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幼い頃からマイキーこと佐野万次郎と家が近所であり年も同じということからよく一緒に行動することが多かった。幼馴染という程でもないけれどそれなりに私たちは仲が良いと思う。そうなると自然とマイキーの友達(場地とかドラケン君とか)とも話すようになり、まだ小学生だった私はお友達がたくさん出来て単純に嬉しかったのを記憶している。





「なぁなまえ、お前って好きなヤツとかいんの?」
「は?マイキーから恋愛の話出るなんてびっくりするんだけど」

中学生活も残り一年、相変わらずマイキーとのお友達関係は良好で今日もこうして一緒に家路へと歩を進めていた帰り道。マイキー達が率いるチームの集会だったり、私の予定がないとマイキーは当たり前のように私のクラスまで迎えに来るようになったのはいつの頃からだったろうか。今となっては覚えていないけれどマイキーと帰るのは楽しいし気も使わないし嫌いじゃない。

マイキーは自分が一番天上天下唯我独尊男。大体私はいつも彼の話の聞き役に回ることが多い。だからこうして今日のようにマイキーから私のことを知りたがるなんて思わず素直に驚いてしまったのだ。

「別にいーじゃん。いんのいねぇのって聞いてんの」
「えー急に言われてもなぁ。あー…でも好きな人じゃないけど場地とかかっこいいって思うよ」
「え?場地?なんで?」

マイキーはどら焼きを食べる手を止め私の方へグイッと顔を極端に向けてきた。

「え、今日凄いグイグイ聞いてくるじゃん怖いんですけど。んー、場地って見た目いかついのに優しいんだよね。この間アイスくれたし」

いつの日かの塾の帰り道、夜食という名のご褒美を買いにコンビニへ寄ったとき、特攻服を着た厳つい二人組が駐車場のブロックに座って何かを食べているのが目に入った。怖いし通りたくないなと思いつつ足早で横を通りすがろうとすれば、声を掛けられその方向へ目を向けると場地だったのだ。後輩とペヤングを食べていたらしい。

「どっかの柄悪いヤンキーかと思ったじゃん。ビビらせないでよマジ怖い」
「あ?飯食ってただけだっつの。つかお前一人かよ?」

場地の横にいた猫目の男の子は私を見て軽く会釈する。この子も東卍のメンバーか、可愛い子だなぁなんて思いながら場地だと分かった私は彼らの近くにこっそりとお邪魔するかのように地面に座り込んだ。

「塾の帰りだから一人。今日の夜食調達しようと思ってコンビニ寄ったんだけどヤキソバ?良い匂いするね」

塾の前に何も食べずにいたから私のお腹は限界が来ているようでグゥっと大きな音を鳴らした。すると場地はゲラゲラと笑って袋からガリガリ君を取り出し私に「やるよ」と差し出しくれたのだ。

「くれるの?場地優しいっ!あざっす」
「おー。送ってやりてぇけど…あー…後が面倒そうだからな。お前っちこっから近ぇだろ?気を付けて帰れよ」
「あと?うん、まぁありがとう」

場地の言った意味をよく理解もせずに貰ったアイスを口に加える。夜食を買うのなんてすっかり忘れてその日は家に帰ったのだ。




「は?俺そんなこと知らねぇんだけど」
「そりゃ言ってないもん」
「場地からも聞いてねぇ」
「そんなこと一々言わんでしょ」

ぷぅっと頬を膨らますマイキー。こういう時の彼はお世辞にも暴走族の総長とは思えないほど子供っぽい。
そしてふと思った。さてはマイキー、場地と幼なじみだからきっと仲間外れにされたと思ってるんだな。アイス貰ったくらいでヤキモチ妬くなんて可愛い奴め。そう思い私の口元はにまにまと口端が上がる。それを見たマイキーはとても不服そうに口をへの字に曲げた。

「そんな怒んなくても場地を取ったりしないって」
「…は?ちげーし」
「恥ずかしがらなくてもいいって。今度場地にアイス奢って貰えばいいじゃん?」

マイキーは私の言葉を黙って聞くと残りのたい焼きを静かに口へと頬り込み、ゴクッと飲み込んだ。彼は私へと目を向けるとやっぱり何処か怒っているように見える。

「…なまえってさバカだよな。知ってたけど」
「…は?マイキーより勉強出来るけど?」
「そういう意味じゃねぇ」

その後は特にいつもと変わりなく話は終わりを告げて、少し不機嫌な彼とハテナを浮かべる私はそのままお互いの家へと帰宅したのである。





「マイキーの嫁じゃん」

「っあ!総長の嫁さんじゃね?ちっす」

「マイキー君の嫁さん!今日はマイキー君と一緒じゃないんすか!?」




「……?」

初めは誰に向けて言っている言葉なのか本気で分からなかった。最近ことあるごとに言われる「マイキーの嫁」。制服を着崩し短ラン着てボンタン履いている如何にもヤンキーな人に急に言われ会釈されたり、東卍の特服を着た話したこともない人達から挨拶をされたり。その都度私は丁寧に否定するのだ。マイキーの嫁ではないと。しかし決まって私のことを嫁呼びする男達は口を揃えて言う。

「またまたぁっ!何言ってるンすか!俺たち知ってるンすからね!」
「なにを??」

マイキーといつも帰っていたから?いやでもそんなの前からだし。じゃあマイキーといつもお菓子一緒に食べているところをよく見られているから?そんな訳普通に考えてないわ。ほんと、何故?

何度も何度も考えても真相は分からずじまい。マイキーの嫁だなんて思われてもマイキー本人だって困るだろうに。マイキーにもし好きな人でもいたらめちゃくちゃ申し訳ない話じゃないのコレ。数学の時間であるにも関わらず、問題なんかよりもこの疑問にうんうんと頭を捻らせていた。考えても埒が明かないし考えすぎるのは私の性分には合わないので、マイキーに直接聞いてみようと放課後を待つ事にしたのである。





あれから悶々とした気持ちで迎えた放課後。いつも通り私を迎えに来たマイキーは、少しまだ眠たそうにくあっと欠伸をしながら普段と何ら変わりない調子で私の隣を歩く。だから私も特別緊張する訳でも無しそれはもう自然と聞いてみた。

「ねぇねぇマイキー。なんかマイキーのお仲間からマイキーの嫁呼ばわりされてるんだけど知ってる?」
「知ってる」
「即答っ!!」

知ってる?知ってたの?知ってて付き合ってもないただのお友達の私を嫁呼びをスルーしていたの!?私の小さな脳内には更にハテナが募るばかりである。

「えっ待って!なんで誤解解かないの!?」
「誤解?別にいーじゃん」
「は?は?」

ちょっとマイキーが何言ってるか分からず私は数秒フリーズする。すると目の前にやって来た不良たち。私とマイキーを見るなりサッと道を開け言うのだ。

「総長!嫁さん!お疲れ様ですっ!」
「おー」
「…なんでえっ!?」

ニコニコと相槌を打つマイキーは否定もせず寧ろご機嫌に答える。あれ?私がおかしいの??

「や、ちょっと私は嫁でも何でもなくて…ですね?」
「えっ!でも総長の嫁って」

私の否定の言葉に前を歩いていたマイキーの足がピタリと止まる。そして道を開けていた不良たちに向かってマイキーは笑顔を向けると、私含めその場にいた全員の背がピリッと凍りついた。

「何でもなくねーよ。コイツは俺の嫁、な?なまえ」
「…だっ、だから何でっ!?」

そのままほんの少しだけ私よりも背が高い彼は私の肩に手をかけ歩き出す。ヨロッとしながら状況を掴めずフリーズしている私はマイキーに連れられながら無理矢理歩き出す。

「ちょっマイキー!いつから私マイキーの嫁になったの!?意味分からないんですけど!」
「えー、別にいいじゃん?そうなる予定だし」
「予定っ!?なんで!?」

ぎゃあっと可愛げもなく喚く私に、マイキーはうるさそうにふくれっ面を見せると私の肩を抱いていた手を更に自身の方へと寄せ、距離を更にグイッと縮めた。

「うわっ」

急に詰められた距離にマイキーの胸に抱かさるような形になった私は思わず顔を上げると、いつになく真剣な表情とその顔の近さに私は言葉を失う。

「…なんでなんでうっさい」

低めの声で放つその言葉と唇が触れそうな距離。

…キスされるかと思ってしまった。しかしマイキーはそれだけ言うと静かになった私を見てニッコリと笑い私の肩から手を離した。

「あ?へ?」
「あはは、ちゅーされると思った?」

昔と変わらず悪戯っ子のような笑みを浮かべながらマイキーは言う。一瞬で私の顔は音が鳴るようにカァァッと染まっていき両手で火照った顔を抑えるも熱はどんどん上がっていくばかりだ。

「恥ずかしくなるとなまえってそんな顔すんだ?」
「ちょっ!からかうの禁止っ!マイキーのくせにひどいっ!」
「別にからかってねぇよ?強行突破しよって思っただけ」
「はい??」

マイキーは私から離れると両手をポッケに突っ込み地面の石を蹴りながら歩き出す。立ち止まっていた私はハッと我に返り先を行くマイキーの後を追うように小走りで駆け寄った。

「ねぇ待って!どういうことっ!?」
「ん?俺はお前が好きだから強行突破しようとしただけだって。そのまんまの意味」
「すっすき?」
「そ。好き」

また私は立ち止まる。振り返るマイキーは私の見たことのないマイキーの顔だった。ほんのちょびっと不貞腐れたような、置いてかれた子供のような。

「場地とか三ツ谷と仲良くすンのダメ、無理。千冬はお前のこと可愛いっつってんの前に聞いたから論外。ケンちんは…まぁエマがいるからいいとして、お前ほっとくと色んな奴にいい顔すんじゃん?俺が近くにいんのにさ」
「そ、それ全部マイキーの紹介で私知り合っただけじゃん。というか別にいい顔なんてしてないよ」
「んーん。俺がイヤっつってんだからダメなの、してんの」

ツンっと口を尖らせているマイキー。これってもしかするとヤキモチって奴なのだろうか。ずっと私はマイキーの事を仲の良い男友達だと思っていたから、この間のときも場地を取られたと思って場地に対して妬いていたんだと思っていたけれど、私に対してヤキモチを妬いていたのかと思うと途端に胸の心臓は音を鳴らし出す。

「俺がこんだけ一緒にいんのに気付いてくんない鈍感なまえだからさ、外堀から埋めてくしかねぇなって思ったワケ」
「外堀?」
「ウン。敵は多いより少ねぇ方がいいじゃん。多くたって負ける気はしねぇけど」

マイキーはニッコリ笑う。その作戦は成功ともいえるようにマイキーはあまりにも自信満々で言うものだから私はつい口を開いてしまった。

「いっいや、でも私マイキーが好きって言ってないじゃん?」
「いや、お前は俺のことが好きだよ。ぜってぇ」
「なんで??」

また私はマイキーに対して何で攻撃をしてしまった。でも私はマイキーが好きなんて言った事ないし、そりゃ友達としては好きだけど男としては今まで意識すらしたことが無かったわけで。

「俺に好きって言われてちゅーされそうになって顔は赤くなってしホラ、今だってドキドキしてんじゃん?もうバレバレ」

マイキーは私の元まで歩み寄ると制服の胸にそっと一本人差し指を宛てがう。余裕そうに、楽しそうに、幼い頃私をからかって遊んだ時のように、マイキーは目を細めて笑う。

「これはちがっ」
「何で?違わねぇーよ。何にも」
「あっ…?」

頭をそっと引き寄せられた。…そう思ったときにはもう私の唇はマイキーの薄い唇と重なり、瞬きをする時間も与えてはくれずに唇は離れる。不意打ちでのキスに何も言葉に出せない私に対し、マイキーはそれはとても満足そうに口端を上げて言ったのだ。



「ね?お前もう俺に落ちてんじゃん」



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