小説 | ナノ

俺が先に好きになったっつの!


※高校生パロ


※主彼氏います


「何が良いかなぁ」

土曜の休日。私は渋谷まで買い物に足を運んでいた。
普段ならば余り用のない場所、メンズショップ店に訪れていた私は、服やらアクセサリーを眺めながらため息を着くこと早数十分。優柔不断の性格もあり、また初めて出来た彼氏にあげるプレゼントとなれば余計に頭を捻ってしまってあれやこれやと手に取りながら店内を物色していた。男の人にあげるプレゼントなんて生まれて初めて選ぶものだから、携帯で調べたり友達に相談したりもしたが、中々現物を見てもピンと来る物が見つからない。

「ん?ナマエ?」
「…へ」

名を呼ばれ声がした方へと振り向けば、お洒落な服に身を包んだ竜胆じゃないか!!私の表情は陰っていた顔から一点、瞬く間に明るさを取り戻し、手に持っていた物達を元の場所へと手早く戻して竜胆の元へと歩み寄る。

「えっ竜胆久しぶりじゃん!最近学校も来ないし何してたの?」
「何してたって別に。ガッコーなんて単位だけ取れてりゃ問題なくね?」
「そう言って一学期退学寸前だったじゃん。欠席と赤点ばっかで」
「お前は毎日学校行ってンのに赤点だろ?俺はやれば出来ンだよ」

私を見下ろしながら軽く鼻で笑う竜胆に悔しく思うも反論出来ない。竜胆は余り学校に顔を出さなければ来てもサボり常習犯なくせに、赤点を取ったとしてもその後の救済テストは何でか良い点を取るのマジ不思議。喧嘩が強いだけじゃなく勉強も出来るとは何事か?と思うけど、竜胆は私に先生が見ていない間にこそっとテストの回答を横から見せてくれるので、それについてはとても有難く思う。感謝感激、そのお陰で私は毎回長期休みの補習を免れている。

「ってか竜胆ここ渋谷だよ?六本木じゃないのに何でいるの?」
「はぁ?お前バカじゃね?俺だって渋谷に来ることくれェあるっての。毎日六本木にいるワケじゃねェよアホ」
「ばっバカもアホも2つも言わんでもいいじゃん!…あっじゃあ蘭く、」
「兄ちゃんとも毎日一緒ってワケじゃねえよ」

コツン、と軽くデコピンされ頬を膨らます。力加減はしてくれている為に痛くはないが反射的に顔が歪む。小突かれたおでこを片手でさすりながら軽く睨むも竜胆は楽しそうに歯を見せて笑っている。

「そういえばさ、竜胆来ない間に席替えしたんだけど」
「マジで?俺の席どこ」
「普通に一番後ろ。学校余り来ない子が前の席ずっと開けたままもなんだからって」
「ンなら楽でいーわ。お前は?」
「わたしは前から二列目。隣から離れちゃったね?」
「はあ?なんでお前隣じゃねぇんだよ。つまんな」

思い出したことを口にすれば、竜胆は眉を潜めながら何処と無く不貞腐れたような表情を浮かべた。六本木の灰谷兄弟と入学当初はかなり恐れられていた彼ではあるが、話してみれば意外と気さくで今では羨ましいことに男女共にモテモテである。そして得意なことは関節外しとかちょっとよく分からないことを除けば、こうして可愛らしい一面もあるものだからついニマァっと口角が緩んでしまった。

「かっ可愛いなぁもう!でも喜べ竜胆っ!竜胆の隣の席の子はなんとウチの学年一可愛いカワイさんだよ!」
「ぅっせ、可愛くねェわ。っつかカワイって誰だよ、ンで何でお前がそんなに得意げなワケ?どうでもいいしお前が俺の横来いよ」
「うわっ絶対その顔止めたほうがいい!カワイさん竜胆の隣ゲット出来てめちゃくちゃ喜んでたから!」
「だからそんなのどうでもいいって。カワイってマジ誰」

ツンとした言葉とその顔付きは本当に関心が無さそうで、そんな嫌そうな顔する?ってぐらい分かりやすく不満気な顔を私へと晒す。カワイさんと竜胆、ちょくちょく話しているの見たことあるんだけどな。ウチのクラスの男子が聞いたらこぞって泣くぞ。…まぁ普段六本木がテリトリーというならば、私らみたいな高校生なんかよりも大人のお姉さん達を見慣れているから興味が無いんだろうか。うん、多分そうだ。

「ってかそんな事よりお前何しにここに来てんの?この店女モンのなくね?」
「え?あっ!ふふふっ…」

竜胆は私のニンマリとした気持ちの悪い笑顔を見て若干口の片端を引き攣らせる。しかし私はお構い無しに鞄から携帯を取り出し、そこに貼られていたプリクラを見せつけるがの如く竜胆の目の前に翳した。

「…ハ?」
「聞いて下さい!わたしなんと彼氏が出来ちゃいましたぁっ!!で、今日はその彼氏の誕プレ選んでたんだけどっ」

どやぁっとした顔を晒しながら竜胆へ告げれば、なんということだろうか。竜胆のお目目はぱちくりと目を見張り携帯に貼られたプリクラを凝視している。

「あれ?りんどぉ?どした?」
「ぁ…いや別に。…いつの間に出来たんだよ」
「えぇと、1ヶ月前くらい?」
「1ヶ月!?」

大きな声を出す竜胆に若干驚くも、顔が未だしかめっ面のままの竜胆に私は失礼じゃないかと口を尖らせる。いやそりゃ中学生の頃は部活に明け暮れていて彼氏のかの字すら掠らなかったし、竜胆に恋愛の話なんて今までした事も無かったからびっくりするのは分かるけどさ、なんか友達と驚き方が違うというかなんというか。

「そっそんな意外そうな顔しなくてもよくない?普通に傷付くんですけどぉー…」
「そういうんじゃねェけど…何お前、男欲しかったの?」
「言い方!言い方考えてっ!そりゃあ彼氏ぐらい欲しいよ。周りの友達皆彼氏いるし」
「…誰でもいいのかよ…つーかさァ、」

誰でもって訳じゃないけれど、やっぱり私だって高校生活彼氏との思い出だって作ってみたい。そんなときたまたま他校の文化祭に出向いた時に話しかけて来た彼に告白されてお付き合いに至った訳だけど。こんな経緯を竜胆に話す前に、竜胆はそっと私の背後の方へと指を指した。その方向へと反射的に顔を向けると、私の表情は即座に凍りつく。

「あれ、お前の彼氏じゃねェの?」

私の目に写ったのは竜胆の言う通り、私の彼氏であるはずの男が他の女と手を繋いでデートをしていた。





「なぁ、マジで問い詰めなくていいワケ?俺も着いてってやるのに」
「いいのいいの!竜胆が着いてきたらそれこそ問題が大きくなりそうだもん」
「ソレどういう意味だよ」

結局浮気現場?を堂々と見てしまった私は、問い詰める所か逃げるように竜胆の腕を引きその場を後にしてしまった。適当に入ったカフェに座るも何かを注文する気にはなれず、ハァとため息だけが零れる。

ただ不思議な事に悲しいというよりも、いまいち浮気されていたという実感が湧かない。よくよく考えてみれば相手のことを何にも知らずに告白に了承してしまったし、その告白事態もかなり軽いものだった。そこで思った。私がもしかしたら浮気相手側だったのではないか、と。そんな事を思えば変に納得が出来て、途端に浮かれていた自分が惨めになり恥ずかしく感じてくる。

「…遊ばれてたのかも」
「…あの男に?」
「うん。告白もさぁ、"俺ら付き合ってみる?"みたいなノリで軽くてさ。今思ったけど1ヶ月付き合ってて会えたの2回ぐらいしか無いなぁって」
「マジかよ」

竜胆は苦笑し、私は指で数えながらコクンと頷く。
1回目は付き合ってから直ぐに会おうって言われて会ったけど、その日は学校帰りに送ってくれただけ。それも30分程度の短い時間だった。2回目はデート。ただお互いの地元から少し離れた街でのデートでおかしいなとは思ったけど、初デート!ドキドキ!みたいなことしか考えていなくて、遠出も良いよね!ルンルン!ぐらいにしか思っていなかった為、深く考えてはいなかったのだ。でも、こういう事だったのか。そういえば誕生日も教えて貰ったまでは良いが、当日は友達に祝ってもらうから別の日でって言われたことも思い出す。普通に考えて完璧わたし本命じゃないじゃん。何で気付かなかったんだろう。やるせない気持ちでデートをした時に撮ったプリクラを携帯からペリペリと剥がし、それを指で丸める。

「初めて出来た彼氏にさぁ、遊びだか浮気だか何だか分かんないけど…こんな状況になって自分が今めっちゃ恥ずかしいんですがぁ。……竜胆は遊ばれたことある?」

独り言の様に呟き、丸め潰したプリクラから竜胆へと視線を移せば、普段通り笑われるかなとも思ったけどそんな事は無かった。

「遊ばれた事なんかねェよ。そんな軽い女俺選ばねェもん」
「サラッとモテ男発言してくるじゃん」
「別にそういうんじゃねぇって。っつか早く送れよ」
「送る?何を?」
「そのクソ男に"クズ野郎死ね"って。送んねェなら俺が送るけど?」

竜胆は私の元にあった携帯を取ろうと手を伸ばすから慌てて大丈夫だと口にする。竜胆の口調からして何処と無く怒っている気がした。友人である私の為に心を痛めてくれているのだろうか。そんな事を勝手に思えば何て優しい奴なんだと感傷的になってきてしまった。

「や、いいよいいよ。私が送る!…でもありがとうね。竜胆優し過ぎて持つべきものは友ってこういう時にある言葉なんだって思うよ」
「……俺はお前がバカ過ぎてこの先心配になんだけど」

いつもの私ならバカと言われたら「竜胆だって!」とピーチクパーチク売り言葉に買い言葉的な発言を返すが、今日の竜胆はからかって言っている訳じゃないのが分かるから、私はその言葉を黙って飲み込み、その代わり別の思ったことを口にする。

「りんどうってさー」
「ん?」
「お兄ちゃんみたいだよね」
「は??」

気抜けしたような声が私の耳に届くと、勝手に笑みがふふっともれた。時刻はお昼手前、お腹は相変わらず余り空かないがメニューを手に取り適当に眺めながら口を開く。

「だってテストの回答も教えてくれるし、今日みたいに気にかけてくれて怒ってくれるし優しいしさぁ。あったかすぎてもうこれ家族じゃん?お兄ちゃんみたいなもんでしょこんなん」
「…ふぅん」

竜胆は私が手に持っていたメニューをひょいと奪い取る。「あ」と口から出た言葉と共に顔を上げてお互いの視線が合わさると、眉を顰め不服そうな表情をしている竜胆が目に映った。

「兄ちゃん…兄ちゃんなー。…まぁそこまで俺の事分かってんのに肝心なとこでお前ズレてっし鈍いんだよな。知ってたけど」
「鈍い…って何が?」
「んー…」

竜胆が私の目をじぃっと見つめるから、変に緊張が走って全身に軽く力が入る。竜胆は少々考えた素振りをしたかと思うと、テーブルへ肘を着き手に顎を乗せながら薄い唇を開いた。

「俺、お前だから気にかけちゃうし優しくしてンだけど」
「…え」

少し上がっている竜胆の口角に私は唾をゴクリと飲み込んだ。ほんの少し、いや急激に、自分の心臓が瞬く間に早鐘をついたのが分かった。けれども何故かそれを竜胆にバレたくなくて、私の顔色を伺うように見てくる彼から隠すように慌てて笑顔を取り繕った。

「やっやっぱお兄ちゃんじゃん!?え?わたし妹!?シスコンりんどー君困るなぁ!はは」
「そぉそぉ。可愛いイモウトがどっかのクソ野郎に手ェ出されたから怒ってンの」
「え…マジで私いもうと…?」
「なワケねぇだろ」

「お前から言ってきたからノッてやったんじゃん」と繋ぐ竜胆に上手い返しが見つからない。あたふたと困惑していると竜胆は深いため息を吐く。その面持ちについ目を逸らしてしまいそうになったが、竜胆の言葉により視線を逸らすことは愚か口をポカン、と開けてしまうことになる。

「ハァ…お前のそういう本っ当バカな所も嫌いじゃないけどさ。そうじゃなくて、」

真昼間のカフェの店内。昼時もあって混んでいる。周りは皆楽しそうに食事をしていたり、お茶を飲んでいたり、携帯を弄っていたり本を眺めていたり。多分今、私だけがこの場所で顔を真っ赤にしていると宣言出来る。

「ナマエの事が好きなんだけど。本気で」

確かにそう言った竜胆に、私は語彙も思考も何もかも失いきっとだらしない顔をしている。そんな私と違って竜胆は表情を緩めてふはっと柔らかく笑うから、余計とこそばゆさもプラスして募っていった。

「本当は気付いてたンじゃねぇの?俺がお前を好きって」
「え!いやっ!?全然っっ」

面白い玩具を見つけた子供のような笑みで笑う竜胆に否定をするも、顔を赤くした私は肯定しているように見えてしまっている気がする。なんなら声まで少しばかり裏返ってしまった。

「つぅかなに俺の知らないとこで彼氏なんか作ってんだよ。すっげー嫌なんだけど。しかもお前のこと何にも大事にしねェ奴じゃん」
「あ…すみませ、ん」
「まぁつまり、お前はもっとちゃんと身近に目を向けろってことな?ンでバカな男に引っかかってんじゃねぇよ。俺お前にしか興味ねぇのに隣になった奴可愛いから喜べつったりさぁ、お前以外可愛いと思えねぇんだけど」
「いや、うん…ごめん?」

上手く息が出来ているのかも分からないほどに胸の高鳴りが治まらず、取り敢えず口から出た謝罪に呆れたような竜胆は未だに納得のいっていない様子だった。

「…なぁ、今からアイツ探して一本、いや二本くれェ骨折ってきて良い?」
「は、ほっ骨!?だっダメに決まってるじゃん!」
「そ?ンなら殺して来てもいい?」
「物騒だよ!それこそダメだよ絶対ダメ!おかしいでしょそんなん!」

竜胆の突拍子もない発言は流石灰谷兄弟と言うべきところなのだろうか。思わず声を荒らげると、竜胆は私の置いてあった携帯を持ち私へと差し出す。

「んじゃ今すぐここで"別れる"って送って」
「え…」
「俺の好きなコ傷付けたんだからお前がどうこう思ってても俺許す気ねぇよ。けど今ソイツと別れるってんなら見逃してやる」

差し出された携帯をそっと受け取る。
実際その彼氏(一応)が好きだったかと考えると、正直分からなかった。片思いをしていて付き合った訳でもなし、かといって相手の事を全て知る程会えていた訳でもない。だから辛いという気持ちが湧き上がらず涙も出て来ないのかも知れない。そんな事を思いながら持った携帯から竜胆へソロりと目線を向ける。

「……私に拒否権ないじゃん」

竜胆は満足気に目を細めた。





帰り道、"別れる"とメールを送信した私に竜胆は何処と無く嬉しそうだった。「送ってく」と言われ家路までの道のりは、いつも学校でするような他愛もない話ですら上手く話すことが出来ず内容すら浮かばない。ただ鳴り止まない心臓の音がうるさかった。こんなのおかしい。

「…りんどう」
「なに?」
「何か…何かさ、急にすっごいドキドキするんだけど」

竜胆の瞳は私を見て大きく見開くも声に出して笑いだした。

「えっわたし変なこと言った!?」
「ふっ、いや全然?意識してくれてンのが嬉しいだけ。もっと早く意識して貰いたかったけどまぁいいワ」
「あ」

竜胆は私の右手を取る。自然と手を繋いで来た竜胆はくしゃっとした笑みを見せるから、心臓がきゅんと跳ねてしまった。

「あっとぉ、きょっ今日彼氏と別れたばっかりなのにこんな手、とか繋いじゃっていいのかな?わたし軽い女じゃん!」
「は?いいんじゃね?俺が別れさせたようなもんだし。お前は別に軽くねぇだろ、ただバカなだけ」

真冬の季節の筈なのに、竜胆の手は子供のように暖かい。自分よりも随分と大きなその手に繋がれた私の手はすっぽりと収まってしまう。まだ付き合っている訳なんかじゃないのに、急激に近くなったこの距離にどうしたらいいのか分からない。私は竜胆の言った通りバカなんだと思う。勉強も、今回のことも、単細胞だからいつも一つの事しか考えられなくて、だからその先でいつも躓いてしまうのだ。そして単細胞だから、今まで竜胆に対して感じなかった胸のドキドキだとか、こうして繋いでいる手だとか、竜胆が私に対する気持ちを知って、おかしくなりそうなぐらい意識してしまっているんだ。


竜胆が住んでいると言った場所は私とは真逆の方向で、遠いにも関わらず家までちゃんと送り届けてくれた竜胆。繋いだ手は離れるかと思いきや、竜胆は手を繋いだまま離さない。

「えと…りんど?」
「ん?ああ、お前っちここなんだな」
「あ、そうそう!送ってくれてありがとうね」
「ん」

お礼を告げて会話を終えても、未だ離れることがない繋がれた手に、あれ?と思えば竜胆は手を引き自分の元へと私を抱き寄せた。

「あっ?ちょっ!」
「本当はお前の初めての彼氏は俺がよかった」
「え…」
「お前があの男と何処まで進んだのかなんか聞きたくねェけどさァ、全部俺が良かった」

私の肩に顔を疼くめるように言う竜胆はぎゅううっと抱く腕に力を込める。急に小さな声で呟くように放った声音。拗ねているかのようにも取れるその竜胆が、少しだけ、ほんの少し愛くるしく感じたことに自分でもひどく驚いた。

あれ?いや、何だろうコレ。
これじゃあ私が竜胆のことをまるで…え?

…当たり前だけどやっぱり竜胆はお兄ちゃんでは無い。お兄ちゃんでも友達でもなくて…。

「…は、」

私がそっと両腕を竜胆の背に回してみると、竜胆はされると思っていなかったのかうずくめていた顔を上げる。余り今の私を見て欲しくはないけれど、竜胆が余りにもじっと見続けるから、今更目なんて逸らせなかった。

「あー…やば。…あんさ、キスしてもいい?」

そう告げた竜胆は、私が返事をする前に顔を近づけるとそのまま一瞬だけ、唇が触れ合った。

私の心臓一旦停止、思考回路は遮断され、息を吸っているのか吐いているのかも分からず、目は開いたまま時が止まってしまったかのように思えた。

唇が離れた竜胆は、目を細め嬉しそうに口元には弧を描いており、「俺にそんな顔してくれんなら上出来だワ」と言った。

石のように固まり放心状態の茹でダコ(私)に、竜胆は薄く笑って鼻で息を吐くと、頭を撫でその指で私の口元を親指でゆっくりとなぞる。


「…俺以外の奴に絶対ェそんな顔見せないで?」


そう笑った竜胆の顔はいつの間にか空に上がった月の光により、今まで私が見た彼の表情の中で一番艶やかで、優しい顔付きはいつもと同じはずなのに少し怖くも感じた。


だってこの竜胆は私の知らない竜胆だ。


竜胆はもう一度私を抱き締めるとゆっくり口を開く。

「返事焦らすの好きじゃねェけどさ、俺を初めてのカレシに選ばなかったこと後悔させてやるから」
「あ、」
「今日もうちょっとお前と居たいんだけど…やっぱりこのまま俺ン家連れて帰って良い?」

私を見下ろす竜胆に感じたことが1つある。私は既にこの男によりじわりじわり、ゆっくりと心を揺さぶられていっている、そんな気がしてならなかった。こんなにも自分が竜胆に対し胸をときめかせるだなんて思ってもみなかったのだ。

可愛いなんて言ってすみません、
思っちゃってごめんなさい。
そう謝罪が出来てしまう程、今の私に見せる竜胆の顔は随分と大人びた男の人のように思えた。


「取り敢えず、ただの同級生ってのからもっと俺のこと知って貰うワ」
「は…はぇ」
「ッハ、何だよその返事」


竜胆のくしゃっと笑った顔はもう直視する事が出来ない。

多分、いやもう絶対に、普通の同級生じゃない。
同級生なんて括りに出来る訳が無かった。だって男の人にこんな感情が揺れ動くなんて初めてだ。これってやっぱり。



竜胆の服の袖をキュッと掴む。不思議そうに竜胆は私の顔を覗き込むから私はそのまま目線を上へと上げ、今日一番の小さな声で口を開く。






「もっもう……り、竜胆のこと好き、になっちゃったのかも知れな、ぃ」




ちゃんと聞こえていた竜胆は唾をゴクリと飲み込むと、堪らなくなったように緩めていた腕の力を更に強め私を抱き締めた。





因みに、週明けに学校へ行けば竜胆の隣をゲットした女の子は泣きながら私に席を変わってくれと言われ驚き、その席へと目を移せば満ち足りた顔をする竜胆が私よりも早く学校に登校していることにも驚いてしまう事をこの時の私はまだ知る由もない。


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