小説 | ナノ

愛情欠落症候群



※後に梵天軸
※すれ違い×お別れ(竜胆の手を取ったかどうかは皆様のご想像にお任せ致します)





始まりは17才、バイト先のコンビニによく来るお客さま。
綺麗に染まった金髪に水色メッシュを散りばめていた彼は店内で一際目立つ存在だった。特攻服を身にまとい、パッと見怖いと思うのに、お菓子コーナーの駄菓子を選んでいる姿が印象的かつ違和感あって、つい目がいってしまった。

暴走族なんてものを言葉では知ってはいても私とは縁遠い世界。言ってしまえば不良とごく普通の高校生活を送っている私とではそれだけで住む世界が違って見えていたし、当初は極力関わりたくない人種でもあった。

「そんなこと思われてたのかよ。本人目の前にして言うかフツー」
「それ思ってたのは初めだけだよ…ってか聞いてきたの竜胆じゃん!今はそんなこと全然思ってないからね!」
「へ

つり眉をほんの少し顰めて納得いかない様子の竜胆の目付きに、私の口はぎゅっと閉じる。初めは苦手だと思えていた彼がバイト先に訪れる度に話しかけてくるようになり、いつの間にか怖いと思っていた感情は次第に薄れて今では名前で呼び合うような仲にもなった。こんなこともあるんだな、と他人事のように不思議に思いつつも、胸は彼と会う度いつの間にか音を鳴らすようになったのだから、きっと私はこのとき既に恋をしていたんだろうと思う。

「…じゃあさ、今の俺ってどんな感じ?」
「え?」
「俺、お前に会う為にここのコンビニ態々通ってたんだけど」

夏は終わり、初秋を思わせる涼しげな風が吹いたとき、竜胆は確かにそう言った。彼の香水の香りが風に乗ってふわりと辺りを満たす。私を見下ろして視線を合わす竜胆は、いつものようにふざけて笑わせてくれる彼では無かった。緊張しているような真剣な顔立ちに、笑って"どうしたの?"なんて言える雰囲気はどこにも無い。頭から語彙が抜け落ちてしまった私は「あ、えっと」と口ごもる事しか出来なかったのだ。

「分かんねぇ?……お前のことが好きだって言ってんの」

ポン、と私の頭に大きな手が乗せられて目が合うと、顔を見られたくなかったのか竜胆は照れ臭そうにそのまま髪を掻き回す。そうしてユラユラ揺れる私を見ながら薄く笑いゆっくり返事を待つ彼に、「私も好き」だと伝えるまで少し時間が掛かってしまった。


竜胆がお客さんから友人、彼氏へと変わると私の日常はがらりと変わっていく。そして初めて出来た彼氏は、私の大好きな人となり大事な人へと変わっていった。


「お前の初めてってだけで特別な感じがして嬉しいワ」


目元を細めてくしゃりと笑った彼の表情が私は一等好きで、私だけに見せてくれている顔なんだと思うと特別感を得られて心は幸せに満ちる。でも当時17才であった私は思いを伝えるのが本当に下手くそで、中々自分の心情を相手に伝えることが上手く出来なかった。

「ナマエこれ好きだろ。今度行ってみねェ?」
「えっ何で分かったの?」
「んなの彼氏だからに決まってンじゃん。お前顔に出やすいし何でも分かるっての」

私が読んでいた雑誌に指を指す竜胆。私が言わずとも汲み取ってくれる彼にいつも甘えていたのは私だ。彼氏と何かをするということ自体が初めてであった私が、一通り経験している竜胆とは差があるということは分かっていた事だけど、余裕の無さがこんなにも違うことに悩んでいた時期も少なからずあったのは事実だ。


「お前ら部屋行けよ。俺飯食いたいんだけどォ」


げぇっと寝起きでペットボトルの水を飲みながら、竜胆のお兄さんである蘭さんはいつもの如く私と竜胆へ正直に見たく無いと顔を歪める。呆れる蘭さんとは反対に、竜胆は気にせず後ろから私を抱き締めくっついてくる。人前では辞めて欲しいとは思うけど、甘えん坊であるそんな所も好きだった。


沢山デートをしたし、沢山大好きだとお互い伝えて、沢山喧嘩だってした。竜胆は基本的に誰にでも優しいから勘違いする女の子も偶にいて、その度に私が一方的にヤキモチを妬いて怒ってしまったり、不安になった事も何度かある。そんな時の竜胆は決まって五月蝿がらずに聞いてくれて、私が落ち着きを取り戻す頃に「ごめんな、不安にさせて」と優しく抱き締めてくれるのだ。



「…わたしよりも絶対可愛い子いるもん」
「ばぁか。お前以上の可愛い奴なんか何処探してもいねェって」
「……何それ。恥ずかしくないの?」
「お前が言わせたんじゃん…でも嫌な思いさせちまってゴメンな」

大学を選んだ私と一足先に社会に出た竜胆。
彼の選んだ道は褒められるような道では無かった。大事な資金の為、自分たちのお得意様の為。分かってはいたつもりだったけれど、私はきっと竜胆よりも考えが子供だったから、私の知らない夜の世界へ出向かなければならない彼を笑顔で見送る事が出来なかった。でもその度に竜胆は少し悲しげに私の頭を撫でるから、それ以上は何も言えなかったのだ。


そうして月日は巡りに巡って私も就職する事になる。
就職したと同時に実家を離れて一人暮らしを始めたこのアパートは、竜胆が選んでくれた物件だ。

「ここならセキュリティもそこそこだからここにして。俺の家とも近ェから」
「うん、分かった。ありがとう」
「ん、一緒に暮らそって言ってンのにお前聞いてくんねェんだもん。変なとこで頑固過ぎ」
「あはは。私も住みたいけど今住んだらきっと竜胆にもっと甘えちゃうし、少しだけ自立が出来たら一緒に住みたいなって思ってるよ。だからその時は一緒に住んでも良い?」
「あ?あー…うん。お前のそういうとこすげェ狡い」

ぎゅううっときつく抱き締めてくれる竜胆の胸に顔をうずめて擦り寄せた。

今だから思うけどこの時もしも私が頷いて、竜胆と一緒に暮らす事を選んでいたら、私たちは何かが違っていたんじゃないかなんて思ったりもする。








『わり、今から取引先に顔出しに行くことになっちゃってさ。支度しちまった?』
「え、ぁあーと…ううん、大丈夫。私もさっき帰って来た所だから」
『マジ?ほんとゴメンな。あ、…やべ、呼ばれてっから行くワ!また連絡する』

電話口の向こうから竜胆の名を呼ぶ声が聞こえた。多分この声は蘭さんだ。そして通話時間2分にも満たない電話は強制終了。もう何度目かも分からないデートの延期は慣れるようで慣れないものだ。耳からスマホを離して目に映るのは鏡に映った自分の姿である。最近は竜胆と全く会えていなかったからどうしても会いたくて、本当は仕事が残っていたけれど明日へ回して切り上げてきた。急いで帰ってきて支度して、オシャレをした私は仕方がない事だけど無駄になってしまった。

「…これなら仕事してた方が良かったかな」

こんなことを一人呟いても今連絡が来たのだから意味が無い。分かってはいるけれどやり場のない気持ちに心は沈む。素直に寂しいと口に出来るほど私たちは年齢も重ねて大人になり、自分達の生活故に相手の重荷になる事を伝えられなくなってしまった。

竜胆の勤務時間は私と違って不規則だ。朝方帰ってくることもあれば、やっと会えても数時間だけの逢瀬の時もある。私も私で今配属されている部署が忙しく定時で上がれない日もあるし。認めたくはないけれど、簡単に言ってしまえばタイミングが合わないのだ。

竜胆が帰ってくる頃に私は疲れて眠ってしまっている日が多い。夜中に来ていた連絡を、朝起きて返す日の方が多くなっていった。初めの頃はそれが寂しくて、「会いたい」と泣いてしまった夜もあったけど、疲れた笑顔で会いに来てくれた彼に気を使わせてしまっている気がして、知らない内に我慢もするようになってしまった。


「ナマエちゃんは彼氏と長いんだって?結婚とか考えてないの?」
「結婚…ですか」

プライベートの時間を使ってつまらぬ会社の飲み会に参加した日のこと。嫌な顔せず出席出来る様になった私は苦手な男の上司の隣でちょびちょびと酒のグラスに口付けていた。酒に酔いかなり頬を染めた上司は、興味津々で悪気無く軽い口振りで言う。

「んー…彼仕事忙しいですからね。どうなんでしょ」
「え忙しい人ほど家で自分のこと待ってて欲しいって思いそうなもんだけどねぇ。俺なら速攻でプロポーズするね!」
「そう、ですか…ははは」

乾いた笑い声は上司の耳には届かない。その後も楽しそうに上司は私から後輩へとチェンジし、彼氏はいないのかと話しかけている。
そういう男だからお前はその歳で彼女の一人も出来ないんだよ、なんて作り笑顔のまま心の中で悪態をつく。…上司に女がいるかいないのかなんて興味も無いけれど。

しかしこの上司の言葉は思ったよりも私の心を抉った。今の私たちは結婚どころか会えてもいないし連絡も減っている。この悪気のない言動は心臓に重石を乗せられる程キツかった。

なんとか愛想笑いを振り撒いて酒の席をやり過ごし、やっと上司を見送りタクシーを捕まえ乗り込んだ。家に着くまでの間、考えていることはやっぱり竜胆のことである。昔なら会社の飲み会といえば仕事を抜け出して迎えに来てくれていたなぁとか、会社の同期や後輩の男性にヤキモチ妬いていたこともあったなぁとか。

「っ、」

竜胆の笑っていた顔、言葉たちを思い出せば鼻が痛み出してそこで初めて自分が泣いていることに気が付いた。鳴らないスマホを覗いてみても朝私が返信をしたきり、竜胆からの連絡はやはりない。

「ぅ、ッく」

いつからこうなっちゃったのかな。
お互いの時間が合わなくなって、会う回数も徐々に減っていって、気付けば1ヶ月も彼氏の顔を見ていない。


竜胆から好きだと言われたのはいつだろう。
私が彼に好きだと伝えたのはいつだっけ?


…もう私たちはダメなのかな。


止まらない涙を袖で拭い、タクシーから降りてアパートの家の鍵を開けても尚、涙は止まるどころか溢れるばかりだった。

長く一緒に居ると、人間は情が湧くという。
私が今涙しているのは離れることに実感が湧かずに出る涙なのか、それともまだ私の中で竜胆が好きだという気持ちがあるからなのか、情緒が不安定過ぎて直ぐには頭の中で整理が出来ないけれど、多分両方だ。

このままズルズルと恋人関係を引き摺っていっても私たちがプラスになることはきっと無いのだろう。そう思ってはみるものの、そういう時に限って竜胆と作った思い出たちがアルコールに侵されている脳内でも鮮明に蘇って来てしまうのだからこまる。

思い出は美化されるとはよくいったもので、本当にその通りなんだと一頻り泣いた後に実感した。だって前に大喧嘩をしたときの思い出したくない記憶も、こんな時ではそれでさえ懐かしく感じてしまうんだもん。

私の明日は休日、竜胆は仕事なはず。
直ぐに会えなくても大丈夫。決心が鈍ってしまう前に、私はトークアプリを起動し画面の文字をタップする。いつもと意味が違える言葉にまた視界が滲むけれど、一拍置いて送信ボタンをタップした。




"まだ仕事かな?時間が空くときに会いたい"




送信されて画面が暗くなると私はそのままベッドへ力なくダイブする。枕に顔を埋めてもう一度送ったメッセージを見たけれど、少女漫画のようにやはり返信は直ぐには返っては来なかった。分かってはいるが昔のように直ぐに連絡をくれるんじゃないかって淡い期待をしてしまう自分に、諦めるように薄笑いをして私はそのまま目を閉じた。







「久しぶりだね」
「ん、久しぶり」


約1ヶ月ぶりに会えた私の恋人は、重たい前髪から目を覗かして微笑むと、私の頭を優しく撫でた。私が助手席のシートベルトを着けたのを確認すると、車はゆっくりと動き出す。

「腹減ってる?」
「ううん、竜胆は?」
「俺もまだ大丈夫。後で食いに行こ?」
「……うん、そうしよっか」

竜胆の問い掛けに、首を横に振ると彼は私を自身のマンションまで連れていく。いつもと変わらない、私の気持ちが違うだけ。なるべく普段通りの私を装って笑顔で答えたから、きっと竜胆は気付かないはずだ。竜胆と食事を共にすることは多分きっともうない。簡単についてしまった小さな嘘は、意外とバレないものである。

「ゴメン、部屋片付けれてねェ」

竜胆の家に久しぶりに上がると、落ち着く匂いがする。ソファに脱ぎ捨てたままのシャツであったり部屋着が無造作に置いてあって、そういう所は昔から変わらないなぁなんて少し笑ってしまった。ジャケットを脱いだ竜胆は、私が何処にも座らずリビングで動かないのを見て不思議に小首を傾げる。

「こっち座んねェの?」
「あ、えっと…あのね、」
「なんか飲む?つっても水か缶コーヒーしかねぇけど」
「ありがと…」

竜胆は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し私に手渡した。反射的に受け取ると竜胆は私の手を引いてソファに座らせる。

いつもの私だったら竜胆に抱き着いて、会えなかった日常を話しているこの時間。竜胆がつけたテレビの音は虚しいだけのものであり、内容は全く耳に入って来なかった。どうしよう、やっぱり言うのを辞めてしまおうか。今だったらそれが間に合うだなんてそんな思いも頭を過ぎる。だがそれではきっと意味がない。

冷えたペットボトルをテーブルに置く。ドクンドクンと音を立てる胸を沈めるように小さく息を吐いて、私は竜胆へと顔を向けた。

「竜胆…あのね、」
「そういやお前が好きなケーキ買って来たから食う?腹減ってねェなら無理?」
「…ケーキ?」
「うん、お前が好きなとこのヤツ。ラスイチだったから焦ったワ」

それは多分竜胆と出掛けた際、帰りによく寄っていたお気に入りの洋菓子屋の事を指している。沢山泣いてきたのに、こういう時にちゃんと私の好きだった物を覚えていてくれるところ、本当厄介だよ。決心したものがまた揺らいでしまいそうになるじゃないか。にこっとした笑みを見せた竜胆に、視界は気を抜けば容赦なく潤みそうになる。

「…りんど」
「なんか新作も出てたっぽくてさ、俺それ買ったから半分こしねェ?」
「りんどう、聞いて」
「兄ちゃんが好きそうなのもいくつかあったんだよな。あ、ナマエ今度選んでよ。お前が選んだヤツなら兄ちゃん喜ぶし」
「ッ聞いてってばっ」
「……」

自分が思った以上の大きな声が出た。竜胆は驚く様子も無く口を閉じる。雑音化しているテレビを竜胆が静かに切ると無言の空気が一気に重たくなるのを感じた。服の袖を掴む手に力を込めて喉まで出かけている別れの言葉を口にしようとしたとき、竜胆は俯きながら消え入るように呟いた。


「……聞きたく、ねぇ」


弱々しいその声に私は驚いて息を飲んだ。

「…わたしの言いたいこと分かるの?」
「分かりたくねェし合ってるって思いたくねェけど…分かる。……俺お前の彼氏だもん」

絶対にバレっこ無いと思っていた私の気持ちに、竜胆は気付いていたのだ。泣かないと決めていた私の涙腺は崩壊し、涙が勝手に流れ出す。

「ッ、りっ竜胆に…恋して良かったなって思う、よ」
「…俺もだよ」
「あの頃から、わっわたしは竜胆しかいなかったから…ふぅっ、これからも竜胆が大事な人だって、思ってたけど、」
「…うん」

年齢が大人になればなるほど思うのだ。
昔のようには物事簡単に考えられなくなったなって。私も竜胆も、もう良い歳をした大人になってしまった。会えない日に竜胆を思い出さない日は無かったけれど、このまま今のような時を過ごして行くだけの時間は、本当に大切なのか分からなくなってしまった。

「…ぅ、分かんなくなっちゃったの。この先一緒にいても、いっ意味なんてあるのかなって、」
「……」

嗚咽混じりの本音は上手く伝えられている自信は無い。それでも竜胆は私の言葉を黙って聞いている。私たちの数年はこの一言により終わってしまうのだけれど、私はこの期間良い恋愛が出来たときっと思うのだろう。

子供のように笑った顔が大好きだった。
喧嘩をした日、中々素直に謝らない私に折れて抱き締めてくれるのはいつも竜胆の方だった。怖いDVDを恋愛ものだとワザと嘘をついて借りてきたり、酔っ払って覚束ない足取りで会いに来て、玄関先でそのまま倒れる様に眠ってしまったり、機嫌が悪いとあからさまにツンケンする所も、全部全部大好きだった。

思い出せる全ての思い出たちは、私の宝物である。


「別れよう」


ようやく出たその言葉に竜胆の肩がピクリと跳ねる。好きを教えてくれたのは竜胆、別れの辛さを教えてくれるのも竜胆。私は本当に彼でいっぱいだったんだなぁって思うよ。ただほんの少しだけ、今まで一緒だった私たちが擦れてしまっただけなのだ。

「…お前は、お前は俺がいなくて平気なの?」
「それは分かんない…分かんないけど、きっとおばあちゃんになっても竜胆のことは思い出しちゃうのかもしれない。良い恋したな、って…、」

言葉に詰まってしまった。
だって、だって竜胆の目は今にも泣きそうに赤くなっていたから。

「泣いてるの?」
「っ泣いてねぇよ。お前じゃあるまいし」

直ぐに私からそっぽを向くように顔を逸らした竜胆は鼻を啜る。数年傍にいて、初めて彼が泣く姿を見た。だから折角止まり掛けていた涙はまた私の頬を流れてしまう。

「こんな時泣くなんて狡いじゃん」
「泣いてねぇって。泣いてんのはお前じゃん」

昔に戻ったような懐かしさに、泣いているのに笑みが溢れた。そっと落ち着かせるように深呼吸して、竜胆の薄藤色した目と視線を合わせる。

「…りんどう?」
「ん」
「竜胆のこと大好きだったよ。竜胆と出会えて良かったなって本当に思うし、多分竜胆よりも私の方が好きだった自信があるんだよねわたし」
「ハっ、んだよそれ。…俺の方が好きだったわ」

可愛らしい会話に小さく笑い合う。
そろそろ行かなくちゃ。ずっとここには居られない。
涙を拭い私が帰ろうとしている事に気付いた竜胆は、私の名を呼び引き留める。


「ナマエ。わりぃ、嘘ついたわ」
「え?」
「好きだったんじゃなくて…俺は、俺は今でも、」


「竜胆」


静かに名前を呼ぶと目元を赤くした竜胆が目に映る。私はまた泣きそうになるのを今度こそ我慢して、彼のスーツのネクタイを軽く引っ張った。


「っ、」


私は彼に触れるだけのキスを一度だけ落とす。



離れた唇からゆっくりと瞳を開けると、やっぱり切なげに笑って私を見ている竜胆が目に映った。





Title By 子猫恋

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