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「ごめんね」の免罪符


※梵天軸


私と蘭は幼なじみの延長戦で恋に至り結婚をした。昔から蘭は女性に対し物言いは優しいし、扱いもとても上手だった。そうなると必然的に彼が女に不自由しないのは目に見えて分かるわけで。

好きになったのはきっと私の方が先だ。だけど好きだと伝えてくれのは蘭からだ。

「俺さァ、お前のこと好きなんだけど…付き合わねェ?」

といつもの笑顔とは一点、ほんのちょっぴり蘭の白い肌が赤く染め上がったように見えたのはこの日に限り一度だけ。いつも余裕に溢れている男がこんな表情を見せたのを、私はひどく驚いたし今でもその顔を覚えている。特別な雰囲気なんて何も無くて、コンビニに用があると言った竜胆君を外で二人で待っていた際の告白だった。コクン、と蘭より何十倍にも顔を染めて首を縦に振った私を、蘭はいつものように目を細めて私の頭を撫でたのだ。

お付き合いというものが始まると、蘭が幼なじみから彼氏に変わったというだけで世界が一変したかのようだった。毎日がドキドキの繰り返しで、会う度もっと蘭の事が好きになって、何をしているときも蘭の事ばかりを考えるようになった。

結婚したとて、私の気持ちは変わらず蘭の事ばかりを考え生活している。それは昨日も今日も、きっと明日も。

しかし蘭はどうだろうか。
冒頭でも言った通り彼の周りには女が耐えない。結婚をする前から彼女がいると知っていても近付く女は数しれず。私がもっと綺麗で可愛くて、スタイルも良ければフンっと鼻を鳴らして蘭の肩に寄り添えられていたのかも知れないが、現実はそう上手く前向きには捉えられないものである。蘭の近くにいる女性達は皆決まって羨むほどの見栄えが素敵な女ばかりだ。

いくら蘭が私の夫だとしても、その不安だけは昔から変わらず付き纏う。だって蘭は現在進行形で浮気をしているから。電話口から漏れている女の声、車内に落ちていた女物のピアス、そしてスーツに染み付いている女物の香水。これだけ証拠があれば浮気を疑わずとも分かってしまうであろう。泣いて止めてと蘭に言った事はこれまでに一度もない。これは言えないのではなく、言わないという選択肢を私は選んだからだ。

「それ俺がこの間買ってやったワンピース?やっぱ似合うな」
「ありがとう。でもねちょっと太っちゃったの!腕出すの恥ずかしいっ」
「ジャケット羽織ってりゃ分かんねェし変わってねェと思うけどォ?お前が太ろうが俺はお前が可愛いし好きだから気にすんなって」

フィレ肉のステーキを上品にフォークで口へと運ぶ蘭は、隣にウェイターがいようがお構い無しに恥ずかしい言葉をさらりと吐く。ウェイターが「仲が宜しいようで」と微笑むものだから、私がえへっとほんの少し恥ずかしさ含めた笑みを見せると、クロスが掛かったテーブルの下から蘭の足が私の足を軽く小突いた。

「もー下がっていいよ」
「はっはい。失礼しました!」

ウェイターはニコリと微笑んだ蘭に焦るような顔付きで頭を下げると足早で去っていく。

「…あんな作り笑顔怖すぎだよ。絶対びっくりしたよ?」
「あ?お前があんな男に笑顔向けるのが悪いんじゃん?」

肉をフォークで刺しくるくると回しながら蘭は言う。蘭は昔から自分中心の考えを持つ人だからこういう場面で困るときも屡々。蘭の言うことは絶対であり、自分の考えがまかり通るとばかりの彼に私は逆らったことはない。ちょっとムッときたときに小さな悪態を着くぐらいだ。それでも蘭にゴメンねと素直に謝って貰った試しは無いけれど。


その後の食事もそこそこに、お洒落なデザートまで食べた私の気分は、久々に蘭と外食が出来たこともあり満ちていた。未だに服装を褒めて貰えれば嬉しくなり、可愛いと言ってくれる蘭に私の顔は熱を上げる。好きなのだ、結局の所他に女を作ろうが私は蘭のことが大好きなのだ。

外に出れば迎えの車が止まっていた。蘭の腕にくっついて私よりも随分と背が高い蘭を見上げると、蘭は上機嫌に笑みを浮かべている。昔は三つ編みだった蘭が今ではその面影も無く、短く切ったヘアスタイルもとてもよく似合ってる。私を見下ろす蘭に私の心臓は昔と変わらず脈打つのだ。

…でも楽しかったデートもここまで。
蘭のスマホが鳴る。一瞬で私の顔は笑顔が消え失せていった。蘭はスマホの画面を見るとその電話には出ない。その代わり私を車に乗せてニコリと目尻を下げたのだ。

「……蘭は乗らないの?」
「ん、ゴメンなァ?ちょっと仕事」
「…そっか…分かった。頑張ってね」

蘭はほんの少しだけ困ったように眉を下げて笑ったのが暗い中でも分かった。私の頭をそっと撫で「出して」と運転手に告げると車は発進して行く。どうせ女の所に行くのだろう。乾いた溜息が車内に響くも運転手は何ら答えない。

「ねぇねぇ」
「はっはいっ」
「蘭てば私以外で他の女この車に乗せたことある?」
「えっっ」

運転手はまさかの質問だったらしくぐらりと車内が揺れた。そんなに動揺しなくても。慌てて謝る運転手に私は笑いかける。

「冗談ですよ。気にしないで」
「あっすすみません!乗せてないですよ!奥様だけです!」
「ふふっ、冗談って言ったのに」
「あっ」

この運転手は嘘が下手過ぎる。蘭に口止めはされているのだろうがこれじゃあ乗せてます!と言っているのと同じである。





自宅へ着けばもう一度運転手は私に頭を下げる。私は気にしていない素振りで車から降りるのだ。静まり返った室内で、蘭が買ってくれたワンピースを脱いで部屋着へと着替える。蘭はいつ帰ってくるのだろうか。今こうしている間も自分以外の女を愛でているのかと思うとやり場のない嫉妬に狂わされて、私は寝室で蘭の枕を壁へと投げた。ポスンと力無く壁から落ちる枕を元の場所へと戻す気力も無く、見苦しいとは思うけど、こんな嫉妬を吐き出せる所が無いのだから許してほしい。

「うぅッ…ふっ…うぇ」

蘭と結婚する前からこうだったのだから今に始まった訳ではない事なのに、私の心情は分かってはくれない。蘭の前ではうるさくない女を演じているから、女関係に対して蘭の前で泣いたことは一度も無かった。

蘭は気付いていない、私がこうして泣いているのを。
蘭の前でめそめそ泣きたくなんかなかった私は、蘭に離婚を突き付ける勇気もない。結局蘭の事を嫌いになれない自分が惨めで大嫌いである。他所の女の匂いを付けて必ず私の元へと帰ってくる蘭に、気付かないバカな女を演じているだけである。

嫉妬というものはときに人格まで変えてしまう。私はそうならないように自分を守るのだ。大丈夫、明日も笑っていられると。でもまぁそんな偉そうな事を言っても出来っ子ないのだけれど。







「私、蘭さんとお付き合いしているものですが」
「……はい?」

蘭が仕事に出て行ってまだ数時間。インターホンが鳴らされた玄関へと向かえば小柄で見た目に品がある女性が一人。初めましての挨拶も無く突然蘭の女だと口にする女は、玄関を開けるも高さのあるヒールでグィッと体を押し入れる。

「別れてくれませんか?蘭さんは貴女のこと愛していないです」
「……取り敢えず中入って下さい」

本当は家に知らない女を招き入れるなんてことはしたくはなかったが、近所の目もあり外で話せる内容ではないと仕方なく女を家に入れる。
ドラマみたいなこんな状況に私の心境は案外落ち着いていた。二人分のコーヒーを煎れテーブルへ置くも女は手を付けない。朝から髪をしっかりとカールさせてお化粧もバッチリで、私とは全然違うタイプの女性に口からは自然と溜息が漏れた。

「…毒なんて入っていませんからどうぞ」
「は、はぁ!?アンタ何言ってんの?私はアンタとお茶しに来た訳じゃないのよ?」
「…分かってます。ですからお怒りにならなくても」

私が一口コーヒーのカップに口付ければ、目の前の彼女は私を睨みつける。暫しの沈黙の中、先に口を開いたのは彼女だ。

「とにかく別れて。さっきも言ったけど蘭はアンタのことなんかこれっぽっちも愛していないわよ」
「…それは蘭が言ったんですか?」
「ええ、私しっかり聞いたもの。"嫁とは別れるから俺だけのモノになって欲しい"ってね。彼と寝ている時に何度も私に言ってくれたわ」
「……そうですか」

私の物言いに腹が立ったのか更に目の前の女は顔に熱を上げて口調を荒らげる。私が泣き喚くとでも思ったのだろう。それは残念、私は人前では絶対に泣かない。泣くときは一人でコッソリ、だ。しかし嫁がいると知った上で家にまで押し掛けて、別れて下さい、はい分かりましたとはいくら何でも穏便には頷けない。

「…蘭に本気になっても良いことはないと思いますが?」
「は?」
「蘭から聞いているかも分かりませんが私達は10代の頃からお付き合いして結婚に至りました。蘭の事は貴女よりも分かっているつもりです。…失礼ですが、仮に私と蘭が別れて貴女とお付き合いをされたとしても、蘭が一途に貴女だけを思うことは無いかと思います」

彼はそういう男ですから━━━。そう口にすればブーメランのように自分に返ってきた気がした。言っていて虚しくなるのは百も承知だが本当の事である。別に目の前の女に情がある訳でも無いし、寧ろ大嫌いな存在だがこうして言いたいことばかり言われて、黙っていられる程の器は流石に持ち合わせていない。

「…そっそれが?アンタが蘭を繋ぎ止めて置かなかったから蘭が私の所に来たんじゃないの。馬鹿なの?見た感じアンタ地味だし、どうやって蘭を唆したのよ!」

心臓が抉られる感覚がする。彼女の言葉は最もであろう。唆して蘭を独り占め出来るのならばとっくにしている。だから私は笑ってやった。笑ってやったというより自然と口から笑いが込み上げて来てしまったのだ。

「ふっふふ…あはは。ハァ…分かってないですねぇ?そんな事聞いちゃうんですか?」
「…は?」

女は急に見せた私の笑顔に表情がピクリと凍りつく。

「貴女の好きな男は"灰谷蘭"ですよ?蘭は平気で嘘を吐くことが出来る男です。貴女はこの先蘭と一緒になったとして私と同じ立場になったとき、貴女は知らぬフリをする事が出来ますか?」
「…何言ってんの?」
「自分だけが特別だと思わない方が良いって言ってるんです。貴女が私の元まで来なければ私は黙っていたのに。…本当に貴女が言う通り蘭が私と別れると言ったのなら、次は蘭を連れて同じ事を私の目の前で言って下さいませんか?蘭の口から聞いたら私は彼とお別れします」

カップのコーヒーはいつの間にか冷めてしまっている。女は大きな目元を見開いていたかと思うと、いきなりガタンっと椅子をひき私の前まで立ちはだかった。目付きをこれでもかというくらい釣り上げて。

「バカにしないでよ!蘭はあたしだけを好きって言ってんの!アンタの事なんて好きじゃないんだってば!ブスの癖に!地味女の分際で蘭に縋りついてるのはアンタの方でしょ!?」


反射的に目を瞑った。女が私に手を挙げようとしたのが分かったから。ギュッと目を瞑って、避けられそうにないと直感で感じた私の体に力が入る。……しかしいつまで経っても鈍い痛みは私には襲って来なかった。









「俺の女は世界一可愛いだろーが。なに好き勝手俺の奥さん虐めてくれてんのォ?…殺すぞお前」
「…らん?」



聞こえてきたその声の主は…蘭だった。


「だって蘭が!蘭私のこと好きって言ってくれたじゃない!…こっ、この女と別れて私と結婚するって」

女は蘭の顔を見た途端に溢れた涙で顔がくしゃりと歪む。蘭は私の背後まで歩を進めると、私の頭を撫でながら言い放つ。

「んー、俺お前に言ったよな?あ、馬鹿だから分かんねェかァ。俺が用あったのはお前の親父ィ。ウチの管轄外でクスリの横流ししてんの中々口割らねぇから俺ら困ってたのよ。だから俺お前に近付いただけだって。お前口軽すぎてウケる」

にこにこといつも通りの笑みを浮かべて穏やかに話す蘭に、女は目から光が消え失せていく。それでも蘭はどうでも良いことのように言葉を続けるのだ。

「つかそんなことよりもさァ、お前何したか分かってる?俺の奥さんの悪口言ったのとォ、勝手に家まで把握して上がり込んで俺とコイツの中引き裂こうとしてんの最高にうぜェワ」
「あ、…ヤダ、ごめんなさっ」
「…俺が許すと思う?」
「もっ、来ないから、ヤダ、ヤダヤダ」

蘭は女の言うことを聞くはずもなく、スマホを取り出し外にいたらしき部下を呼ぶ。程なくして2名程の男に腕を掴まれながら泣き叫ぶ女が私達の家から出て行くと、静けさを取り戻した室内に、私と蘭は向かい合う。

「……あの女の人は?」
「ん?今日の夜には魚のエサだろうなァ?当然でしょ、お前虐めて梵天の内情まで知っちゃってるんだし。どの道殺す予定だったよ」

あのオヤジもさっき藻屑になったとこ、と知らぬ人の死に対しては無頓着な蘭は軽々しく言葉にする。

「…その割にはよくここで殺さなかったね?」
「あ?あー…お前の目の前で殺るワケねぇだろ?見せたくねェし家汚れンじゃん。出来れば俺が殺したかったけど、お前の目の前だけは勘弁」

ふふっと笑う蘭に私は力無く笑顔を向ける。
そうまで思ってくれているくせに、何で私は蘭の一番になれないのだろう。そう思うと好きなのに、大好きだったのに疲れてしまっている自分に気が付いた。今まで大丈夫だと自分を取り繕って来たが、今日のような事がまたあれば次こそは上手く笑顔を作れる自信はもう無い。俯く私に、蘭は小さな消えるような声で言った。

「……悪かった」
「………え?」

蘭が謝ったのだ。付き合った頃から一度だって聞いた事のない言葉が私の耳を通過し思わず顔を上げる。目先の蘭は何にも笑っていない。眉を下げて私の瞳を逸らさず見ながら言う蘭に、自然と目を見開く私の鼻の奥がツンと痛む。

「…怖かったろ。嫌な思いさせちまって…本当ゴメンなぁ」
「あ…ぅ、」

嗚咽混じりの声が漏れる。蘭の前で泣きたくなくて必死にいつも我慢していたのに、それは蘭の言葉により簡単に崩れ落ちていった。初めて見る蘭の表情と謝罪は、私を泣き止ます事なんか到底出来ない。私の泣き顔に驚いたのか蘭は目を丸くさせ私の前へと屈むと頭をそっと撫でた。

「っ、なんで…何で今更謝るのっ、ぅ…あっ謝ってくれたこなんか、なかったのに」
「ウン、謝らなくちゃなって思ったから謝ってんの」

頭を優しく蘭が撫でるたびに、私の目からは涙が落ちる。蘭は私を泣き止ます方法なんて知らないから、困ったように笑って頭を撫でていた指で涙を拭うのだ。

「ほ、本当は…いっぱい我慢をしてたの」
「…うん」
「らっらんはいっぱいっ、女の子と浮気するからッ、ふぅっ…いつも…嫌だったのっ…ほっほんとうはわたし以外にっ…や、優しくなんてしてほしぐないのにっ…ぅえ」
「あ?あー…」

蘭は泣きじゃくる私をそのまま椅子から降ろすと、私をソファまで連れて行き蘭の膝の上に座らせる。よしよしと宥めるように抱き締めるから、蘭のスーツをギュッと押し握り私は蘭から離れようとする。

「いやっ、もっ…みないでっ、仕事いって!!らんのまえでっ泣きたくないっっ」
「なんで?今のお前めちゃくちゃ可愛いよ?」
「わ、わだしはきらゃいっだもッ…ぅう」

蘭に力でかなうわけがなく、私は再び蘭の腕の力により抱き締められる。涙でぐちゃぐちゃになった自分を見られたくなかったし、蘭に言わないでいようと決めていた事も口にしてしまった。蘭は自由な人だから、こうして私が縛ってはいけないのに、そう思っては余計に嗚咽混じりに涙が出るだけだ。

「我慢させてゴメンなぁ?…でも俺、お前と付き合ってから浮気なんて一度もしてねぇよ?」
「っうそ、ぜったいうそだもっ…しんじないからっ」
「あホラ暴れんなって」
「やっだ、…ンむっ」

再度蘭から離れようとする私に蘭は私にキスをする。長年一緒にいたのだ。そんな嘘なんかで今更喜ぶことなんて出来ない。

「今日の女が何て言おうがあの女とは一度も寝てねェし、昔っから俺はお前だけだったよ。大事なお前がいんのに他の女と寝るワケねェだろ」
「…しんじられないもん」
「んー、じゃあ竜胆に聞く?ヤク中…はアテになんねぇから九井か鶴蝶にでも聞きゃ教えてくれんじゃね?俺、そういう体使うような仕事は断ってるからさァ。毎日ナマエの話してっから皆お前の事知ってるよ」

な?と蘭は俯く私の顔を上げさせる。キュッと口を閉める私に蘭は困ったようにまた笑うと背中をポンポンと叩きながら言うのだ。

「…そうやっていつも一人で泣いてたワケ?」
「…泣いてないよ」
「泣いてたろ。不安にさせて…ほんとゴメンな。寄ってくる女がいたって、俺がソイツらに手を出したことは一度もねぇから。そんくらいお前の事が好きで堪んねぇの…信じて欲しいんだけど」

蘭のこんな顔を見るのは初めてだった。自信のなさそうに、少し泣きそうになりながら、どうすれば良いのか分からないというように眉を下げる蘭の顔を見るのは初めてだった。私は蘭の肩に頭をコツン、と付け蘭に顔を見られぬように隠しながら口を開く。

「…私のほうが蘭のこと好きだもん。今日みたいな事次は絶対にあって欲しくないし、不安にさせないで欲しい」

ポンポンと私の背を叩いていた手が止まる。だけど我慢がもう出来なくて、私はそのまま言葉を続けてしまう。

「蘭が私以外の女の子にも優しいからいけないんだよ。だから皆蘭に本気になっちゃうの。…私以外が蘭の事好きになるのが…凄くイヤ……こんな重く思う私を蘭は嫌いになっちゃう?」

止まりかけていたのに、口にすればまた涙が襲って来て自然と流れる。そんな私に蘭は瞳を一瞬大きくさせるとタレ目がちの瞳を細めた。

「いーや?お前の本音が聞けて惚れ直した。約束するわ。破ったら…俺のこと殺していいよ」

その顔は、私と蘭が付き合ったあの日のように、ほんの少しだけ蘭の頬が赤くなっているように見えた。

直ぐに蘭は私から顔を逸らしたから見間違いなのか、そうじゃないのかは定かではないけれど。

結局の所、私が知っている"灰谷蘭"という男の愛情深さを私は知れていなかったようだ。


Title By icca

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