小説 | ナノ

存外わたしの事がお好きなようで


「あっ」


土曜の真昼間、六本木の街中にて。
たった今元カレへと成り下がった男と出くわした。

「…何してるの?」
「えっ!?あっいや、これは違くて知り合いっつーかおいっ離れろよ!」
「え?ちょっとりん君どうしたの?この人だれぇ?」
「うるせぇくっつくな!」

竜胆の腕にしがみつく様に両腕を絡めた女は私と竜胆を交互に見る。緩いカールが効いた髪に露出度高めな服を着て、テラテラのふっくらとした唇から出た声は作った感じの甘ったるいトーンだった。オマケに"りん君"呼びだなんて親しくもなきゃ呼ばないあだ名であろう。…私はそういう風に呼んでいないけど。私の顔を見てキッと睨みつけ敵対心丸出しのこの女は、傍から見ればどう見ても竜胆の彼女である。

実際こういう現場に遭遇してしまったとき、自分がどうなるかだなんて想像をした事がなかった。だって今となっては恥ずかしいけれど、竜胆は私に一途だと思っていたので。

「…ふぅん」

真夏の季節というのにも関わらず、私のその一声で竜胆の表情はピシッと凍り付いた。二人から背を向けようとすれば竜胆は焦って私へと手を伸ばす。その手を拒否するように竜胆の手を躱し、自分の肩に掛けられていたバッグのショルダーストラップをギュッと握った。

「は、」
「さようなら」
「はぁ!?オイ待てよ!さよならってどういう、」
「そのまんまの意味だけど。…最低」

正直、竜胆の頬っぺにビンタの1つでも食らわせてやろうかと思った。だけど今の私はそれをする程の余裕が無く、嫌悪感を表に出すことだけが精一杯。呆然と立ち尽くした竜胆の腕に未だ引っ付いている女の「何アイツ」と言っていた声が耳に届いていたけれど、私は背を向け振り返らず歩き出した。







六本木の灰谷兄弟。名前は知っていたし、顔も知っていた。彼らは私よりも少しだけ年下。だからまず会って話をする機会なんてものは無かった。そんな私と竜胆の出会いはクラブである。友人に誘われ興味本位で行ったそのクラブで、竜胆と出会ってしまったのだ。仲間内と楽しげに話す彼はフロア内で一際目立っており、周りの女の子同様わたしも気付かない内に彼を目で追ってしまっていた一人である。彼にとっては私なんてその場の一部でしかなかったけれど、私たちにとったら知らない人の方が珍しいでしょ、というような感覚だ。

大勢の人に囲まれた竜胆と目が合ったとき、胸の奥でドキンと音を鳴らしてしまったのは不覚であるが事実。でも彼はやることなすこと余り良い噂は聞かなかったし、それは女関係に対しても同じことが言えた。噂で判断するなんて良くはないと思うと同時に、そんな男に恋なんてしてもろくな事はないと、たった数秒目が合っただけの竜胆にそんなことも思った。



「お前のことが好きなんだけど」
「…へ」

それから何度かクラブへ訪れるようになると友人伝いで竜胆と話す場が出来た。友人関係ならば別に不安に思うこともないし、寧ろ楽しいと思えるようなそんな関係だったけれどそんなのは一時だけで、彼のこの一言により良き友人関係は一変してしまった。

「え?あぁ…いやいや、何言ってんの?酔ってる?」
「酔ってねェよ。めちゃくちゃ本気。ナマエチャンの彼氏になりてェなって初めて目ェ合ったときからずっと思ってた」
「えっ、と…」

まさかあの一瞬を、竜胆が覚えていてくれていたとは思わなかった。それまで聞こえていたうるさいくらいの重低音は時が止まったかのようにミュートになったし、思考回路は即座に停止。言葉に詰まる私の肩を竜胆はグイッと引き寄せると、そっと自身の唇を私の唇へと宛がったのだ。

「…なぁ、付き合ってくれる?」

今わたしがキスをされたことなんて、今日一番の盛り上がりを見せていたフロア内では誰も気がつくはずが無かった。なんなら2人してスミノフを飲んでいただけ。スミノフ飲んで、「この曲良いよね」と話していた際の告白である。こんな簡単な告白を本気にしちゃダメだって、きっとこういう男は誰にでも言っているって。そう思うのに顔は熱いし、胸はドキドキうるさいし、それでいてゆるりと顔を上げれば竜胆が熱を帯びた瞳で私を見つめていたから、気付けば首を縦に振ってしまっていた。

この日から私は竜胆の彼女になった訳だけれど、別に場の雰囲気に流されてしまったからだとかそういうものではない。だってきっと私は彼のことがもうとっくに好きだった。



竜胆は男女問わず知り合いが多い。そんなのは初めから分かりきった事なのにヤキモチとは実に厄介である。私を不安にさせる種はそこら中に落ちていた。竜胆の部屋に初めてお邪魔したときは元カノとのプリクラなんてテーブルに貼られたままだったし、なんなら何処ぞの女の化粧品なんかも置いてあった。

「わり、全部捨てるから」
「ううん、大丈夫」

見栄張って口から出た"平気"な素振りと言動は勿論嘘である。捨てられたくなかったから嘘をついた。面倒臭い女だと思って欲しくない故の馬鹿なプライドが邪魔をして、それでいて年なんて関係無いのに余裕ぶった大人のフリをしてしまったのだ。今思えばアホ過ぎる。嫌なものは嫌だと初めから素直に言うべきだった。






…そういえばさっきの女、竜胆の元カノと似てたな。

前に竜胆の携帯に保存されていた元カノの写メを思い出してしまった。あの時は直ぐ竜胆が削除していたが、こういう時の記憶力って無駄に素晴らしいのは何故だろうか。
余計と心臓に石を投げつけられたような気分に陥りながら、取り敢えず入ったコンビニでアイスコーヒーを買って外へと出る。外はムカつくぐらい晴れていて、夏特有の暑さが更にイラつきを増せさせる。

"電話出て"
"無視しないで"
"悪かったから"
"ごめん"

スマホを覗けば何件かの着信とメッセージが入っていた。これら全て竜胆からだったけど、とても返す気にはなれない。というか返す気もない。

はぁ、とそれはそれはもう深いため息が出た。人との繋がりって信頼を得るには時間が掛かるけど、崩れ去っていくのは一瞬だと今日本気で実感した。つい1時間程前の私は、"彼氏と順風満帆ライフ!"的な感じの勢いだったので、今その熱が一気に冷めてまだ少し実感がない。

初めから分かっていたことじゃないか。
本気になっても良いことないって。

そうは思っても竜胆はいつも私の喜ぶことを考えてくれて、好きだと態度で示してくれていたから大丈夫だと信じ込んでしまっていた。それをいつの間にか私だけに優しくしてくれていると勘違いしてしまっただけ。

「大好き」って嘘だったのか。
「お前の笑った顔、すげぇ可愛い」も「俺こんなに人好きになったの初めて」って言ってくれたのも、全部が全部、嘘に思えてしまう。

今日は暑いから、カップの氷が直ぐに溶けてしまう。薄くなったコーヒーは美味しくない。ゴミ箱にまだ入ったままのコーヒーカップを投げ捨てた。こんなに晴れてる空なのに、私の心は曇っていくばかりである。

何度心配だと言っても喧嘩して傷をつけて帰って来るし、私がいても他の女から声掛けられて普通に話すし、昔のセフレだか元カノだか知らないが竜胆の家に押しかけて来ることもあったし。…そんな男と別れて正解だったじゃない。心ではそう思うのに、簡単にいつもの私を取り戻すことは出来ない。だってその分竜胆はクソ程良い男だった。今日のように女と歩いている現場を見なければ、私は今まで通り彼が好きだったのだろう。

ムカつき過ぎて涙のなの字も出なかったのに、家に着いて竜胆が前にゲーセンで取ってくれた人形が目に入ると急に実感が湧いてきて、涙が滝のように溢れ出す。

っ、竜胆のバカ!アホ!最低っしねっ!」

火がついたように泣き出し子供のように泣きじゃくる。ひっくひっくと落ち着きを取り戻し始めた頃には夕方になっていた。

その日のわたし、年下男に翻弄され本気になり遊ばれていたと一人失恋パーティを開催し、ピザを頼み酒を飲み、次の日は死んだように二日酔いと胃もたれに悩まされるとも知らず飲んだくれた。灰谷竜胆恐るべし。





「ははっ、すっげぇブサイク
「…ちょっと帰って貰って良いですか?」

飲食店のアルバイトで勤務している私は今日のバイトに休まず遅刻もしなかったことを褒め称えたい。ニッコリ笑顔を見せるこの男は「アイスカフェラテ。トールで」とのんびり口調で注文をしていく。店員と客の差を見せ付けるかの如く蘭君は私を見下ろしにっこりと微笑んだ。

「顔浮腫んでるけど泣いてたワケぇ?」
「えっ!冷やかしに来たの!?最低兄弟め。早く帰って」
「はーっ?態々来てやったのに何なんお前」
「…頼んでないんですけど」

今日この時間私が勤務している事を知っているのは竜胆だ。竜胆なのか?竜胆から聞いたのか?

「お前竜胆と別れたんだってぇ?」
「…1万円お預かりしまーす」
「オイ、聞いてんのかよ」
「お客さま!困ります!プライベートなことはちょっと…」

蘭君は私を睨み付ける。ヒッと声が出そうになったがなんとか心に留めた。でも私が竜胆の(元)彼女でなかったらこんな態度は絶対に出来ない。カフェラテを蘭君に手渡すと、彼はそのストローを齧りながら私に笑顔を向ける。

「ちょーっと後でお話しような?
「ひぇ…」

蘭くんの不気味な笑みに、今度こそ声が漏れた。






バイトも終わり、ちゃんと私を待っていた蘭君は逃がすまいと逃げるように裏口から出た私を捕まえた。

「おい、約束したろ?逃げんじゃねぇよ」
「一方的なお約束でしたので」

二日酔いのせいで体調は万全じゃないのに、竜胆ラブであるこの男に捕まっては私の体力が持たないと危機を感じた。しかし俺様キングな蘭君にとっては関係ないことである。

「お前竜胆の連絡シカトすんなよなァ」
「竜胆が悪いじゃん」
「そんくれェ許してやれよ。お前のせいで竜胆の世話すんの俺な?早く仲直りしろって」

やれやれ、と言ったようにため息を吐く蘭くん。
え?何この人、おかしくない?

「竜胆反省してるみたいだからさァ、あんなん可愛い遊びじゃん。っつか別に体の関係持ってなきゃ良くね?」
「え?蘭くんは体の繋がりなければ彼女が他の男と遊んでても許してあげられるの?」
「はぁ?許すワケねぇじゃん。お前バカぁ?」
「は?」
「あ?」

蘭君は私をおかしい者のような目付きで私を見つめ、暫しの沈黙が私たちを襲った。

竜胆よりも、蘭君の考えている思考回路の方が分からない。自分は良いけど相手はダメっていうあの有名キャラかな?灰谷ジャイ〇ンってか?え、笑えない。

「とっとにかく反省してたんなら普通蘭君使わず竜胆が私の元に来るのが普通なんじゃないの?」
「まぁそりゃ言えてんなぁ」

そこは理解できるんだ!
ダメだ…二日酔いのせいで気分は良くないし頭も痛む。即刻帰りたいという気持ちが生じ、私は蘭君に適当な事を言って帰ろうと口を開き掛けると私の肩に重力がのしかかってきた。

「じゃあわた、ぅわっ!」
「メンドクセーから蘭ちゃんと遊ぶかぁ」
「はぁ?何でそうなるの!?」
「別にもう良くねェ?竜胆と別れたんだし俺らが何しても関係ないじゃん」

にんまりと口角を上げた蘭君はそれはもう楽しげに私の肩を抱きながら歩き出す。

「重いっ!ちょっと離してよっ」
「あ?俺と遊べんだからもっと喜べよ」
「っ喜べないから!」

自分中心な蘭君はスタスタと私を引き連れて歩こうとする。どうにかして振りほどこうと細い腕を掴むと蘭君はハッと私に顔を近付けると言った。


「お前近くで見ると可愛いね。俺と付き合っちゃう?」
「…はい??」


硬直した私に蘭君は直ぐに「顔真っ赤ァ」プッと吹き出した。からかわれていたと分かるとみるみる内に私の顔は火照り出し文句の一つを言おうかとしたとき、背後から聞き覚えのある声が私たちを引き止めた。




「兄貴っ!!話が違ェじゃん!!」



え?と振り返ればそこにはかなり焦った顔付きの竜胆が、そして横を向けばシラを切っている蘭君の姿が目に映る。


「ナマエから離れろよ!」
「はー?お前に頼まれたから優しい兄ちゃんがわざわざ動いてやったんじゃん」
「そうだけど!…そうだけど人の女口説くなよ!」

竜胆は私から肩に掛けられていた蘭君の腕を離すと自身の方へと引き寄せる。2人して口論しているが全くもって内容を理解出来なかった。

「あの、どういうこと?」
「あっ、それは」
「だから言ったろ?お前が竜胆の連絡無視って謝る機会もくれねェから蘭ちゃんが態々動いてやったんだってぇ」

竜胆は口篭る。多分、蘭君の言うことは本当なんだろう。いやでも他の女と遊んでるのがそもそもおかしいし、いくら何でも身内に頼むか普通。

「ゴメン…本当に、ゴメン」

竜胆と付き合った期間はそんなに長いものでは無い。だから普段の私たちは喧嘩も大きなものはした事がなかった。竜胆の小さく消えるような謝罪に私の拳には緩く力が込められる。

「…私のこと遊びだったから他の子とも遊んでたって訳?」
「ちっ、違ェよ!それはねぇ!絶対ねぇから!」
「じゃあなんで?」

私の問いかけに、竜胆は今にも泣きそうに眉間に皺を寄せた。後悔するほど好きでいてくれていたのなら、何で他の子に目移りなんてするんだろう。泣きたいのはこっちなのに。

「…アレはクラブによく来てた女で、誰にでもああいう奴っていうか、俺だからとかじゃないから」

いや竜胆目当てだったと思うけどね。だって"りん君"呼びだったし。

「でも元カノに似てたよね」
「はぁ!?マジで違うから!いや…違ぇわ。ゴメン、本当にごめん。お前いつも俺が遊びに行くのにも何にも言わなかったし俺ん家来て女もんが置いてあったときも何もヤキモチすら妬かねェから…勝手にこれくらい大丈夫だと思ってた」

まるで私が悪いことをしてしているかのような場の空気感に私も顔を顰めた。だから蘭君に質問したときと同じことを竜胆へと聞いてみる。

「竜胆は…竜胆はもし私の家に来て元彼のプリだったり服が置いてあったり、私が男がいるって分かってる所に遊びに行くのって許せる?」
「んなの許せる訳ねぇだろ!その男誰だよ!」
「例えだよ!」

それまで空気化していた蘭君は「ブッ」と吹き出した。
しかしそんな事に構っていられない私たちは笑えない。ため息を一つ吐き、竜胆に目を合わせる。

「…本当はずっと嫌だったよ。でも竜胆のこと信用してたし元カノたちの物自体はちゃんと捨ててくれてあったし、友達ともある程度の付き合いなら仕方がないなって思ってたの」
「…」
「そういうので縛って竜胆の自由無くすのも良くないなって思ってたから…でもさ、二人で女の子と遊ぶのは訳が違うじゃん?そんなので浮気じゃありませんって言われても信用なんか出来ないよ。竜胆が許せないって言ったように」
「でも俺は、」

竜胆は何か言いたげに口を閉じる。私も私で嫌なことを素直に言わなければいけなかったのかもしれないが、今回の件はどうしても許せなかった。だけど悔しいことに竜胆の顔を見ると直ぐに"嫌い、顔も見たくない"と言えない自分もどうかしている。

「…俺のこと嫌い?」
「それ、は……分かんない」

正直な本音だった。嫌いといえないけれど、謝罪されても許すことの出来ない私はこの言葉以外に思いつかなかったのだ。竜胆は落胆の色を隠せない。彼のこんな顔を見るのは出会ってから今日までで初めて見た顔だった。人生終わったかのように青ざめた竜胆は私の両腕を掴む。

「ちょっ」
「どうすりゃもう1回お前に好きって言って貰える?やだ、捨てんなよお願いだから。お前が傍にいてくれんなら何でもするからっ、ゴメン、ほんとゴメン」
「やっ、あの」
「お前の気持ち考えてなくてゴメン。もう女がいる遊びになんて絶対ェ行かないから、お前の嫌なこと全部しないって約束するから…どうしたら、好きになってくれる?まじでなんでもする…から、




俺と別れるっていうのだけは言わないで」


切羽詰まった竜胆は最早半泣き状態である。隣で笑っている蘭君なんて目にも耳にも届いていない。六本木の灰谷兄弟として有名な片割れの1人が、今こんな普通の私に懇願しているとは誰が思うだろうか。

「…そんなに私が好き?」
「すげぇ好き。俺が全部悪ィけど…お前と離れるのだけは無理。ゴメン、お前がいないと俺何にも出来ねェ」

付き合ってから別れるとなったこの日まで、私なりにちゃんと彼が大好きで全面に出してきたつもりだ。
「そのまんまのナマエが好き」と彼はよく言ってくれていたけれど、女って好きな人の為ならば何でも頑張れてしまうから、平凡な私が彼に飽きられない為に、料理も覚えて竜胆の隣に立っていられるようにお洒落もメイクもそれなりに勉強してきた。竜胆の好きな物を共有するのが楽しくて、少しだけど年上の私が知らない世界を見せてくれたのも竜胆だ。裏切られたことにはショックが大きいけれど、竜胆に掴まれた腕を離す事が出来なかった。

「…もう他の子と遊ばない?」
「っ!遊ばねェ!ゴメン、本当に。今から連絡先も全部消すからっ、」

そう言って携帯を取り出し速攻で削除に取り掛かる竜胆に緩い笑みが零れた。そうして竜胆が削除し終わるのを確認した後、不安げに竜胆は私へと顔を向けるからにこりと笑みを見せる。

「もう良いよ」

私のこの一言により、分かりやすく笑顔を見せた竜胆。しかし私はそんな竜胆に背を向け、まだその場にいた蘭君の両腕に腕を絡めた。

「は?」

竜胆の重く低い声が耳へと通過する。まるで何してんだよと言いたげに。

「今日1日蘭くんと遊んで来るね
「えぇ?なになに、ナマエチャン俺と遊んでくれんのォ?」
「まっ待てよ!なんでそんなんの!?兄貴離れろって!!」
「だってコイツからくっついて来てんじゃん。無理に離すことなんて俺出来ねェもん」

楽しげにケラケラ笑う蘭君とは正反対に、竜胆は信じられなさと怒りの表情を器用に顔へと浮かべた。それが面白くて、私はまた少し泣きそうになっている竜胆へと視線を合わす。

どうやら私はかなり根に持つタイプらしい。どれだけ好きだと言ってくれたって、女の連絡先を消そうが遊ばないと約束してくれようがやっぱり直ぐには許せない。でも他の男の子と私が遊んだらきっと竜胆は警察のお世話になりそうな悪いことを仕出かしそう。でもきっと、彼の兄である蘭君ならば許される。


「もう一日だけちゃんと反省してね、りんくん
「それで呼ぶのはマジ止めて」


くすくすと笑って私は蘭君を引き連れ歩き出す。棒立ちになった竜胆が今どんな顔をしているのか分からないけれど、きっとヤキモチ妬いてめちゃくちゃ怒っているのだろう。でもこれくらいの仕返しは許して貰えなきゃ困る。


後日、わたしと竜胆の仲が復縁した後も"りん君"呼びの真相を知った蘭君に当面の間彼はからかわれ、そして私はまた蘭君とのデートに駆り出されることになるのはまだ知らない。



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