小説 | ナノ

"恋人"に昇格したかった


※梵天軸

※セフレは結局セフレだった話


蘭君と私が普通の"オトモダチ"ではないその関係は出会って一日目にして出来上がった。まぁお酒も入っていたし、飲んでいた店の雰囲気もジャズなんか流れちゃっているようなお洒落で魅惑的な空間だったし、その場のノリという軽いものでありドロドロの沼に落ちていく日でもあった。

「蘭君て女を抱くのに毎回こんなホテル連れて行っているの?」
「あ?今日は特別」

その場の女を抱くのには勿体ない程の客室は、ラブホでも何でもない都内で聞いた事のある有名なホテル。私の質問にあたかも最初から決まっていたようなマニュアル通りのセリフ。彼の首元から香る香水の匂いは嫌いじゃない。どちらかといえば好きな匂いだ。彼の耳のピアスを指で触れればそれが合図となり蘭君は私にキスを落とした。今日ちゃんとした格好で来て良かった、上下お揃いの下着で来て良かっただなんてそんなお馬鹿な事を考えながら、私は彼の首にそっと腕を回し離れた唇に今度は自分から誘うように彼の唇に自分の唇を重ねた。

「お前見掛けより大胆だね」
「…こういうの蘭くんは嫌い?」
「んーん、嫌いじゃねぇよ。寧ろ好き」

蘭君は片方の手を腰に回して空いた手でするりと自然に服の中に手を忍び込ませる。その手つきは如何に彼が今まで幾多の女を手に取ってきたか分かる程の手馴れている感じが酒に酔った思考回路でも理解した。

あ…好きになっちゃいけない人だな

直感でそう思った。今日初めて会った人の事なんか素性も知らなければ女関係のことなんか知る由もなく。灰谷蘭と初めに酒を飲んでいた席で聞いた名前しか知らない。しかし私だってもう二十歳を過ぎた女なので、これくらいの事はドラマだとか自分の少ない人生経験等で培った脳みそで察知が出来た。





朝起きれば隣に居たはずの彼はもういなかった。まぁそんなもんだろうと思って、彼が寝ていたシーツの場所を指でなぞってみるけれど、もうシーツはひんやりと冷たい。私はベッドからムクリと起き上がり、昨日の脱ぎ散らかした服を再度身に纏う。部屋を出ようとした際に目に映ったのはテーブルに置かれたメモ。

"電話して"

小さなメモ用紙に番号と一言それだけ書いてある紙を手に取り、ふふっと私の口からは笑みが溢れてスマホに一応だけれど蘭くんの連絡先を登録しておいた。





所詮私はしがないOLだ。私が働く職場は私服通勤だから毎日着ていく服に困ること。家に帰る時間も無かった為、昨日と同じ服を着て、ロッカーでジャケットだけ替えが置いてあるから新しいジャケットに着替えて席につく。

「あ!先輩昨日と同じトップス!まさか朝帰りですか〜?」
「朝から元気だねぇ。昨日は飲みすぎて終電逃しちゃったからホテル泊まったの」
「またまたぁ。彼氏出来たんなら私にも紹介して下さいよっ」
「そんなのいないって。いたら残業しないで毎日定時で帰ってるよ」

私の可愛い後輩は色恋ネタに敏感だ。何も教えない私にぷぅっと口を膨らませると拗ねながら自分のデスクへと帰っていく。昨日は久々に定時で上がったからやらなければならない仕事がそこそこ溜まっていた。昨日の今日で寝不足の頭に目を覚ますためカフェインという名のコーヒーを煎れ口付ける。

ぐうっと軽く背伸びして、今日も残業かぁと思いながら私は目の前のパソコンに目を向けた。





あの日から3週間ほど経つ。忙しかった仕事は無事納期に間に合いやっと残業の地獄から抜け出せる事に少なからず私のテンションは上がっていた。後輩の女の子も今日は彼氏とデートなんです!と言って定時の時刻になった途端ルンルンで帰って行った。この間までは紹介してなんて言っていたのにいつの間に彼氏が出来たんだろうか。若い子はやっぱり違うなぁと自分もまだ二十代のクセにそんな事を思う。パソコンをシャットダウンし、会社の少し先を行った道で待たせている人がいる為、私も早々に社を出た。

「蘭君ごめんね。待ったよね?」
「ん、いーよ。お疲れ、乗って?」

彼の車に乗るのは今日が初めて。この間はお互い飲んでいたからホテルまでタクシーだった。車に疎い私でも分かる高級車である車種に乗り込み助手席に座ると蘭君は口を開く。

「ねぇー、俺連絡してってメモ書いたのに何で連絡くんねぇの?」
「あー、はは。仕事が本当に忙しくて中々ね」
「それマジ?」
「マジですよ大マジ。でもやっと落ち着くかなって所」
「…そ?ンじゃ次はナマエから連絡来んの楽しみにしてる」

蘭君はさり気なく次の約束が取り付けるような口振りで笑いながらハンドルを動かす。お昼休み中に蘭君から届いたメッセージ。今日会える?なんて来たものだから私はつい2度見してしまうくらいには驚いてしまった。私から連絡をしなければまた蘭君とこうして会えるとは思っていなかったから。

私の電話番号をなぜ蘭君が知っているのかなんて聞かなかった、けど想像はつく。多分私が寝ている間に控えておいたのだろう。勝手に携帯触られるのは好きじゃないけれど、されてしまったものは仕方が無い。こういう事がサラッと出来てしまう男には気を付けた方がいいと前に退社した先輩が言っていた事を思い出し私は横目で蘭君を見遣る。そんな私に蘭君は気付いてニコリと垂れ目がちな目を細めた。

「蘭君、私仕事帰りだし今日こんな格好なんだけど」
「ん?別にドレスコード必要な場所じゃねぇから大丈夫。っつか俺的にそういう格好も好きだけど?脱がせやすそうで
「…蘭君えっちだね」
「男はみーんなエッチだよ」

会って二回目にしてこんな会話。やっぱり蘭君に心を持っていかれてはろくな事は無いだろうと思えた瞬間でもある。そのまま予約してあったらしいホテル内のラウンジへと着くと、蘭君は車から降りてさり気なく私のバッグを手に取り歩き出す。

「シャンパン?ワイン?なに飲みてェ?」
「んー、でも私明日も仕事だし」
「いいじゃん飲めば。部屋取ってあるからさぁ」

流されてはダメ。この男の言う通りにしてはいけない。そう頭の中では分かっているのに私の口から出た言葉は全くもって正反対の言葉だった。

「じゃあ甘めのワインがいい、かな」
「ん、りょーかい」

蘭君はウェイターを呼ぶと私が飲みやすそうなワインを注文する。

お酒を飲んで、美味しい料理を食べて、またお酒を飲んで。
気付けば時間はあっという間に二時間を過ぎようとしていて、蘭君は私の腰を抱きながら取ってあると言った部屋に連れて行く。

「こういうホテルは前に特別の日だけみたいなこと言ってなかったっけ?」
「今日も特別。ここ風呂からも夜景が見えんの」
「…そうなんだ。よくここには来るの?」

蘭君は自身のネクタイをそっと緩めながらにっこりと口元を上げる。

ほらね、やっぱり蘭君はきっと他にも女の子が沢山いるし、きっとその女の子達ともこういうホテルに連れて来ている。そして蘭君は私がどんな反応をするのか見て楽しんでいるんだ。蘭君は酒の熱で侵された私の頬をそっと優しく撫でた。

「なに?ヤキモチ妬いてくれンの?」
「まさか。ただ次は蘭君でも来たことがないホテルに連れて行ってもらいたいなぁって思っただけだよ」
「何それ。クソ可愛いんだけど」

えへへと笑って見せると蘭君は私を抱き締めてベッドへ押し倒し、熱を帯びた目付きで私を見下ろす。そうしてゆっくりと私の顔へ近付き唇から耳朶、首筋から胸元。ちゅっと恥ずかしい音を広い室内に響かせながら私へキスを降らしていく。私は蘭君にされるがまま彼に飲み込まれていくのだ。





甘ったるい時間を過ごした後にガラス貼りのお風呂に入れば、蘭君の言っていた通り夜景が堪能出来た。いつも会社の窓やアパートから見る景色と当たり前だけど違って、東京に住んでもう数年経つというのにも関わらずネオンが鏤められたその一面につい子供のようにはしゃいでしまった。

「蘭くんっ!見てっ!最上階ってこんな綺麗に景色見えるんだね!すごっ」
「お気に召したみたいで何より。っつかさっきのお前と180度違いすぎて別人みてェなんだけど?」
「え?何それ?残念だけど同一人物だよ。すみませんねー、こういう所連れて来てもらうの初めてだからはしゃいじゃって」

ほんの少し悪態をつくように口を尖らせれば、蘭君は私を後ろからぎゅうっと抱き締め顔を私の首元にうずくめた。セットされた彼の髪の毛はいまや濡れてストレートに下ろされ、何だか雰囲気が違ってちょっとだけドキドキする。

「いじけんなって。あー、つか初めてなんだ意外だワ。んじゃまた連れて来てやるよ」
「…次は他の女の子と行った事がない所が良いんだってば」
「っふふ。お前ほんっとかわいー。こっち向いて?」

蘭君に背を向けていた私は、彼の言う通りくるっと体を向ける。小さな我儘に蘭君は怒ることはせず、寧ろ楽しげに彼は私の胸元に赤い鬱血痕を残した。

「あっ、付けないでって言ったのに!」
「あぁ、ごめんなァ?でもお前が可愛い事言うから悪いの。付けたくなっちゃったんだもん」
「それ…理由になってないよ」

全然悪いと思っていないであろう蘭君は私に言葉だけの謝罪を口にする。こんなことをしたってこの関係性が変わることは無いのに、平気でそういう勘違いしてしまうような行動と甘い言葉を淡々と述べてしまえる蘭君に、やっぱり好きになってはいけない人種だと改めて思った。





蘭君はそれからも私を頻繁に誘うようになった。三回目は本当に蘭君が来たことのないホテルを予約してくれたらしく「嬉しい?」と聞かれた私は素直に嬉しいと伝えた。蘭君はまた満足気に笑って私の頭を撫でてくれる。人に頭を撫でて貰うのは気持ちがいいから昔から好き。蘭君に撫でて貰うと何故かすぐに眠ってしまうから眠る前には頭を撫でて欲しいとお願いしたら蘭君は「ガキじゃん」と言って頭を撫でてくれるようになった。

前に一度だけ後輩を飲みに連れて行った帰りに、蘭君を見たことがあった。蘭君は女の子を横に連れていて、蘭君の真正面に私がいたから蘭君がそれに気付かない訳が無く、お互いの目が合った。彼の隣にいた女の子に気付かれないように蘭君はそっと人差し指で自身の口元に手をあてがって"内緒"というような素振りを私にして見せた。私は彼の言う通り、私は知らない人のフリをしてその場は過ぎ去った。けれどその日の深夜、珍しく蘭君からお誘いではない電話が来たのだ。

「今日はごめんなぁ?アレ仕事だから。知らねぇフリしてくれて助かったワ」
「あ、うん。それは全然良いんだけど。わざわざこの為に蘭君電話してくれたの?」
「ん、そう」

私は蘭君の彼女でも何でもないのに蘭君からのわざわざ電話を掛けてくる蘭君に笑ってしまった。だって少しだけ私より年上の蘭君が可愛く見えてしまったから。

蘭君は私が喜んだり、私から彼を求めるといつもにっこり笑みを浮かべて上機嫌。その都度何度か誘われ会うたび彼から香る甘ったるい香水は蘭君のものであったり、ときには違う香水の匂いが混じっていたり。それでも私は蘭君に問い詰める事もしなかったせいか、彼にとってそれは居心地が随分と良かったらしい。

「なぁナマエ。初めの頃にも言ったけどさァ、何でお前から俺に連絡してくれねぇワケ?蘭ちゃん結構お前から誘われんの待ってンだけどォ」
「だってわたしが連絡する前に蘭君から連絡して来るんだもん」
「…じゃあ俺がしなかったら連絡くれんの?」
「うん…多分」

多分と言った言葉が気に入らなかったのか蘭君はほんの少し面白く無さそうな顔を見せた。私が連絡しなくたって代わりは幾らでもいるくせに三十路の男が私に対してそんなこと言ってくるのはちょっとだけ気分が良い。

最近の蘭君はセックスするだけのような形では無くなりつつあった。毎回ホテルへ泊まる訳でも無ければ買い物に行きたいと称して私にプレゼントを送ってくれたり、ただの仕事の休憩の合間だとドライブに連れ出してくれたり、彼のおすすめの食事に連れて行ってくれたり。この間の大雨の日にはわざわざ会社まで迎えに来てくれて家まで送ってくれたこともあった。これだけ言うとまるで恋人のよう。こういう恋人ごっこの雰囲気も私は嫌いでは無かったし、楽しい時間を過ごせたと思う。私の事を可愛いと口にして褒めてくれるし、リップを変えたら真っ先にその色に気付く。女のことをよく見ているんだなぁって関心してしまう程だ。それでもやっぱり蘭君が他の女の子と遊んでいる事に束縛する事も、私から蘭君を誘うこともしなかった。





「お前ってさァ、俺以外にも男いたりすンの?」
「急にどうしたの?いないよそんなの」

行為の終わりを告げピロートークともいえるような時間。蘭君は私の髪を指で絡める。くるくると絡めた髪を解いてはまた絡めてと繰り返しながら、蘭君は穏やかに言うのだ。

「別にィ。ただお前ってさぁ…俺が他のオンナといてもうるさく口出さねェなぁって」
「…だって蘭くん束縛とかされるの嫌いじゃないの?」
「ウン。あんまし好きじゃねェなぁ」
「ふふふっ、じゃあいいじゃん?」

私がそう言えば蘭君の表情はほんの少しだけ曇ったかのように見えた。私はそれに気付かないフリをしようと思ったけれど、蘭君はそうはさせてはくれなかった。蘭くんの胸に顔を乗せていた私をひょいっとあげさせて、蘭君の薄紫色の瞳と視線が合わさる。

「俺、そこらの女に色々連れて行ったりするほど優しい男じゃねェんだけどォ」

そう言った彼の顔はいつもの余裕み溢れる顔付きでは無く、不満げにそしてちょっと悲しげに眉を下げている。

「…らんくん?」
「あー…、お前もし俺が今まで連絡取ってた女全部切ったっつったらどうする」
「…え?」

蘭君の思ってもみなかった言動に私はつい思い切り顔を上げてしまった。目を丸くさせる私とは対照的に蘭君は下から困ったように笑って覗き込むように私を見る蘭くん。

「それって……私のこと好き、なの?」
「好き?んー…そう、好きンなっちまったんだよなァ。でもお前俺に全然連絡くんねェし俺が他の女と遊んでんの知ってたクセに嫌な顔1つも見せてくんねぇんだもん。どうすりゃいいのか分かんねぇのよ」

ダセェけど自分からこんな女にハマるの初めてだから、と続け様に言葉を言い蘭君は口を閉ざす。まだ何か言いたげだけれど私も私でまさかその言葉を口にされると思わず、蘭君を凝視してしまう。沈黙が続いて数十秒。先に口を開いたのは蘭くんだ。

「…俺の女になる気ない?」

いつもと同じように低めなトーンで私の髪をいつもと同じように髪を撫でながら言う。

私はムクリと寝そべっていた体を起こし、蘭君の隣に座り直す。蘭君は目をほんの少しだけ大きく見開いて、私はそんな彼を見てにっこりと微笑んだ。





「蘭君、あのね……」











「おい、お前っち寒過ぎ。暖房つけねぇの?」
「ごめん!こんな早く来てくれるなんて思わなくてさ。私もさっき仕事から帰って来たところなの!」

狭い1LDKのリビングに腰を降ろしているのは私の昔からの友人、佐野万次郎である。昔は金髪ふわふわな髪の毛だったのに、今はその面影は無くストレートの白髪。オマケに目の下の隈が会う度に濃くなっている気がする。大丈夫なの?とつい毎回心配してしまう。

暖房の風量と温度を変えて、私は急いでマイキーが飲むココアを淹れる。話したいことがあるとは言ったけど、まさか今から来るなんて言うと思わなかったから私は定時を知らせる時刻と共にダッシュで帰宅したのだ。

「で?話ってなに?」
「あー、その事なんだけどさ。マイキーの首の後ろに刺青あるじゃん?」
「それがどうかしたか?」
「ん、ちょっと見せて」

あぐらをかいて座るマイキーの後ろに立ち、彼の首後ろの刺青を見るもやっぱり同じ。蘭君の首元にある刺青と。私はふぅ、と息を吐くとマイキーと対面するようにテーブルを挟んで向かい合う。

「とんでもねぇ人と"オトモダチ"になっちゃった」
「は?」
「いやだからね、とんでもねぇ人と"オトモダチ"になっちゃったんだよ。今更なんだけど」

私の言葉に意味が分からないとマイキーはココアを啜りながら眉を顰める。何処かで見覚えのある刺青の模様だなとは思ってたけれど、まさかマイキーと同じものだったとは。だって初めはワンナイトだと思ってたし?そこからはただのセフレだと思ってたし?そりゃ色んな物をくれたり連れて行ってくれたりと恋人のような真似事はしたけれど、単に可愛がってくれているだけだと思っていたし。

「らんって人マイキーの所で働いていたり、する?」

私の言葉にココアを飲む手をピタリと止めマイキーは私に苦い顔を向けた。

「…俺の部下に灰谷蘭って奴ならいる」
「それ!それだよ正にその人!!」
「聞きたくねぇけど何で蘭の事知ってんの?」
「実はそのぉ…飲み屋で蘭君と知り合いまして、そんでセがつく"オトモダチ"になっちゃったのは良いんだけど…向こうが私に本気になっちゃったみたいで」
「ハ?"お前"が、じゃなくて"アイツ"が??」

マイキーの言葉に私はコクコクと首を縦に振る。そんな私を見てげんなりした顔をするマイキーは不快な表情でため息を一つ零した。

「はぁ…。部下とダチの惚気話程つまんねぇの俺聞きたくないんだけど。ってか蘭は辞めとけ」
「違う!違うんだよ!いや、告られたんだけど私はその…せっセフレはセフレじゃん?それ以上の気持ちは無いし私が蘭君に対してそんな素振り見せたつもりは無かったんだけど…」
「けど?」
「ちゃんと言ったんだよ。断ったらちょっと怖いかなって思ったけど思わせぶりしたら悪いと思って、"私が蘭君を恋愛の意味合いで好きになる事はないよ。それに蘭君は私が手に入っても一人の女で満足出来るタイプじゃないでしょ。だからもうこの関係は今日でサヨナラだよ"って」
「…それマジでそうやってアイツに言ったの?」
「うん。ガチのマジで言っちゃったの」
「ブッ!ふふっ、ククッ」
「…へ?」

マイキーが笑っている。あのマイキーが。最近は会ったとしても虚ろな目付きをしてばかりいたあのマイキーが昔みたいに笑ってる!えっ、嬉しい!と喜びたいのは山々だったが、話題が話題であり私も一緒になって笑う気分にはなれなかった。

「そんな面白い?」
「ああ。アイツの顔見たかった」
「驚いてたよ。でもさ、話はここからなの。あっホラLINE!多分蘭君から」

私は自身のコーヒーが入っているマグカップに口付けるとバッグからスマホを取り出す。そしてタイミングよく鳴ったメッセージの通知音。相手は勿論蘭君であり、メッセージを開けば"次はいつ会える?"との文が目に映る。

「私ちゃんとフッたはずなんだけど何でかそれからも蘭君からのお誘いが変わらず多くて」
「しつけぇな」
「この間はね、会社までいきなり迎えに来たと思ったら"結婚してェって思うくらい本気で好き"とか言われたんだけど…どうしようマイキー」
「…ストーカー?キモイな」
「連絡無視してもめげずに送ってくるの!」

LINEの返信をどうすればよいかと迷う私の目の前でマイキーはゲッソリとした表情を浮かべると、私に聞こえない程度の小さな声で呟いた。



「……一回殺すか」

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