだりしてたワケェ?」
「そっそんな事してないよ!」
「ハッ、どうだか。お前ちょーっと俺と会えなくなったらこうやって男と毎回遊んじまう女なんだなァ?悲しいわ」
「ちがっ」

言葉に詰まる。蘭の酷く冷たい目付きは私を怯ませるのには十分で、それでいて付き合ってから今日までこんな顔を私に向けるのは初めてだった。

「はぁ…まぁいいや。その遊んでた奴らダレ?」
「へ」
「人のオンナに手ェ出してんだから許すわけねェだろ。お前もお前で誰のモンかって分かってねぇの?」
「い、いや…」

だらしなく服の袖を掴んでいた拳に力が入る。お前は誰のモンか分かってないって蘭が言うのおかしくない?

「らっ蘭だって私に結婚しよって言ったクセに他の女と浮気してたじゃん!」
「は?」
「誤魔化さなくても知ってるから!私の所にその女が現れて頬っぺ叩かれたんだけど!蘭と別れろって!それなのによく言うよ!蘭こそ私のことなんて大事にしてないじゃん!」
「おい待てよ。何の話…っつか叩かれたってどういうことだよ」
「まんまに決まってるじゃん!何の話ってこっちが知りたいんだけどっ」

溜まっていた感情が溢れると泣きたくないのに泣きそうになる。悔しいから泣きたくないのに、鼻は勝手に痛みだすのだ。泣くのを堪えている私に、蘭はそっと私の頬に手を添える。

「…何ですぐに言ってくんねぇの?」

蘭の声は消え入りそうな声だった。はっと顔を上げれば悲しげに私を見ている薄藤色の瞳が私の目に映る。

「…どうせ浮気してないとか言って誤魔化されると思ってたから」
「その通り。浮気してねぇもん」
「嘘!絶対嘘!昔から蘭は私だけじゃなかったじゃん。すぐ他の子に…目移りして浮気するじゃん」
「それは昔の話だろ。



…お前とずっと一緒に居てェなって思ったときから、そういうのは全部断ってたよ」


「は……」

蘭は私をソファに座らせると、言いたくなかったのか気まずそうに話し出す。

「昔は確かにお前のこと悲しませる事ばかりだったからさァ。信じて貰うの難しいとは思うけど、お前の寝てるときの顔だとか、俺の為に次の日仕事でも起きてて飯作って待っててくれてる所とか、そういうの見てたらお前だけには嫌われたくねぇなって思った」
「なっ何それ…しらない」
「言ってねェもん。っつか言いたくなかった恥ずいし。だからどんな女が寄ってきてもずっと断ってたんだわ。大事な女いるから無理って。お前はそんくらい…」

蘭は口を閉ざす。
そして私の髪を指で絡めて一拍開けると口を開いた。


「俺の性格知っててここまで着いてきてくれたお前には感謝してる。だからすげぇ好きだし手放したくねぇの」
「ら、らん」
「お前の頬っぺ殴ったのってどんな奴?言えるよな?」

蘭はにこりと微笑む。そして私に言うのだ。「ゴメン」と。
私の名前も顔も表には出していないから大丈夫だろうと思っていたのが甘かったと蘭は言う。蘭に振られた腹いせに、私のことを探して見つけ出したんだろうと。でもそんなことよりも私には言わなきゃいけない言葉があった。

「らん…ゴメン。本当にごめん」
「ん?」
「わっわたし蘭に浮気されてると思ってたからっ、しちゃいけないことだけど、仕返ししようと思っちゃってて、」
「……」
「体の関係は誓って誰ともないけど、蘭を悲しませることになっちゃったから…ごめんなさい」

蘭は黙る。数分の沈黙にどうにかなってしまいそうだった。振られても仕方がないと思った。それは私の自業自得であるからそしたら素直に「分かったよ」と言わなければならない。しかし蘭から発せられた言葉は全然違うものだった。


「野郎と遊んでる最中、俺のこと思い出した?」
「へ……」
「俺が今何してるかなー?とか飯食ってるかなぁ?とかそういうの」
「…信じて貰えないかもしれないけど、毎日思ってたよ。誰と遊びに出かけても、蘭の事思い出さない日はなかった…本当に、ごめんね」
「そ?じゃあ許す」


短い返答の後、蘭はそのまま狭いソファに私を押し倒すとキスを落とす。そして唇が離れると蘭は私を見下ろしながらネクタイを緩めた。


「お前のことは許したけどさァ、お前に群がってた男共のことは許せねぇんだよなァ。俺、お前が今までそういうことなかったから知らなかったけど、結構独占欲強ェみたい」


でも元の原因は俺だから、と形容し難い表情を浮かべると「気張れよ」と私の唇に噛み付いた。やっと離れた唇から荒い息が漏れると、口角を上げ舌なめずりした彼の顔に、わたしはひゅっと息を飲んだ。








「やっぱり緊張するって…!」
「大丈夫だって。竜胆もいるからンな緊張することねぇよ」


蘭が働いている梵天のアジト。籍は入れられないけれど、事実上の結婚となった私たちは一般人である私の顔を幹部達に覚えておいて貰うとの事でここにやって来た。

蘭のことも竜胆君のことも昔から知っているけれど、ここのお仲間は二人以外は全く知らない方たちである。仕事場でプレゼンする時と同等なぐらいに胸はドキドキと音を鳴らしていた。蘭が事務所の前まで歩きドアを開けた。


「お疲れェ、嫁連れて来た」
「はっ初めまして!わたしナマエっていい、ま…す」

私の目は事務所にいる中心人物へと止まる。向こうも同じくあの時の真っ黒な瞳を更に見開いて私を凝視していた。

「えぇと、あれがウチのボスな?んで横にいるピンク頭が、」
「ぼっ…ボス??」

蘭にボスと言われた男はたい焼きを食べていた手を止めるとひょいっと椅子から私の前まで歩み寄る。この間と全く同じ白髪に目の下の黒い隈。目を凝らさずともあの日に蘭の愚痴を聞いて貰っていた不健康少年である。

「お前…蘭の女だったんだ?」
「えっ!?えぇとその…ハイ」

グイッと顔を寄せてくる青年に、私は1歩後ずさり蘭は不思議そうに私たちを見ていた。まさか、まさかあの不健康少年が蘭の働く組織のボスだっただなんて。

ボスである彼は吃っている私をみるも小さく薄く笑った。


「これからよろしくな。ナマエ」











え?知り合い?と小首を傾げる蘭に、ボスであるマイキーはキッと睨みつけると「浮気してんじゃねぇよ」と蹴りを一ついれた。蘭含む事務所内の皆が「え?え?」と頭をハテナにするなか、「違うんです!私の勘違いでした!」と謝罪することになるのは数分後の未来である。





















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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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