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※浮気性の彼→梵天蘭
※梵天軸で書きましたが、お互い主の事は知らない設定です


蘭君と付き合って三年の月日が経つ。三年も経つと倦怠期というのだろうか、そういう恋人ならではのつまらないものがやって来た。喧嘩も増えたけれど、それでもまだ私は蘭君のことが好きだった。だけどそれも今日で終止符を打とうと思う。

あれだけ言ったのに。もうしないって言ったのに。

私のスマホには綺麗で可愛いモデルさんのような女と、その横で腰を抱き微笑みかけている蘭君の写真がディスプレイに映し出されている。

「ふふっ、あはは!」

人間、どうでも良くなると面白くもないのに笑いが込み上げてくるのは何故だろうか。

蘭君は浮気性だ。もう病気だと思う。本命は私だけ、俺の家を知ってるのはお前だけ。これは確か初めて蘭君の浮気を知ったときに聞いた言葉だっけかな?まぁそれから何回も言われた言葉でもあるが。

いや分かるよ。蘭君はかっこいい。蘭君と歩いてるとさ、周りの女がハートの目で見てるの。蘭君は女の子に優しいし、勘違いする子も少なくない事は知っていた。でもその度に自分は彼の一番だ、結局は私の元へ帰ってくると惨めながら自分を励ましていたけれど、女と居る現場を見てしまったからには、もう無理。心のタカが外れた。

蘭君に必死に嫌われないように、蘭君に好きでいてもらえるように地道な努力は続けてきた。すっぴんを見られても幻滅されないようにスキンケアは念入りにしてきたし、お洒落だって蘭君の隣を歩いても見劣りしないように心掛けてきたつもりだ。三年間、本当に私は彼が離れていかないように繋ぎ止めることに必死だったと思う。必死だったけど、好きだから苦にならなかった。一回目の浮気のときもそう、二回目の浮気のときもそう。私が泣く度に蘭君は「もうしないから。なまえが好きだから」と呪文のような言葉を吐いていたっけ。


実際に浮気の現場を見てしまったのは今日が初めてだ。今までは携帯を弄っている時間が長かったり、服に女物の私の物では無い香水の匂いが染み付いていたりして発覚していた。多分、というか絶対に私が知らないだけでもっと沢山浮気をしていた筈だけど。

買い物に街へ出たら蘭君がいるんだもん。親しくない女の腰に手を回す男なんていないでしょ。

その瞬間思ったよね、あ、私必要ないじゃん。今まで何で私を傷付けるような人に時間を費やしてきたんだろうって。

スマホに映る蘭君と女の写真をそっと閉じる。あの時冷静に写真を撮れた私は我ながら良くやったと思う。写真は何よりも証拠になる。

私は今日蘭君から家に来るように言われている。蘭君が前に誕生日に買ってくれた服を着て、記念日にプレゼントしてくれた香水を付けていく。変な話だけど別れを告げに行くのに今日の私が一番輝いているのかも。絶対にブスだと思われるのだけは嫌だと私の変なプライドが邪魔をするのだ。

「服も香水も俺があげたやつ?今日は何かあったっけ?」
「たまにはお家デートでも可愛くいたくて。変かな?」
「ンな訳ねェじゃん。いつもかわいーけど今日のなまえ特に蘭ちゃん好み

蘭君は意外と記念日とか覚えている。そういう気遣いは出来るのにどうして浮気はバレない気遣いが出来ないんだろうなあ。

にっこりと出迎えた蘭君は私の頭を大きな手のひらでそっと撫でる。その手で女の子にも触っていたんだと思うと私が素直にその手に喜ぶことはもう出来ない。

蘭君といつも通りのお家デートを過ごす。ご飯を食べて、一緒にテレビを見て。こんな事が無ければ私は幸せにいられたのに。それでも私の心境は落ち着いていた。気持ちがなくなるって本当に怖いよね。自分でも驚いてる。

テレビはCMに入り、蘭君は私の肩に手を回し空いたもう片方の手の親指で私の唇をなぞる。

「蘭君、どうしたの?」
「んー、今日のお前可愛いからさァ」

…ああ、もうここまでだ。
蘭君はそっと顔を近付けて来たが私は蘭君の顔を両手で阻止した。蘭君は拒否されたことに驚いたのか私に向けて目をパチクリと瞬きをする。

「蘭君、これで何回目かな?」
「は?」

私はバックの中からスマホを取り出しフォルダから写真を見せると蘭君は一瞬表情が固まった。そりゃ彼女に見られているとは思わないもんね、それも写真まで撮られてさ。
でも蘭君はすぐに表情を緩ませる。多分私が離れていかないとでも思っているんだと思う。

「それな〜。道聞かれたから教えてただけだって」
「道?そっかぁ。でも蘭君は道教えるだけで腰に手を回すの?」

いつもの私ならこんな事絶対に言わない。でも今日の私は違うから。暫しの沈黙が訪れる。蘭君は私の肩に回していた手を離すとため息を一つ吐き、穏やかな口調で口を開いた。

「はぁ。いつも言ってんだろ?好きなのはお前だけだって」
「うん、言ってるね…でもさもう限界。私蘭君のこともう好きじゃ無くなっちゃった」
「は?」

怒りのような信じられないとでもいうような、そんな交えたトーンの低い声が私の耳へと届く。初めて聞いたその声音に怖気付いてしまいそうだけど、私は服の袖をギュッと掴んで蘭君へと視線を合わせる。

「疲れちゃった。自分の彼氏が堂々と浮気してるの許せる奴なんて早々いないよ?蘭君は私が大事じゃないから浮気するんでしょ?蘭君のお前だけって言葉、よく分かんないや」
「は、あ?」

蘭君に笑顔を向ける。ニコリと微笑んだ私に蘭君は焦ったかのような顔をして。そんな顔も蘭君出来たんだって。3年もいるのに知らなかった。

バックを持って座っていたソファから立ち上がると蘭君は私の腕を掴んで来た。

「離して蘭君」
「好きじゃねェ女と3年も一緒に居るわけねぇだろ。なんで分かってくんねェの?いつものお前こんなこと言わねェじゃん」

蘭君は眉を下げて消え入るような声で私に言う。こんな姿を見てしまったらつい許してしまいそうになる。けれどそれでは意味が無い。信じて裏切られての繰り返しはもう散々だった。蘭君の掴んだ腕をそっと離して私は部屋を出ようと足を進める。

「……本当にお前は俺と別れて良い訳?俺のことマジで好きじゃなくなったの?」

その言葉に私の足はピタリと止まる。正直蘭君て別れる時はもっとあっさりしていると思ったけれど、違うんだね。振り向けば蘭君は捨て猫のように今にも泣きそうな顔をしている。そんな顔するなら初めからしないでよ、と言いたくなるのを堪えて私はニッコリと最後の笑顔を作り言ってやったのだ。

「蘭君がずっと私だけだったら好きだったよ?でも違うみたいだし、わたしは自分だけを見てくれる人がいいもん。蘭君は浮気を許してくれてたと思ってたかもしれないけど、普通に許せる訳ないじゃん?だから蘭君のこと、嫌いになっちゃったの」

蘭君は私をそれでも引き留めようとしてきた。なんでこうなる前に自分から気付いてくれなかったのだろう。今更本当に遅い。

「バイバイ、蘭君」





蘭君は追いかけては来なかった。それで良いんだけど3年という月日は長くて、浮気以外の楽しかった思い出だって沢山あった。明日から隣に蘭君がいないだけ。蘭君に別れを告げて心はスッキリしているのに、ポッカリと穴が空いてしまったような、そんな気分だった。

一人でいるのは流石に気が滅入ってしまって耐えられそうに無かった私はバックからメモ帳を取り出しスマホから電話を掛ける。数秒でその電話は繋がった。






丁度近くにいたらしい彼は数分もしないうちに黒塗りの車を走らせて私の前で止まった。

「さっさんじゅ〜」
「オイオイ、泣き虫は変わってねェなあ?」

三途とは中学の頃からの付き合いで私の友達である。蘭君と付き合ってからは男の連絡は一切禁止だったので、スマホの連絡帳は削除していたのだが三途の電話番号だけはメモに控えておいたのだ。

3年ぶりの三途にあった瞬間、今まで出なかった涙が急に溢れ出して子供のように泣きじゃくってしまった。三途は何が起きたのか分からない様子で、泣き喚く私の横で取り敢えず車を走らせて適当な駐車場で車を止めた。

「お前何があったんだよ。どーしたの」
「ううっ、…彼氏と別れて来たの」
「……マジ?」

三途に彼氏が出来たから連絡出来ないと3年前に伝えた日、静かに「分かった」と言ったのが今ではもう懐かしい。懐かしい三途の顔と懐かしい声、香水の香りはあの時と変わっていない。それにまた何故か私は涙が溢れて来てしまった。昔馴染みから来る安心感、というものからかもしれない。

「ずっと、ずっと…う、浮気されてて。何度言っても、やめてくれなかったから別れて来たの」
「ハァ?ンだソイツ、俺がぶっ殺して来てやるよ。名前教えろ」
「だいじょぶ。私、ちゃんと言って来たの。もう嫌いになっちゃったって。だから、だいじょおぶ」

グズグズ泣いている横で三途は静かに泣き止むまで私の頭を撫でてくれていた。蘭君と違って少し荒いけど今の私にはそれがとても有難くて。暫くして落ち着きを取り戻してきた私に三途は少々気まずそうに口を開く。

「あー…お前にはワリィと思うけど俺嬉しいワ」
「…ん?」
「…俺、ずっと中学ン頃からお前が好きだったの」
「………は」

涙は引っ込み顔を三途へと向けると、片眉を下げて三途は困ったように笑っていた。
え?え?と状況整理が出来ていない私に、狭い車内の中で三途は私の肩を抱くように手を掛けて顔を近付けた。

「あん時はさァ、お前に告ろうかと思ってたら知らん間に彼氏出来ちまうし、お前幸せそうに俺と連絡取れねぇとか言い出すしかなりキツかったワ」
「そ、れはゴメン…てか、え?」
「でもよォお前が幸せならって思って俺が身ィ引いてやったのに、ソイツ本当に殺してェんだけど」

顔は熱を上げ車内が暗くて良かったと心の底から思う。心臓は音を上げているし、体だって強ばってしまっている。

「さっ、三途?」
「…はるちよ」
「へ?」
「はるちよって呼んで」
「えっと、え?」
「はるちよって呼んでくんなきゃここでキスすンぞ」

顔は鼻先が触れ合う位までの距離でもう少しで唇が触れ合ってしまう。

「はっはるちよ!?」
「ん、何?」

ドキドキ、バクバク。こんな心臓が破裂しそうなほど音を立てるのは蘭君と初めてデートしたとき以来かも知れない。

三途の声は極めて今までよりも柔らかく何も答えられない私に、三途は口元を少し上げたかと思うとそのまま私の頭を引いてそっと触れるだけのキスを落とした。

名前呼んだらしないはずのキスを、三途は私にしたのだ。

唇が離れ三途は見たこともないくらいに優しい顔付きで微笑んで私をそっと抱きながら言った。


「そんな男さっさと忘れちまえ。ずっとずっとお前が好きだった俺が忘れさせてやっから」


その言葉に私は三途の背に腕を回すと、また涙が瞳から頬へと伝った。

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