小説 | ナノ

大事にしてくれないダメ男の末路


※梵天前の蘭。軸はお好きにご想像して下さい。

※モブ女出ます




青い空、白い雲。目に映る景色は何もかもが澄み渡ってクリアに見える。今しがた、大好きだった彼に別れてくれとメールをした。返事はまだ返って来ていないが、もうそろそろ私のメールに気付いた頃では無いだろうか。

私の元カレ灰谷蘭は六本木のカリスマとしても有名であり、またや女癖の悪さでも有名であった。そんな彼の取り巻きに近い部類であった私は玉砕覚悟で告白し、「いーよ。付き合っても」と何故かOKを貰えて蘭君の彼女になれたのは一年程前の事である。

私が蘭君のオンナであるという事は付き合って一週間程で彼を知る不良達に知れ渡った。余りの情報の速さに私は口を開けて驚きを隠せないでいると、

「固定の女作んのナマエが初めてだからじゃねぇ?」

と私の膝に頭を乗せた蘭君は何食わぬ顔で言った。

「えっっ!うっ嘘だ!?蘭君に限ってそんなことは…!」
「嘘じゃねぇよってかお前失礼だし大袈裟なぁ?信じらんねぇなら竜胆にでも聞いてみれば?」
「ごっごへんなひゃっ」

私の頬をムニムニと抓りながら蘭君は私に笑いかける。
固定の女、それ即ち蘭君の"初"彼女という事を示している訳であり、私は必要以上に喜びそして浮かれた。だって素直に嬉しい。何でも一通り経験して来ましたと思わせるようなあの灰谷蘭の"初"をゲットする事が出来るだなんて、チョ〇ボールの金のエンゼル引くくらいの確率だよ絶対に。

「どうしよう…!めちゃくちゃ嬉しいっ!」
「そ?俺もおバカで可愛いお前が彼女で良かったよ」

馬鹿は余計だけど、否定出来ないので仕方がない。
蘭君は私を揶揄うことが大層お好きなようで、からかわれている事に気付いているのに私は毎度その都度本気になってノッてしまうので、多分それが面白いのだと思う。でも蘭君が笑ってくれるなら私は嬉しいから良いのだ。





しかし…しかし私には蘭君の彼女という大役は荷が重すぎた。

灰谷蘭のオンナともなれば、蘭君を良く思わない人達に何度か絡まれたこともあった。自分より図体がデカい人物にガン飛ばされると足が竦む所ではない。アレに慣れることは一生無いと断言出来る。

「テメェが灰谷の女ぁ?ちょっとお宅の彼氏呼び出して貰えませんかねぇ。ウチのが世話ンなってよぉ」
「やっやめて下さい!嫌です!離してっ」

蘭君みたいに穏やかに話す訳でも笑ってくれる訳でもなし、般若のような顔でニタニタ笑みを浮かべられると、下手すれば幽霊を目にするより恐怖を感じるレベルだ。腕を捕まれ、女に使う力じゃないだろとも思える程の力が込められた手を当然私が引き離すことは難しい。痛い!連れ去られる!死ぬ!最後に蘭君の顔を拝みたかった!と走馬灯のように頭の中で蘭君の映像が流れ始めたとき、正義のヒーローのように蘭君は現れて(たまに竜胆君)絡んで来た男たちは皆、瞬殺の如くボッコボコにされてしまうのだ。

「お前は俺から離れちゃダメなァ?」
「蘭くん余り連絡着かないから何処にいるのか分かんないよ」
「……どっか行くときは必ずメール入れとけ?」

頭を撫でられて「怖かったなぁ、ゴメンなぁ」と謝られると、例え蘭君の綺麗なお顔に返り血が飛び散っていようが、ふわりと甘い香水の匂いが香ろうが、途端に涙が目に滲みやっぱり蘭君が好きだと思うのだ。自身の身が危険1歩手前まで晒されたとしても、蘭君のこの一言で私はまた彼に恋をしてしまう。

蘭君の脳内は多分優先順位というものが存在している。1に自分(弟)、2に弟(自分)、そして多分3に私。一番でなくても良かった。本音は一番になりたい所だけれど、蘭君の性格上それは無理だと悟った。

そして私は蘭君に対し寛大な心を持っていると自分を褒め称えたい。

"俺んち来て"とメールが来て急いで行けば、当の本人は気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていた。それでも私は怒らず蘭君が起きるまで大人しく待っていたし、暫く会えずに久しぶりに蘭君からお誘いがきてルンルンでマンションに行けば、丁度玄関のドアが開き顔を出したのは蘭くん。

「わりー。今からちょっと調子ノッてる奴締めてくんね。また連絡するわァ」
「…へ」

ドタキャンされたとしても仕方が無いねと頷いた。
更にとある日、蘭君が「ナマエ、これ着てェ」と何処で入手したのか不明だが、某有名なお嬢様学校の制服やら可愛いで人気な高校の制服に拒否権なく着がえさせられた時もあった。恥ずかしがる私を見て蘭君は満足気に目尻を下げて「かわい」と言ってくれたので、喜んでくれるならいいかと彼好みのコスプレ大会にも嫌な顔せず付き合った。

蘭君は自分が一番で、やる事がえげつない不良君で、少し変態だけど私を彼女に選んでくれて好きだと言ってくれたから、私も蘭君の彼女らしくいられるように自分磨きだって頑張ってきた。

でも蘭君、冒頭でも話した通り女癖の悪さでも名を轟かしていた為に、私の不安は毎日大きく募っていくばかりであった。私とは余り出掛けたがらない癖に知人から知る蘭君と見知らぬ女の目撃情報。そして蘭君と電話をしていた際の後ろから漏れている女の声のようなもの。これらは1回ではない。初めはそれでも我慢していたのだ。蘭君に自分の気持ちを伝えて嫌われたくないと思っていたから平然を装っていた。

でもさ、学校に行って友人の彼氏の話を聞いたり見たりしたとき、気付いちゃったんだよね。大切にされているってこういう事をいうのかぁって。

寂しいって言ったら会いに来てくれただとか、記念日はディ〇ニーに行って来ただとか。幸せな友人の惚気を耳にして次は私の番となったとき、私は蘭君との惚気話を出来る程の話題が片手で数える程しか無いことに戸惑った。惚気話が出来るほど長い時間を、一年付き合っているのにも関わらず過ごしていない。それに加えて色んな子と遊んでいる蘭君。自分から蘭君を振ることは神に誓ってないと思っていたが、普通にあった。

そっか。蘭君にとって私は大切な存在じゃ無かったんだな。

そう思ったら今まで心にあったしこりみたいなものがスゥッと消えていくような感覚だった。蘭君は大切じゃないから私の優先順位は毎度3番だし、ドタキャンされるし記念日も忘れられるし、他の女の子と平気で遊ぶし、外で私と会うのも余り良い顔してくれないし…エトセトラ。

惚気を考えるよりも心に積もった蘭君への不満が沢山頭に浮かんできた。蘭君とこれ以上いても幸せになれない気がして、この先きっとまた新しい不安も出てくるに違いないだろう。だから別れのメールを送った。そもそも私に蘭君という一人の人間と上手に付き合って行くだなんて無理な話だったのだ。

蘭君が私と付き合ってくれていた、それだけで十分な話ではないか。





蘭君に別れのメールを送った私は意外と元気であった。嘘、本当は少しだけ泣いた。取り敢えず外に出て目に付いたカフェに足を踏み入れる。フリー記念日としていつもは頼まないパフェを注文する事にした。何にも記念じゃないし、決してヤケを起こした訳でもない。

「お待たせしました

目の前に置かれたパフェを見れば私は目を輝かせた。苺フェアが開催中だったらしく、真っ赤な苺は大粒で瑞々しくて美味しかったし、定番のバニラアイスも苺とチョコのソースがかかっていてそれだけで豪華に思えた。


堪能しながら半分程パフェを食べ終えた頃、私の座る横でヒールの音がカツンと止まり、顔をあげれば女性が一人立っていた。


「アナタが蘭の彼女?」


先程まで美味しく思えていたパフェの味は一瞬にて味がしなくなった。







「あ、その…えっとどちら様、で?」
「私?私は蘭の……あー、言わない方がいいかな?」

その一言でいくら私がバカでも察しがついた。きっと蘭君の遊んでいる女の子に違いない。しかも飛び切りの美人様。なんで私の前に…もしかして"あたしの蘭を取らないで!"とか"さっさと別れなさいよ!"だとか言われてしまうのだろうか。

スプーンを持つ手に力を自然と込めてしまう。目の前のお姉さんは品よく店員に「ブラック。ホットで下さい」と注文し、私に向き直ると色付いた唇をそっと開けた。

「勘違いしないでよね。私仕事場が直ぐそこのショップなの。いつも休憩がてらココに来るんだけど、見たことある顔がいたからもしかしてと思っただけよ」

彼女はバッグから手鏡を取り出し化粧を直し始める。怒っているような様子は何処にも無く、罵倒される雰囲気も無い。ポカンと口を開け続ける私に「アイス溶けてるわよ。早く食べな」と言われて慌ててスプーンでアイスを掬った。

「あの、何で私が蘭君の彼女って知っているんでしょうか?」
「え?あぁ、だって蘭から写真見せて貰ってたもの」
「蘭くんが?」
「えぇ。"オレ彼女出来たぁ"とか言って写メ見せられてね?だから覚えてたのよ。蘭の女にしてはうん…普通だなって」
「うっ」

心臓に石を投げられたような痛みを伴いその言葉は頭に重く伸し掛る。だけどそれより驚いたのは私の写メを蘭君が持っていたということ。余り写真を撮るのが好きじゃないって言われて蘭君の気が向いた時にしか撮ってくれなかったから、まさか遊んでいた女の子にまで見せていたとは思いもしなかったのだ。

「蘭は元気なの?」
「あ…いえ、実はお恥ずかしいのですが今日別れようってメールを送ったばかりで。でも元気だとは思いますよ?」
「えっっ!?別れたの!?マジ?」
「ぅおっ……は、はい。多分もう蘭君と私は終わった筈です」

お姉さんはテーブルから体をのめり出す勢いで声を少々荒らげた。そしてハッと羞恥心を感じたのか小さく咳払いをして座り直す。このお姉さん、実は怖くないのかもしれない。

「そう…別れたの。でもまぁそれが正解よね、あの男と付き合うには相当な辛抱強さが必要だと思うし」
「え?」
「彼女が居ても居なくても蘭は自由人じゃん?誰にも縛られない所が蘭らしくて私は好きだったけど」
「は、はぁ」

元カノであるが一応彼女であった私の前でハッキリ好きだったと口にするこのお姉さんに、どういう顔をするのが正解なのか分からず声の端は極端に小さくなる。

「あ、気を悪くしたらごめんね。アナタの写真見せて貰ったその日の内に蘭とはサヨナラしたから許してくれる?」
「そっそうなんですか!?」
「生憎人の男になったものにまで手を出す趣味は無いし困ってないのよ」
「え…でもお姉さん蘭君のこと好きだったんじゃ?」

お姉さんはコーヒーに口付けカップをソーサーに置くと、目を細めた。

「ふっ、何言ってんのよ。そこらの女と一緒にして欲しくないわ。確かに私は蘭が好きだったけど、誰のモノにもならなかった蘭が魅力的で好きだっただけ。遊んでいる女に彼女の写メ見せて平気で浮気するような男に価値なんて無いわ。アナタもこれからは一人の男に囚われずもっと楽しみなさい」

危ない。私が男だったら速攻この場で頑張って口説く所だった。お姉さんが見せた笑顔が素敵過ぎて同性なのにドキンと恋をするように胸が高鳴ってしまったのだ。お姉さんは綺麗なのにとても格好良い、そう思わずにはいられないほどに魅了されてしまった。ハッキリ物を言い私の心を少し抉ったけれど、一瞬にて憧れの女性へと変化した瞬間であった。

「さ、そろそろ仕事に戻らないと。また何処かで会えたらここより美味しいスイーツのお店に連れて行ってあげる」
「えっ?あっありがとうございますっお姉さま!」
「…その呼び方は勘弁して。普通に恥ずい」

凛としたお姉さんはクスリと笑いながら背を向け店を出て行く。歩く背筋ですらキマッていて、去り際まで美しいとは何事か。


暫くその後もぼーっとして、あのお姉さんの名前を聞くの忘れてしまったことを悔やみながら溶けてしまったアイスをまた口に含む。あんな出会い方もあるんだなぁ、世の中捨ててはいけないなぁとまだ十代の癖にそんなことを思った。自分に自信を持ち、余裕があり、それでいて華やかさがある女性なんてこの世にどれ程いるのだろうか。私もそんな女性になりたい、なれるだろうか。先ずはブラックのコーヒーから飲めるように頑張ってみようかな、とお姉さんが飲んでいたコーヒーのカップを見ながら形からでもと意気込んだとき、今度はトントンと私の背を軽く叩かれた。


「へ………ら、らんくん」
「おー。深刻なメールしてきた癖に何優雅にパフェなんか食っちゃってンのぉ?」

振り向けば、会う予定はもう無いはずの蘭君が私を見てニッコリと笑っていた。そして私の顔はきっと今、どんな不良に絡まれたときよりも過去最低クラスで青ざめていると思う。







「誰かと一緒にいたワケェ?」
「あっいや、そのぉ」

蘭君の遊んでいたお姉さんと一緒に居たと言っていいものか分からず私は口篭る。蘭君の機嫌は余り宜しくないようで眉間に皺を寄せ威圧感が半端ない。…怖過ぎる。

「はぁぁ、まぁいーや。ンでお前俺と別れるってどういうことォ?」
「え…どういうことって言われても…メールで送った通りだよ」
「メールっつったってただ"別れよう"だけじゃ意味分かんねェだろ。俺お前になんかしたァ?」

先程お姉さんみたいになりたいと意気込んでいた私、何処にいってしまったのだろうか。普段私にこんな顔をする蘭君を余り見たことがなかったせいで体に冷たい汗がヒヤリと伝う。蘭君はテーブルに頬杖つき、もう片方の空いた手でトントンと指で叩いて私の返答を急かすように待っている。

「ねぇ、俺聞いてるンだけど」
「ひっ!」

ドッドッドッとうるさい程に私の心臓は音を鳴らしている。いつもの穏やかな声音を感じさせる蘭君の声は、今や飛び切り低いものへと変わりどす黒いオーラが纏ってるいるように見えて仕方が無い。

「5秒なら待ってやる。ごーぉ、よーん、さぁー」
「らっ蘭君わたしのこと大事にしてくれないじゃん!!」
「ーん……ハ?」

焦った私はついに言ってしまった。蘭君は片眉を下げてまるで意味が分からないというような顔をしている。

「何でそんな風に思うワケ?」
「だっ、だって私が会いたいって言っても余り会ってくれないし」
「お前の会いてェ日が俺の用事と重なるんだから仕方ねぇだろ」
「ドタキャンされるし!」
「それはわりーと思ったからどっかで埋め合わせしてンじゃん」
「っ来いって言うから急いで行ったのにずっと寝てたときもあったもん」
「お前だから安心して寝れンの。そんくれぇ分かれよなァ」
「…余り外でデートしてくれないし」
「ハァ?ンなの家で良いじゃん。その方がお前とゆっくり出来るしくっつけるし」
「……他の女の子とも遊んでるじゃん」
「あー…でもお前が思うような体の関係はねぇし一番はお前だよ」

私の不満は尽く蘭君の口から出る言葉により飲み込まれていく。まだまだ不満はあった筈なのに、まさか蘭君とここで会うとも思っていなかったせいで上手く言葉にするまでに脳が処理し切れていないのだ。

「他には?まだ何かある?」
「えっと、」
「ねェならこの話は終わりなぁ?別れるとか許さねェから」
「らっらん君から私の事好きだっていうのが感じられないの!」
「あ"?」
「うっ、蘭くんの自由な所が良い所だとは思うけど、わっ私ばっかり蘭君を中心として生きているというか、優先順位を偶には上げて欲しいというか…」
「ハァ?何言ってんの?お前本当バカだねェ
「そっそういうとこだよ!!分かってくれないから別れようと思ったの!私たち合わないんだよ根本的に!」

つい口調を荒らげてしまうと、少なからず驚いたのか蘭君は目を見開いた。そして少し考えた素振りをすると、タレ眉を更に下げたのだ。

「ごめんなぁ。優先順位とかンなの考えたことねェけど、お前のこと不安にさせてたんなら謝るワ。蘭ちゃん、お前の事が好きなの。離れて欲しくねェの」

正直な話、"お前が俺に合わせらんねぇなら仕方がねぇわ"とか言われて終わるかと思っていた。だから私は拍子抜けしてしまって言葉に詰まる。そして私は蘭君のこの子犬のようなクゥンとした目付きと声にめっぽう弱い。

「でっでも」
「俺ェお前に甘えすぎちゃってたンだろうなぁ。お前優しいからさ、居心地良かったの。……もう俺のコト嫌いになっちゃった?」
「そ、それは」
「俺は今でもお前が好きだよ。それだけじゃ足んねぇ?」
「らん君……」
「手ェかして?」

流されてしまいそうだ。蘭君は私の手をサラりと取り握る。その大きな手は私の手なんか包み込むのなんか簡単で、ここが公共の場であることなんて蘭君にとってみたら関係のない事らしい。そして私の手を握ったまま蘭君は首をほんの少し傾けて私を見つめる。

どうしよう、どうしたら良いんだろう。

迷ってしまう私は嫌いにまではなり切れていない蘭君の手を離す事が出来なかったのだ。

「…偶には私を一番に思ってくれる?」
「俺ン中じゃいつだってお前が一番だよ」
「本当に…?」
「ウソでこんな事言わねぇし、大事じゃなきゃお前を探しになんか来ねぇよ」

…探しに来てくれたのか。
ツンとした痛みが鼻へと襲って、蘭君を見る目が滲み出した。やっぱり言わなきゃいけないことってあるよね。伝えなきゃ分からないこともあるよね。もう一回、蘭君の彼女になってもいいのだろうか。次は蘭くんとわたし、幸せになれるのだろうか。


蘭君の手を握り返すように空いた手を彼の手に乗っける。

「ナマエ?」





「らんくんっ、私っ!」









「らぁぁんチャァン?」







「「は?」」



私が思いを伝えようとしたとき、私たちの元まで早足で駆け寄って来た人がいる。え、ダレ?


「ちょっと!私にあそこで待っとけって言って急にいなくなったと思ったら堂々と浮気??一体何人の女を手にすりゃ気が済むの!私だけって言ってたじゃん!!蘭ちゃんのバカ!クソ!ヤリチン!」
「あー…」

私は一体今何を見せられているのだろうか。
目の前でヨリ戻そうと子犬の目付きをしていた筈の男は、今や焦った表情をし額には汗を浮かべている。そして突如現れた量産型と言えるような如何にも可愛らしい女の子が目を釣りあげて蘭君へと怒り狂っている。

…あのお姉さんにこの女の子。ジャンルが違いすぎて、蘭君て幅が広いんだなぁ。

ときめいてしまった自分がアホだった。お陰で目が覚めたしキッパリとお別れ出来そうだ。

「あっオイ!どこ行くんだよ!話は終わってねェだろ」
「話?話ならさっきした通りだよ。私には蘭君の彼女には向いてないからやっぱり別れよう。その方がお互い幸せだって」
「あんなんただの火遊びだろうが。向いてねぇって勝手に決めつけンなよ。お前の事は遊びだなんて思ったこと一度もねぇ」

火遊びが過ぎたから今大火事になってる事に気付いていないのかな。席を立ち上がると蘭君は私の腕を掴んで必死に引き留めようとする。その横で女の子は泣きながら発狂し、蘭君の肩をポコスカ殴っている。店の中でこんな大声を出していたら勿論皆の注目の的であり、店内にいる人達はこぞって私たちの方へと視線を移してとても痛々しいし恥ずかしい。こんな事で目立ちたくは無い。

長身の歩く18禁と泣きじゃくる女の子の声は、まるでカエルの合唱のようだ。一刻も早く立ち去りたく私は腕を振り切り歩き出す。



「待てって!」



その声に立ち止まり、蘭くんに視線を合わせれば彼はほんの少しだけ安堵したように薄く笑みを見せた。


今ならわたし、あのお姉さんのように凛々しくなれるかもしれない。




「フッ。私のこと好き好き言ってくれるなら、先ず先に関係持ってる女を全て切るのが筋だよ蘭くん。全部切る事が出来てその証拠を持ってくる事が出来たら、お茶くらいは考えてあげる。それが出来ないなら私は金輪際蘭君とは関わらないから。それまで、さようなら」




嘲笑うように吐いた捨てセリフ。どうせ出来る訳が無いと思っての言動だった。




「…言うじゃん」




しかしどうか。蘭君は自信ありげな笑みを浮かべた。その表情に私は少なからず怯んだ事だけは覚えている。









それから私の発言が引き金となり、本当に手を出していた女と縁を切りに行った蘭君は1週間と3日後、多人数の女から"灰谷蘭被害者の会"が催され、

「大変だ!兄貴が顔腫らして病院行きになったから直ぐ来い!」

と竜胆君から電話が掛かってくることを私はまだ知らない。





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