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不束者ですが愛してやって下さい


※梵天軸



会社の後輩が結婚を機に退職する事になった。「次は先輩の番ですね!」と幸せオーラを半端なく醸し出され、私はそれに対し某有名なネズミのように「ハハッそうだね」と返した。その一月後、次はなんと田舎に住む妹が結婚する事になった。「お姉ちゃん彼氏いるんでしょ?いつ結婚するの?もうアラサーじゃん」と私にとっての地雷発言が降り被り、悪気は無いにしろまさか妹にマウントを取られる事になるとは思わなかった。ってかアラサー関係無いしバカにするな。アンタは私の3つ下なだけだろうが。そしてさらにその一月後、今度は親友が結婚する事になった。「スピーチは絶対にナマエに頼みたくて!」と言ってくれたのが嬉しくて、おめでとうの言葉と共に心良く引き受けると「ナマエも彼氏ともう長いんでしょ?そろそろじゃない?」と肩を突かれ、ちょっと流石に返す言葉が見つからない。


27歳、周りは怒涛の結婚ラッシュ。私はその波にはきっと乗れない。







よそはよそ、うちはうち。この言葉、小さい時によく母に言われていた言葉であったがとても嫌いな言葉だった。その言葉を言われる理由は様々であるが、大体は欲しいものをねだった時に使われる言葉では無いだろうか。理由は違うにしろ私は今その言葉を何故か脳内で再生し、そして痛感している。

「ねぇ次はいつ会える?」
「あー、今週家に帰れるかも怪しいンだワ。早くても来週かァ?」
「えっ!?それはもうブラックじゃん……ご飯コンビニばっかはダメだからね」
「へーへー、つか俺らにブラックもクソもねぇっての」

私達は結婚も何もその過程までまず追いつけない。春千夜と付き合って五年。私はこの五年で諦めるということがとにかく上手くなった。春千夜君は大変お忙しいので、次の約束の取り付けも今しておかないといつになるか分からない。そして今回も春千夜の連絡待ちという結論に至る。春千夜の言う来週は、"来週以降のいつ会えるか分からない"が正解だからだ。

今回だって2週間ぶりの逢瀬だった。昨日の20時にようやく春千夜に会えたと思ったのに、土曜出勤をしたせいか疲れていてご飯を食べ終えソファで一緒にテレビを見ていたら、知らない間に眠ってしまった。目がパチっと覚めたらベッドにいて、どうやら春千夜が運んでくれたらしい。やっと会えたのに起きたら朝になってるんだから泣きたくなった。

五年も経てば大体お互いの事を分かり合い、上がりきった熱も落ちつく頃合だろう。こんな私達でも初めの頃はそれなりにソワソワしていたりドキドキ感もあったと思うが、今ではもうその欠片が見当たらない。熟年夫婦かのように初々しさがない私達は本当にカップルかと疑われてしまいそうだが、私はちゃんと春千夜の彼女である。その証拠に彼のスマホの待ち受けは未だ私と撮った写真に設定されている。熟年夫婦と言ったけど辛うじてまだ一歩手前かもしれない。これについてはとても嬉しい。

ネクタイをシュッと締めた彼は、今日が日曜日だというのにも関わらずお仕事に向かう支度をしている。ジャケットを羽織って香水をプッシュすれば、春千夜は煙草を取り出し火を着けた。

「お前今日何すんの?」
「今日は特に予定ないよ。家で映画でも見ようかな」
「ふぅん。ンじゃ家まで送ってやるよ」

春千夜は煙草を咥えながら車の鍵をチャリンとポケットにしまい込む。休みが不定期なのは彼の仕事の都合上仕方がないと付き合った頃から分かっていた事だし、褒められた仕事では無いにしろそれについても今更とやかく言うつもりもない。

……けどぶっちゃけ寂しい。五年という月日が経っても私は春千夜の事が変わらず大好きなので、本音の本音は一緒にいたくて堪らないのだ。なんなら正直今だって離れたくない。それぐらい好き。付き合いが長くなるという事に、私の場合プラスになった事もマイナスになった事もある。お互い素を見せられる関係という面では素晴らしい事だと思うけど、昔より"もっと一緒にいたい"とか"大好き"だとかそう言った気持ちを表に出して言葉にする事はめっきり少なくなってしまった。

「あ、あそこのご飯屋さん来週オープンするんだって」
「ふぅん」
「行ってみたくない?」
「出来たばっかの店ってこぞって人湧くから好きじゃねェ。てか今日暑すぎだろ。あの太陽絶対ェ俺のこン殺す気だワ」

春千夜は不機嫌そうに眉間に皺を寄せながらサングラスをかける。話を終わらせられたことに私も同じく眉間に皺を寄せるが、春千夜は特に気にしていない様子だった。そして悔しい程に横目に映るその顔は、五年経っても昔と変わらず格好良いままである。春千夜の住むマンションから私のアパートまでそう遠くは無くてあっという間に着いてしまうから、遠回り位してくれても良いのになんて思うけどそれは叶わず車は停車した。

「ホレ、着いた」
「ありがとう。…ちゃんとLINEしてよ?」
「わァーってるよ」
「…そう言ってこの間は2日も既読無視されたもん」
「それ謝っただろうが。詫びにオメーの好きなケーキも買ってやったろうがよ」
「アレは美味しかったです」
「それは何よりぃ」

車から降りる際に春千夜は私の頭をガシガシっと撫でた。名残惜しさも感じる暇もなく、春千夜のスマホが着信を知らせるとその手は自然と離れていく。邪魔してはいけないから小さく「またね」と言って、春千夜の車が見えなくなったのを確認して家に入った。





ずっと見てみたいと思っていた映画が配信されていた。今話題のラブロマンスである。映画を流しベッドで相棒の抱き枕にくっつきながらぼけっとテレビを眺めていると、いつの間にか映画はクライマックスで泣いている女に相手の男がぎゅうっと抱きしめているシーンだった。

『私は貴方とずっと一緒にいたいの!何年経っても貴方じゃなきゃダメなの!』
『俺だって…俺だって同じだよ!お前以外考えられないんだ』
『っ好き…大好きっ』
『バカ、俺は愛してる』

「ふは」

なんでこの映画こんなに人気なんだろう?
映画らしいと言えば映画らしいが、甘すぎる展開とこんな風に世の中実際に甘いセリフを吐き合える男女ってどの位いるのかと思うと笑えてきてしまった。中高生の頃はこういう甘い映画が好きでよく見ていたけれど、春千夜と付き合ってから「ンなゲロ甘な映画見るくれェなら俺は寝る」と言われて以来、アクションだったりコメディの方をよく見るようになったせいか、久しぶりに見る恋愛映画は結構気恥しいし耐性がまるでなかった。

エンドロールが流れ映画はハッピーエンドで終わりを迎える。

「……」

別に羨ましくなんて……いや、羨ましい。映画の内容はさておき、主人公の素直な性格が実に羨ましいと感じた。それに答えてくれる男も素敵だと思う。というか映画にまで羨ましがるとは私もう末期なのでは?とも感じてきて必要以上に気分は下がってしまった。

「素直、素直ねぇ」

抱き枕を離さず体を仰向けにして天井を見つめる。
素直になるってどうやってなるんだっけ?素直になるってこんな難しい事だったっけ?

春千夜って結婚願望とかあるのかなぁとふと思う。無いな、付き合う前に「何で女ってケッコンしたがんの?ンなのただの紙切れ一枚だろうがよ」と言っていたのを私は未だに覚えている。あの時はまだ若く付き合う前だったのもあり、「紙切れって言い方」と軽く返す事が出来たけど、今言われたら絶対に私は多大なるショックを受ける自信がある。

それでもやっぱり私は春千夜が好きだから彼のお嫁さんになりたいと思ってしまう。結婚して幸せな友人を見る度に最近は前より強く思うようになった。歳も関係しているかもしれないがこの先春千夜以外に好きな人なんかきっと出来ないし、私の恋愛は春千夜で終わりにしたいとさえ思う。でもその言葉を私から口にするには、高い空を飛ぶ飛行機に乗ってそこからバンジージャンプをするぐらいの勇気が必要なのだ。

「いつ会えるのバカ千夜」

両思いなのに片思いしている気分。寂しく感じるのは私だけなのかな。生理前だからだろうか、普段よりもネガティブに考え過ぎてしまって嫌になる。恋愛映画なんて見なきゃ良かった。結婚も何もまずは会えないと意味が無い。同じ都内に住んでいるのに、遠いんだよ。好きな人と帰る場所が同じって、良いなぁ。





今日は会社の同期(女の子)と久しぶりに飲みに出ていた。話題は会社の愚痴であったりとまぁ近況報告のようなもの。それらの話題が出し尽くすと今度は仕事から恋愛のお話にチェンジするのはお決まりだ。

「ナマエは最近彼氏とどうなの?順調?」
「え?あぁ、まぁ順調だよ」

当たり障りのない返答をし、酒が注がれたグラスに口付ける。

実の所、春千夜とは連絡は取れていたが会えていなかった。あれから三週間目に突入。早くても来週と言ってから随分と時間が経ち、私の中でのプチ遠距離真っ最中である。流石にこんなに会えないのは付き合ってから初めての事だった。

「順調なら何よりじゃん。ってか結婚の話とか出てるの?」
「出た出た出たよ。皆して結婚の話してさぁ、その話もう勘弁してぇ」
「えっなになに?どしたの?」

彼女が悪いわけでは決してないが何処に行っても話題になる事は"結婚"の二文字であり、もうその度に気が滅入る。同期はそんな私の言葉に食いつくように興味津々で顔をこちらに向けてきたけれど。

「結婚も何も…会えてないの。向こうの仕事が忙し過ぎて」
「マジで?どれくらい会えてないの?」
「…三週間くらい?」
「あそれはキツいっ!私ならもっと構えって絶対言っちゃうわぁ」
「それが出来ないから苦労してるの」

つまみに頼んだチーズをフォークで刺しながら小さく私は口を開く。

「別にね、仲は悪くないし会えば楽しいんだけど…なんていうか付き合った期間が長すぎて相手の事分かってるから我儘言えなくなったっていうかさ。困らせちゃいけないなって思うし喧嘩になりたくなくて素直に言えないの。向こうは結婚願望も多分ないんだけど、私も27だしそろそろ結婚したいなとか思うじゃん?結婚するなら勿論彼氏が良くて、でも……」

と酒に侵食された脳から言葉を絞り出しポツポツと話し出せば、同期は普段私から余り男の話をしないから珍しかったのか驚きつつも静かに聞いてくれていた。

「はー、成程ね。知りすぎて遠慮しちゃう的な?分からないでもないけど。ってかもう逆にプロポーズしてみれば?」
「は?は…は?無理っ!何でそうなんの?絶対断られるじゃん!話聞いてました!?」
「ちゃんと聞いてたよ。でもさ、五年も付き合ってて簡単に無理ですサヨウナラなんてないと思うけど?何にも考えていない相手と五年も普通一緒にいる?…でもまぁ断られて振られたら私が合コンセッティングしてあげるから大丈夫!だからそんな気を落とすなってぇ」

私の肩をポンと叩く同期は慰めるように私を元気付けてくれた。彼女の優しさにちょっと泣きそうになる。

それから暫くまた飲んで他愛も無い話をして、スマホの時計を見てあっという間に終電が近付いていた事に気付いた。

「もうこんな時間じゃん。そろそろ帰る?」
「んー、私はもうちょい飲んでく。実はここのマスター気になってんの」
「えっ!マジで?知らなかったんだけど!」

コソコソ話するかのように小さく言った彼女の発言に驚いてホールへと目を向ければ、イケおじのマスターがこちらに気付きニコッと微笑んだ。その人に向ける同期の顔はとても可愛らしく思えて私も自然と笑みがこぼれる。話を聞いてくれたお礼を彼女に告げて私は店を後にした。





外に出れば子寒くて薄着で来てしまったことに少々の後悔が生じる。駅までタクシー拾おうかと考えていれば目の前から居るはずのない人物に声を掛けられた。


「おっせぇんだよいつまで飲んでんだアホ」


一瞬酔いすぎて幻覚が見えたかと思った。店の前に止められた車から顔を覗かせたのは春千夜だったから。


「おら、はよ乗れ」
「はっ春千夜!?えっ仕事は?」
「あん?時間空いたからお前の顔見に来てやったんだよ。そろそろ拗ね出す頃だと思ってよォ」

過去に迎えに来てくれる事はあったけれど、こうして春千夜から連絡も無しに来てくれる事なんて今までなかったから驚いてしまったのだ。だから私はこのサプライズ春千夜の登場に今ひどく心臓が動き出し、そして嬉しさの余り顔は瞬く間に喜びに満ちていく。長い期間付き合っていたとしても、やっぱり好きな人に会えるのはいつだって嬉しいもん。

「おめぇ遅過ぎてあと5分遅かったら仕事に戻ろうかと思ってたワ」
「いっ言ってくれたらすぐに来たよ!」
「あ?あー…この方がお前喜ぶだろうと思った」
「へ?」

これは本物の春千夜なの?って疑ってしまうくらいに、まさか春千夜の口からそんな言葉を聞けるとは思わず私は彼を凝視する。そんな私に春千夜は「んだおめぇ!前見てろや!」と怒ったので慌てて前を向いたけど、春千夜は何処か照れ臭そうに思えた。こんな彼の表情を見るのは久しぶりで、もしかして春千夜も私に会いたいと思ってくれていたのかなと思ってしまう。

車内の中はいつもの空気と心做しか違う気がする。
やっと会えた春千夜を前にして、酒も入っているからか涙腺が緩んでしまいそうだった。それでも向かう先は私のアパートで、車が止まればまたいつ会えるか分からない状況に胸は痛んだ。こうやって会いに来てくれただけでもいいじゃないか、春千夜を困らせちゃいけないって思うのに、私は車が止まっても中々フロントドアを開けられずにいた。

「おい、どうしたよ?気持ちわりぃの?」

ふるふると首を横に振る私に、春千夜は不思議そうに顔を覗き込む。春千夜のスーツの袖を小さくキュッと握ると彼は少し驚いたように視線が合わさった。


「は、はるちよと…もっと一緒に居たい」


「あ?」


仕事中の人に言う言葉ではないと思うがついに尻すぼみになりながらも言ってしまった。春千夜はポカンと口を開ける。

「ごめん!困らせるつもりはなくて!ありがとう送ってくれてっ」

パッと掴んでいた袖を離してドアを開けようとしたとき、春千夜はその手を掴み阻止をした。


「別に困ってねェよ。俺も降りる」







久方ぶりに私の部屋に上がった春千夜は私を見るなり抱き締めた。3週間ぶりに近くにいる春千夜に顔を疼くめるとやっぱり安心するし、彼の匂いは落ち着く。

「… 流石に寂しかったよなァ…わりぃ」

頭を撫でながら春千夜が言った言葉が耳へと届くと、我慢していたものが崩れ去っていくようだった。今日の私はちょっとおかしい。春千夜もいつもより優しくて、普段こんな事言ってはくれないから余計と感情が溢れて制御出来なくなってしまいそうだった。

「う、っぁ」
「あーホラ泣くな泣くな。化粧落ちてブスになんぞ」
「う"ぅっ…ック、うっさいぃ」

優しく指で涙を拭ってくれても一向に止まらない涙に春千夜は柔らかく笑う。こんな嗚咽まで漏らして泣いたのは春千夜と昔に一度大喧嘩したとき以来だ。春千夜はうるさがる様子も無く落ち着くまで私の背をポンポンと優しく叩くから、それで余計と涙が止まらない。

「なぁ、ナマエ」
「ん、」

背を叩く手が止まり顔をゆっくりと上げれば、言いたい事があるのか春千夜は私の顔を真っ直ぐと見つめており、その表情に心臓は一瞬止まったかのようだった。





「お前一生俺のモンになる気ねェ?」





「………え?」



私は思考能力ですらショートしてしまったらしい。そして今ちゃんと息を吸えているのだろうかも怪しい。この数秒で春千夜の言った意味を理解するには時間が足りなかった。

「おい、ちゃんと聞いてンのかよ」
「あっ、やっえっ!?」
「だからっ…ちっ。あー…俺とずっと、っつーか結婚して下さい…って言ってんだけどォ」

うそ、待って。信じられない。あの春千夜から結婚の言葉が出るだなんて思ってもみなかった。涙は引っ込み目を丸くさせる私に春千夜は伏し目がちに目をそらす。

「お前に…沢山我慢させてたこともちゃんと分かってっから」
「あ、」
「悪かったと思ってる。いつもお前が寂しい顔してたのも、我儘言わずに俺を送り出してくれてたのも知ってるよ」

瞬きを数回。目の前の春千夜はちゃんと本物で、私の頬を擦る春千夜の指は暖かくて、これは夢なんかでは無く現実だということを思い知らされる。春千夜は、私のことをちゃんと分かっていたし知ってくれていた。

「ンだそのアホ面は」
「ちがっ!は、春千夜は結婚したくない人だと思ってたから、びっくりしちゃって」
「ハァ?」
「前に、女が結婚したがる意味が分かんないって言ってたの覚えてて、だから…春千夜は結婚とか括りに縛られるのは嫌なんだろうなって」

春千夜は少し考えた素振りをすると、私を再度抱き締める。先程よりも優しく、それでも離れられないくらいの力を込めて。

「それは…まぁなんだ。おめーと付き合って変わったつーか、見方が変わったつーか。あー…アレだ」

春千夜は抱き締めていた腕を緩め私と目線を合わせる。化粧が落ちてきっとひどい顔をしているのに、いつものように揶揄う春千夜は何処にもいなくて、真剣な顔つきで私を見るものだから、途端に心臓は大きくドクンと波打ち立った。


「帰る場所がお前と同じだったら良いなって思ったンだわ」


止まっていた涙は再度頬へと流れる。春千夜も私と同じことを思ってくれていたことに、何にも代え難い感情が私を襲う。春千夜は大泣きし出した私にギョッとして慌てて口を開いた。

「テメッここ泣くとこか!?まさか断るってんじゃ、」
「こっ断るわけないじゃん!私も同じ気持ちだもん」
「あ?」
「春千夜のお嫁さんにずっとなりたくてっ、わっわたしも帰る場所が春千夜が一緒だったら良いなって思ってて。っ春千夜がおじいちゃんになる所とか想像出来ない、けどこの先もずっと一緒に居れたらいいなって思ってたからっ、」
「お前…」



「みっ看取りたい!はるちよを!」



春千夜は盛大に吹き出した。







「…そんなに笑わなくても言いじゃん」
「いやだってよ普通看取りてぇとか言うかァ?俺が死ぬ前提なのマジやめろや」
「そっそういう意味じゃないし!」

数分春千夜はお腹を抱えて笑い出し、未だ面白いのか肩を震わせている。それくらい一緒に居たいということを伝えたかったのだが、何故こんな言葉が出てしまったのか私本人も分からないのだ。

「んっとに締まンねぇ奴だなァ」

春千夜はハーっと息を吐いて私の頭を撫でるとそっと口を開いた。

「俺こんな仕事してるし?死ぬ気はねぇけど、まぁもしそうなってもお前を置いて"別の奴とお幸せに"とか言う気はサラサラねぇんだわ。ンでェお前がババァになって俺より先に死んでくのもダメ。だからよォ…どっちか先に死んだら追いかけるつーことでどうよ」

常人の考えでは思いつかないような事を春千夜は悪戯めいた子供のように笑って言うのだ。でもとても春千夜らしい考えだと思うと、私も釣られて一緒に笑いながら頷いた。多分、ううん絶対に、今の私は世界一幸せ者だ。

「はるちよ、好きだよ」

自然と出た好きの気持ちに、春千夜は大きな瞳を更に開けると堪らなくなったように私にキスを落とした。唇が離れて目が合った春千夜は、まだ私たちが付き合ったばかりの頃見せてくれていた様にほんのりと顔を赤く染めているのが目に映る。

「あー、やっば。久しぶりに言われたけどよ、良いもんだな。いつもは言わねェくせに」
「毎日思ってたよ」
「はっはぁ?」

今日の私は素直になれる。春千夜と同じ気持ちだって分かったし、春千夜が私の事を本当に大事にしてくれていると再確認出来たから。

春千夜の方こそいつもは顔を赤らめる事もしないくせに今日は表情がいつもより豊かで、それが可愛いし、格好良くて、愛しいと感じる。今日より明日、明日より明後日、私はきっと何日何年経っても春千夜の事をもっと好きになる。


「わたし、春千夜が大好きだよ。春千夜も好きって沢山言って欲しい。そしたら色んな事頑張れる。だから10年後も20年後も私の傍にいて、好きって言ってくれる?」


春千夜の目が私を捉える。何時になく真剣なその顔付きに私は唾をゴクリと飲み込んだ。そして数秒の沈黙の後に彼は言ったのだ。



「ンなのこれから先いくらでも言ってやんよ。"愛してる"ってなァ」



私の心臓はきゅううっとと早鐘をついた。


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